残業申請しない社員、どう対応すればいい?

残業申請しない社員、どう対応すればいい? 組織運営
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「うちの社員、定時で上がっているはずなのに、なぜ仕事が終わっていないんだろう」——気になりながらも、忙しさに紛れて深追いできずにいる。そんなモヤモヤを抱えている経営者・人事担当者の方は少なくありません。残業を申請しない社員が増えている職場では、表向きの勤怠記録と実態がずれている可能性があります。放置すると法的リスクに直結するこの問題、原因の理解から実務的な対処法まで、順を追って解説します。

社員が残業を申請しない本当の理由

残業申請をしない社員の多くは、「申請したくない」のではなく「申請できない環境に置かれている」のが実態です。個人の意識の問題として片付けてしまうと、根本的な解決にはつながりません。

「申請したら評価が下がる」という不安

「残業が多いと仕事が遅いと思われる」「上司に迷惑をかけたくない」——こうした空気が職場に漂っていると、社員は自衛的にサービス残業を選びます。特に、上司が残業代を申請しない姿を見せていると、部下は無言のプレッシャーを感じます。本人が「空気を読んだ」結果であり、組織側が作り出した問題です。

申請の仕組みがわかりにくい、または面倒

申請フローが複雑だったり、上長の事前承認が必要なのに承認者が捕まらなかったりすると、「少しの残業なら申請しなくていいか」という判断が積み重なります。仕組みの煩雑さ自体が申請の障壁になっているケースは、中小企業では特に多く見られます。

「そういうものだ」という文化の刷り込み

入社時から「うちは残業代はあまり出ない」という空気が当然のものとして流通していると、新入社員もその文化に同化していきます。長くいる社員ほど「申請しないのが普通」と思い込んでいることがあり、本人すら問題だと認識していない場合があります。

残業申請しない社員を放置したときの法的リスク

「本人が申請しなかっただけだから会社に責任はない」——この認識は法的には通用しません。使用者には労働時間を把握・管理する義務があり、申請の有無にかかわらず責任を問われます。

未払い残業代の遡及請求

労働基準法第37条は、法定時間外労働に対する割増賃金の支払いを使用者に義務付けています。賃金請求権の消滅時効は、2020年4月の改正により現在は3年(将来的に5年となる可能性があります)。社員が退職後に未払い残業代を請求してくるケースは珍しくなく、3年分の残業代が一括請求されれば、中小企業の経営に深刻なダメージを与えます。

安全配慮義務違反による損害賠償

労働契約法第5条は、使用者に対して労働者の生命・身体・健康を守る「安全配慮義務」を課しています。過重労働が原因でメンタル不調や身体的健康障害が生じた場合、「知り得たはずなのに放置した」と判断されると損害賠償請求の対象になります。申請がなかったことは免責事由にならず、「業務指示を出していたか」「実態を知り得る立場にあったか」が問われます。

労働時間把握義務の不履行

労働安全衛生法第66条の8の3(2019年4月施行)により、管理監督者を含むすべての労働者の労働時間を、客観的な方法で把握することが事業者に義務付けられています。自己申告だけに頼る勤怠管理は、この義務の履行として不十分と見なされるリスクがあります。タイムカードや入退館記録・PCログとの照合が実務上求められています。

業務量の実態を把握するための具体的な方法

実態把握は「仕組み」と「対話」の両輪で進めることが効果的です。ツールだけでも、ヒアリングだけでも、片方では限界があります。

客観的なログデータと申告の照合

勤怠システムの打刻記録と、PCのログオン・ログオフ記録、社内システムへのアクセスログを定期的に照合します。「定時打刻なのに深夜にメールを送っている」「退勤後もクラウドツールにアクセスがある」といった乖離が見つかれば、申告漏れのサインです。在宅勤務の普及により、こうした深夜・休日の作業は特に見えにくくなっています。

1on1・週次ミーティングでの業務量ヒアリング

ツールだけでは「なぜ残業が発生しているか」の質的な実態はつかめません。週次ミーティングや月1回の1on1で「今週の業務量はどうだったか」「困っていることはないか」を定期的に聞く場を設けることが重要です。ただし、上司が聞いても「大丈夫です」と答えてしまう関係性では機能しません。聞き方と心理的安全性が鍵です。

タスク・業務量の見える化ツールの活用

個人のタスク量を共有できるプロジェクト管理ツール(AsanaやNotionなど)を導入すると、上司や経営者がメンバーの抱えているタスクの量・進捗を視覚的に確認できるようになります。ただし、ツールの導入だけでは「入力しない」「実態と違う入力をする」問題が起きやすいため、運用ルールと合わせて設計する必要があります。

残業申請を促すための組織的な施策

申請を増やすためには、「申請しやすい仕組み」と「申請しても不利にならない文化」の両方を整える必要があります。どちらか一方だけでは不十分です。

申請フローの簡略化と基準の明確化

「何分以上の残業から申請が必要か」「事前承認か事後申告か」「誰に申請するのか」を就業規則や社内マニュアルで明示します。フローが複雑なほど申請のハードルが上がるため、スマートフォンで完結する勤怠アプリの導入や、SlackやチャットツールでChatworkで上長に一言送るだけで申請が完了する簡易フローも有効です。

経営者・管理職自身が率先して申請・記録する

どれだけ制度を整えても、上司が残業代を申請しない姿を見せていれば、部下は申請できません。経営者・管理職が「残業したら申請する」を自ら実践し、それを部下に見せることが最も効果的なメッセージになります。「申請することは当然のことだ」という規範を、言葉だけでなく行動で示してください。

従業員規模別の対応の違い

対応の選択肢は、従業員数によって異なります。自社の状況に合わせて確認してください。

従業員数の目安 義務・推奨される対応
50名未満 産業医選任・ストレスチェック実施は義務なし。ただし任意実施は推奨。外部の労務専門家や支援サービスの活用が現実的な選択肢
50名以上 産業医の選任(労働安全衛生法第13条)・ストレスチェックの実施が義務。長時間労働者への医師面接指導も対象となる
共通(規模問わず) 36協定の締結・届出、労働時間の客観的把握、就業規則への残業申請ルールの明記

「申請しない文化」が引き起こす健康リスクと早期対処

サービス残業の蓄積は、やがてメンタル不調や突然の休職・退職という形で表面化します。問題が見えたときには、すでに手遅れになっているケースが少なくありません。

過重労働がメンタル不調につながるプロセス

申告されない残業が蓄積すると、慢性的な睡眠不足・疲労が積み重なります。本人も「頑張れば何とかなる」と思い続けるため、不調のサインを自覚しにくくなります。ある日突然「もう限界です」という連絡が来て、そのまま休職——という展開は、中小企業では決して珍しくありません。経営者・管理職が気づいたときには手遅れになりがちなのは、問題が「見えない場所」で進行しているからです。

早期対処のためのサインの見方

以下のような変化は、過重労働・メンタル不調の早期サインとして注意が必要です。

  • 以前より返信や対応が遅くなった
  • ミスや確認漏れが増えた
  • 表情が暗くなった、会話が減った
  • 有給取得が急増または急減した
  • 「大丈夫です」しか言わなくなった

これらのサインに気づいたら、業務量の確認と合わせて、本人の状態を確認する場を早急に設けることが重要です。

「言ってくれれば良かった」は通用しない

「何かあれば相談してと言っていたのに」という経営者の言葉は、問題が発覚した後によく聞かれます。しかし、現場が「言えない」と感じている職場では、「相談窓口がある」だけでは機能しません。相談できる関係性・仕組み・心理的安全性をセットで整えることが、実質的な早期対処につながります。

まとめ

残業を申請しない社員の問題は、個人の意識や性格の問題ではなく、組織が生み出している環境の問題です。放置すれば、未払い残業代の遡及請求・安全配慮義務違反による損害賠償・突然の休職・退職といったリスクに直結します。

対応の第一歩は、客観的なログデータと勤怠申告の照合で実態を把握することです。次に申請フローの簡略化と申請基準の明確化を進め、並行して1on1などの定性的なヒアリングの場を設けることをお勧めします。経営者・管理職が率先して申請する姿を示すことで、文化的な転換も促進できます。

専任人事がいない中小企業では、こうした施策を一人で抱え込まず、外部の専門家を早めに頼ることも有効な選択肢です。ウェルセンス株式会社では、残業申請の仕組みづくりから業務量の実態把握、過重労働が疑われる社員へのフォローアップまで、20〜50名規模の企業に合った形でサポートしています。「うちの職場、大丈夫だろうか」と少しでも感じたら、まずは気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 社員が自分で残業を申請しなかった場合でも、会社は残業代を払わなければなりませんか?

A. はい、原則として支払い義務があります。労働基準法第37条に基づき、時間外労働に対する割増賃金の支払いは使用者の義務です。「本人が申請しなかった」という事実は免責になりません。使用者が業務実態を知り得る立場にあったかどうかが問われるため、申請を促す仕組みを整えていたかどうかも重要です。

Q. 未払い残業代はどのくらい遡って請求されるリスクがありますか?

A. 現在の賃金請求権の消滅時効は3年です(2020年4月の労働基準法改正により、従来の2年から延長されました)。将来的にはさらに5年となる可能性も示されています。退職後に元社員から3年分の未払い残業代を一括請求されるケースがあり、経営規模の小さい会社ほど影響が深刻になります。

Q. 従業員が50名未満でも、労働時間の把握は義務ですか?

A. はい、労働時間の客観的把握は事業場の規模に関係なく義務です。労働安全衛生法第66条の8の3により、すべての事業者はすべての労働者(管理監督者を含む)の労働時間を客観的な方法で把握することが求められています。産業医の選任やストレスチェックは50名未満では義務がありませんが、労働時間管理は別の話です。

Q. 在宅勤務の社員の残業実態はどうやって把握すればいいですか?

A. PCのログオン・ログオフ記録や社内システムへのアクセスログを活用するのが現実的な方法です。クラウド勤怠システムであれば打刻時刻との照合も可能です。加えて、週次ミーティングや1on1で「今週の業務量はどうだったか」を直接確認する定性的なヒアリングも組み合わせることで、ツールだけでは見えにくい実態を補完できます。

Q. 残業申請を促す仕組みを整えるとき、何から始めればいいですか?

A. まず、現状の就業規則に残業申請のルール(申請基準・フロー・申請先)が明記されているか確認することから始めてください。明記されていない、または形骸化しているなら、社員が迷わず申請できるよう基準とフローを整理します。次に、経営者・管理職が率先して申請・記録する姿を見せる文化づくりを進めます。ルールと文化の両方を同時に動かすことが、定着への近道です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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