カスタマーハラスメントの対応方針、どう決める?

カスタマーハラスメントの対応方針、どう決める? コンプライアンス
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「これってクレームなの? それともカスハラ?」——そう迷いながらも、結局は従業員に「うまくやって」と任せてしまった経験はないでしょうか。専任の人事担当者がいない中小企業では、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)への対応方針が定まらないまま、現場の担当者が一人で抱え込み、メンタル不調や退職につながるケースが増えています。この記事では、カスタマーハラスメント対応方針の考え方から社内規程の作り方まで、実務に使える形で整理してお伝えします。

カスタマーハラスメントとは何か——クレームとの違いを明確にする

厚労省が示す「カスハラ」の定義

厚生労働省は、カスタマーハラスメントを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。

ポイントは「要求内容の妥当性」「手段・態様の不当性」「就業環境への悪影響」という三つの要素です。たとえば「商品に不具合があったので交換してほしい」という要求は正当なクレームですが、「責任者を今すぐ呼べ。さもなくばSNSに拡散する」という脅しを伴う場合はカスハラに該当する可能性があります。

現場で迷いやすい「グレーゾーン」の例

実際の現場では判断に迷う場面が少なくありません。たとえば「同じ内容で何十回も電話をかけてくる」「長時間にわたって担当者を拘束する」「大声で怒鳴り続ける」といった行為は、要求内容そのものが正当であっても、手段・態様が不当であればカスタマーハラスメントと判断できます。

「お客様は神様」という慣習的な意識が根強い業界ほど、この線引きが曖昧になりがちです。だからこそ、会社として定義を文書化しておくことが、現場を守る第一歩になります。

2025年施行の東京都条例が示す方向性

2025年4月、東京都は全国初となるカスタマーハラスメント防止条例を施行しました。都内の事業者・従業員・顧客に対してカスハラ防止の努力義務を課すもので、今後は他の自治体や国レベルへの波及が予想されています。現時点では国レベルの防止義務規定はありませんが、厚労省は「雇用管理上の措置」として企業に対応方針の策定を強く推奨しており、法的リスクは着実に高まっています。

放置すると何が起きるか——企業が負う法的・実務的リスク

安全配慮義務違反になり得る

労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体・精神の安全を確保する義務(安全配慮義務)を負うと定めています。カスハラを把握しながら対策を取らなかった場合、この義務に違反したとして会社が損害賠償責任を問われる可能性があります。

実際に、カスハラ被害を訴えた従業員が休職・退職した後に会社を訴えるケースは増加傾向にあります。「知らなかった」では通らない時代になっていることを、経営者として認識しておく必要があります。

悪質なケースは刑事事件にもなる

「今すぐ謝罪しなければ拡散する」という言動は脅迫罪・強要罪、事実無根の内容をSNSに投稿された場合は名誉毀損罪に該当し得ます。こうした悪質なカスハラについては、会社として警察への相談や顧問弁護士への連絡を躊躇なく行える体制が必要です。そのためにも、対応記録(日時・内容・担当者・やりとりの詳細)を残す仕組みを事前に整えておくことが重要です。

採用した人材がカスハラで辞めていく悪循環

カスハラ被害を受けた従業員が適切なケアを受けられないまま放置されると、メンタル不調から休職・退職につながります。20~50名規模の企業にとって、一人の退職が与えるダメージは大企業のそれとは比べものになりません。採用コストをかけて入社した人材を守れる職場環境を作ることは、経営課題そのものです。

対応方針の核心——「定義」と「打ち切り基準」を先に決める

社内でカスハラを定義する

カスタマーハラスメント対応方針を作る際にまず取り組むべきことは、自社におけるカスハラの定義を言語化することです。厚労省の三要素(要求内容の妥当性・手段の不当性・就業環境への悪影響)を土台に、自社の業種・顧客層に合わせた具体的な行為例を列挙します。

たとえば飲食業であれば「閉店後の長時間滞留の強要」、小売業であれば「返品期限を大幅に過ぎた商品の全額返金要求」、サービス業であれば「担当者個人のSNSへの誹謗中傷投稿」といった形で具体化することで、現場が迷わずに判断できるようになります。

「対応を打ち切る基準」を事前に決める

対応方針の中で見落とされがちなのが、「どこまで対応して、どこで終了するか」という打ち切り基準です。これを定めておかないと、現場担当者は「まだ続けるべきか」と迷い続け、心理的な消耗が積み重なります。

打ち切り基準の例としては、「同一内容での問い合わせが5回以上に達した場合」「暴言・脅迫的発言があった場合」「1時間以上の電話拘束が継続した場合」などが挙げられます。これらを「会社として対応しない行為リスト」として規程に明記することで、担当者が毅然と対応を終了する根拠ができます。

記録・証拠保全の仕組みを整える

カスハラへの対応において、記録は法的にも実務的にも重要な武器になります。対応記録シートには「発生日時・対応者名・顧客情報・発言内容の詳細・対応結果」を必ず残します。電話対応であれば録音(事前に「通話を録音しています」と告知するのが望ましい)、メールやSNSでのやりとりはスクリーンショットで保存する運用を明文化しておきましょう。

社内規程への落とし込み方——ゼロから作るための考え方

既存のハラスメント防止規程に追記するか、独立させるか

カスハラの社内規程を整備する際によく迷うのが、既存のハラスメント防止規程(パワハラ・セクハラ等)に追記するか、独立した規程として作成するかという点です。どちらにも利点がありますが、カスハラは「社内の人間関係」ではなく「社外からの行為」という点で性質が異なるため、独立した規程として整備するか、追記する場合でも明確に章立てを分けることを推奨します。

規程に盛り込むべき主な項目は、「カスハラの定義と具体的な行為例」「会社の基本方針(従業員を守ることを宣言)」「対応フローとエスカレーションルート」「記録・証拠保全のルール」「被害従業員へのケア方針」「対応打ち切り基準」の六点です。

エスカレーションフローを図で整理する

規程の中でも特に重要なのが、エスカレーション(上位者への報告・引き継ぎ)のフローです。「現場担当者→直属の上司→管理職→経営者→顧問弁護士」という段階を明確にし、各段階でいつ・誰が・何をするかを具体的に示します。

専任人事がいない企業では、「上司に言っても何もしてくれなかった」という状況が起きやすいため、経営者が直接関与するタイミングと、外部専門家(弁護士・社労士・EAP機関など)に連絡するタイミングをあらかじめ定めておくことが特に大切です。

規程は「作って終わり」にしない

どれだけ精緻な対応方針を作成しても、現場に周知されなければ意味がありません。全従業員への説明会、入社時のオリエンテーションへの組み込み、定期的な確認研修など、規程を「生きたルール」にするための運用設計を規程作成と並行して考えましょう。また、実際にカスハラが発生した際の対応を振り返り、年に一度は規程を見直す機会を設けることを推奨します。

被害を受けた従業員へのフォロー——ケアの仕組みを事前に作る

被害報告後の初期対応が鍵を握る

カスハラ被害を受けた従業員に対して、会社がまず行うべきことは「労をねぎらい、話を聞く」という初期対応です。「大変だったね、よく対応してくれた」という一言が、従業員の心理的安全性を大きく左右します。逆に「あなたの対応が悪かったのでは?」という問い返しや、放置は、二次被害・二次障害につながる危険があります。

被害報告を受けた上司・管理職向けに、初期対応の手順(傾聴・事実確認・記録・上位報告)を簡易マニュアルとして整備しておくと、属人的なばらつきを防げます。

継続的なフォローと外部連携の仕組み

初期対応の後も、1週間後・1ヶ月後といった節目でフォローアップ面談を実施し、従業員の状態を継続的に確認します。症状が続く場合は産業医や外部のEAP(従業員支援プログラム)機関への相談を促すことが重要です。専任人事がいない企業では、こうした相談窓口を外部委託する形で整備することも有効な選択肢です。

「カスハラを受けたことで仕事が怖くなった」「同じ顧客への対応が続くのがつらい」といった訴えは、早期に対処すれば休職を予防できるケースがほとんどです。放置して休職・退職に至ると、代替人員の確保や業務の引き継ぎに多大なコストが生じます。ケアへの投資は、企業にとっても合理的な判断です。

まとめ

カスタマーハラスメントへの対応方針は、「定義の明確化」「打ち切り基準の設定」「エスカレーションフローの整備」「被害従業員へのケア体制」という四つの柱で構成されます。特に専任人事がいない中小企業では、これらをひとつずつ整備することが従業員を守り、組織を守ることに直結します。

「カスタマーハラスメント対応方針の規程を作りたいけれど、何から手をつければいいかわからない」「カスハラが起きた後のフォローをどうすればいいか相談したい」——そんなお悩みをお持ちでしたら、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。社内規程のひな型提供から対応フローの設計、被害従業員のメンタルヘルスケアまで、中小企業の実情に合わせた形で伴走します。まずは話を聞いてほしい、という段階からでも歓迎です。

よくある質問

Q. カスハラとクレームの違いをどう判断すればいいですか?

A. 厚労省の定義に基づき、「要求内容の妥当性」「手段・態様の不当性」「就業環境への悪影響」の三点で判断します。要求内容が正当であっても、長時間の拘束・怒鳴り声・脅迫的な発言などを伴う場合はカスハラに該当します。社内で具体的な行為例を列挙した定義を作ることで、現場が迷わず判断できるようになります。

Q. カスハラへの対応方針は法律で定めることが義務付けられていますか?

A. 現時点では国レベルでの防止義務規定はありませんが、2025年4月に東京都でカスタマーハラスメント防止条例が施行され、努力義務が課されています。また、カスハラを放置した場合は労働契約法第5条に基づく安全配慮義務違反として会社が責任を問われる可能性があります。法律上の義務化を待たず、早期に対応方針を整備することを推奨します。

Q. 専任の人事担当者がいなくても社内規程は作れますか?

A. 作れます。まず厚労省が公開しているカスハラ対策マニュアルを参考に骨格を作り、自社の業種・顧客層に合わせて具体的な行為例や対応フローを追記していく方法が現実的です。ひな型からカスタマイズする形で支援する外部サービスも活用できるため、一から作る必要はありません。

Q. カスハラ被害を受けた従業員が「大丈夫」と言っている場合でも、フォローは必要ですか?

A. 必要です。カスハラ被害後に「大丈夫」と答える従業員の多くは、心理的な負荷を抱えながらも周囲に心配をかけまいと気を遣っていることがあります。被害報告後1週間以内に短時間の面談を設け、状態を確認する仕組みを整えておくことで、不調の早期発見と休職予防につながります。

Q. 悪質なカスハラについて顧客に法的措置を取ることはできますか?

A. できます。脅迫・強要・名誉毀損などの行為は刑事事件になり得るほか、民法第709条(不法行為)に基づき損害賠償請求も可能です。ただし、法的措置を取るためには対応記録・録音・メールなどの証拠が不可欠です。悪質なカスハラが発生した段階で顧問弁護士に速やかに相談できるよう、エスカレーションフローに弁護士への連絡タイミングを明記しておくことを推奨します。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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