「休職中の社員から『懇親会に顔を出したい』と連絡が来た。どう返事すればいい?」——担当者として正直、困りますよね。断れば本人が傷つくかもしれない。でも受け入れて何かあったら、会社として責任を問われるのではないか。傷病手当金への影響は?他の社員にはどう説明する?この記事では、休職中の社員が社内行事への参加を希望してきたときに、会社が押さえるべき判断基準と実務上の注意点を、専任人事がいない企業の担当者にもわかる言葉で整理します。
「参加させてよいか」の判断は、行事の性質と参加の目的で変わる
結論から言えば、休職中の社員が社内行事に参加することは一律に禁止・許可できるものではなく、「その行事が何か」「参加の目的が何か」によって会社の対応が変わります。
社内行事の種類による違い
社内行事には、業務に近いものから純粋な交流目的のものまで幅があります。たとえば全社員が参加する経営方針発表会や業績報告会は、参加者が経営情報を受け取り、職場への帰属意識を高める場であり、実質的に業務との関連が高いと判断されることがあります。一方、有志参加の懇親会や歓送迎会は業務性が低く、本人が希望すれば参加を認めやすいケースです。ただし、どちらの場合も「会社が参加を認めた」という事実が生まれる点は共通しており、記録の管理が欠かせません。
参加の目的が「復職準備」かどうかを確認する
主治医から「社会復帰の練習として参加を勧められた」と本人が説明してくる場合があります。この場合、単なる個人的な参加希望とは性格が異なり、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が示す「試し出勤(リハビリ出勤)」の枠組みと重なってきます。復職準備として位置づけるのであれば、就業規則に試し出勤の規定があるかどうかを確認し、正式な手続きを経た上で受け入れる方が、後のトラブルを防ぎやすくなります。
会社の規模・体制による対応の分かれ目
産業医が選任されている企業(常時50人以上の事業場では選任義務あり)では、参加の可否について産業医の意見を求めることができます。産業医がいない中小企業では、主治医の意見書や診断書を参考にしながら判断せざるを得ませんが、その場合でも「会社として確認した」という記録を残すことが重要です。就業規則に休職・復職に関する規定がある場合は、その定義に照らして判断しましょう。規定が曖昧な場合は、この機会に整備することを検討してください。
傷病手当金への影響――本人に伝えるべきこと
傷病手当金は、参加内容によって不支給になるリスクがあります。これは会社側の問題ではなく本人の不利益につながるため、事前に説明しておくことが会社の誠実な対応です。
傷病手当金の支給要件とは
傷病手当金(健康保険法第99条)は、「療養のため労務不能である期間」に支給される給付です。ここでいう「労務不能」とは、それまで従事していた業務に就けない状態を指します。つまり、社内行事への参加が「労務の提供」とみなされた場合、その日の傷病手当金が不支給になる可能性があります。
「労務提供あり」と判断されるのはどんなケースか
単に懇親会に出席して食事をするだけであれば、通常は労務提供とは判断されません。しかし、参加中に業務の引き継ぎや報告、後任への指示出しなどを行った場合は「労務提供あり」と判断されるリスクがあります。健康保険組合(または協会けんぽ)によって判断基準が異なるため、参加前に会社から組合へ照会しておくのが最も安全です。事前照会が難しい場合は、参加内容(何をしたか・時間・場所・業務行為の有無)を記録に残しておきましょう。
本人への説明のポイント
本人に対しては、「参加してはいけない」ではなく、「参加することで傷病手当金に影響が出る可能性があることを理解した上で判断してほしい」という形で伝えることが大切です。本人が十分な情報を持たないまま参加し、後から不支給の通知を受けて「会社が止めてくれなかった」と感じるケースは実際に起きています。口頭だけでなく、書面やメールで伝えた記録を残しておくと、後々のトラブルを防ぐことができます。
安全配慮義務――参加中に何かあったら会社の責任はどうなるか
休職中の社員が社内行事に参加している最中に体調が悪化した場合、状況によっては会社の安全配慮義務違反が問われる可能性があります。「本人が希望したから」という事実だけでは免責されないことを理解しておく必要があります。
安全配慮義務とは何か
安全配慮義務とは、労働契約法第5条に定められた使用者の義務で、「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」ことを指します。休職中であっても、会社が参加を認めた活動の範囲内では、この義務が及ぶ可能性があります。
会社が「参加を推奨したか」「本人が自主的に来たか」で責任が変わる
会社が積極的に参加を呼びかけたり、「来てもいいよ」と明示的に認めた場合は、安全配慮義務の対象になりやすくなります。一方、本人が連絡なく会場に現れた場合は事情が異なりますが、それでも「知っていたのに何もしなかった」とならないよう、参加の可否を事前に確認し記録しておくことが重要です。
労災との関係
業務上の事故・疾病は労働者災害補償保険法による労災補償の対象ですが、休職中の社員が社内行事に参加中に負傷した場合、その活動が「業務遂行性」を持つかどうかで労災認定の判断が分かれます。会社の指示・管理下で行われた活動であれば業務性が認められる可能性があり、一般的な飲み会であれば認められにくいとされています。ただし、実際の判断は個別事案によるため、発生時は速やかに労働基準監督署または社労士に相談することをお勧めします。
行事の種類別・判断のポイント整理
参加の可否は「何の行事か」によって対応の優先度が変わります。以下の表を目安に、自社の状況に当てはめて確認してください。
| 行事の種類 | 業務性の目安 | 傷病手当金への影響リスク | 会社として必要な対応 |
|---|---|---|---|
| 全社員総会・経営方針発表会 | 高い | 中〜高 | 参加可否を慎重に判断・記録必須 |
| 部署の歓送迎会・懇親会(任意参加) | 低い | 低(業務行為がなければ) | 参加内容・業務行為の有無を記録 |
| 社内研修・スキルアップ講座 | 高い | 高 | 原則として試し出勤の枠組みで整理 |
| オンライン社員総会(視聴のみ) | 低〜中 | 低(視聴のみであれば) | 発言・業務指示の有無を確認・記録 |
| 試し出勤(復職準備目的) | 制度による | 事前確認が必要 | 就業規則・健保組合への事前確認必須 |
「業務行為があったかどうか」が最大の分岐点
表を見ると共通の軸が見えてきます。それは「参加中に業務行為(引き継ぎ・報告・指示・業務に関する会話)があったかどうか」という点です。たとえ懇親会であっても、その場で上司から業務の指示を受けたり、取引先の話を共有したりすれば、業務性が生じます。参加後に「何をしたか」を記録しておくことで、後から問題が生じた際に会社を守ることができます。
就業規則に規定がない場合のリスク
多くの中小企業では、就業規則に「試し出勤」や「休職中の社内活動」についての規定がありません。規定がない状態で個別対応を続けると、「あの人は参加できたのに自分はなぜ?」という不公平感や、後からのクレームにつながりやすくなります。今後のために、休職・復職に関するルールを就業規則に明文化しておくことを検討してください。
🔗 社員のメンタル不調に、精神科・心療内科医によるスポット産業医サービス →
他の社員への説明――プライバシーを守りながら公平感を保つ
休職中の社員が行事に現れると、他の社員から「なぜ休んでいるのに来ているの?」という疑問や不満が出ることがあります。本人のプライバシーを守りながら、職場の公平感を損なわない説明が求められます。
休職理由は「要配慮個人情報」
メンタルヘルス上の理由による休職は、個人情報の保護に関する法律第2条第3項が定める「要配慮個人情報」に該当します。本人の同意なく、休職理由や病名を他の社員に開示することは法律上許されません。たとえ上司や同僚が「心配しているから」と言っても、会社として安易に開示しないようにしましょう。
他の社員への説明の具体的な文言
他の社員から質問を受けた場合は、「本人の状況については詳しくお伝えできませんが、会社として状況を確認した上で対応しています」という形で伝えるのが基本です。「会社が適切に管理している」という事実を示すことで、他の社員の不安や不満を最小限に抑えることができます。詳細を話さないことは「隠している」のではなく、「本人のプライバシーを守るための適切な対応」です。その姿勢を自信を持って示してください。
参加のルールを事前に決めておくことで公平感を保つ
特定の社員だけ参加を認め、別の社員には認めないとなると、職場の公平感が損なわれます。「休職中の社員の社内行事参加については、主治医の意見を確認した上で個別に判断する」といった基本方針を就業規則や社内規程に定めておくことで、「ルールに基づいた対応」として説明しやすくなります。
🔗 人事だけで抱えない。メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談 →
まとめ
休職中の社員が社内行事への参加を希望してきたとき、会社が押さえるべきポイントは大きく4つです。まず行事の業務性と参加目的を確認すること。次に傷病手当金への影響について本人に事前説明し記録を残すこと。そして参加中の安全配慮義務と万一の労災リスクを意識すること。最後に他の社員への説明はプライバシーを守りながら行うことです。「本人が希望しているから大丈夫」という思い込みは最も危険なパターンです。会社として適切に記録を残し、必要であれば健康保険組合や社労士に事前照会する姿勢が、結果的に会社と社員双方を守ることにつながります。
休職・復職対応のルールが社内に整っていないと感じる方、具体的なケースでどう対応すればよいか判断が難しい方は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。就業規則の整備から個別ケースの対応方針まで、中小企業の実態に合わせた形でサポートしています。問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。



