退職者に源泉徴収票を渡さないとどうなる?

退職者に源泉徴収票を渡さないとどうなる? コンプライアンス
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「退職した従業員から源泉徴収票を送ってほしいと連絡が来たけれど、どう対応すればいい?」「退職時にトラブルがあった相手に、わざわざ書類を送る必要があるの?」——こうした疑問を抱えながら、対応を後回しにしている担当者の方は少なくありません。実は源泉徴収票の交付は法律で定められた義務であり、対応を怠ると会社だけでなく担当者個人にも罰則が及ぶ可能性があります。この記事では、交付義務の根拠から期限・罰則・実務対応まで、兼務人事担当者でもすぐに動けるよう整理します。

源泉徴収票の交付は「義務」である

源泉徴収票を退職者に渡すことは、会社の任意ではなく法律上の義務です。「送りたくない」「面倒だ」という感情論は通用しません。

根拠となる法律

所得税法第226条は、給与等の支払いをする者(=会社)は、支払いを受ける者(=従業員・元従業員)に対して源泉徴収票を交付しなければならないと明確に規定しています。「しなければならない」という強制規定であり、退職者であっても例外ではありません。在職中に給与を支払った事実がある以上、会社は退職後も交付義務を負います。

退職トラブルがあっても義務は消えない

退職時に未払い残業代の問題があった、突然退職されて腹が立っている——そうした事情があったとしても、源泉徴収票の交付義務には一切影響しません。源泉徴収票はその人の所得と税額を証明する書類であり、退職者が確定申告や転職先での年末調整に不可欠です。感情的な理由で交付を拒否した場合、後述するように刑事罰のリスクまで生じます。

「要求されたら渡す」では遅い場合もある

退職者から連絡が来てから動き始める会社は多いのですが、本来は会社側から能動的に交付する義務があります。特に年の途中退職者については交付期限があるため、退職者からの連絡を待っていると期限を過ぎてしまうケースもあります。

交付期限はいつまでか

源泉徴収票の交付期限は、退職時期によって異なります。「年末調整が終わったら送ればいい」という認識は誤りです。

年の途中で退職した場合

年の途中(1月〜11月)に退職した従業員については、退職後おおむね1ヶ月以内の交付が実務上求められます。法定の最終期限は翌年1月31日ですが、転職先での年末調整に使うためには、それより大幅に早い交付が必要です。たとえば9月末に退職した人が10月から新しい会社に転職した場合、転職先は11月〜12月に年末調整を行います。この時点で前職の源泉徴収票がなければ、転職先での年末調整が正しくできません。退職者から「早く送ってほしい」と催促される前に、退職手続きの一環として発行する習慣をつけましょう。

年末(12月)退職者の場合

12月末に退職した従業員については、会社で年末調整を行わないまま退職することになります。この場合、退職者は翌年に自分で確定申告を行う必要があり、そのために源泉徴収票が必要です。交付期限は翌年1月31日です。在職中に年末調整が完了していない点にも注意が必要で、年末調整未済の旨を源泉徴収票に記載することも求められます。

期限を整理すると

退職の時期 法定の最終期限 実務上の目安
年の途中(1〜11月)退職 翌年1月31日 退職後おおむね1ヶ月以内
年末(12月)退職 翌年1月31日 なるべく早め(遅くとも1月中旬まで)

※「退職後1ヶ月以内」は実務・税務慣行上の目安です。正確な期限の解釈については、顧問税理士や社会保険労務士に確認することをおすすめします。

渡さなかった場合の罰則とリスク

源泉徴収票を交付しなかった場合、所得税法上の刑事罰が適用される可能性があります。「どうせ税務署は動かない」という思い込みは危険です。

刑事罰の内容

所得税法第242条第8号は、源泉徴収票を交付しなかった者または不正な記載をした者に対して、1年以下の懲役または50万円以下の罰金を科すと定めています。注意が必要なのは、この罰則が「会社(法人)だけに適用される」わけではない点です。実際に対応した担当者個人も処罰の対象になり得ます。兼務人事担当者が「よくわからないまま放置した」という状況でも、責任を問われる可能性があることを認識してください。

税務署からの指導・調査

退職者が源泉徴収票を受け取れない場合、税務署に相談・申告することができます。税務署は会社に対して交付するよう指導を行い、それでも対応しない場合はさらに強制的な手続きへと移行します。税務署からの指導が入ること自体、会社の信用に関わる問題です。また、税務調査のきっかけになるリスクもあります。

退職者との法的トラブルに発展するリスク

退職者が源泉徴収票の不交付を理由に損害賠償を求めてくるケースも想定されます。たとえば、源泉徴収票がなかったために確定申告の期限に間に合わなかった、転職先での年末調整ができなかったなど、具体的な損害が生じれば会社は民事上の責任も問われます。感情的な対応が、取り返しのつかないトラブルに発展することを忘れないでください。

実務での発行・送付の手順

源泉徴収票の発行は、給与計算ソフトを使えばそれほど難しくありません。正しい手順で対応し、送付記録を残すことが大切です。

発行の手順

まず、freeeやマネーフォワード給与などの給与計算ソフトを使っている場合は、退職者の情報をもとにソフト上で源泉徴収票を出力します。ほとんどのソフトで、対象者を選択して印刷するだけで完了します。ソフトを使っていない場合は、源泉徴収簿(給与台帳)をもとに手書きまたはExcelで作成します。記載内容に誤りがないか、支払金額・源泉徴収税額・社会保険料等の金額を必ず確認してください。

送付方法と記録の残し方

送付は郵送が基本です。普通郵便ではなく、簡易書留や追跡サービス付きの方法を使うことをおすすめします。「送った」「届いていない」というトラブルを防ぐためです。送付した日付・方法・宛先を記録として残しておきましょう。電子交付(PDFメール送付など)も可能ですが、退職者の事前同意が必要です。退職者の連絡先(住所・メールアドレス)が変わっている場合は、送付前に最新の連絡先を確認してください。

再発行・訂正が必要な場合

「郵送したが届いていない」「金額に誤りがあった」という場合は、速やかに再発行または訂正した源泉徴収票を作成して送付します。訂正の場合は、税務署への報告が必要になることもあるため、顧問の税理士に確認しながら進めると安心です。再発行の際も、送付記録を残すことを忘れないでください。

退職者から催促されたときの対応

退職者から「源泉徴収票を早く送ってほしい」と連絡が来たとき、慌てずに対応できる準備をしておくことが重要です。

まず状況を確認する

連絡を受けたら、次のことを確認します。退職日はいつか、すでに源泉徴収票を発行・送付したか、送付先住所は合っているか。給与計算ソフトの発行履歴や郵送記録を確認すれば、多くの場合すぐに状況を把握できます。「確認して折り返します」と伝え、1〜2営業日以内に回答するのが適切な対応です。

感情的なトラブルがある相手への対応

退職時にトラブルがあった相手から連絡が来た場合でも、源泉徴収票の交付は義務であることを忘れないでください。感情的な対応を避け、「確認のうえ、○月○日までに郵送します」と事務的に回答することが最も適切です。もし相手が脅迫的な言動をとるようであれば、その記録を残しつつ、必要に応じて社会保険労務士や弁護士に相談することを検討してください。

兼務担当者が混乱しないための準備

専任の人事担当者がいない会社では、「誰が何をするのか」が明確でなく、退職者から連絡が来て初めてバタバタするケースがよく見られます。退職手続きのチェックリストに「源泉徴収票の発行・送付」を明記しておくだけで、こうした混乱はほぼ防げます。退職者の最終住所の確認も、退職手続き時に行っておきましょう。

よくある誤解と確認すべきポイント

現場でよく見られる誤解を整理します。思い込みによる対応ミスは、会社にとって大きなリスクになります。

「年末調整が終わってから送ればいい」は誤り

年の途中で退職した従業員は、会社で年末調整を行いません。退職者が転職先で年末調整をするために前職の源泉徴収票が必要であるため、年末まで待つという考え方は根本的に間違っています。「年末調整と源泉徴収票は別の話」と覚えておいてください。

「退職者が確定申告をするから源泉徴収票は不要」は誤り

退職者が確定申告を行う場合でも、会社の源泉徴収票交付義務はなくなりません。確定申告の際にも源泉徴収票が必要であり、税務署に提出する書類として使われます。退職者が「確定申告するので源泉徴収票を送ってほしい」と言っている場合は、速やかに対応してください。

「退職者の住所がわからないから送れない」への対処

退職後に連絡がとれなくなった場合でも、会社には最後に届出された住所に郵送する義務があります。転居先が不明で郵便が戻ってきた場合は、その記録を残しておきましょう。会社として「送付の努力をした」という証拠を残すことが、後のトラブル予防になります。どうしても連絡がつかない場合は、税理士や社会保険労務士に相談することをおすすめします。

まとめ

退職者への源泉徴収票交付は、所得税法第226条に基づく法的義務です。交付しなかった場合は所得税法第242条第8号により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があり、担当者個人も対象になります。年の途中退職者には退職後おおむね1ヶ月以内の交付が実務上求められ、「年末調整が終わってから」という対応は誤りです。退職時のトラブルや感情的な事情があっても、交付義務は消えません。給与計算ソフトで簡単に出力できますので、退職手続きのチェックリストに組み込んでおくことが最善の予防策です。

「退職手続きの対応に自信がない」「退職者とのトラブル対応をどうすればいいかわからない」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。専任人事がいない中小企業の実情に寄り添い、労務対応から人事課題の整理まで一緒に考えます。

よくある質問

Q. 退職した従業員が行方不明で連絡先もわかりません。それでも送る義務がありますか?

A. 退職時に届け出られた最後の住所に郵送することが会社としての対応です。郵便が戻ってきた場合はその記録を保管しておきましょう。「送付しようとした事実」を残すことがリスク回避につながります。連絡がどうしても取れない場合は、顧問の税理士や社会保険労務士に相談することをおすすめします。

Q. 退職時に揉めた相手に源泉徴収票を送りたくありません。拒否できますか?

A. 拒否することはできません。退職時のトラブルや感情的な事情は、源泉徴収票の交付義務には影響しません。交付を拒否した場合、退職者が税務署に申告すれば会社に指導が入り、最終的には刑事罰の対象になる可能性もあります。事務的に対応し、送付記録を残すことが最善です。

Q. 源泉徴収票に誤りがあることに後から気づきました。どうすればいいですか?

A. 速やかに訂正した源泉徴収票を再発行し、退職者に送付してください。誤記の内容によっては税務署への報告(支払調書の訂正など)が必要になる場合があります。顧問税理士に状況を伝えて確認しながら対応することをおすすめします。再発行の際も、送付日・方法・宛先を記録に残してください。

Q. 源泉徴収票をPDFメールで送ることはできますか?

A. 可能ですが、電子交付には退職者の事前同意が必要です(所得税法施行規則の規定による)。同意が得られていない場合は、書面(紙)での郵送が原則です。電子交付に同意している場合でも、送信記録(送信日時・宛先メールアドレス)を残しておくことをおすすめします。

Q. 退職者が「源泉徴収票をくれない」と税務署に言ったら、実際に会社に何か起きますか?

A. 税務署は退職者からの申告を受けて、会社に対して交付するよう指導を行います。指導を受けても対応しない場合は、さらに強制的な手続きへ移行し、最終的には刑事罰(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)の対象になります。税務署が動いた記録は残るため、税務調査のきっかけになるリスクもあります。早期に交付することがすべてのトラブルを防ぐ最善の方法です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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