試用期間中に持病が判明したら本採用拒否はできるのか

試用期間中に持病が判明したら本採用拒否はできるのか コンプライアンス
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「試用期間中だから、健康上の理由があれば本採用を断れるはずだ」——そう判断して動き始めたものの、「本当に大丈夫なのか」と不安が拭えない経営者・人事担当者は少なくありません。試用期間中に持病や精神疾患が判明したとき、会社が取れる対応の範囲と、踏んではいけない地雷の両方を正確に把握しておくことが、後のトラブルを防ぐ最大の手立てです。この記事では、法的な判断基準から実務手順、合理的配慮の範囲まで、現場で使える形で整理します。

試用期間中の本採用拒否は「解雇に準じる行為」と理解する

試用期間中であっても、本採用拒否は「解雇に近い行為」として扱われます。「試用期間中なら自由に断れる」という認識は法的に誤りであり、客観的・合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効とされるリスクがあります。

最高裁が示した「解雇権留保付き労働契約」という考え方

1973年の最高裁判決(三菱樹脂事件)は、試用期間中の労働契約を「解雇権を留保した労働契約」と定義しました。これは、一定の解約のしやすさを認めつつも、完全な自由裁量ではないことを明示したものです。労働契約法第16条(解雇権濫用法理)が類推適用されるという解釈が定着しており、「本採用しない」という判断には客観的・合理的な理由が求められます。

「試用期間なら健康上の理由だけで断れる」が危険な理由

健康状態の悪化や持病の存在それ自体は、本採用拒否の理由として単独では成立しにくい状況です。裁判例では、健康問題を理由とした本採用拒否が認められるには、「その健康状態が職務遂行に具体的な支障をきたしているか、今後きたす合理的な根拠があること」が必要とされています。「病気があるから」「不安だから」という抽象的な理由では、不当解雇と判断されるリスクが生じます。

健康上の理由で本採用を拒否できる「適法要件」

健康上の理由による本採用拒否が法的に認められるためには、複数の要件をすべて満たす必要があります。一つでも欠けると、後に無効と判断されるリスクが高まります。

業務遂行への具体的な支障が必要

もっとも重要なのは、「その健康状態が、採用された職務の遂行に客観的かつ具体的な支障をきたしているか、または今後きたす合理的な根拠があること」です。たとえば、体力を要する現場業務に採用した従業員が、試用期間中に慢性疾患による体力制限があると判明し、業務の主要な部分を担えない状態が医学的に確認できる場合は、この要件を満たす方向に傾きます。一方で、「将来的に悪化するかもしれない」という不確かな懸念だけでは不十分です。

合理的配慮を検討・実施した形跡が必要

業務上の支障が確認できた場合でも、すぐに本採用拒否に進んではいけません。配置転換・業務軽減・勤務時間の調整など、会社として講じられる合理的配慮を検討・実施したうえで、それでも対応困難と判断したことが求められます。中小企業の場合は「事業規模・財務状況からの制約」が考慮要素になりますが、検討した形跡を記録として残すことが不可欠です。

本人への確認・意見聴取のプロセスを踏む

会社が一方的に判断を下すのではなく、本人から事実関係を聴取し、診断書の提出を求め、本人の意見を聞く機会を設けることが必要です。このプロセスを省略すると、手続き上の瑕疵として問題になります。面談記録や書面のやり取りは必ず保存してください。

「告知しなかった」こと自体は本採用拒否の直接理由にはなりにくい

「採用前に病気を隠していた」という事実は、感情的には「不誠実だ」と感じるのは当然です。しかし、法的には告知の不申告それ自体を解雇・本採用拒否の根拠にすることは難しく、この点の理解が実務判断において非常に重要です。

健康情報の申告義務はどこまで認められるか

採用時に健康状態を申告する義務は、信義則上、「職務遂行に直接関係する健康情報」に限定される傾向があります。たとえば、危険物を扱う作業に従事するポジションで、その職務に直結する疾患を隠していた場合は信義則違反と認められやすくなります。一方で、業務との直接的な関連性が薄い持病や精神疾患の既往歴については、プライバシー権・自己情報コントロール権との兼ね合いから、申告義務があるとは容易に言えません。

「告知なし」を情状として使える範囲

「告知しなかった事実」は、本採用拒否の判断における情状として考慮できる要素ではあります。ただし、それ単独では本採用拒否の根拠にはなりません。業務遂行への支障という主たる理由があったうえで、申告がなかったことが補足的な事情として加わる、という位置づけで理解してください。「隠していたから断れる」ではなく、「業務に支障があるから断る、そのうえで告知がなかったことも事実として記録する」という整理が正確です。

合理的配慮義務はどこまで及ぶのか

障害者雇用促進法上の合理的配慮義務は、障害者として把握できている従業員に対して生じるものです。ただし、持病や疾患が判明した時点からは、中小企業であっても一定の配慮を検討する姿勢が求められます。

合理的配慮義務が発生するタイミング

健康状態を「告知していない」従業員であっても、会社が健康問題を知り得た時点から配慮義務の検討が始まります。試用期間中に持病が判明した場合も同様です。障害者手帳の有無に関わらず、機能障害や慢性疾患によって業務遂行に影響が出ている状況では、合理的配慮の観点から対応を検討することが求められます。

中小企業における「過重な負担」の考え方

合理的配慮の範囲は「過重な負担にならない範囲」と定められており、企業規模・財務状況・業務の性質が考慮要素となります。たとえば、20〜50名規模の企業であれば、専任の産業医の配置や大規模な設備改修は「過重な負担」に該当しやすい一方で、担当業務の部分的な変更や勤務時間の柔軟な調整は求められる可能性があります。「うちは小さな会社だから何もしなくていい」とはならない点に注意が必要です。

合理的配慮の具体的な例

  • 担当業務の一部を他の従業員と分担する
  • 通院のための勤務時間調整・フレックスタイムの適用
  • 在宅勤務への部分的な切り替え
  • 休憩頻度・休憩場所の確保
  • 過重な残業の回避

これらをすべて実施する義務があるわけではなく、業務の実態と会社の事情を踏まえて「できる配慮」を検討・実施したうえで記録を残すことが重要です。

本採用拒否までの実務プロセスと判断の分岐

健康問題が判明してから本採用拒否を検討するまでには、踏むべきステップがあります。プロセスを省略すると、たとえ業務上の支障が明確であっても手続き違反として問題になります。

対応の流れ

フェーズ 実施内容 記録・書類
健康問題の把握 本人からの申し出・欠勤状況・業務パフォーマンスの変化などを把握する 把握した日時・状況のメモ
本人面談 事実確認・健康状態の聴取・業務への影響を本人の言葉で確認する 面談記録(日時・参加者・内容)
診断書の取得 医療機関への受診を促し、就業可否に関する診断書の提出を依頼する 提出依頼の記録・診断書の写し
業務影響の評価 採用ポジションの職務内容と健康状態を照らし合わせ、業務遂行可否を判断する 評価メモ・関係者間の協議記録
合理的配慮の検討 配置転換・業務軽減・勤務調整などを検討し、実施可否を判断する 検討内容と判断理由の記録
本採用拒否の意思決定 対応困難と判断した場合に本採用拒否を決定する 意思決定の記録・理由の明文化
本人への通知 書面で理由を明示して通知する(口頭だけは避ける) 通知書の控え・交付記録

就業規則・産業医の有無による対応の違い

就業規則に試用期間の延長規定がある場合は、健康状態の見極めに時間が必要であれば試用期間を延長するという選択肢も取れます。ただし延長できるのは合理的な期間に限られ、無期限の延長は認められません。また、産業医がいない中小企業では外部の産業医サービスや主治医との連携が必要になります。産業医が選任されていない場合でも、主治医からの意見書を取得することで業務適性の判断材料を確保できます。

本採用拒否を回避するための事前対策

健康問題による本採用拒否のリスクを抑えるためには、採用前の段階から準備しておくことが効果的です。問題が起きてから対応を考えるのではなく、仕組みとして整備しておくことが中小企業における現実的な予防策です。

採用時の健康状態確認の範囲と方法

採用面接や入社前の手続きの中で、「職務遂行に関連する健康上の配慮事項があれば教えてほしい」と伝えることは適切です。ただし、応募者に対して疾患名や既往歴の詳細な申告を義務づけることはプライバシー侵害のリスクを伴います。「業務に配慮が必要な事情があれば教えてほしい」という形で、配慮の必要性を確認する問いかけに留めることが安全です。

就業規則・雇用契約書への記載を整備する

試用期間の定義・延長規定・本採用拒否の可能性とその理由の類型を就業規則に明記しておくことで、後の判断に正当性の根拠を持たせることができます。「健康状態が職務遂行に支障をきたすと判断された場合」という記載があるだけでも、対応の透明性が高まります。就業規則の整備がまだという場合は、この機会に見直しを進めることをお勧めします。

まとめ

試用期間中に持病や健康問題が判明したとき、本採用拒否は「まったくできない」わけではありません。しかし「試用期間中だから自由に断れる」という認識も誤りです。認められるためには、業務遂行への具体的な支障の確認、合理的配慮の検討・実施、本人への意見聴取と書面による通知、という一連のプロセスをきちんと踏むことが必要です。「告知しなかった」という事実は情状にはなりますが、それだけでは本採用拒否の根拠にはなりません。また、健康問題が判明した時点から合理的配慮の検討義務が生じることも、中小企業として意識しておく必要があります。

ウェルセンス株式会社では、こうした試用期間中の健康問題への対応から、休職・復職支援、就業規則の整備まで、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者をサポートしています。「このケース、どう対応すべきか判断がつかない」というご状況があれば、まずはお気軽にご相談ください。一緒に整理するところから始められます。

よくある質問

Q. 試用期間中でも本採用拒否には解雇予告が必要ですか?

A. 試用期間が14日を超えている場合は、解雇予告(30日前の通知または解雇予告手当の支払い)が必要です。14日以内であれば予告は不要ですが、実際には多くの企業の試用期間は1〜3か月程度に設定されているため、解雇予告の手続きを踏む必要があるケースがほとんどです。書面での通知とあわせて確認してください。

Q. 診断書の提出を求めることはできますか?強制できるものですか?

A. 業務遂行の可否を判断するために診断書の提出を求めること自体は、合理的な範囲で認められています。ただし強制ではなく「依頼」という形が基本です。就業規則に「会社が必要と認めたときは医師の診断書を提出させることができる」といった規定があると、より根拠を持って依頼できます。提出を求めた記録と、本人の対応(提出・拒否)の記録を残しておくことが大切です。

Q. 精神疾患(うつ病・適応障害など)が判明した場合、身体疾患と扱いは違いますか?

A. 法的な判断の枠組みは同じです。精神疾患であっても身体疾患であっても、「その状態が採用ポジションの職務遂行に具体的な支障をきたしているか」という点が判断の中心になります。精神疾患の場合は状態の変動が大きいため、診断書に加えて主治医の就業に関する意見書を取得することが有効です。また、精神疾患は障害者雇用促進法の対象となり得るため、合理的配慮の検討がより重要になります。

Q. 試用期間を延長することはできますか?その場合の限度はどれくらいですか?

A. 就業規則に試用期間の延長規定がある場合は、延長が可能です。ただし合理的な理由と期間の限定が必要で、「いつまで延長できるか」は明確な法的上限はないものの、通常は当初の試用期間と合わせて最長6か月程度が目安とされています。それを超えると事実上の本採用と見なされるリスクがあります。延長する場合は、延長の理由・期間・評価の基準を本人に書面で伝えてください。

Q. 産業医がいない会社でも、健康を理由とした本採用拒否の判断はできますか?

A. 産業医がいなくても判断することは可能ですが、医学的な根拠を確保することが重要です。主治医からの診断書・就業意見書を取得し、それをもとに業務遂行への影響を評価するというプロセスが現実的な対応です。外部の産業医サービス(スポット産業医・産業医紹介サービスなど)を活用して、専門家の意見を記録に残すことで、判断の根拠をより強固にできます。判断を会社内部だけで完結させず、専門家の見解を取り入れることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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