等級号俸制度の複雑化に限界を感じたら読む統廃合とシンプル化の進め方

等級号俸制度の複雑化に限界を感じたら読む統廃合とシンプル化の進め方 人事制度
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「等級が多すぎて、この人がなぜこの格付けなのか、もう説明できない」——採用面接や昇給面談のたびに、そう感じたことはないでしょうか。かつて外部のコンサルタントや社労士に設計してもらった等級・号俸制度を何年もそのまま使い続けた結果、制度の意味が形骸化し、運用が現場の感覚任せになっているケースは珍しくありません。この記事では、等級号俸制度の統廃合とシンプル化を、法的リスクを踏まえながら実務的に進めるための手順を解説します。

等級・号俸が複雑化する「本当の理由」

等級号俸制度の複雑化は、設計時点の問題というより、運用しながら手を加え続けた結果として起こることがほとんどです。その構造を理解しておくことが、シンプル化の出発点になります。

「あの人だけ特別扱い」が積み重なった結果

20〜50名規模の企業では、特定の社員の処遇問題を解決するために等級や号俸に例外を設けることがあります。「Aさんは役職はないが給与だけは上げたい」「Bさんは昇格させたくないが昇給はさせたい」といった個別対応が積み重なると、気づけば等級の意味が曖昧になり、号俸の段階数だけが増えていきます。

制度設計者がいなくなると「なぜか」を誰も知らなくなる

設計を担当したコンサルタントや担当者が退職・交代すると、制度の設計思想が引き継がれません。その結果、「なぜこの人が4等級3号俸なのか」という問いに誰も答えられない状態が生まれます。説明できない制度は、評価者(経営者・管理職)が運用を諦める直接の原因になります。

号俸が細かいほど昇給シミュレーションは困難になる

号俸が10〜15段階になると、全社員の昇給額・昇給原資の試算が複雑になり、毎年の予算策定に支障をきたします。本来、経営判断に使えるはずの人件費試算が、作業コストの高さから「とりあえず前年踏襲」になってしまうのです。

統廃合・シンプル化を始める前に確認すること

制度見直しに着手する前に、「現状の把握」と「法的リスクの確認」を済ませることが、後の炎上防止に直結します。この段階を飛ばして制度発表に進むことが、最も多い失敗パターンです。

全社員の現在の等級・号俸・給与額をマッピングする

まず最初に、全社員の現在の等級・号俸・月額給与を一覧化します。この作業をせずに新制度を設計すると、「誰の給与がいくら変わるのか」が把握できないまま制度を発表することになり、社員からの質問に答えられないという状況に陥ります。一覧化の際は、雇用契約書・雇用条件通知書に記載されている給与額も確認してください。就業規則の号俸テーブルと実際の支給額が乖離しているケースがあります。

就業規則・雇用契約書の記載内容を確認する

労働基準法第89条により、賃金・昇給に関する事項は就業規則の絶対的記載事項です。現行の等級・号俸制度がどのように就業規則に記載されているかを確認します。また、個々の雇用契約書・雇用条件通知書に「月給○○円」と具体的な金額が明記されている場合、就業規則の変更だけでは給与の変更ができないことがあります(詳細は後述)。

影響を受ける社員の人数・規模感を把握する

新制度の等級・号俸レンジへの当てはめを仮で行い、現在の給与が新レンジを上回る社員(=不利益変更の対象になりうる社員)の人数と金額差を把握します。この「シミュレーション」が、移行設計の方針決定と、経営者・社員への説明材料になります。影響が少数に限られるのか、広範囲に及ぶのかによって、次に選ぶ移行方式が変わります。

制度統廃合の実務的な進め方に不安があれば、法的リスク確認を含めた相談も承っています。

知っておくべき法的リスク——「就業規則を変えれば済む」は誤解

等級号俸制度の統廃合で最も見落とされやすいのが、労働法上の「不利益変更」の問題です。「就業規則を改定して労働基準監督署に届け出れば問題ない」という理解は不正確であり、後日、未払い賃金として請求されるリスクがあります。

労働契約法第9条・第10条が原則

賃金の引き下げを伴う変更は、労働契約法第9条により「労働者の個別同意」が原則です。個別同意が得られない場合でも、就業規則の変更によって変更できる場合がありますが、労働契約法第10条では「変更の合理性」と「周知」の両方が必要とされています。合理性の判断要素には、不利益の程度・変更の必要性・代替措置や経過措置の有無・労働組合等との交渉経緯などが含まれます。

特に、雇用契約書や雇用条件通知書に具体的な賃金額が明記されている社員については、就業規則の変更のみでは対応できないため、個別の合意書の取得が安全策です。

「変更の合理性」をどう確保するか

法的に「合理性あり」と判断されやすいのは、不利益を受ける社員に対して十分な経過措置(現給保障など)が設けられている場合、変更の必要性が客観的に説明できる場合(業績悪化・制度の公平性確保など)、そして変更内容を事前に丁寧に説明している場合です。逆に、突然の制度変更・説明なし・経過措置なしという進め方は、合理性を認められにくく、紛争リスクが高まります。

就業規則変更の手続きも並行して進める

就業規則の変更時は、労働基準法第90条に基づき労働者代表の意見聴取(同意ではなく「意見を聴くこと」)を行い、所轄の労働基準監督署への届出が必要です。「意見聴取」と「個別同意の取得」は別の手続きであることに注意してください。どちらか一方だけでは不十分です。

移行設計の三つの選択肢

統廃合後の制度に既存社員をどう移行するかは、影響する社員の人数・給与差・経営体力によって最適な方式が異なります。以下の三類型を参考に、自社の状況に合った設計を選んでください。

移行方式 内容 向いているケース
現給保障型 新制度のレンジを下回る社員に「調整給」等で差額を補填。一定期間後に解消 影響を受ける社員が少数の場合
グランドファザリング型 旧制度対象者を一定期間は旧制度のまま処遇し続ける 影響範囲が広く、一斉移行が難しい場合
昇給原資振替型 給与を下げず、昇給を止めることで新制度レンジに緩やかに収束させる 長期的に穏やかに移行したい場合

現給保障型を選ぶ場合の注意点

調整給は「暫定的な補填」であることを明示し、何年後に・どのような条件で解消されるかを制度設計時点で定めておくことが重要です。「いつまでも調整給が続く」状態になると、制度をシンプルにした意味が薄れます。解消条件の例としては、「昇給によって新制度レンジに追いついた時点で調整給を廃止する」などがあります。

グランドファザリング型を選ぶ場合の注意点

旧制度対象者と新制度対象者が長期間混在すると、「なぜあの人だけ別扱いなのか」という不満が生まれやすくなります。移行期間は原則として上限を設け(例:新規採用者は全員新制度、既存社員は3年以内に移行完了など)、期間終了後の対応も事前に明示することが求められます。

シンプル化した制度設計の「現実的な目安」

20〜50名規模の企業では、等級は3〜5段階、号俸(または賃金レンジ)は5〜8段階程度が運用上の現実的な上限です。それ以上細かくすると、再び運用が形骸化するサイクルに入ります。

等級ごとに「役割定義」を一枚で書けるか?

シンプルな制度設計の判断基準として、「各等級の役割(グレードディスクリプション)をA4一枚で説明できるか」があります。これができない場合、等級の粒度がまだ細かすぎる可能性があります。役割定義が明確であれば、「なぜこの人がこの等級なのか」を採用・昇格・評価のすべての場面で説明できるようになります。

昇給ルールを「口頭で説明できるか」が運用継続の鍵

「毎年の評価に応じて号俸が1〜3段階上がる」「等級が上がれば号俸はリセットして新等級の下限から始まる」——このくらいの単純さが、専任人事のいない企業で実際に運用できる制度の基準です。複雑な計算式や複数の係数が必要な昇給ルールは、運用者が変わるたびに崩壊します。

「全員が喜ぶシンプル化」はない——事前の期待調整が重要

制度をシンプルにすると、これまで曖昧な基準で高い評価を得ていた社員が新制度では不満を感じることがあります。また、「制度が変わる=自分の給与が下がるのでは」という不安は、シンプル化の方向性にかかわらず発生します。制度変更の説明会では、「何が変わり・何が変わらないのか」を明示し、変更の理由を丁寧に伝えることが、トラブル予防の最も効果的な手段です。

制度設計に経営判断が必要な場面でも、人事に関する専門的なアドバイスがあると判断の質が変わります。

まとめ

等級号俸制度の統廃合・シンプル化は、「複雑な制度を整理する」だけでなく、労働契約法・労働基準法に基づく不利益変更の手続きを正しく踏みながら進める必要があります。まず全社員の現状をマッピングし、次に影響範囲をシミュレーション、そして移行方式(現給保障型・グランドファザリング型・昇給原資振替型)を選択したうえで、就業規則の変更手続きと個別合意の取得を並行して進めることが、後のトラブルを防ぐ基本の流れです。

「どこから手をつければいいかわからない」「専任人事がいなくて制度見直しまで手が回らない」という状況は、20〜50名規模の企業では非常によく見られます。ウェルセンス株式会社では、人事制度の見直し・移行設計の相談を承っています。制度の課題整理だけでも構いませんので、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 等級を統廃合すると、必ず給与が下がる社員が出ますか?

A. 必ずしもそうではありません。移行設計の方式(現給保障型・グランドファザリング型・昇給原資振替型)を適切に選ぶことで、制度変更の時点で給与を下げずに移行することが可能です。ただし、新制度への移行後に「昇給が遅くなる」「昇給幅が小さくなる」という形で実質的な影響が出るケースはあります。事前のシミュレーションで影響範囲を把握しておくことが重要です。

Q. 社員全員から個別同意を取らないと制度変更はできないのですか?

A. 不利益変更を伴わない場合は、就業規則の変更(労働者代表への意見聴取と労働基準監督署への届出)で対応できます。ただし、給与が下がる社員がいる場合は、労働契約法第9条・第10条に基づき、個別同意を得るか、変更の合理性と十分な周知・経過措置を確保する必要があります。雇用契約書に具体的な賃金額が明記されている場合は、個別合意書の取得が安全策です。

Q. 何等級・何号俸が適切な規模感ですか?

A. 20〜50名規模の企業であれば、等級は3〜5段階、号俸(または賃金レンジ)は5〜8段階程度が運用上の現実的な上限とされています。それ以上細かくすると昇給シミュレーションが複雑になり、専任人事のいない体制では運用が続かなくなるリスクがあります。「各等級の役割をA4一枚で説明できるか」「昇給ルールを口頭で説明できるか」が目安になります。

Q. 制度見直しを社労士に依頼すればすべて解決しますか?

A. 社労士は就業規則の作成・変更手続きや法的リスクのアドバイスを得意としていますが、制度設計の「経営判断」や「社員への説明・合意形成」の部分は社内で対応が必要です。また、社労士によって人事制度設計の経験に差があるため、「制度設計の支援ができるか」を事前に確認することをおすすめします。人事制度の全体設計・移行設計・社員への説明サポートまで一体で相談したい場合は、人事コンサルティングの専門機関に相談するのが効率的です。

Q. 制度見直しに社員が反発した場合、どう対応すればよいですか?

A. 反発の多くは「情報不足・不安」から生まれます。「何が変わり・何が変わらないのか」「なぜ変える必要があるのか」「自分の給与はどうなるのか」——この三点を個別面談や説明会で丁寧に伝えることが最も効果的な対応です。また、制度変更の前に管理職が内容を理解し、現場の質問に答えられる状態にしておくことも重要です。反発が強い場合は、変更時期や移行措置の見直しを検討することも一つの選択肢です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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