幹部がハラスメント加害者なら経営者はどう動くべき?

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「信頼してきた幹部が、ハラスメントの加害者かもしれない」——そう気づいたとき、経営者は何から手をつければいいのか。人事担当者もいない、就業規則も古い、そしてその幹部がいなければ事業が回らない。中小企業ならではのこのジレンマは、決して珍しくありません。しかし、対応を誤ると会社が法的責任を問われるリスクがあります。この記事では、加害者が幹部・役員である場合に経営者が取るべき具体的な手順を、法的根拠とともに解説します。

経営者が直接動かなければならない理由

加害者が幹部・役員の場合、経営者こそが調査の主体になるしかありません。それは単なる役割の問題ではなく、法的義務に基づくものです。

会社に課された「防止措置義務」とは

2022年4月から、中小企業にも「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」によるパワーハラスメント防止措置が義務化されています。この義務の中には、相談体制の整備だけでなく、「相談があった場合に事実を確認し、被害者を保護する措置を講じること」が含まれています。ハラスメントを放置すれば、会社は「安全配慮義務違反(労働契約法第5条)」を問われます。

さらに、民法第715条(使用者責任)により、幹部が業務の執行中に行ったハラスメントについては、会社自身も被害者への損害賠償責任を負う可能性があります。「知らなかった」「本人同士の問題」では済まないのです。

「穏便に済ませたい」が最大のリスクになる理由

中小企業では、経営者と幹部が長年の付き合いであることも多く、「まず注意するだけにしたい」「話し合いで解決できないか」という気持ちが生まれるのは自然なことです。しかし、適切な調査・措置を行わないまま放置した場合、被害者が会社を相手取って訴訟を起こすリスクが高まります。また、被害者が退職した後でも、不法行為に基づく損害賠償請求は可能です。「善意の放置」が、後に会社を深刻な危機に追い込む例は少なくありません。

調査を始める前に必ず行う「被害者の初期保護」

相談を受けた直後に最初にすべきことは、調査の設計ではなく、被害者の保護です。ここを誤ると、調査が始まる前に被害者が萎縮・退職してしまいます。

情報漏洩を絶対に防ぐ

被害者の名前や相談内容を、加害者である幹部に漏らしてはなりません。これは当然のことに聞こえますが、小規模組織では「上司に確認した」「念のため本人に聞いてみた」という形で情報が漏れるケースが実際に起きています。相談を受けた経営者は、調査の完了まで情報管理を徹底してください。

被害者の意向を最初に確認する

調査を進めることへの同意、匿名での対応希望の有無、業務上の接触を減らしてほしいかどうかを、被害者本人に確認します。「調査してほしいが、加害者には絶対に知られたくない」という希望がある場合は、調査の範囲や方法を慎重に設計する必要があります。被害者が「とにかく状況を改善してほしい」と思っているにもかかわらず、調査の進め方によって職場に居づらくなってしまう——これが「二次被害」の典型です。

物理的な接点を最小化する

業務上の接触が続いていると、調査中も被害者へのプレッシャーが続きます。座席の変更、担当業務の一時的な調整、会議での同席回避など、できる範囲で物理的な距離を作ることを検討してください。これは被害者を「隔離する」のではなく、被害者を守るための措置です。

事実調査の設計と進め方

調査の公正性を確保することが、後の処分の有効性にも直結します。加害者が幹部であるほど、調査者の選定が重要です。

「誰が調査するか」が最初の重要な判断

調査者の選定は、以下の観点で判断します。

状況 推奨される調査者
経営者と加害者幹部が個人的に近い関係にある 社外専門家(弁護士・社労士)に委託を強く推奨
被害者が「社内での調査は信用できない」と感じている 社外専門家または外部相談機関
経営者が第三者的に関われる状況にある 経営者が主体となり、記録・文書化を徹底する
法的紛争に発展する可能性が高い 弁護士への依頼が必須

社内に中立な調査者がいない場合、社外の社会保険労務士や弁護士に調査を委託することは、コストをかけてでも行う価値があります。外部専門家が関与することで、調査の公正性が担保され、後の処分決定や訴訟対応でも有利に働きます。

ヒアリングの順番と方法

ヒアリングは「被害者→目撃者・関係者→加害者(幹部)」の順で進めます。加害者へのヒアリングを先に行うと、口裏合わせや証拠隠滅のリスクが生じます。各ヒアリングでは録音またはメモによる記録を残し、事後に書面化します。目撃者・関係者には守秘義務を明確に伝え、ヒアリング内容が漏れないよう徹底してください。

加害者である幹部へのヒアリングでは、「弁明の機会を与えること」が懲戒の適正手続として必要です。「何についてのヒアリングか」を最低限伝えたうえで、事実についての本人の認識を確認します。ただし、被害者の名前や証言内容を具体的に明かす必要はありません。

事実認定のポイント

ハラスメントの該当性は、厚生労働省が示すパワーハラスメントの6類型(身体的攻撃・精神的攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)を参照して判断します。「グレーゾーン」と感じる場合は、自社内で判断を下さず、外部専門家に判断を委ねることを検討してください。判断の根拠と経緯を文書で残しておくことが、後の対応において不可欠です。

調査中に「やってはいけない」こと

調査の進め方を誤ると、会社が加害者側ではなく被害者から訴えられるリスクが生じます。具体的なNG行動を把握しておくことが重要です。

被害者を問い詰める聴き方をしない

「なぜもっと早く相談しなかったのか」「あなたにも問題があったのでは」「もしかして誤解ではないか」といった問いかけは、被害者に責任を転嫁する二次被害そのものです。事実確認のヒアリングはあくまで「何があったか」を時系列で確認するものであり、被害者の言動を評価・批判する場ではありません。

加害者幹部に「自分で解決させる」ことをしない

「本人同士で話し合わせた」「幹部から謝罪させた」という対応は、被害者にさらなる圧力をかける行為になりかねません。加害者と被害者を直接対面させることは、調査の初期段階では避けてください。当事者間の対話は、調査と処分が完了した後、被害者が希望する場合にのみ検討します。

事実確認の前に処分を決めない

経営者が感情的に動いて「明日から来なくていい」と即座に解雇を言い渡すケースも実際にあります。しかし、適正な手続きを経ない懲戒処分は、労働契約法第15条により「懲戒権の濫用」として無効になります。事実の確認→弁明の機会付与→処分決定という手順を踏むことが、処分の有効性を守ります。

加害者幹部への処分——解雇・降格は可能か

ハラスメントの事実が認定された場合、処分の選択肢は複数あります。ただし、処分の重さは事案の内容・就業規則の規定・事前の指導歴などによって変わります。

処分の種類と選択の考え方

処分には軽い順に「口頭・書面での注意」「けん責(始末書)」「減給」「出勤停止」「降格」「降職」「諭旨退職」「懲戒解雇」があります。ハラスメントの悪質性(継続性・身体的被害の有無・複数被害者の存在など)と、就業規則に定められた懲戒規定との整合性を踏まえて判断します。

降格や解雇は可能ですが、就業規則に「降格」「出勤停止」などの処分が明記されていない場合は、根拠が弱くなります。20〜50名規模の企業では就業規則の懲戒規定が形式的にしか整備されていないケースが多く、まずは現在の就業規則を確認することが先決です。規定が不十分な場合は、社労士に相談して整備を急いでください。

「事業への影響」を理由に処分を軽くすることのリスク

「その幹部がいないと事業が回らない」という現実的なジレンマは多くの中小企業が抱えています。しかし、このロジックで処分を軽くした場合、被害者が「会社は加害者を守った」と判断し、行政機関(都道府県労働局など)への申告や訴訟に踏み切るリスクが高まります。処分の重さは事案の内容に基づいて決定し、「事業への影響」は別途、後継体制の整備という形で対応するのが正しい順序です。

役員・共同創業者の場合の特別な対応

取締役などの役員は、労働契約法上の「労働者」には該当しないため、通常の懲戒処分の枠組みが直接適用されません。役員の解任には株主総会の決議が必要であり(会社法第339条)、正当な理由なき解任の場合は損害賠償請求を受ける可能性もあります。役員が加害者の場合は、早期に弁護士に相談し、法的手続きの選択肢を整理することが不可欠です。

まとめ

加害者が幹部・役員であっても、経営者はハラスメント相談を受けた時点で法的義務に基づき動かなければなりません。まず被害者の保護と情報管理を徹底し、次に調査者の選定(社外専門家の活用を含む)を慎重に行います。ヒアリングは被害者から始め、事実を文書化したうえで、就業規則の懲戒規定に沿った処分を決定してください。「穏便に済ませたい」という判断が、後に会社を最大のリスクにさらします。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者を対象に、ハラスメント対応・社内調査の進め方・再発防止策の整備まで、実務に即した支援を行っています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からご相談いただけます。一人で抱え込まず、まずは状況をお聞かせください。

よくある質問

Q. 幹部へのヒアリング前に、被害者の名前を伝える必要がありますか?

A. 原則として伝える必要はありません。加害者へのヒアリングでは「ハラスメントに関する事実確認を行う」という目的を伝えれば十分です。被害者の氏名を明かすと、報復や口裏合わせのリスクが生じます。ただし、加害者に弁明の機会を与えることは懲戒の適正手続として必要ですので、具体的な行為の内容(日時・場所・言動)については確認を求めます。

Q. 就業規則に「降格」の規定がない場合、降格処分はできませんか?

A. 就業規則に降格が懲戒処分として明記されていない場合、懲戒としての降格は権利濫用(労働契約法第15条)として無効とされるリスクがあります。ただし、人事権に基づく「職位の変更」として降格する方法は別途検討できる場合があります。いずれにせよ、就業規則の整備と法的根拠の確認を社労士・弁護士に依頼することを強くお勧めします。

Q. 被害者が「調査しなくていい、ただ話を聞いてほしかっただけ」と言っています。それでも調査は必要ですか?

A. 被害者の意向を最大限尊重することは重要ですが、会社にはパワハラ防止法に基づく事実確認・措置義務があります。被害者が調査を望まない場合でも、同様の行為が他の社員に向けられている可能性や、今後の再発リスクを考慮し、少なくとも状況の把握と必要な予防措置は講じる必要があります。「調査しない」と決める前に、社外の専門家に相談することをお勧めします。

Q. 加害者が取締役(役員)の場合、解任するにはどうすればいいですか?

A. 取締役の解任には、会社法第339条に基づき株主総会の決議が必要です。また、正当な理由のない解任の場合は、解任された役員から損害賠償を請求される可能性があります。ハラスメントの事実が客観的に認定されている場合は「正当な理由」として主張できますが、事実認定の記録が不十分だと難しくなります。役員の解任を検討する段階では、必ず弁護士に相談してください。

Q. 調査の結果「ハラスメントとまでは言えない」グレーゾーンだった場合、会社はどう対応すればいいですか?

A. ハラスメントの該当性が明確でない場合でも、「問題のある言動があった」と判断されるなら、加害者への指導・注意を書面で行うこと、再発防止のための研修実施、被害者のフォロー体制を整備することが会社の義務として求められます。「グレーだから何もしない」は最もリスクの高い対応です。外部の専門家に事実関係を整理してもらい、対応方針を決めることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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