「先月入ったばかりなのに、もう5日も休んでいる。有給もないし、どう処理すればいいんだろう」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした相談が後を絶ちません。入社直後の欠勤は、給与計算の処理、本人への声かけ、就業規則との整合性など、複数の問題が一度に押し寄せてきます。この記事では、有給付与前の欠勤に関する法的ルールから、面談の進め方、制度設計の注意点まで、実務で使えるかたちで整理します。
有給付与前の欠勤、基本ルールを押さえる
入社6ヶ月未満で有給休暇が付与されていない社員の欠勤は、原則として「欠勤(無給)」として扱います。ただし、どう処理するかは就業規則の内容と会社の運用方針によって変わります。
年次有給休暇が付与されるタイミング
労働基準法第39条により、年次有給休暇は「入社から6ヶ月間、全労働日の8割以上出勤した場合」に10日が付与されます。裏を返せば、入社6ヶ月未満の社員には付与義務がなく、欠勤が多くて8割の出勤要件を満たせない場合も、有給休暇は発生しません。
ただし、会社が任意で「入社時付与(前倒し付与)」を就業規則で定めることは可能です。法律の上乗せにあたるため適法であり、早期定着を促す目的で導入している企業も増えています。現時点で就業規則に規定がなければ、前倒し付与の義務はありません。
欠勤控除の計算方法
欠勤した日の賃金は、ノーワーク・ノーペイの原則(労働の提供がない日は賃金を支払う義務がない)に基づき控除できます。欠勤控除の計算方法は法律で定められていないため、就業規則に記載された方法が適用されます。最も一般的な計算式は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本計算式 | 月給 ÷ 所定労働日数 × 欠勤日数 |
| 所定労働日数の定め方 | 当月の実日数から所定休日を引いた日数(就業規則による) |
| 社会保険料の扱い | 欠勤が多くても月額で控除が続く(給与が少なく控除しきれない場合は翌月へ繰り越し) |
就業規則に欠勤控除の計算方法が明記されていない場合は、今後のトラブル防止のためにも規定を整備することをお勧めします。
傷病手当金は使えるか
入社直後であっても、健康保険の被保険者資格を取得した日から傷病手当金の受給資格は発生します(健康保険法第99条)。業務外の傷病による休業で、連続3日間の待機期間を経て4日目以降から支給対象となり、支給額は標準報酬日額の3分の2相当です。ただし、資格取得直後の受給については健保組合や協会けんぽによって確認が必要なケースもあるため、早めに問い合わせることを勧めてください。
欠勤記録の管理、最初の一日から始める
欠勤対応でもっとも見落とされがちなのが「記録」です。後々の休職判断・労務トラブル・労災申請において、初期の記録が決定的な意味を持つことがあります。
記録すべき内容
欠勤が発生した初日から、以下の情報を必ず記録しておきましょう。
- 欠勤日・欠勤した時間帯
- 連絡の方法(電話・メール・LINEなど)と連絡を受けた時刻
- 本人から申告された欠勤理由(「体調不良」「発熱」など具体的に)
- 診断書や医師の証明書の提出有無
- その後の経過(翌日出勤したか、続けて休んだかなど)
記録は担当者の手元だけでなく、共有フォルダや人事管理ツールに保存しておくと、担当者が変わったときにも引き継ぎやすくなります。
診断書の提出を求めるタイミング
欠勤が断続的に続く場合や、理由が不明確な場合は、就業規則の規定に基づいて診断書の提出を求めることができます。就業規則に「3日以上の欠勤には医師の診断書を提出すること」などの規定がある場合はそれに従い、規定がない場合は「状況を把握するためにご協力をお願いしたい」というかたちで本人に依頼します。強制的な取得は難しいですが、提出を求めること自体は合理的な業務上の指示として認められています。
欠勤が多い新入社員への面談、正しい進め方
欠勤が月に3日以上、または断続的に続く場合は、早めに面談の場を設けることが望ましいです。放置すると状態が深刻化し、対応が複雑になるリスクがあります。
面談を「詰める場」にしない
面談の目的は、状況を把握して適切な支援につなげることです。「なぜ休んだのか」「またか」という姿勢では、本人が本当のことを話せなくなります。「最近体調はいかがですか」「何か困っていることがあれば聞かせてください」という入り方で、安全に話せる場を作ることが先決です。
面談では、業務上の困りごと、体調・メンタル両面を確認します。職場に産業医や産業保健師がいる場合は、連携して対応することが理想的です。社員数20〜50名規模では専属産業医を置いていないケースが多いため、その場合は外部の産業保健サービスや社労士、EAP(従業員支援プログラム)の活用も検討の価値があります。
面談後の記録と対応方針の確認
面談が終わったら、話した内容・確認した事実・今後の対応方針を記録に残します。「様子を見る」という対応でも、「○月○日に面談を実施し、本人から体調回復中との申告あり。翌月まで週次で状況確認を続ける方針」のように具体的に書き残すことが重要です。これは万が一後にトラブルが生じた際に、会社が安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たしていた証拠にもなります。
特別休暇・無給休暇を付与する際の注意点
善意から「とりあえず休ませてあげよう」と特別休暇や無給休暇を与えることは、就業規則上の根拠がないと後々トラブルになるリスクがあります。制度として整備する場合は、公平性と一貫性が重要です。
就業規則の根拠なしに付与するリスク
就業規則に特別休暇の規定がない状態で特定の社員にだけ無給休暇を与えると、他の社員から「なぜあの人だけ」という不満が生じる可能性があります。また、本人が後に「会社が認めた休暇だ」と主張し、欠勤扱いへの変更に異議を唱えるケースも起こりえます。
特別休暇を付与する場合は、就業規則に「傷病による特別休暇(無給)○日以内」などの条項を設け、付与条件・日数・有給か無給かを明記した上で運用することが必要です。
他の従業員との公平性の担保
特定の社員のみに例外的な対応を取ることは、公平性の観点から問題になることがあります。一方で、障害や疾患がある社員に対して合理的配慮として特別な対応をすることは、法的に求められる場面もあります(障害者差別解消法・雇用促進法の考え方)。「個別の事情への配慮」と「就業規則に基づく一貫した運用」を両立させるためには、社労士などの専門家と事前に相談しながら制度設計することをお勧めします。
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試用期間中の欠勤と解雇・退職勧奨の考え方
試用期間中であれば解雇が容易だというイメージがありますが、体調不良・欠勤を理由にした解雇には法的なリスクが伴います。慎重な判断が必要です。
試用期間中の解雇に求められる要件
試用期間中であっても、入社から14日を超えて継続勤務した場合は、解雇予告(30日前の予告)または解雇予告手当の支払いが必要です(労働基準法第21条)。また、解雇権濫用法理(三菱樹脂事件を源流とする最高裁判例の流れ)により、試用期間中の解雇であっても「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。
体調不良・欠勤だけを理由に解雇しようとすると、「疾患を理由にした不当解雇」として争われるリスクがあります。解雇を検討する場合は、必ず事前に社労士や弁護士に相談してください。
退職勧奨を行う場合の進め方
解雇ではなく本人の意思による退職を促す「退職勧奨」も、複数回・高圧的な形で行うと「強迫」として損害賠償請求の対象になる可能性があります。退職勧奨を行う場合は、一度の面談にとどめ、本人が拒否した場合はそれ以上求めないことが基本です。退職勧奨の記録も必ず残してください。
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まとめ
入社直後・有給付与前の欠勤対応は、給与計算・面談・制度設計・解雇リスクと、複数の実務課題が重なる場面です。まず押さえるべきは、欠勤は原則無給であること、欠勤控除の計算は就業規則に基づくこと、そして記録を初日から残すことの3点です。次に、欠勤が続く場合は早期に面談を設けて状況を把握し、善意の対応であっても就業規則の根拠なしに特別休暇を与えることは避けるべきです。試用期間中の解雇は法的リスクが伴うため、慎重な判断が必要です。
「このケースはどう対応すればいいか分からない」と迷ったとき、専任人事がいない会社ほど判断に悩みがちです。人事労務の課題を一人で抱え込まず、専門家の視点を活用することも選択肢の一つです。
よくある質問
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