採用応募者の個人情報、保管・廃棄規程の作り方

採用応募者の個人情報、保管・廃棄規程の作り方 採用・定着
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引き出しの中に、去年の採用活動で集めた履歴書が10枚ほど眠っている——そんな状況、心当たりはありませんか。「採用が決まったら用済みのはずなのに、捨てていいのか判断がつかない」「電子データはメールにもドライブにも散らばっていて、どこから手をつければいいか……」。専任人事がいない企業でよく聞かれる声です。じつは、採用応募者の個人情報は、保管し続けること自体がリスクになり得ます。この記事では、個人情報保護法に基づいた保管期間の考え方・廃棄の具体的な方法・社内規程の作り方を、実務的にわかりやすく解説します。

採用個人情報の保管に関する法律の基本

個人情報保護法は「採用情報は○ヶ月以内に廃棄せよ」とは定めていません。しかし、「利用目的の達成に必要な範囲を超えて保管してはならない」という原則が適用されるため、採用目的が終了した後の漫然とした保管はリスクになります。

個人情報保護法の対象は規模を問わない

2017年の法改正以降、個人情報保護法の対象事業者から「5,000件以下の小規模事業者を除く」という規模要件が撤廃されました。現在は、個人情報データベースを事業に利用しているすべての事業者が対象です。「うちは中小だから関係ない」は通用しません。求人票を出して応募者情報を収集している時点で、法律の義務が生じています。

利用目的の達成とは何を指すか

採用選考時に「採用選考の目的のみに使用します」と応募者へ通知・公表した場合(個人情報保護法第21条)、その目的は採用・不採用・辞退のいずれかが確定した時点で達成されます。目的が達成されれば、その情報を保管し続ける正当性は原則として失われます。「いつか別のポジションで声をかけるかもしれない」という理由で残しておくことは、目的外利用(同法第18条違反)に該当する可能性があります。

安全管理措置と廃棄の義務

同法第23条は、個人データの漏えい・滅失・毀損を防ぐための「安全管理措置」を事業者に義務づけています。この義務には廃棄プロセスも含まれます。つまり、「いつか捨てよう」と放置しているだけでも、安全管理が不十分として問題になりえます。廃棄のタイミング・方法・記録の保存まで一体で管理することが求められます。

保管期間の設定の考え方

法律が具体的な期間を定めていない以上、企業側が合理的な根拠をもって保管期間を社内規程に明記し、実際にその期間内に廃棄することが、法令対応の実質です。期間の長短よりも「根拠があること」と「実際に運用されていること」が重要です。

採用フェーズ別の考え方

フェーズ 保管の考え方
選考中(書類審査・面接待ち) 選考目的のために保管。選考が完了した時点で目的達成
内定・採用決定者 入社手続き完了まで保管し、入社後は労務書類として管理に移行
不採用・辞退者 不採用・辞退が確定したら、規程で定めた期間内に廃棄
補欠候補として残したい場合 本人への再通知と同意取得が必要。同意を得た期間を上限に設定
訴訟・紛争に備えたい場合 最小限の情報(不採用理由の記録等)に絞り、保管期間と根拠を規程に明記

「1年保管すれば大丈夫」は根拠がない

現場でよく聞かれる「とりあえず1年」という運用は、法律上の根拠を持ちません。ただし、不採用の理由に関して応募者から問い合わせや苦情が来る可能性を考えると、短期間(例:選考終了後3ヶ月程度)は対応できる状態にしておくという実務判断は合理的です。重要なのは、その期間の設定理由を社内規程に書いておくことです。「慣行として」「なんとなく」ではなく、「問い合わせ対応のため選考終了後○ヶ月間保管し、その後廃棄する」という形で根拠を持たせてください。

求人媒体のサービス規約との関係

求人媒体(転職サイト・求人サイト等)のマイページに保管されている応募者データは、その媒体のサービス規約に従った保管が行われています。しかし、媒体が保管していること自体は「貴社の安全管理義務」を免除しません。媒体からダウンロードした履歴書のPDFデータや、媒体上で取得したメッセージのやりとりについては、貴社の管理下にある個人データとして扱う必要があります。

法令対応を着実に進めるには、採用情報の保管・廃棄ルールをシンプルかつ実行可能な形で文書化することが欠かせません。不安な点があれば、人事労務の専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

廃棄の具体的な方法

廃棄方法が不適切だと、情報の「消去」が完了していないことになります。紙と電子データで異なる対応が必要なため、それぞれ正しい方法を把握しておくことが重要です。

紙媒体(履歴書・エントリーシート・面接メモ)の廃棄

紙の書類は、シュレッダー処理が基本です。一般的なストレートカット型より、縦横両方に裁断するクロスカット型のシュレッダーのほうが復元リスクが低く、安全管理の観点から望ましいとされています。枚数が多い場合や、社外への持ち出しリスクを避けたい場合は、機密書類廃棄業者への委託も有効です。ただし、委託先に対しても適切な監督を行う義務があります(個人情報保護法第25条)。委託先が適切な廃棄処理を行っているか、契約書や廃棄証明書で確認しておくことを推奨します。廃棄後は「廃棄記録」(日付・対象書類の種類・廃棄担当者・廃棄方法)を残しておくと、万一問い合わせがあったときの証拠になります。

電子データの廃棄

電子データの「削除」は、ゴミ箱への移動や通常の削除操作では不十分です。多くのOSでは、ゴミ箱を空にした後もデータ領域が残っており、専用ソフトで復元できる場合があります。適切な廃棄方法は次の通りです。まず、PCやサーバーに保存されたデータは、専用のデータ消去ソフト(例:NIST SP 800-88の基準に沿ったもの)を使って完全消去するか、ストレージを物理的に破壊します。次に、クラウドサービスや求人媒体に保管されているデータは、サービス上の「削除」操作を行い、削除した日付をメモしておきます。さらに、社内のメールサーバー・Gmailなどに残っている応募者からの添付ファイルや本文も廃棄の対象です。メール検索で応募者名を検索して対象メールを洗い出し、削除する手順が実務的です。

廃棄漏れが起きやすいデータの場所

電子データの廃棄で最もよくある失敗は「保管場所の把握漏れ」です。応募者情報は、求人媒体のマイページ・採用担当者の個人メール・Googleドライブやクラウドストレージ・Excelで作った応募者管理台帳・面接官が個人のPCに保存したメモ、といった複数の場所に分散していることが多いです。廃棄の前に、まず「どこに何を持っているか」を棚卸しするステップを規程に組み込むことが実務上の鍵です。

採用個人情報の保管・廃棄規程の作り方

社内規程を整備する目的は、「担当者が替わっても同じ運用ができること」と「万一の際に会社として適切な対応をしていたことを示せること」の2点です。完璧な文書を目指すより、実態に合った内容を正確に書いておくほうが実効性があります。

規程に盛り込む必須項目

採用個人情報の取り扱いに関する社内規程(または個人情報管理規程の一部)には、以下の項目を必ず含めてください。

  • 利用目的の明示(採用選考目的に限定する旨)
  • 取得する情報の種類(履歴書・職務経歴書・面接記録等)
  • 保管場所・アクセス権限(誰が閲覧・管理できるか)
  • 保管期間(フェーズ別の期間と、その根拠)
  • 廃棄方法(紙・電子データ別の手順)
  • 廃棄記録の保存方法(いつ・誰が・何を廃棄したか)
  • 情報漏えいが発生した場合の対応フロー
  • 規程の管理責任者と見直し時期

既存のプライバシーポリシーとの整合性

採用ページや求人票に掲載しているプライバシーポリシー(個人情報保護方針)に記載している利用目的・保管期間と、社内の運用規程が矛盾していないか確認してください。「プライバシーポリシーには選考目的のみと書いているが、実態では営業部にも情報を共有していた」「Webサイトには3ヶ月以内に廃棄と書いているが、実際は1年以上残っていた」といった齟齬が最もリスクの高い状態です。外部向けの表明と内部の運用を一致させることが、規程整備の最優先事項です。

就業規則との関係と更新のタイミング

採用個人情報の取り扱い規程は、就業規則の附属規程として整備するか、独立した社内規程として定めるかのいずれかです。就業規則が10人以上の事業所では労働基準監督署への届出義務がありますが、個人情報管理規程は届出対象ではないため、社内で決裁・周知すれば効力が生じます。規程は「一度作って終わり」にしないことが重要です。求人媒体の変更・採用ツールの導入・法改正のたびに見直しを行い、見直した日付を規程内に記録しておくことで、継続的な管理体制を示せます。

運用を形骸化させないための実務ポイント

規程を作っても、実際に運用されなければ意味がありません。中小企業でよくある「規程はあるが誰も読んでいない」という状態を防ぐには、仕組みとして廃棄タイミングを自動的に迎えられるようにすることが効果的です。

採用終了後の廃棄チェックを業務フローに組み込む

採用が決定した・求人掲載を終了した、というタイミングをトリガーにして、廃棄作業をカレンダーやタスク管理ツールに登録する習慣をつけると、担当者の記憶に頼らずに廃棄期限を管理できます。例えば「求人掲載終了日の翌々月末日に不採用者情報を廃棄する」と規程で定め、その日をリマインダーに設定しておく方法は、専任人事がいない企業でも実行しやすい仕組みです。

電子データの保管場所を一元化する

廃棄漏れの最大の原因は、保管場所の分散です。採用担当者が使う電子データの保管先を「共有フォルダ(またはクラウドストレージ)の採用フォルダのみ」と規程で定め、個人のメールやデスクトップへの保存を禁止することで、廃棄時の棚卸しが格段に楽になります。面接官が個人メールで履歴書を受け取っているケースは特に注意が必要で、面接前に「すべての応募書類は採用担当者が一元管理する」というルールを社内周知することが重要です。

企業規模に応じた対応レベルの設定

従業員20名以下の企業では、採用担当者が経営者や総務兼務の1〜2名であることが多く、規程は簡潔でも「実際に運用している」ことが最も重要です。一方、30〜50名規模になると採用に関わる人数が増え(経営者・部門長・人事兼務担当者)、情報の保管場所も増えやすいため、アクセス権限の設定と廃棄記録の確認プロセスをより厳密に規程化することをお勧めします。また、ISO認証の取得や取引先からのセキュリティ審査を受ける可能性がある企業は、廃棄記録の保存様式まで整備しておくと審査対応が円滑になります。

まとめ

採用応募者の個人情報は、採用目的が達成された時点で保管の正当性が原則として終了します。個人情報保護法は具体的な保管期間を定めていませんが、「利用目的の達成に必要な範囲内」という原則に基づき、企業が合理的な根拠をもって保管期間を設定し、社内規程に明記することが求められます。紙媒体はクロスカットシュレッダーまたは機密廃棄業者に委託し、電子データは専用消去ソフトや媒体の削除操作で対応します。廃棄後は記録を残し、規程と実運用の一致を定期的に確認することが法令対応の実質です。

「自社の保管・廃棄の状況が適切かどうか判断できない」「規程を作りたいが何から手をつければいいかわからない」という場合、一度状況を整理したうえで実行可能な仕組みを作ることが重要です。ウェルセンス株式会社では、採用個人情報の管理体制づくりや規程整備についてのご相談をお受けしています。専任人事がいない企業でも実際に機能する仕組みを一緒に考えますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 不採用者の履歴書は、具体的に何ヶ月保管すれば問題ありませんか?

A. 法律で「○ヶ月」という上限は定められていません。「利用目的の達成に必要な期間」を自社で設定し、社内規程に根拠とともに記載することが必要です。実務上は、不採用・辞退確定後に応募者から問い合わせや苦情が来る可能性を考慮して、選考終了後3ヶ月程度を保管期間とし、その後廃棄するという運用を採用している企業が多く見られます。大切なのは期間の長短よりも「根拠があること」と「規程通りに廃棄を実施すること」です。

Q. 不採用者に「将来別のポジションで声をかけたい」と思い、情報を残しておくことはできますか?

A. 採用選考目的で取得した情報を、別のポジションへの勧誘目的で継続利用することは、利用目的の範囲外になる可能性があります。残したい場合は、本人に対して「将来の採用機会にご連絡する場合があります」という新たな利用目的を通知し、同意を取得したうえで保管する必要があります(個人情報保護法第18条・第21条)。同意なしに残し続けることは法的リスクを伴います。

Q. 求人媒体のマイページに保管されている応募者データは、媒体側が管理しているから自社での対応は不要ですか?

A. 媒体が保管していても、自社の安全管理義務はなくなりません。媒体からダウンロードした書類や、媒体上のやりとりで得た情報は自社の管理下にある個人データです。媒体のマイページ内に残っているデータも、選考終了後に削除操作を行い、その日付を記録しておくことが望ましい運用です。また、媒体に保管を続けることがプライバシーポリシーに記載した保管期間を超える場合は、整合性の観点からも見直しが必要です。

Q. 採用個人情報の取り扱い規程は、就業規則とは別に作る必要がありますか?

A. 就業規則の附属規程として盛り込む方法と、「個人情報管理規程」として独立した文書を作る方法のどちらでも問題ありません。重要なのは、保管期間・廃棄方法・管理責任者などの実務的な内容が明文化されており、社内で周知・運用されていることです。就業規則と異なり、個人情報管理規程は労働基準監督署への届出義務はありませんが、内容が実態と一致していることと定期的な見直しが求められます。

Q. 採用情報の漏えいが起きた場合、どのような対応が必要ですか?

A. 2022年の個人情報保護法改正(令和4年4月施行)により、一定の要件を満たす漏えい・滅失・毀損が発生した場合は、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務化されました。採用応募者の情報が漏えいした場合も対象になり得ます。まず漏えいの事実を確認・記録し、被害の拡大防止措置を講じ、要件に該当する場合は規定の期間内に報告・通知を行う必要があります。事前に「漏えい発生時の対応フロー」を社内規程に盛り込んでおくことが、初動対応の遅れを防ぐうえで重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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