「社員が明日から休職することになった。手続き、何をすればいい?」と聞かれて、すぐに答えられますか。専任の人事担当者がいない中小企業では、休職者が出るたびに「傷病手当金って誰が申請するんだっけ」「社会保険料の本人負担分はどう回収する?」と、手探りで対応しているケースが少なくありません。手続きの抜け漏れは、社員への不利益だけでなく、会社のリスクにもつながります。この記事では、休職開始から復職・退職までの社会保険手続きを時系列で整理し、担当者がすぐに使えるかたちでまとめました。
休職開始時にやるべき手続きの全体像
休職が決まった時点で、会社が対応すべき手続きは「給与計算の調整」「社会保険料の取り決め」「傷病手当金の申請サポート」の三つです。これらを同時並行で進める必要があるため、最初に全体像を把握しておくことが重要です。
給与・社会保険料の取り扱いを決める
休職中の給与支給の有無は、就業規則によって異なります。無給の休職でも、健康保険と厚生年金保険の被保険者資格は在籍している限り継続します。そのため、会社と従業員双方が社会保険料の負担を続ける義務は変わりません。まず就業規則を確認し、「無給か有給か」「何ヶ月まで休職を認めるか」を本人と書面で合意しておきましょう。
社会保険料の本人負担分の回収方法を決める
給与から控除できない場合の徴収方法は、会社と本人で事前に取り決めておく必要があります。主な方法として、次の選択肢があります。
- 毎月、会社が指定口座への振込を依頼する(振込請求方式)
- 復職後の給与から分割控除する(復職後精算方式)
- 休職開始前に数ヶ月分をまとめて預かる
いずれの方法でも「いつ・いくら・どの口座へ」を書面(メールでも可)で明確にしておくことが後のトラブル防止につながります。なお、標準報酬月額は原則として休職中に変更されませんが、復職後に給与額が大きく変動した場合は随時改定(月額変更届)の対象になるケースがあるため、3ヶ月の賃金変動に注意してください。
就業規則の整備状況で対応が変わる
休職規定が就業規則に明記されていない場合、「何ヶ月で休職期間満了になるか」「満了時に自然退職か解雇か」などの判断根拠がなくなります。10人未満の会社では就業規則の作成義務はありませんが、休職者が出た段階で休職規定を文書化することを強くおすすめします。規定がないまま対応を続けると、後の労使トラブルの原因になります。
傷病手当金の申請フロー:会社・本人・医師の役割分担
傷病手当金の申請は「本人が主体」ですが、会社が担う「事業主証明」の記載なしには申請が完結しません。役割を正しく理解して、申請の遅れによる従業員への不利益を防ぎましょう。
傷病手当金とは何か
傷病手当金は、業務外の疾病または負傷で労務不能になり、給与の支払いがない(または減額されている)場合に、健康保険から支給される給付です(健康保険法第99条)。支給額は標準報酬日額の3分の2相当で、連続3日の待期期間を経た4日目から支給されます。支給期間は、2022年(令和4年)1月の法改正により、支給開始日から「通算1年6ヶ月」に変更されています。
申請における三者の役割
| 担当者 | 記載・提出する内容 |
|---|---|
| 従業員(本人) | 申請書の被保険者記入欄を記載。協会けんぽまたは健康保険組合に提出。 |
| 医師(主治医) | 療養担当者意見書欄(労務不能の期間・診断)を記載。 |
| 会社(事業主) | 事業主証明欄(休業期間・給与支払いの有無)を記載して本人に返却。 |
会社の作業は「事業主証明欄を記載して本人に渡す」ことです。提出先は従業員本人が対応しますが、申請書の交付や記載を速やかに行わないと、支給開始が遅れて従業員に不利益が生じます。申請書は協会けんぽのウェブサイトからダウンロードできます。
申請頻度と会社側の対応タイミング
傷病手当金は原則として月ごとに申請します。長期休職の場合、会社は毎月事業主証明を記載する必要があります。担当者が変わっても対応できるよう、「休職者氏名・休業開始日・申請書受け取りの都度記録する」というシンプルな管理台帳を作っておくと抜け漏れを防げます。
担当者が判断に迷う場合や、複数の休職者対応が重なった時は、外部の産業保健サービスに相談することで、手続きの確実性が高まります。
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退職が決まったとき:資格喪失と健康保険の選択肢
休職中に退職が決まった場合、会社が必ず行うべき手続きと、従業員に案内すべき選択肢があります。退職後の健康保険をどうするかは、従業員が自分で判断できる情報を会社がきちんと伝えることが大切です。
資格喪失手続きと離職票の発行
退職日の翌日が社会保険の資格喪失日になります。会社は資格喪失届を年金事務所に提出し、健康保険証を回収します。また、雇用保険については離職票の発行が必要です。ただし、傷病手当金を受給中の場合、雇用保険の基本手当(失業給付)との同時受給はできません。退職後に傷病手当金の継続受給を希望する従業員には、ハローワークへの受給延長申請を案内しましょう。
退職後も傷病手当金を受給するための条件
退職後も傷病手当金を継続して受給できる場合があります(健康保険法第104条)。条件は次の二つです。
- 退職日(資格喪失日の前日)までに、継続して1年以上の被保険者期間があること
- 資格喪失時に傷病手当金を受給中、または受給できる状態にあること
この条件を満たさない場合、退職と同時に傷病手当金の受給が途絶えます。退職のタイミングを検討する際は、被保険者期間が1年に達しているかどうかを事前に確認することが重要です。
任意継続保険の案内を忘れない
退職後の健康保険の選択肢として「任意継続被保険者制度」があります(健康保険法第37条)。退職日の翌日から20日以内に本人が申請する必要があり、この期限は延長できません。任意継続中は会社負担分がなくなるため保険料は全額自己負担になりますが、最長2年間、在職中と同じ健康保険を継続できます。退職手続きの書類一式を渡す際に、「任意継続の申請期限は退職翌日から20日以内」という案内を必ず書面で添付してください。口頭だけでは「聞いていなかった」というトラブルになりやすい箇所です。
担当者が見落としやすい落とし穴と対処法
手続き自体は理解していても、タイミングの誤りや古い情報による対応ミスが起きやすいポイントがあります。ここでは特に注意すべき落とし穴を確認しておきましょう。
傷病手当金の「通算1年6ヶ月」改正を知らずに誤案内するケース
2022年1月の健康保険法改正前は「支給開始日から暦で1年6ヶ月」という計算でしたが、改正後は「通算1年6ヶ月」に変更されています。途中で復職して傷病手当金の支給が止まっていた期間はカウントされないため、改正前より長く受給できるケースがあります。古い情報のまま「もう受給期間が終わっています」と従業員に伝えてしまうと、本来受給できる給付を逃す原因になります。期間の判断は、協会けんぽまたは加入している健康保険組合に必ず確認してください。
「様子見」が続いて手続きのタイミングを逃す
「もう少し休んで様子を見よう」という判断が続くうちに、休職期間満了日が近づき、退職か復職かの判断が後手になるケースがあります。その結果、資格喪失のタイミングや任意継続の申請期限を見落とし、従業員が無保険期間を生じさせてしまう事態が起きることがあります。休職開始時点で「休職期間満了日」と「次の判断タイミング(例:2ヶ月後に主治医の意見を確認)」をカレンダーに入れておく習慣が有効です。
産業医や就業規則の有無で対応レベルを変える
常時50人以上の事業場では産業医の選任が義づけられていますが、50人未満の中小企業では産業医がいないことが多いです。産業医がいない場合、復職判断は主治医の診断書と会社の判断のみで行うことになります。この場合、「復職可能」と主治医が判断していても、業務に耐えられるかどうかの確認が不十分なまま復職させてしまうリスクがあります。外部の産業保健総合支援センターや、人事労務の専門家を活用して判断をサポートしてもらうことを検討してください。
休職手続きのタイムライン早見表
休職開始から退職・復職までの主な手続きを時系列で整理すると、抜け漏れを防ぎやすくなります。以下は一般的な流れの目安です。
| タイミング | 会社がやること | 従業員がやること |
|---|---|---|
| 休職開始前 | 就業規則の休職規定を確認・書面合意、社会保険料の徴収方法を取り決め | 休職申請書の提出、診断書の提出 |
| 休職開始直後 | 給与計算の調整、傷病手当金申請書の交付・事業主証明の記載 | 申請書に主治医の記載を依頼し、協会けんぽ等に提出 |
| 休職中(毎月) | 社会保険料の徴収(振込請求等)、申請書の事業主証明を毎月記載 | 毎月の傷病手当金申請書の提出 |
| 退職が決まった時点 | 資格喪失届の提出、健康保険証の回収、離職票の発行、任意継続の案内(書面) | 任意継続か国民健康保険かを選択・申請(退職翌日から20日以内) |
| 復職時 | 復職判断(主治医意見書の確認)、給与・保険料の計算見直し | 復職届の提出、主治医の復職可能診断書の提出 |
このタイムラインは標準的なケースを示したもので、健康保険組合の種類や就業規則の内容によって異なる部分があります。不明な点は加入先の健康保険組合または協会けんぽの都道府県支部に直接確認することをおすすめします。
まとめ
休職中の社会保険手続きは、「給与・保険料の取り決め」「傷病手当金申請のサポート」「退職時の資格喪失と保険選択肢の案内」という三つの柱で構成されています。専任人事がいない環境では、手続きの優先順位や期限を見誤るリスクが高まります。特に傷病手当金の「通算1年6ヶ月」への法改正、任意継続の「退職翌日から20日以内」という期限は、担当者が押さえておくべき最重要ポイントです。
人事手続きは一度の誤りが後々の労使紛争につながるため、判断に迷うときは外部の専門家に相談することが経営リスクの低減につながります。ウェルセンス株式会社では、メンタル不調による休職対応・復職支援に加え、人事労務の手続き面でのサポートも行っています。「うちのケースでは何から手をつければいい?」という段階からお気軽にご相談ください。具体的な状況をお伺いしたうえで、次の一手をご提案します。
よくある質問
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