「うちはインターンだから、雇用契約じゃないよね?」——採用担当を兼務している経営者の方から、こうした確認をいただくことがあります。週3〜4日、数か月にわたって業務を担ってもらっている有償インターン生。しかし「インターン」という名称は、法律上の労働者かどうかとは無関係です。実態によっては最低賃金や社会保険の加入義務が発生し、遡及対応を求められるリスクもあります。この記事では、判断の基準から具体的なリスク対応まで、実務に役立つ形で整理します。
「インターン」という名称は法的な保護にならない
労働基準法では、労働者かどうかは「名称や契約形式」ではなく「実態」で判断されます。インターン生であっても、働き方の実態が「労働者」と同様であれば、労働基準法・最低賃金法・社会保険法の保護対象になります。
法律が見ているのは「実態」
労働基準法第9条は、労働者を「使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。つまり、会社の指示に従って働き、その対価として報酬を受け取っているなら、書類上「インターン生」と記載されていても「労働者」とみなされる可能性があります。厚生労働省の行政解釈や判例(最高裁・横浜南労基署長(旭紙業)事件、平成8年)も、「実態に基づく判断」を一貫して求めています。
「謝礼」「学習支援金」も同じ扱いになる
報酬の名称を「謝礼」「奨学金」「交通費補助」としても、それが実質的に労務提供の対価であれば「賃金」と判断されます。最低賃金との比較が必要になり、過去に遡って差額の支払い義務が生じるケースもあります(消滅時効は労働基準法改正により3年)。
有償インターンの労働者性をこう判断する
労働者性は、複数の判断要素を総合的に見て判断されます。ひとつの要素だけで白黒つくわけではなく、複数の要素が重なるほどリスクが高まります。
主な判断要素を確認する
| 判断要素 | 労働者性が高まる状態 |
|---|---|
| 業務指示の有無 | 会社の指揮命令・業務指示に従っている |
| 時間的拘束 | 出退勤時刻・勤務日を会社が決めている |
| 場所的拘束 | 会社の施設・設備を使用している |
| 代替性 | 本人が無断で他者に代替させられない |
| 報酬の性質 | 労務提供の対価として支払われている |
| 専属性 | 実質的にその企業にのみ従事している |
| 機材・材料の負担 | 自己負担がなく会社が用意している |
「複数該当」が判断の分岐点
すべての要素が揃わなくても、複数が重なれば労働者と認定されるリスクは十分にあります。たとえば「週4日・オフィス勤務・業務指示あり・月8万円の時給制」という受け入れ形態は、ほぼすべての要素に該当します。「インターンだから大丈夫」という根拠のない安心感は、実務上は危険な状態です。
「学習型」と「労働型」の境界線
厚生労働省は2023年にインターンシップのガイドラインを改訂し、5日間以上・実務経験を伴うものを「インターンシップ」と定義しました。ただし、このガイドラインは採用広報における分類であり、労働基準法上の労働者性の有無はあくまで「実態」で別途判断されます。ガイドラインに沿っているからといって、労働者性が否定されるわけではありません。
判断基準が複雑に感じられる場合は、受け入れ前に人事・労務の専門家に相談することで、後のトラブルを大幅に防ぐことができます。
労働者と認定された場合に発生する義務
労働者性が認定されると、最低賃金・社会保険・雇用保険・労災保険など、複数の法的義務が一度に発生します。遡及対応を求められる場合は、経営上の負担が大きくなるため、事前の把握が重要です。
最低賃金・割増賃金の適用
労働者と認定された場合、都道府県ごとに定められた地域別最低賃金(最低賃金法第4条)が適用されます。時給換算した報酬がこれを下回っていれば違法となり、差額分を遡って支払う義務が生じます。また、週40時間・1日8時間を超える時間は割増賃金(通常の25%増以上)の支払いが必要になります。インターン生でも、学生アルバイトとまったく同じルールが適用されます。
社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務
週所定労働時間が20時間以上、かつ2か月を超える雇用見込みがある場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務となります。20〜50名規模の企業では、2024年10月からの従業員51人以上への適用拡大ラインに該当するかどうかの確認が必要です。遡及適用になると、会社負担分(報酬の約14〜15%相当)を過去にさかのぼって納付する義務が発生することがあります。
雇用保険・労災保険の適用
雇用保険は、週20時間以上・31日以上の雇用見込みがある場合に加入義務が生じます(雇用保険法第6条の適用除外要件を確認してください)。労災保険については、労働者と認定された時点で当然に適用されます。もしインターン中にケガが発生し、労災未加入の状態だった場合でも保険給付自体は行われますが、会社に対して費用が徴収される場合があります(労働保険徴収法第31条)。
受け入れ前に整えるべき実務対応
有償インターン生を受け入れる前に、契約書・報酬・労働時間の3点を整備しておくことで、トラブルのリスクを大幅に下げることができます。
契約書で実態を正しく反映する
まず、受け入れ形態が「雇用契約」なのか「業務委託」なのかを明確にし、その実態に合った契約書を作成します。雇用契約として受け入れるなら、労働条件通知書の交付が法律上必要です(労働基準法第15条)。「インターン契約書」という独自の書類だけでは、法的に不十分な場合があります。契約書に盛り込むべき項目は、業務内容・勤務日時・報酬・契約期間・更新の有無・担当業務の範囲などです。
報酬は最低賃金と照らし合わせて設定する
次に、報酬額を最低賃金と比較して設定します。都道府県別の最低賃金額は毎年改定されるため、受け入れ時点での最新額を厚生労働省のウェブサイトで確認してください。時給換算した際に最低賃金を下回っていないか、交通費が「含まれる」形で支払っている場合は実質時給がどうなるかも計算が必要です。
週の勤務時間と期間で社会保険の要否を判断する
インターン生の週所定労働時間が20時間以上で、受け入れ期間が2か月を超える見込みであれば、社会保険加入の検討が必要です。自社の従業員数が51人以上かどうかで適用基準が変わります。判断に迷う場合は、年金事務所または社会保険労務士に確認することをおすすめします。「2か月以内の短期インターン」として運用し、結果的に延長を重ねているケースは、当初から2か月超の見込みがあったと判断されることがあるため注意が必要です。
トラブルが起きてしまったときの対応の流れ
インターン生からの未払い賃金請求やケガの発生など、問題が起きてからでも正しい順序で対応することで、損害を最小限に抑えることができます。
未払い賃金・最低賃金違反の申告を受けたとき
インターン生(または退職後の元インターン生)から労働基準監督署に申告が入ると、調査が開始されます。この段階で契約書・タイムカード・給与台帳などの記録が揃っていれば、対応がスムーズになります。記録がない場合でも、事実関係を誠実に説明し、不足分の支払いについて速やかに協議に入ることが重要です。隠蔽や引き延ばしは、行政指導・是正勧告・公表リスクを高めます。
インターン中のケガ(労災)が発生したとき
インターン生が業務中にケガをした場合、労働者性が認定される可能性があるなら、労災申請の手続きを拒否してはいけません。会社が労災保険に未加入だった場合でも、給付自体は行われますが、後日、会社に費用が徴収されることがあります。事故発生後は、まず医療機関への受診対応、続いて労働基準監督署への報告(労働者死傷病報告)という順序で進めます。
まとめ
有償インターン生の「労働者性」は、名称や契約書の形式ではなく、業務指示・時間拘束・報酬の性質など、働き方の実態で判断されます。労働者と認定されると、最低賃金・割増賃金・社会保険・雇用保険・労災保険といった複数の法的義務が発生し、遡及対応が必要になることもあります。「インターンだから大丈夫」という感覚的な判断が、後から大きなリスクになるケースは少なくありません。
中小企業の人事業務は多岐にわたり、判断に迷うことも多くあります。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない経営者・兼務人事の方に向けて、労務管理の整備や受け入れ体制の見直しについてご相談をお受けしています。「自社の受け入れ形態が適切かどうか確認したい」「今のインターン生の扱いをどう整理すればいいかわからない」という段階からでも、お気軽にご連絡ください。
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