「また今日も早退か……」と思いながら、どこまで踏み込んでいいのかわからず、とりあえず「お大事に」と送り出している——そんな状況が何週間も続いていませんか。体調不良による早退が繰り返されるとき、会社として何をすべきかは意外と整理されていません。放置すれば安全配慮義務違反のリスクがあり、踏み込みすぎればハラスメントになりかねない。この記事では、20〜50名規模の企業の経営者・兼務人事担当者が「具体的に何をすればよいか」を実務の手順に沿って解説します。
繰り返す体調不良を放置すると会社が問われるリスク
社員の体調不良を「本人の問題」として放置した場合、会社は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。まずこのリスクの構造を理解することが、対応を始めるうえで最も重要な出発点です。
安全配慮義務とは何か
労働契約法第5条は、使用者に対して「労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務」を課しています。これを安全配慮義務といいます。この義務は、単に「危険な作業をさせない」という身体的安全にとどまらず、メンタルヘルス不調への対応や、業務負荷・職場環境の管理も含まれると解されています。
「知っていたのに何もしなかった」が問われる
安全配慮義務違反で重要なのは、「会社が状況を知り得た(または知っていた)にもかかわらず適切な対応をしなかった」という点です。毎週早退が繰り返されており、上長や人事がそれを認識していた場合、後から重篤な疾患が判明したり、メンタルヘルス不調による休職・退職・労災申請に発展したとき、「何もしなかった」という事実が問題になります。
労災申請との関係
体調不良の背景に業務上のストレス・長時間労働・職場のハラスメントがある場合、本人が労働基準監督署に労災申請するケースもあります。その際、会社の対応履歴(声かけをしたか、受診を促したか、業務負荷の実態はどうだったか)が調査対象になります。早退・欠勤の記録が残っていないと、会社側が不利な立場に置かれることがあります。
「どこまで踏み込んでいいか」の考え方
会社が社員の体調に関与することへの躊躇は自然なことですが、関与の範囲と限界を正しく理解することで、適切に動けるようになります。「受診を強制できるか」という問いに対する答えは「強制はできないが、受診を命じることはできる」です。
受診命令の根拠と条件
法律上、会社が医療機関への受診を強制する明文規定はありません。しかし、就業規則に「業務遂行に支障があると会社が判断した場合、受診を命じることができる」旨が定められていれば、業務命令としての受診命令に合理的根拠が生まれます。また、労働安全衛生法第66条(健康診断)や第66条の8(面接指導)は50名以上の事業場での義務規定が中心ですが、事業者の配慮義務の根拠として援用することができます。
受診命令の「限界線」
受診命令には以下の限界があります。どの医療機関に行くかまで特定・強制することは困難です。また、受診結果の開示を強制することも原則できません(個人情報・プライバシーの保護)。ただし、「就業判断に必要な範囲での診断書・主治医意見書の提出」を求めることは合理的とされています。受診を拒否された場合でも、すぐに懲戒処分とするのは慎重さが必要であり、まず段階的な対応を重ねることが重要です。
就業規則がない・整備されていない場合
常時10名以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・届出が義務です(労働基準法第89条)。しかし中小企業では、就業規則に受診命令や就業制限の規定が設けられていないケースが少なくありません。就業規則の根拠なく受診命令や就業制限を行うと、後の労使紛争で会社側の主張が通りにくくなります。対応と並行して就業規則の整備も検討してください。
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「本人が大丈夫と言っている」は放置の理由にならない
本人の「大丈夫です」という発言は、会社の安全配慮義務を免責しません。この点を誤解している経営者・人事担当者は多く、実務上の大きな落とし穴です。
自己申告がない場合でも会社の義務は生じる
体調不良が繰り返されていることを上長や人事が把握しており、客観的に業務遂行に影響が出ている状況では、本人から積極的な申告がなくても、会社として状況確認・配慮を行う義務があると解されます。「本人が言わなかった」「自分は大丈夫と言っていた」は免責の根拠にはなりません。
メンタルヘルス不調の「身体化」に注意する
繰り返す体調不良の中には、精神的ストレスが頭痛・吐き気・倦怠感などの身体症状として現れる「身体化」が含まれる場合があります。本人自身が「気持ちの問題ではなく体の問題」と思っているため、内科を受診して異常なしと言われ、原因不明のまま早退が続くケースは珍しくありません。このような場合、専門家(産業保健師・かかりつけ医・精神科・心療内科)への橋渡しが重要になります。
業務影響が出始めたら対応の段階を上げる
本人が「大丈夫」と言っていても、担当業務の遅延、チームメンバーへの負担増、顧客対応への影響などが生じているときは、会社として就業制限や業務軽減を検討する段階です。「本人の意思を尊重する」という姿勢は大切ですが、それが「問題を先送りにする口実」になっていないかを定期的に確認してください。
具体的な対応の進め方
繰り返す早退への対応は、声かけ・記録・受診の促し・就業制限の検討という流れで進めるのが実務上の基本です。何か特別なことをする前に、まず「記録する」習慣をつけることが出発点になります。
対応フローの全体像
| 段階 | 対応内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 状況把握 | 早退・欠勤の日時・理由・本人の様子を記録する | 口頭確認の内容もメモとして残す |
| 声かけ・面談 | 上長または人事が1対1で状況確認の面談を行う | 詰問ではなく「心配している」姿勢を前面に |
| 受診の促し | 「一度受診してみることをお勧めします」と伝える | 就業規則に根拠があれば受診命令も可能 |
| 診断書・意見書の確認 | 受診結果に基づき、就業継続の可否・業務軽減を検討 | 開示強制は不可。提出を「お願い」として依頼 |
| 就業制限・配慮措置 | 業務軽減・時短・休業命令などを就業規則に基づき実施 | 根拠規定の有無を事前に確認する |
面談での声かけの具体的な伝え方
面談では「体調不良が続いているようで、会社として心配しています。何か業務上のことも含めて、話せることがあれば聞かせてください」という姿勢で臨みます。「病気ですか?」「いつまで続くんですか?」といった詰問口調は避けてください。また、面談を行った日時・場所・主な会話の要点・本人の反応を必ず記録に残しておきます。この記録が「会社は対応していた」という証拠になります。
産業医がいない場合の対応
50名未満の事業場は産業医の選任義務がなく、「誰に医学的な判断を仰げばいいか」に悩む経営者は多くいます。この場合、以下の選択肢を検討してください。まず、地域の産業保健総合支援センター(全国の都道府県に設置)では、50名未満の事業場向けに産業医相談や保健師への無料相談を提供しています。次に、本人が既にかかりつけ医を持っている場合、「就業に関する意見書」を作成してもらえるよう本人に依頼することも一つの方法です。また、外部の産業保健サービス(EAP・産業保健支援機関)を活用することも有効です。
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メンタルヘルス不調が疑われる場合の特別な注意点
体調不良の背景にメンタルヘルス不調が疑われる場合、対応のアプローチが少し変わります。身体疾患と同様の「様子見」では、症状が悪化するリスクがあるため、早めの専門的関与が重要です。
メンタルヘルス不調を示すサイン
以下のサインが複数見られる場合、メンタルヘルス不調の可能性を考慮する必要があります。原因不明の体調不良が繰り返されている、内科を受診しても異常なしと言われている、ミスの増加・集中力の低下・表情の変化が見られる、会話が減った・人を避けるようになったなどの変化があります。また、「業務上の出来事(異動・評価・人間関係の問題)があった後から体調不良が始まった」というタイミングも重要な情報です。
就業制限の判断基準
メンタルヘルス不調が疑われる場合も含め、「このまま就業を続けさせてよいか」の判断は会社だけで行わないことが原則です。主治医の意見書や、外部の産業保健専門家の見解を取り入れることが、会社を守ることにもつながります。就業規則に「私傷病による就業制限」規定があれば、業務に耐えられないと客観的に判断される場合に就業制限・休業命令を発令できます。この規定がない場合は、本人の同意のもとで自主的な休暇取得を促すことが現実的な選択肢です。
ハラスメントになりうる対応を避ける
体調不良を理由に、本人の同意なく降格・部署異動・給与減額などの不利益変更を行うことは、障害者差別解消法や労働契約法の観点から問題になりうる対応です。また、「早退が多いから評価を下げる」という運用も、正当な手続きなしに行うと紛争の種になります。体調不良への対応と人事評価は分けて考え、対応の段階ごとに人事・労務の専門家に確認することをお勧めします。
対応の判断に迷ったとき、人事だけで抱え込まず専門家に早めに相談することで、後のトラブル予防にもつながります。
まとめ
繰り返す体調不良による早退への対応は、「どこまで踏み込んでいいか」の判断から始まります。安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から、会社は「知り得た状況を放置しない」義務を負っており、本人の「大丈夫」という発言だけを根拠に対応を止めることはリスクになります。実務では、まず早退・欠勤と対応の記録をつけること、次に1対1の面談で状況確認を行うこと、そして就業規則の根拠をもとに受診の促し・就業制限を段階的に進めることが基本の流れです。産業医がいない50名未満の企業では、地域の産業保健総合支援センターや外部の産業保健支援機関の活用が現実的な選択肢です。
ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者が直面する、こうした体調不良・メンタルヘルス対応・休職復職支援の課題について、具体的な実務サポートをご提供しています。「うちのケースではどう対応すればいいのか」と感じたときは、まず一度ご相談ください。
よくある質問
🔗 対応の判断に迷ったとき、人事だけで抱え込まず専門家に早めに相談することで、後のトラブル予防にもつながります。 →
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