公益通報者保護法、中小企業にも対応が必要?

公益通報者保護法、中小企業にも対応が必要? コンプライアンス
Photo by Kindel Media on Pexels

「公益通報者保護法って、うちみたいな小さな会社には関係ないよね?」——そう思っていたら、ある日突然、従業員から「内部告発」に相当する申し出が届いた。どう対応すればいいかわからず、とりあえず経営者に報告したら「告げ口だろう」と一蹴されてしまった。こんな状況、実は中小企業でも決して珍しくありません。公益通報者保護法の内容を知らないまま放置すると、企業として取り返しのつかないリスクを抱えることになります。この記事では、中小企業の経営者・兼務人事担当者が最低限知っておくべき公益通報者保護法の実務ポイントを、わかりやすく解説します。

「中小企業は関係ない」は大きな誤解

努力義務と法的義務の違い

2022年の改正公益通報者保護法により、常時使用する労働者数が301人以上の事業者には「内部通報体制の整備」が義務化されました。一方、300人以下の中小企業は「努力義務」にとどまります。この違いを知って「ならうちは何もしなくていい」と解釈する経営者は少なくありませんが、それは大きな誤解です。

全事業者に課される「不利益取扱いの禁止」

規模にかかわらず、すべての事業者に共通して課されている義務が「通報者への不利益取扱いの禁止」です。たとえ従業員が5名の会社であっても、通報を理由とした降格・減給・解雇・退職強要・嫌がらせなどを行えば、公益通報者保護法違反になります。違反した場合には行政指導や氏名公表、さらに損害賠償請求(民事)のリスクまで生じます。窓口を作っていないから、通報の仕組みがないから、という言い訳は通用しないのです。

退職者・派遣社員も「保護対象」に含まれる

もう一つ見落とされがちなのが、保護対象の広さです。正社員だけでなく、パートタイム労働者、派遣労働者、さらに退職後1年以内の元従業員も保護対象に含まれます。改正法では役員も対象に加わりました。「うちにはパートしかいないから」「もう辞めた人の話だから」という判断が、大きなトラブルの引き金になることがあります。

保護される通報の3つの要件

通報者の属性・内容・目的をセットで確認する

企業が通報を受けたとき、「この通報は法律上保護されるものか」を正しく判断することが重要です。保護される通報には、次の3つの要件があります。

  • 通報者が労働者・役員・退職後1年以内の元従業員であること
  • 通報内容が法令違反(公益通報者保護法の別表に列挙された刑事罰・行政罰の対象となる法律に関するもの)であること
  • 通報の目的が不正の利益を得るためや、他人に損害を加えるためではないこと

この3点がそろったとき、通報者は法的保護を受けます。

「ハラスメント」「労働法違反」「会計不正」は対象になりうる

具体的にどんな内容が対象になるか、気になる方も多いでしょう。ハラスメント(労働施策総合推進法違反など)、最低賃金違反・残業代不払いなどの労働基準法違反、食品偽装・個人情報漏洩、横領や粉飾決算といった内容は、公益通報の保護対象になり得ます。

一方で、単純な人間関係のトラブルや個人的な感情によるクレームは、保護の対象外となることもあります。ただし「これは告げ口だ」と決めつけて調査を怠ることは、後から問題になるリスクがあるため、まず適切に受け付けることが原則です。

外部通報・外部告発に発展すると対処が難しくなる

通報には3つの経路があります。社内への内部通報、労働基準監督署・消費者庁・公正取引委員会などの行政機関への外部通報、そして報道機関・消費者団体などへの外部告発です。内部の窓口がない、あるいは相談しても握りつぶされると感じた従業員は、外部機関や報道機関に直接連絡します。こうなると企業側がコントロールできる状況ではなくなり、レピュテーション(企業評判)へのダメージも計り知れません。だからこそ、内部でしっかり受け付ける体制を整えることが、結果的に会社を守ることになるのです。

中小企業が最低限整えるべき対応フロー

まず通報を「受け付ける」体制をつくる

専任の人事担当者がいない中小企業でも、最低限できることがあります。まず最初にやるべきは、通報を受け付ける窓口(担当者・メールアドレス・相談シートなど)を決め、従業員に周知することです。

窓口は社内の信頼できる人物でも構いませんが、後述するように経営者自身や管理職が通報対象者になるケースもあるため、1名だけに絞らず複数の受付手段を用意するのが理想です。実際に窓口を設けている旨を就業規則や社内掲示板に記載するだけでも、従業員の安心感は大きく変わります。

通報を受けたら「秘密保持」と「不利益取扱いの防止」を最優先に

通報を受理したら、次に重要なのは通報者の秘密を守ることと、その人が不利益を受けないよう守ることです。中小企業は組織が小さく人間関係が密なため、「あの件を報告したのは〇〇さんに違いない」という特定が起きやすい構造にあります。調査過程で通報者が誰か漏れてしまわないよう、情報を共有する範囲を必要最小限に絞ることが鉄則です。

また、通報後に通報者の席替えや担当業務変更が行われると「報復ではないか」と疑われるリスクがあります。こうした動きは慎重に行い、変更が必要な場合は理由を明確に記録しておきましょう。

調査は中立性を保ち、記録を残す

調査体制の構築では「利益相反の排除」が最大の課題です。特に経営者や役員が通報対象者になっている場合、社内だけでの中立調査は機能しません。こういったケースでは、社労士・弁護士・外部のハラスメント相談機関などの第三者を早めに活用することが現実的な対策です。

また調査の各段階で記録を残しておくことも不可欠です。ヒアリングの内容、確認した証拠、対応の経緯——これらが記録されていれば、後から「隠蔽した」「不当な対応だった」と言われたときに反証できます。記録の保全は、会社を守るための最低限の自衛手段です。

通報者への不利益取扱い、具体的に何がアウトか

「無意識の報復」が最も危険

法律が禁止する不利益取扱いの範囲は非常に広く、降格・減給・解雇・退職強要・懲戒処分だけでなく、業務上の嫌がらせや配置転換・業務内容の変更・人事評価への影響も含まれます。

問題なのは、意図的な報復だけでなく「空気感による孤立」が起きやすいことです。通報者と被通報者が同じ職場にいる状況では、周囲の態度が変わり、通報者が自然と居づらくなるケースがあります。これも広義の不利益取扱いとして問題になる可能性があります。

「誰が通報したか」を詮索することも禁止

通報者の特定を試みること自体も、法的にグレーな行為です。「あの件を告げたのは誰だ」と周囲に聞き回ったり、メールの送信者を調べたりする行為は、通報者の秘密保持を侵害するリスクがあります。調査担当者・経営者ともに「通報者を特定しようとする言動は控える」というルールを共有することが重要です。

経営者・管理職への教育が予防の鍵

現場の管理職が「告げ口をした部下への対応」として、無意識に評価を下げたり冷遇したりするケースは実際に起きています。こうした問題を防ぐには、管理職向けに「通報に関する対応の禁止事項」を事前に周知しておくことが効果的です。小規模な会社でも、管理的立場にある人に対して年1回程度、コンプライアンス教育の機会を設けるだけで、リスクは大幅に下がります。

「体制がない会社」はまずここから始める

最初の一歩は「窓口の明示」と「就業規則への記載」

何から手をつければいいか迷う方のために、最も優先度の高い2点を挙げます。

一つ目は、社内に通報・相談窓口が存在することを明示することです。担当者の名前とメールアドレスを社内に掲示するだけでも、従業員が「ここに言える」と感じる環境が生まれます。

二つ目は、就業規則への記載です。「公益通報に関する規定」を就業規則に盛り込み、通報者保護の方針と対応フローを文書化することで、万が一の際に「会社として対応していた」という証拠になります。

外部の専門家と連携できる準備をしておく

中小企業が内部だけで通報対応のすべてを完結させるのは現実的ではありません。特に通報内容が深刻な場合(役員の不正、重大なハラスメントなど)は、弁護士・社会保険労務士・外部のコンプライアンス支援会社などと事前に連携できる関係を作っておくことが重要です。「困ったときに相談できる専門家がいる」というだけで、いざというときの対応スピードが格段に変わります。

対応後は必ず再発防止策を策定する

通報への対応が一段落したら、そこで終わりにしてはいけません。調査結果を踏まえて再発防止策を策定し、必要に応じて従業員に周知することが求められます。再発防止策を形式的にでも整えておくことは、「会社として誠実に対応した」という証明になります。

また、対応記録・調査記録・再発防止策の文書はすべて一定期間保存しておきましょう。法的紛争に発展した際の重要な証拠になります。

まとめ

公益通報者保護法は、300人以下の中小企業にとっても決して無関係な法律ではありません。内部通報体制の整備は努力義務であっても、通報者への不利益取扱いの禁止はすべての事業者に課された法的義務です。突然の通報に慌てないためにも、まず窓口の明示・就業規則への記載・対応フローの整備という最低限の準備を進めることが重要です。そして中立性が保てない状況では、迷わず外部の専門家を頼ることが、会社と従業員双方を守る最善策になります。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者からの「うちの会社の場合はどうすればいい?」というご相談を受け付けています。公益通報への対応フロー整備や、通報が起きた際の初動対応についても、実務に即したアドバイスが可能です。公益通報者保護法への対応について不安なことがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 従業員が10名以下の会社でも、公益通報者保護法の対応は必要ですか?

A. はい、規模に関係なく対応が必要です。内部通報体制の整備は300人以下では努力義務ですが、通報者への不利益取扱いの禁止はすべての事業者に適用されます。従業員が10名以下であっても、通報を理由とした解雇・降格・嫌がらせなどを行えば法律違反になります。まずは担当窓口の設置と就業規則への記載から始めることをおすすめします。

Q. 通報内容が「個人的な恨みによるもの」と判断した場合、対応しなくても問題ありませんか?

A. 一方的に「個人的な恨み」と判断して調査を怠ることはリスクがあります。保護の対象外となる通報かどうかの判断は慎重に行う必要があり、とりあえず受け付けて事実確認を行うことが原則です。調査の結果として「法令違反に該当しない」と判断できた場合でも、その過程と結論を記録として残しておくことが重要です。

Q. 経営者自身が通報の対象者になった場合、誰が対応するのですか?

A. この場合、社内だけでの中立的な調査は事実上機能しません。弁護士・社会保険労務士・外部のコンプライアンス支援機関など、利害関係のない第三者に調査を委ねることが現実的な対応です。事前に「経営者が対象となった場合の対応フロー」を決めておくことで、いざというときにスムーズに動けるようになります。

Q. 退職した元従業員からの通報にも対応しなければなりませんか?

A. 退職後1年以内の元従業員は公益通報者保護法の保護対象に含まれます。退職後の通報であっても、内容が在職中の法令違反に関するものであれば、適切に対応する義務があります。退職者だからといって無視したり、通報を理由に不利益な行為(たとえば元職場への口出しや嫌がらせ)を行うことは違法となる可能性があります。

Q. 通報対応の記録はどのくらいの期間保存すればいいですか?

A. 法律上の明確な保存期間の定めはありませんが、労働関係の紛争が民事上の時効(最大5年)を考慮すると、少なくとも5年間は保存することが推奨されます。記録すべき内容は、通報受付日時・通報内容・対応担当者・調査の経緯・ヒアリング記録・最終的な判断とその根拠・再発防止策の内容などです。これらをファイルにまとめ、アクセス権を限定して保管しましょう。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました