ダブルケア休業制度を両立する5つの実務ポイント

ダブルケア休業制度を両立する5つの実務ポイント 労務管理
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「育休中の社員から、親の介護も必要になったと連絡が来た。どう対応すればいい?」——専任人事がいない企業では、こうした想定外の申請が突然やってくることがあります。育児と介護を同時に担う「ダブルケア」状態の従業員への対応は、制度の理解不足が従業員の不利益や労使トラブルに直結します。この記事では、育児・介護休業法に基づく両制度の並行活用と、中小企業が押さえるべき実務ポイントを具体的に解説します。

ダブルケアとは何か、なぜ今対策が必要なのか

ダブルケアとは、育児(子の養育)と家族介護を同時に担う状態を指します。30〜40代が働き盛りを迎える一方で親の高齢化も重なるため、ダブルケアの当事者は今後も増加が見込まれます。企業として制度を整備しておかなければ、優秀な人材が突然の離職という選択を迫られかねません。

ダブルケアが起きやすい場面

典型的なケースは「育児休業中の従業員の親が入院・要介護状態になった」「介護休業取得中に配偶者が出産した」というパターンです。いずれも申請者本人にとって急な出来事であり、会社側も準備のないまま対応を求められます。20〜50名規模の企業では1人の長期不在が業務に直撃するため、ダブルケア対応の制度有無だけでなく「誰がどう動くか」の段取りが重要です。

「大企業の話」ではない理由

育児・介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は、従業員数に関わらず原則としてすべての事業主に適用されます。かつては一部の努力義務規定が中小企業に猶予されていましたが、近年の改正でその差は縮小しています。「うちの規模には関係ない」という認識は、今や通用しないと考えてください。

2022年・2025年改正で何が変わったか

2022年改正では産後パパ育休(出生時育児休業)の創設、育児休業の分割取得(2回まで)の解禁、有期雇用労働者の取得要件緩和(「1年以上継続雇用」要件の廃止が原則化)などが実施されました。2025年施行の改正では、子の年齢に応じた柔軟な働き方の推進や、介護離職防止に向けた従業員への早期情報提供の義務化が加わっています。就業規則や社内規程が古いままの会社は、速やかな見直しが必要です。

育児休業と介護休業は同時に取得できるのか

育児・介護休業法は、育児休業と介護休業の同時取得を明示的に禁止していません。ただし、1つの期間に対して給付金を受け取れる制度は原則1つであるため、「どちらのダブルケア休業として申請するか」を整理する必要があります。

並行適用の法的な位置づけ

育児休業と介護休業は同一法律内の「別制度」です。法律上は両方を順番に、あるいは組み合わせて利用することが可能です。ただし実務上は、同一期間を両方の休業として二重に申請することは想定されておらず、給付金の計算・支給においても各休業期間ごとに申請するのが原則です。期間が重複する場合の扱いはハローワークに個別確認が必要です。

現実的な対処パターン

育休中に介護が必要になったケースでは、次の対処が実務的です。まず育児休業を一旦終了し、介護休業を新たに開始します。育児休業は2回まで分割取得できるため、介護の状況が落ち着いた後に残りの育休期間を取得するという方法が使えます。完全な長期休業ではなく、介護休暇(年5日、対象家族2人以上なら年10日)や育児に関する短時間勤務制度を組み合わせる方法も、現場への影響を抑えながらフレキシブルに対応できる選択肢です。

給付金の基本的な比較

項目 育児休業給付 介護休業給付
支給元 雇用保険(ハローワーク) 雇用保険(ハローワーク)
支給額の目安 休業開始から180日間は賃金の約67%相当、以降は約50%相当 賃金の約67%相当
上限期間 子が原則1歳(最長2歳)まで 対象家族1人につき通算93日
分割取得 2回まで可 3回まで可(通算93日以内)

従業員にとって有利な制度の順序・組み合わせは個別の状況によって異なります。会社側が「こちらの制度で」と誘導してしまうと、従業員の権利を損なうリスクがあるため、選択肢を提示した上で本人が判断できる環境を作ることが重要です。

申請を受けてから会社がやるべき実務の流れ

ダブルケア休業に関する申請が来たとき、会社は「受理・確認・届出・給付申請」という流れで動きます。期限を逃すと従業員の給付が遅れたり、ハローワークからの指摘を受けたりするため、誰がいつ何をするかを事前に整理しておくことが不可欠です。

申請受付から届出までの確認事項

育児休業の申請は原則として休業開始の1か月前までに、介護休業の申請は原則として2週間前までに、書面または会社が認めた方法で行われます。申請を受けたら、まず申請者の雇用形態(正社員・有期雇用)、対象の子または家族の状況、休業の開始・終了予定日を確認します。有期雇用の場合も、2022年改正後は原則として育児・介護休業の取得が認められる点に注意が必要です。

ハローワーク・年金事務所への手続き

育児休業給付金の支給申請はハローワークに対して行い、原則として2か月ごとに申請が必要です。申請期限は支給単位期間の末日翌日から起算して4か月以内ですが、遅延すると従業員の受取が滞るため早めの対応が原則です。介護休業給付も同様にハローワークへの申請が必要で、こちらは休業終了後にまとめて申請できます。また休業中は社会保険料の免除申請を年金事務所に行います。育児休業中は社会保険料の免除制度がありますが、介護休業中は免除の対象外である点を確認しておいてください。

社内に周知すべきこと・記録すべきこと

申請内容、対応の経緯、休業期間の変更履歴などは書面またはデータで記録・保管します。また休業取得を理由とした不利益取扱い(降格・評価への影響・解雇など)は法律で禁止されており、現場のマネージャーへの事前共有も欠かせません。「なぜ休業中の別の従業員は昇格できないのか」という疑問が後から出ないよう、評価基準の透明性も確認しておくと安心です。

就業規則・社内規程の見直しで防げるトラブル

育児・介護休業法の改正に就業規則が追いついていない会社では、古い規程がダブルケア休業制度を含む従業員の権利を制限する内容になっているケースがあります。これは意図せず「違法な運用」となるリスクを抱えています。

規程の確認ポイント

まず就業規則または育児・介護休業規程に、分割取得・産後パパ育休・有期雇用者の取得資格が盛り込まれているかを確認します。「入社1年未満の従業員は育児休業を取得できない」という記載が残っている場合、2022年改正後の要件と矛盾する可能性があります。規程の最終改定日を確認し、2022年以降に更新されていない場合は専門家への相談が必要です。

ダブルケア休業を想定した規程整備のポイント

標準的な規程はダブルケアの場面を想定していないことが多いため、「育児休業と介護休業の切り替え手続き」「介護休暇と育児短時間勤務の併用ルール」などを明記しておくと、現場の混乱を防げます。また「介護離職防止のための早期情報提供」は2025年改正で義務化されており、従業員が介護に直面する前に制度を知る機会を設けるフローも社内に作ることが求められます。

専任人事がいない場合の現実的な対応策

規程の作成・更新を社労士(社会保険労務士)に委託している会社は、最新改正への対応状況を定期的に確認するよう依頼してください。委託していない場合は、厚生労働省が公開しているモデル就業規則(最新版)を参照しながら自社規程と照合するのが最低限の確認方法です。改正内容は頻繁に更新されるため、厚生労働省の公式サイトで施行時期と義務化・努力義務の区分を必ず確認してください。

現場を回しながら休業を認める業務継続の考え方

20〜50名規模の企業では、1人の長期不在が即座に業務負荷の偏りを生みます。ダブルケア休業を「認めなければならない義務」として受け身で対応するのではなく、業務継続の計画を先に作ることが、現場と会社の両方を守ることにつながります。

休業前に整理しておく業務棚卸し

休業開始が決まったら、担当業務の一覧化・引き継ぎ先の確定・マニュアルの整備を休業前に行います。ダブルケアのケースは計画的な休業と急な休業が混在することがあるため、引き継ぎのフォーマットをあらかじめ用意しておくと対応スピードが上がります。「誰でも読めばわかる引き継ぎ書」を社内標準化しておくことは、育休・介護休業に限らず緊急時にも役立ちます。

代替要員・業務再設計の選択肢

代替要員の確保が難しい場合、次の選択肢を検討します。まず既存の業務を他のメンバーで分担する場合は、業務量の偏りが長期化しないよう手当の見直しや評価反映を検討してください。次にパートタイムや派遣社員の短期活用が選択肢になる場合は、採用リードタイムを考慮して早めに動くことが必要です。また業務そのものの優先順位を見直し、休業中は一部業務のペースを落とすという判断も、組織の実態に合った現実的な対応です。

「認めにくい」という本音への向き合い方

「制度は理解したが、現実的に認めにくい」という経営者・人事担当者の本音は珍しくありません。しかしダブルケア休業の取得を事実上妨げると、ハラスメント(マタハラ・ケアハラ)として問題化するリスクがあります。従業員が制度を使いやすい雰囲気を作ることは、離職防止・採用力強化という経営上のメリットにもつながります。小規模であるほど一人ひとりの定着率が業績に直結するため、制度対応は「コスト」ではなく「投資」として捉え直す視点が有効です。

まとめ

ダブルケア休業への対応で押さえるべき実務ポイントは、大きく次の5つです。第一に、育児休業と介護休業は同一法律内の別制度であり、順番に切り替えながら活用できること。第二に、1つの期間に対する給付金申請は原則1制度となるため、切り替えのタイミングと手続きを適切に管理すること。第三に、2022年・2025年の法改正を踏まえた就業規則の見直しが急務であること。第四に、ハローワーク・年金事務所への届出期限を管理し、誰がいつ動くかを明確にしておくこと。第五に、業務継続計画を休業前に整え、現場への影響を最小化する仕組みを作ること。

専任人事がいない中小企業にとって、ダブルケア休業への対応は突然やってくることが多く、準備なしでの対処は会社にとっても従業員にとっても負担が大きくなります。ウェルセンス株式会社では、こうした育児・介護休業の実務運用から就業規則の確認、従業員への対応方針の整理まで、中小企業の実態に合わせた支援を行っています。「自社の場合はどう動けばいいか」と感じたら、まずは気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 育児休業中の従業員が親の介護も必要になった場合、どちらのダブルケア休業制度を使えばよいですか?

A. 法律上はどちらかを選んで切り替えるのが基本的な対処です。育児休業を分割取得の制度を使って一旦終了し、介護休業を新たに開始するという方法が実務的に多く使われます。介護の状況が落ち着いた後に育児休業の残り期間を取得できます。どちらが従業員にとって有利かは個別状況によるため、選択肢を提示した上で本人が判断できるようにしてください。

Q. 入社して1年未満の有期雇用社員でも育児・介護休業を取得できますか?

A. 2022年の育児・介護休業法改正により、有期雇用労働者が育児休業・介護休業を取得するための「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件は原則廃止されました。労使協定で別途定めることは可能ですが、協定がない場合は入社1年未満でも取得できます。就業規則に古い要件が残っていると法律との矛盾が生じるため、確認が必要です。

Q. 育児休業中の社会保険料免除は、介護休業中も同様に受けられますか?

A. 育児休業中は健康保険・厚生年金保険の保険料が免除される制度がありますが、介護休業中はこの免除の対象外です。介護休業中は保険料の支払いが継続されるため、従業員への説明と給与計算上の処理を誤らないよう注意が必要です。切り替えのタイミングで年金事務所への手続き状況を確認してください。

Q. 就業規則を2022年以降に更新していないのですが、何が問題になりますか?

A. 古い規程のまま運用すると、有期雇用者の取得要件や分割取得・産後パパ育休に関する記載が実際の法律と矛盾する可能性があります。その場合、法律の規定が優先されますが、従業員が「会社に規程どおりに断られた」と主張した場合、労使トラブルに発展するリスクがあります。厚生労働省のモデル就業規則(最新版)と現行の自社規程を照合し、専門家への相談を検討してください。

Q. ダブルケア対応で会社が準備しておくべきことは何ですか?

A. 最も重要なのは(1)就業規則・育児介護休業規程が最新の法改正に対応しているか確認すること、(2)申請から給付申請まで誰がいつ動くかのフロー図を作ること、(3)業務継続計画を事前に立てることの3点です。さらに2025年改正で義務化される「介護に関する早期情報提供」のための従業員向け研修やハンドブック作成も検討する価値があります。専門知識に不安がある場合は、社労士や人事コンサルタントへの相談をお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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