育児時短終了後フルタイム復帰困難への正しい配慮義務と対応法

育児時短終了後フルタイム復帰困難への正しい配慮義務と対応法 労務管理
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「うちの会社は小さいから、時短が終わったらフルタイムに戻ってもらうしかない——でも、断ったらマタハラになるのか?」。育児時短勤務の終了時期が近づいた社員から「もうしばらく続けたい」と言われ、どう返答すべきか頭を抱える経営者・人事担当者は少なくありません。配慮義務の範囲がわからないまま対応すると、後から行政指導や紛争のリスクを招きます。この記事では、法的根拠と実務的な判断基準を整理し、中小企業でも迷わず動けるよう解説します。

子どもの年齢で変わる「会社の義務」

育児時短勤務に関する会社の義務は、子どもの年齢によって「義務」「努力義務」「任意対応」の3段階に分かれます。この段階を理解せずに対応すると、義務を果たさないまま断る(違法)か、義務がないのに無限に対応し続ける(業務上の混乱)かという両極端に陥ります。

3歳未満は「措置義務」——拒否は原則として違法

育児・介護休業法第23条により、3歳未満の子を養育する労働者に対して、会社は所定労働時間の短縮措置を講じる義務があります。この段階での会社の対応は「義務」であり、業務上の支障を理由に単純に断ることはできません。ただし、「短縮の形態」については一定の柔軟性があり、就業規則で定めた方法で対応することが認められています。

3歳〜小学校就学前は「選択的措置義務」へ変更(2025年改正)

従来、3歳以降小学校就学前の子を持つ労働者への対応は育児・介護休業法第24条の「努力義務」にとどまっていました。しかし2025年4月施行の改正育児・介護休業法により、この段階への対応が大きく変わりました。事業主は、フレックスタイム制・時差出勤・テレワーク・保育施設の設置・時短勤務の継続のうち2つ以上の選択肢を用意し、従業員が選べる仕組みを整備する「選択的措置義務」が生じます。「3歳になったから断っていい」という従来の判断は、改正後は行政指導や紛争の原因になりかねません。適用は従業員数規模によって段階的に行われますので、自社の規模と施行時期を確認することが先決です。

小学校入学後は「就業規則次第」

小学校入学後の時短継続については、育児・介護休業法上の義務規定はありません。ただし、会社が独自に就業規則や育児・介護休業規程で「小学校3年生まで時短を認める」などと定めていれば、その規則に従う必要があります。規程の内容が実態と乖離していないか、この機会に確認しておきましょう。

子どもの年齢 法的位置づけ 会社の対応
3歳未満 措置義務(育介法第23条) 時短勤務を提供しなければならない
3歳〜小学校就学前 選択的措置義務(2025年改正) 2つ以上の選択肢を用意・選択させる義務
小学校入学後 法的義務なし(就業規則次第) 規程があればその内容に従う

フルタイム復帰を求めることは「違法」になるのか

法律上の措置義務が終了した後に「フルタイムへの復帰をお願いしたい」と伝えること自体は違法ではありません。問題になるのは、伝え方と、そのプロセスにあります。

「断ること」と「不利益取扱い」は別の問題

育児・介護休業法第10条は、育児休業や時短勤務の申し出・取得を理由とした不利益取扱いを禁じています。たとえば「時短をやめないなら評価を下げる」「フルに戻れないなら降格させる」といった対応は不利益取扱いに該当し、違法と判断されるリスクが高くなります。一方、法的義務の終了に伴い丁寧に事情を説明し、代替案を提示したうえで協議するプロセスを踏んだ場合は、不利益取扱いには当たりません。

マタハラにならないための「伝え方」の原則

育児・介護休業法第25条は、マタニティハラスメント(マタハラ)防止措置を事業主に義務づけています。「時短にこだわるなら辞めてもらうしかない」「あなたのせいで職場が迷惑している」といった言動はマタハラに該当します。対話の場では「業務上の現状と課題」「会社が用意できる選択肢」「本人の希望や家庭の事情」を冷静に確認し、記録に残す姿勢が重要です。

個別ケースの対応方法に迷っているなら、人事経験がない中小企業こそ専門家の視点が役立ちます。判断基準や手続きの設計から相談できるサービスを活用することで、リスク回避につながります。

「業務上支障がある」と言えるケースと言えないケース

中小企業がフルタイム復帰を求める際の合理的理由として、「業務上の支障」を挙げることは認められています。ただし、その主張が通るためには、支障の内容が客観的かつ具体的でなければなりません。

正当な理由として認められやすい状況

業務の性質上、時短対応が客観的に困難であると示せる場合、会社の主張は認められやすくなります。具体的には、製造ラインで最低限の人員が必要な業種や、特定の国家資格・免許が必要な業務で代替者がいない場合、顧客との契約上特定の担当者が必要な場合などが該当します。20〜50名規模では、人員の絶対数が少ないため代替要員の確保が著しく困難であることも、具体的な数字(シフト構成・資格保有者数など)を示せれば合理的理由になり得ます。

「忙しい」「人が足りない」だけでは不十分

業務が忙しいという抽象的な理由だけでは、業務上の支障の証明にはなりません。「業務上支障がある」と言いたい場合は、具体的に何ができなくなるのか(納期・シフト・顧客対応の具体例)、代替手段を検討したがどんな理由で断念したかを書面で整理しておくことが必要です。この整理を怠ると、後から「単なる拒否」と判断されるリスクがあります。

「断る」のではなく「代替案を提示して協議する」が基本姿勢

仮に時短勤務の継続が難しい場合でも、「断って終わり」という対応は避けてください。業務上支障がある場合でも、フレックスタイム制の導入・時差出勤・テレワーク等の代替案を提示したうえで本人と協議することが、法的リスクを下げる実務上の基本です。代替案を検討・提示した事実を記録に残しておくことが、後のトラブル対策になります。

記録がないと何が起きるのか——対話と記録の実務

個別対応の記録がない状態でトラブルになった場合、会社は自分の対応の正当性を証明できません。記録は「疑われないため」ではなく、「正しく対応した事実を残すため」に必要なものです。

記録に残すべき5つのポイント

  • 本人からの申し出内容と日付(口頭でも、その日のうちにメモとして記録)
  • 会社側が提示した選択肢・代替案の内容
  • 本人の希望・回答と、その理由(可能な範囲で)
  • 話し合いの日時・参加者(上司・人事担当者・本人)
  • 最終的な合意内容または結論と、その根拠(就業規則の条文番号や法令名)

記録の形式は面談記録シートや社内メール・チャットの保存でも構いませんが、重要な話し合いは後日「本日確認した内容を共有します」というメールを本人に送り、内容に齟齬がないか確認を取る方法が実務的には有効です。

就業規則・育児介護休業規程が整備されていない場合のリスク

規程がない、または就業規則と実態が合っていない状態で時短を断ると、「ルールがないまま拒否した」として行政指導の対象になるリスクがあります。今すぐ制度を整備する余裕がない場合でも、まず現行の対応方針を書面(覚書・社内通知)にしておくだけで、リスクを一定程度下げることができます。

自社の状況に当てはめた判断フロー

法的対応の必要性は、従業員数・規程の有無・子どもの年齢によって異なります。自社の状況を確認しながら、次の順序で判断を進めてください。

まず確認すること——子どもの年齢と2025年改正の適用時期

最初に確認すべきは、該当社員の子どもが現在何歳かです。3歳未満であれば措置義務の段階にあり、時短継続が原則必要です。3歳以上小学校就学前であれば、2025年改正の選択的措置義務が適用されます。改正の施行は段階的であり、従業員数の規模によって適用時期が異なりますので、厚生労働省の最新情報を確認するか、社会保険労務士に確認することをおすすめします。

次に確認すること——就業規則・規程の現状

育児・介護休業規程や就業規則に、時短勤務の対象範囲・期間・手続きが明記されているかを確認します。規程がなければ、最低限、法律の義務範囲(3歳未満の措置義務、2025年改正後の選択的措置義務)を満たす運用方針を書面で整理してください。規程が実態と合っていない場合は、この機会に見直しを検討しましょう。

代替手段と協議プロセスを整えてから話し合いへ

本人との話し合いの前に、社内で「提示できる選択肢」を洗い出しておきます。フレックスタイム・時差出勤・テレワークの可否、別ポジションへの異動の可否など、自社で用意できるものをリスト化します。話し合いは一対一ではなく、上司と人事担当者(または経営者)の複数名で行い、話し合いの内容を記録する担当者を決めておくと安心です。

まとめ

育児時短勤務終了後のフルタイム復帰対応は、子どもの年齢・2025年改正の適用状況・就業規則の整備状況によって、会社がとるべき対応が大きく異なります。「3歳になったら断っていい」「記録がなくても問題ない」という思い込みは、行政指導や紛争の入口になりかねません。まず義務の段階を確認し、代替案を提示したうえで対話・記録を残すプロセスを整えることが、中小企業にとって最もリスクの低い実務対応です。

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よくある質問

Q. 子どもが3歳になったタイミングで時短を終了させても問題ありませんか?

A. 2025年4月施行の育児・介護休業法改正により、3歳以降小学校就学前の子を持つ従業員に対しても「選択的措置義務」が生じています。フレックスタイム・時差出勤・テレワーク・時短継続などから2つ以上の選択肢を提示し、本人が選べる仕組みの整備が必要です。「3歳になったら何もしなくていい」という従来の判断は改正後は通用しません。自社の従業員数と改正の適用時期を確認したうえで対応を検討してください。

Q. 時短の継続を断ることはマタハラになりますか?

A. 法的義務が終了した後に、丁寧な説明・代替案の提示・本人との協議というプロセスを経て結論を出すことは、マタハラには当たりません。問題になるのは「断ること」ではなく「断り方」です。「時短にこだわるなら辞めてほしい」「あなたのせいで職場が迷惑している」といった言動や、評価・処遇への不利益取扱いを伴う断り方はマタハラ・不利益取扱いに該当するリスクがあります。

Q. 「業務上支障がある」と主張するために、会社はどんな証拠を用意すればいいですか?

A. 「業務が忙しい」という抽象的な説明では不十分です。具体的には、シフトや人員配置の構成表、時短対応した場合に誰がどの業務をカバーできないかの整理、代替要員の確保を検討したが困難だった理由の書面化などが有効です。特定の資格・スキルが必要な業務であれば、その要件と現在の資格保有者数を示した資料も根拠になります。

Q. 就業規則や育児介護休業規程がない状態でも、時短を断ることはできますか?

A. 規程がなくても育児・介護休業法の義務は適用されます。法的義務の範囲外(小学校入学後など)であれば断ること自体は可能ですが、規程がない状態では「どのようなルールで判断したか」を示せず、後からトラブルになりやすい状態です。最低限、現在の対応方針を書面(社内通知や覚書)にまとめておくだけでもリスク軽減につながります。早めに規程の整備を進めることをおすすめします。

Q. 個別の話し合いの記録は、どのような形式で残せばいいですか?

A. 面談記録シートや社内メールの保存など、形式は問いません。重要なのは、話し合いの日時・参加者・確認した内容・提示した選択肢・本人の回答を記録することです。特に重要な合意事項は、話し合い後に「本日確認した内容を共有します」という形でメールを送り、本人に内容の確認を取っておくと、後から「言った・言わない」のトラブルを防ぐことができます。

【監修】ウェルセンス株式会社
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