「正社員とパートの待遇が違うのは当たり前」——そう思って長年運用してきた会社ほど、今、法的リスクを抱えています。パートタイム・有期雇用労働法の施行により、不合理な待遇差は禁止され、従業員から「なぜ待遇が違うのか」と聞かれたら会社は説明しなければなりません。専任人事がいない中でも、今すぐ取り組める実務対応を5つの視点で整理しました。
パートタイム・有期雇用労働法が求める3つの柱
法律の基本構造を押さえる
パートタイム・有期雇用労働法は2020年4月(中小企業は2021年4月)に施行されました。この法律が会社に求めているのは、大きく3つです。
まず「均衡待遇」として、職務内容・配置変更の範囲・その他の事情を総合的に考慮したうえで、不合理な待遇差をつけてはならないと定めています。
次に「均等待遇」として、職務内容と配置変更範囲がともに正社員と同一であれば、差別的な取り扱いを一切してはならないとされています。
そして「説明義務」として、従業員から待遇について質問された際には、会社が説明を行う義務を負います。
「不合理かどうか」を判断する3つの要素
待遇差が不合理かどうかは、以下の3要素を総合的に考慮して、待遇ごとに個別に判断します。
一つ目は「職務内容」で、業務の種類や責任の程度を指します。
二つ目は「職務内容・配置の変更範囲」で、転勤・異動・昇進の可能性などが該当します。
三つ目は「その他の事情」で、成果・能力・労使交渉の経緯などが含まれます。
重要なのは「すべての待遇についてまとめて判断するのではなく、基本給・賞与・各手当・福利厚生それぞれを個別に判断しなければならない」という点です。「うちのパートは仕事内容が違うから大丈夫」という思い込みは、この個別判断の視点が抜けているケースがほとんどです。
中小企業で多い「見落とし」パターン
実務上、見落とされがちなのが各種手当の扱いです。たとえば通勤手当・皆勤手当・食事手当・慶弔見舞金などは、「正社員だけに支給している」ケースが非常に多いです。
しかし最高裁判例(ハマキョウレックス事件)では、通勤手当や皆勤手当をパートに支給しないことは不合理と判断されています。手当は「その手当の趣旨・目的」に照らして合理性を判断するため、「賞与は不合理でなかったが、住宅手当は不合理だった」というように、同じ会社でも手当によって結論が分かれることがあります。
現状の待遇差を「見える化」する
待遇一覧表を作ることから始める
実務対応の出発点は「現状把握」です。正社員・パートタイム・有期社員のそれぞれについて、基本給・各種手当・賞与・退職金・福利厚生・研修受講の機会・安全衛生管理の扱いを一覧表に整理します。
項目ごとに「支給あり/なし」「支給条件の違い」を横並びにすることで、どこにギャップがあるかが一目でわかります。この作業を「待遇差の棚卸し」と呼びます。
専任人事がいない会社では、この棚卸し自体が最初のハードルになりますが、エクセルの表一枚から始めるだけで十分です。
「なんとなく決めてきた待遇」を洗い出す
中小企業では「昔からそうだったから」「社長がそう決めたから」という理由で待遇を決めてきたケースが少なくありません。この状態は、法的リスクとしては最も危険です。
理由が説明できない待遇差は、合理性の証明ができないため、紛争になった場合に会社が非常に不利な立場に置かれます。
棚卸し表を作る際は、各待遇について「この差がある理由」を一言ずつメモする習慣をつけましょう。「理由が書けない」ものが、優先的に見直すべき項目です。
特に注意が必要な5つの手当カテゴリー
実務上、不合理と判断されやすい手当として、以下の5つが挙げられます。
(1)通勤手当……業務に必要なコストであり職種を問わず支給すべきとされる
(2)皆勤手当……出勤を奨励する目的であればパートにも同様に適用すべき
(3)食事手当……食事補助の目的であれば雇用形態で差をつける合理性が薄い
(4)慶弔見舞金……会社との関係性に基づくものであれば同様に支給を求められる
(5)資格取得補助・研修機会……業務遂行能力の向上目的であれば同等の機会提供が必要
これらが正社員のみに支給されている場合、優先的に合理性の根拠を整理することをお勧めします。
待遇差を「説明できる状態」に整備する
説明義務は「拒否できない」義務
パートタイム・有期雇用労働者から「なぜ正社員と待遇が違うのですか」と聞かれた場合、会社には説明義務があります。この説明を拒否することは法律上認められておらず、拒否した場合は過料の対象となる可能性があります。
また、説明を求めたことを理由に不利益な扱いをすることも禁止されています。つまり「聞いてきたあのパートを冷遇しよう」という対応は、それ自体が新たな法律違反になります。
説明できる根拠文書を整える
説明義務に対応するためには、「なぜこの待遇差があるのか」を文書で説明できる状態が必要です。具体的には、就業規則・パートタイム社員規程・賃金規程・雇用契約書を整備し、待遇差の根拠となる職務内容・職責・配置変更の有無を明記しておくことが基本です。
たとえば「正社員は全国転勤・管理職登用の可能性があるため基本給に差がある」「パートは業務範囲を特定業務に限定しているため賞与は支給しない」といった形で、就業規則や契約書に根拠が記載されていることが重要です。
口頭での説明だけでは、後からトラブルになったときに証明できません。
法改正に対応した書類の更新を怠らない
パートタイム・有期雇用労働法の施行以降、就業規則や雇用契約書を一切更新していない会社が多く見受けられます。特に多いのが、「正社員規程の適用除外をしているだけで、パート・有期社員向けの規程が存在しない」というケースです。
この状態では、待遇差の根拠を説明する際に、文書の裏付けがまったくないことになります。少なくとも年に一度、就業規則と賃金規程を実態に照らして点検する機会を設けることをお勧めします。
従業員からの相談に対応できる体制をつくる
相談窓口と対応フローを事前に決めておく
パート・有期社員から待遇について不満や疑問が出たとき、「誰が・どのような手順で対応するか」が決まっていない会社は、その場で慌てて不適切な対応をしてしまうリスクがあります。
まず相談の受付担当者(人事兼務者・総務担当・経営者本人など)を明確にし、次に相談内容を記録する仕組みを整え、そして回答するまでの期限を設定するという三段階のフローを用意しておくだけで、対応の質は大きく変わります。
専任人事がいない会社でも、A4一枚の対応マニュアルを作成しておくことで、担当者が一人でも落ち着いて初動対応ができます。
行政ADR(調停制度)の存在を知っておく
待遇差に関する紛争が生じた場合、従業員は都道府県労働局に対して「助言・指導・勧告」の申請や「調停委員会による調停」の申請を行うことができます。これを「行政ADR(裁判外紛争解決手続)」と呼びます。
重要なのは、会社が調停への参加を拒否しても、手続き自体は進んでいく点です。突然、労働局から呼び出しが来て慌てる事例も中小企業では起きています。
日頃から待遇差の根拠を整備し、相談が来たときに誠実に対応できる体制があれば、行政手続きに発展するリスクは大きく下げられます。
不公平感はメンタル不調の引き金になる
待遇差への不満や不公平感は、従業員のエンゲージメント(仕事への意欲・会社への帰属意識)を低下させ、メンタル不調の原因にもなります。
「なぜ自分だけ手当がもらえないのか」「正社員と同じ仕事をしているのに評価が違う」という感覚が蓄積されると、離職・体調不良・職場の雰囲気悪化につながります。
待遇の公正性を整備することは、法令遵守にとどまらず、職場のメンタルヘルス管理とも直結する取り組みです。
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就業規則・賃金規程の整備で「守れる会社」になる
パート・有期社員専用の規程を用意する
多くの中小企業では、正社員向けの就業規則しか整備されておらず、パートや有期社員には「○○条は適用しない」という除外規定のみが設けられています。
しかしパートタイム・有期雇用労働法の趣旨からすると、パート・有期社員向けに独立した規程(パートタイム社員就業規則・賃金規程)を整備し、待遇の内容・決定基準・支給条件を明記することが求められます。
特に賃金規程については、基本給の決定根拠(職務・能力・勤続年数など)を明文化しておくことが、説明義務への対応としても有効です。
雇用契約書に待遇の根拠を明記する
雇用契約書は「この従業員の雇用条件はこれです」という合意文書であると同時に、待遇差の説明根拠としても機能します。
たとえば「担当業務:レジ業務および商品陳列のみ。転勤・職種変更なし」と明記された契約書があれば、「業務範囲が限定されているため正社員と賞与水準が異なる」という説明に一定の合理性が生まれます。
契約書の文面を実態に合わせてアップデートすることは、リスク管理の基本です。
定期的な点検サイクルを設ける
書類を一度整備しても、職場の実態が変われば書類と現実がずれていきます。たとえばパート社員が事実上、正社員と同じ業務を担うようになったにもかかわらず、契約書上は「限定業務」のままになっている——というケースは珍しくありません。
こうした実態と書類のギャップが、後に「不合理な待遇差」として問題になります。少なくとも年度更新のタイミングで、雇用契約書・就業規則・賃金規程と現場の実態を照らし合わせる点検を行う習慣をつけましょう。
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まとめ
パートタイム・有期雇用労働法が求める不合理な待遇差の禁止は、「大企業だけの話」ではありません。20〜50名規模の会社でも、従業員から待遇について質問を受ければ、会社には説明義務が生じます。
今回ご紹介した5つの実務対応——現状の棚卸し、待遇差の根拠文書の整備、説明義務への備え、相談対応フローの構築、就業規則・雇用契約書の更新——は、どれも専任人事がいない会社でも取り組める内容です。
「何から手をつければいいかわからない」「自社の状況が合法かどうか判断できない」「従業員から質問を受けてどう対応していいかわからない」とお感じの方は、ぜひウェルセンス株式会社にご相談ください。現状の整理から書類整備まで、貴社の実情に合わせた形で伴走支援いたします。
よくある質問
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