人事面談を社員に録音されたら会社はどう対応すべき?

人事面談を社員に録音されたら会社はどう対応すべき? 人事制度
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「面談のあと、社員がスマートフォンを机に置いていた。もしかして録音されていたのでは?」——ふとそんな不安を覚えたことはないでしょうか。あるいは、社員から「面談を録音していました」と告げられ、どう対処すべきかわからず困惑している経営者・人事担当者の方もいるかもしれません。20〜50名規模の企業では、専任の人事担当者がいないことも多く、こうした場面への対応方針が定まっていないケースがほとんどです。この記事では、法的な整理から実務的な対応策まで、順を追って解説します。

社員が面談を録音することは違法なのか

結論から述べると、面談に参加している社員本人が自分のスマートフォンなどで会話を録音する行為は、日本の法律上、原則として違法にはなりません。この事実を最初に正確に理解しておくことが、適切な対応への第一歩です。

なぜ「違法ではない」のか

会話の盗聴・傍受を規制する法律として「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(通信傍受法)」がありますが、これは捜査機関が第三者の通信を傍受することを対象としたものです。面談の当事者である社員が自分自身の会話を録音する行為には適用されません。また、刑法上の秘密漏示罪なども、録音行為そのものを罰する規定ではありません。つまり、「社員が面談を録音することは違法だから処分できる」という判断は、法的根拠を欠いています。

録音データを外部に漏らした場合は別問題

ただし、録音すること自体と、録音データをどう扱うかは別問題です。録音した内容を社外の第三者に無断で公開したり、SNSに投稿したりする行為は、秘密保持義務違反や不正競争防止法違反に問われる可能性があります。面談で他の社員の個人情報が話題に上っていた場合、その録音データを保管・共有することは個人情報保護法上の問題が生じる場合もあります。この観点から、「録音自体は止められないが、その扱いについては会社として正当に指導できる」という立場をとることが現実的です。

感情的に対応することのリスク

録音されたと知ったとき、多くの経営者・担当者の方が「違法だ」と感じて強く出ようとします。しかし、法的根拠のない抗議や強引なデータ削除要求は、かえって社員の不信感を高め、労使紛争のきっかけになりかねません。まず冷静に事実を確認し、感情的な対応は避けることが重要です。

録音データが証拠として使われるリスク

社員側に録音データがあり、会社側に面談記録がない状況は、労使トラブル発生時に会社にとって非常に不利です。録音データは労働審判や裁判においても証拠として採用されやすい傾向があることを、まず認識しておく必要があります。

裁判・労働審判での扱われ方

日本の裁判実務では、当事者による録音データは証拠として採用されることが多いとされています。「違法に取得した証拠は使えない」と思われがちですが、前述のとおり当事者録音は違法ではないため、証拠排除の主張は通りにくいのが現状です。ハラスメント事案・不当解雇事案・不当評価事案において、社員側が保持する録音が会社側に不利に働いた事例は複数報告されています。

録音されて困る面談とはどんな場面か

特にリスクが高いのは、以下のような場面です。評価フィードバックで強い表現を使った場面、業務改善指示(いわゆるPIP)の内容を口頭のみで伝えた場面、降格・配置転換・雇用継続に関する示唆が含まれた場面などです。これらは「言った・言わない」の争いになりやすく、録音がある側が圧倒的に有利になります。面談で厳しいフィードバックをしなければならない場面こそ、会社側の記録が欠かせません

こうした重要な面談では、事前に対応方針を整理し、場合によっては外部の専門家に相談して進め方を確認することで、後々のトラブルを大きく減らせます。

「なぜ録音したのか」という背景にも目を向ける

社員が録音という行動をとった背景には、評価への強い不満、ハラスメント被害の認識、解雇や降格への不安など、何らかの信頼関係の亀裂が潜んでいる可能性があります。録音という行為を「不正行為」として処分しようとするだけでは、根本にある問題を見落とします。録音が発覚した場合は、その社員との関係性や面談の内容そのものを振り返る機会にすることも、中長期的なリスク管理として重要です。

就業規則で録音を禁止することはできるか

就業規則に録音禁止規定を設けること自体は可能です。ただし、禁止規定を設けたからといって、録音データの証拠能力が失われるわけではない点に注意が必要です。

規定を設けることの意義と限界

就業規則に「業務上の面談・会議における無断録音・録画を禁止する」旨の条項を追加することで、違反行為に対して懲戒処分の根拠を持つことができます。ただし、処分の相当性・比例原則の観点から、軽微な録音行為に対して重い懲戒処分を課すことは難しく、実務上は訓告・戒告程度の軽い処分に限られるのが一般的です。また、繰り返しになりますが、就業規則違反を理由に処分を下せたとしても、録音データが証拠として使われる可能性は排除できません。

規定の整備・周知のポイント

現時点で録音禁止規定がない場合、事後的に就業規則を改定して禁止ルールを導入することは可能です。ただし、就業規則の不利益変更に該当しないか確認が必要で、労働者への十分な説明と周知が義務付けられます(労働契約法第10条)。規定を設ける際には「禁止する行為の範囲」と「違反した場合の対応」を明確に記載し、全社員への書面・メール等による周知を徹底しましょう。なお、就業規則の変更・整備については、社会保険労務士や専門家への相談が確実です。

従業員規模・就業規則の有無による対応の違い

状況 対応の方向性
就業規則がない(常時10人未満の場合) まず就業規則の整備から着手。録音禁止規定は整備の一部として盛り込む
就業規則はあるが録音禁止規定がない 就業規則を改定し、条項追加・全社周知を行う
録音禁止規定がすでにある 規定の内容・周知状況を確認。形骸化していないか見直す

録音されていたとわかったあとの実務対応

録音の事実が発覚した場合、会社がとるべき対応はおおむね「即時対応」「環境整備」「平時の記録化」の3つの層に整理できます。焦って感情的な対応をとることが最大のリスクです。

まず行うこと——事実確認と冷静な状況把握

録音されていた(あるいはその疑いがある)と気づいたら、まず事実関係を冷静に整理しましょう。「いつの面談か」「誰が参加していたか」「どのような内容が録音されているか(されている可能性があるか)」を確認します。このとき、社員に対して感情的に問い詰めたり、録音データの削除を強要したりしてはいけません。強引な対応は、後々ハラスメントや強要罪として問題視されるリスクがあります。録音の事実が確認できた場合は、社内で把握・記録した上で、必要に応じて専門家(社労士・弁護士)に相談することを検討してください。

次に行うこと——面談ルールと就業規則の見直し

発覚をきっかけに、面談のルールと就業規則を見直しましょう。就業規則への録音禁止規定の追加だけでなく、「面談の目的・進め方・記録の取り扱い」についての社内ルールを明文化することが重要です。また、面談の冒頭で「本日の面談について、会社側でも記録をとります」と伝える運用を導入することで、双方が記録を持つ対等な状況を作ることができます。

平時から取り組むこと——会社側の面談記録の徹底

最も効果的なリスクヘッジは、会社側が面談記録を適切に残す習慣を持つことです。面談メモ・評価シート・フィードバックシートを面談当日または翌営業日中に作成・保管することを運用として定めてください。記録には「いつ・誰が・何を・どのように伝えたか」を客観的事実として記載し、主観的な評価コメントは慎重に扱います。可能であれば、面談後に社員本人へフィードバック内容をメールで送付し、確認を取ることで、事後的な「言った・言わない」の争いを防ぐことができます。

録音トラブルを防ぐ面談の進め方

社員が録音という行動をとる背景には、「この面談の内容を自分で守らなければならない」という不安や不信感があることが少なくありません。面談の設計そのものを見直すことが、根本的な予防策になります。

面談の「透明性」を高める

面談の目的・評価基準・フィードバックの根拠を事前に共有し、面談中も「なぜそう評価したか」を具体的な事実に基づいて説明する習慣をつけましょう。評価の根拠が曖昧なまま「あなたの評価はCです」と告げるような面談は、社員に不信感を抱かせやすく、録音という自衛手段に出られるリスクを高めます。

会社側も「記録します」と明示することの効果

会社側が面談の冒頭で「本日の面談は会社としても記録します」と宣言し、実際に記録をとる運用は、複数の効果をもたらします。まず、社員側が一方的に録音データを持つ非対称な状況が解消されます。次に、面談担当者自身が「記録が残る」という意識を持つことで、不適切な言動の抑止につながります。また、面談内容の正確な記録は、後日の評価説明や労使トラブル対応において会社を守る材料になります。

メンタルヘルス不調者・問題行動が続く社員への面談は特に慎重に

休職中の社員との復職面談、業務改善指示を行う面談、ハラスメント申告があった社員との面談など、センシティブな場面では特に記録の重要性が高まります。このような面談では、できれば担当者が複数人(上司と人事担当など)で対応し、双方で記録を取ることが望ましいです。一人で抱え込まず、社外の専門家(社労士・産業医・EAP機関など)と事前に対応方針を確認することをおすすめします。

まとめ

人事面談を社員に録音された場合、まず理解しておくべきことは「当事者による録音は原則違法ではない」という法的事実です。感情的に「違法だ」と抗議したり、データ削除を強要したりすることは、かえって会社側のリスクを高めます。録音が証拠として使われるリスクに備えるためには、会社側が面談記録を適切に残す習慣を持つことが最大の自衛策です。あわせて、就業規則への録音禁止規定の整備・周知、面談の透明性向上、センシティブな面談での複数対応など、平時からの環境整備が重要です。

こうした人事上の課題は、一人で判断するのではなく、外部の専門家とも相談しながら進めることで、より確実な対応が実現できます。

よくある質問

Q. 社員が人事面談を無断で録音していた場合、懲戒処分にできますか?

A. 就業規則に録音禁止規定がある場合は、懲戒処分の根拠にすることは可能です。ただし、録音行為そのものは法律上違法ではないため、処分の相当性・比例原則の観点から、重い処分(降格・解雇等)は認められにくく、訓告・戒告程度の軽い処分にとどまるのが実務上の限界です。禁止規定がない場合は処分根拠自体が存在しないため、まず規定の整備が必要です。

Q. 録音された面談の内容が裁判で証拠として使われる可能性はありますか?

A. あります。日本の裁判実務では、面談の当事者による録音データは証拠として採用されやすい傾向があります。当事者録音は違法ではないため証拠排除の主張は通りにくく、ハラスメント事案・不当解雇事案などで社員側の録音が会社側に不利に働いた事例も存在します。録音されている可能性がある面談については、会社側も記録を残しておくことが重要です。

Q. 就業規則に録音禁止を追加したいのですが、社員への影響はありますか?

A. 録音禁止規定の追加が労働者にとって不利益な変更に当たるかどうかは、内容や運用によって異なります。一般的には職場秩序の維持を目的とした合理的な規定として認められるケースが多いですが、改定にあたっては社員への十分な説明と周知が必要です(労働契約法第10条)。内容の書き方や周知の方法については、社会保険労務士に確認することをおすすめします。

Q. 会社側が面談記録を残す場合、どんな内容を書けばいいですか?

A. 「いつ・誰が・何を・どのように伝えたか」を客観的な事実として記載することが基本です。「態度が悪い」「やる気がない」といった主観的な評価コメントはできるだけ避け、「〇月〇日の納期に間に合わなかった」「業務改善指示を〇月〇日に口頭で伝え、内容は〇〇であると説明した」など、具体的な事実ベースで記録します。面談後にその内容を本人へメールで送付し確認を得ることができれば、さらに信頼性の高い記録になります。

Q. 社員がなぜ録音したのかを確認してもいいですか?

A. 確認すること自体は問題ありません。ただし、詰問するような形ではなく「面談でご不安な点があったのでしょうか」という姿勢で話を聞くことが重要です。録音という行動の背景には、評価への不満、ハラスメント被害の認識、雇用不安など、解決すべき問題が潜んでいる場合があります。録音行為の責任追及よりも、社員が何を不安に感じているかを把握することが、トラブルの早期解決につながります。

「うちの会社の就業規則は大丈夫か」「面談の記録をどう残すべきか」「録音されていたかもしれない面談への対応に不安がある」——こうしたお悩みをお持ちでしたら、ウェルセンス株式会社へお気軽にご相談ください。専任人事のいない20〜50名規模の企業が直面する人事労務の課題に、実務に即したサポートを提供しています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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