経歴詐称の本採用拒否を有効にする5つの確認手順

経歴詐称の本採用拒否を有効にする5つの確認手順 労務管理
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「履歴書の前職期間と、源泉徴収票の日付が合わない……」——試用期間中にそんな違和感を覚えた経験はないでしょうか。専任人事がいない会社ほど、採用時の書類確認が簡略化されやすく、経歴詐称が入社後しばらく経ってから発覚するケースは少なくありません。問題は「疑いがある」と気づいた後、どう動けばいいかわからないことです。手順を誤ると、会社側が法的リスクを負いかねません。この記事では、試用期間中に経歴詐称を確認し、本採用拒否を有効にするための実務手順を解説します。

試用期間と本採用拒否の法的な関係を正しく理解する

試用期間中の本採用拒否には、通常の解雇よりも広い裁量が認められています。ただし「試用期間中だから自由に辞めさせられる」という理解は誤りであり、この前提を間違えると後の対応全体が崩れます。

試用期間の雇用はどういう契約か

最高裁昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件)は、試用期間中の雇用を「解約権留保付き労働契約」と定義しています。つまり、採用後も会社側が一定の解約権を留保している契約形態であり、通常の雇用より本採用拒否の要件はやや緩やかとされています。とはいえ、労働契約法第16条の解雇権濫用法理が類推適用されるため、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当と認められる必要があります。「なんとなく信頼できない」「印象が悪い」といった主観的な理由では、本採用拒否は認められません。

経歴詐称が正当理由になる条件

経歴詐称による本採用拒否が有効になるには、次の2点が揃っている必要があります。

  • 詐称した内容が、採用判断に影響を与えた重要な事実であること(例:最終学歴、職歴、保有資格・免許、前職での懲戒処分歴など)
  • 詐称の事実が、客観的に確認・立証できること

たとえば「営業職」を「営業企画職」と書き換えた程度の表現上の差異は、重要事実の詐称とは認められにくい傾向があります。一方、まったく取得していない資格を記載していた場合や、懲戒解雇を「一身上の都合」と書いていたケースは、採用判断への影響が明確であるため、正当理由として成立しやすくなります。

試用期間の延長や満了後の手続きに注意する

試用期間を過ぎてしまうと、法的論点が「本採用拒否(留保解約権の行使)」から「普通解雇」に切り替わり、より高いハードルが課されます。疑いが生じた時点で迅速に動くことが重要です。また、試用期間を延長する場合は就業規則への規定が必要です。規定がなければ延長は無効となり、本採用とみなされるリスクがあります。自社の就業規則に試用期間の延長条項があるかどうかを、まず確認してください。

経歴詐称の疑いが生じたときに最初にやること

疑いが生じたら、まず手元の書類を精査することから始めます。本人への確認や外部照会より先に社内でできることを整理しておくと、その後の対応がスムーズになります。

提出書類の整合性をチェックする

履歴書・職務経歴書の記載内容と、入社時に提出させた証明書類(卒業証明書・資格証・源泉徴収票・雇用保険被保険者証など)を突き合わせます。確認すべき主な照合ポイントは以下のとおりです。

確認項目 照合する書類 よくある不一致パターン
在籍期間 源泉徴収票・雇用保険被保険者証 在籍期間が数年単位でずれている
最終学歴 卒業証明書・成績証明書 大学卒業と記載しているが中退
資格・免許 資格証明書の原本 記載はあるが証明書の提出を求めると出てこない
前職の退職理由 離職票・退職証明書 「一身上の都合」だが離職票の離職区分が合わない

疑義の内容と根拠を記録しておく

書類を精査した段階で「どの記載が、何の証拠と矛盾しているか」を具体的にメモしておきます。この記録が後の本人確認面談や証拠保全の土台になります。「なんとなく合わない気がする」という印象のままで本人に伝えると、ハラスメントや名誉毀損のリスクにつながります。具体的な根拠を整理してから次のステップに進んでください。

本人への確認はこうやって行う

書類精査で疑義の根拠が明確になったら、本人に確認する機会を設けます。このとき重要なのは、問い詰めるのではなく「事実確認の機会を与える」という姿勢で臨むことです。

面談は複数人立ち会いで行う

確認面談には必ず2名以上が立ち会い、面談終了後に記録を作成してください。面談の目的は「詰問」ではなく、本人が説明できる機会を正式に設けることです。たとえば「履歴書には〇〇年〇月〜〇〇年〇月の在籍と記載がありますが、源泉徴収票と期間が合いません。確認させていただけますか」という形で、具体的な矛盾点を一点ずつ示して説明を求めます。

専任人事がいない場合、経営者と総務担当など2名で対応するケースが多いと思います。会話の記録は面談終了後すみやかに文書化し、立会者全員が内容を確認の上で保管します。

弁明書の提出を求める

面談での説明が不十分だった場合や、本人が詐称を認めた場合は、書面(弁明書)での提出を求めます。弁明書には日付・署名・捺印をもらうことで、後の争いになった際の重要な証拠になります。本人が書面提出を拒否する場合は、その事実自体も記録しておいてください。なお、弁明書の提出要請は「懲戒手続きの開始」を意味するため、書面を求める前に就業規則の懲戒規定を確認し、手順通りに進めることが重要です。

面談記録の作成や弁明書の取得に不安がある場合は、専門家に相談しながら進めることをお勧めします。特に初めての対応では、手順の漏れが後の紛争につながるため、早い段階での相談が効果的です。

前職への在籍確認が断られた場合の対処法

前職企業が「個人情報のため答えられない」と照会を断るケースは珍しくありません。そのような状況でも、取れる手段は複数あります。

本人の同意を得た上で照会する

個人情報保護法の観点から、前職への在籍確認は原則として本人の同意を得た上で行う必要があります。採用時に「経歴確認の実施に同意する」旨を採用同意書・誓約書に含めていれば、その同意書を提示した上で前職人事部門に文書照会することができます。同意書がない場合は、改めて本人から「前職への照会に同意する」旨の署名付き書面を取得してから連絡してください。

なお、現時点で採用同意書・誓約書に経歴確認条項が含まれていない会社は、今後の採用時から追加することをお勧めします。これは最もコストが低いリスクヘッジです。

バックグラウンドチェック会社の活用

前職企業が個人照会には応じない場合でも、バックグラウンドチェック(身元調査)専門会社を通じると、公開情報や正規のルートで在籍事実・学歴・資格などを確認できる場合があります。費用は数万円程度から利用できるサービスもあり、採用時のリスク管理として導入する企業も増えています。試用期間中に疑いが生じた段階で活用することも可能です。ただし、調査会社に依頼する場合も本人の同意取得が必要です。

公的書類の再提出を求める

前職への照会が難しい場合でも、本人に対して公的書類(在籍証明書・退職証明書・卒業証明書・資格証明書の原本)の再提出を求めることは可能です。「提出できない」「紛失した」といった回答が続く場合は、それ自体が詐称を疑わせる事情として記録に残してください。

証拠保全と本採用拒否通知の手順

事実確認が完了したら、証拠を整理した上で書面による本採用拒否通知を行います。手続きの漏れが後のトラブルに直結するため、順序通りに進めることが重要です。

証拠書類を整理・保管する

本採用拒否までに収集・作成した書類は、すべて一まとめにして保管します。具体的には以下を揃えてください。

  • 矛盾が生じた履歴書・職務経歴書のコピー
  • 証拠となる源泉徴収票・資格証明書等のコピー
  • 確認面談の記録(日時・参加者・発言内容)
  • 本人が提出した弁明書(署名・捺印あり)または提出拒否の記録
  • 前職照会のやり取り(メール・文書)
  • 採用同意書・誓約書(経歴確認同意が含まれているもの)

本採用拒否通知書を書面で交付する

本採用拒否は必ず書面(本採用拒否通知書)で行い、拒否の理由を明記します。口頭だけでの通知は後から「聞いていない」「理由を告げられなかった」という争いの原因になります。また、試用期間が14日を超えている場合は、労働基準法第20条に基づき30日前の予告または解雇予告手当の支払いが必要です。試用期間が残り30日未満の段階で動き出した場合は、解雇予告手当を準備しておいてください。

処理の区分は「懲戒解雇」ではなく「本採用拒否(留保解約権の行使)」として整理します。懲戒解雇にしたい場合は別途懲戒手続きが必要になり、ハードルが上がります。まずは本採用拒否の枠内で処理するのが実務上の基本です。

書面通知の作成や解雇予告手当の計算に不安がある場合は、遠慮なくご相談ください。実際の手続きの中で生じた疑問に対応します。

まとめ

経歴詐称による本採用拒否を有効にするには、「疑いを感じた」段階で迅速に動き、書類精査→本人確認面談→客観的裏付けの取得→証拠保全→書面通知という一連の手順を丁寧に踏むことが不可欠です。試用期間の終了が近い場合はタイムリミットを意識し、普通解雇になる前に手続きを完了させてください。また、採用同意書に経歴確認条項を盛り込む、面談には必ず複数人が立ち会うといった事前準備が、後のリスクを大きく下げます。

「疑いはあるが、どう動けばいいかわからない」「手順を踏もうとしているが、就業規則や誓約書の整備から見直す必要がある」——そのような状況であれば、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事専門知識のない経営者・兼務人事担当者の方でも、状況に応じた具体的な対応手順をご一緒に整理いたします。

よくある質問

Q. 試用期間中であれば、理由なく本採用を拒否できますか?

A. できません。試用期間中の雇用は「解約権留保付き労働契約」であり(最高裁・三菱樹脂事件判決)、本採用拒否には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。「なんとなく合わない」「印象が悪い」といった主観的理由では、不当解雇として争われるリスクがあります。

Q. 経歴詐称の「重要な事実」と「軽微な事実」の境界は、どこにあるのですか?

A. 一般的には、最終学歴、職務経歴、資格・免許、前職での懲戒処分歴など「採用判断に直結する情報」が重要事実です。一方、職位の微細な表現違い(営業職と営業企画職の区別)や単純な記述ミスは軽微と判断される傾向があります。判断に迷う場合は、記載内容が「採用担当者の判断に影響を与えたか否か」という基準で考えるとよいでしょう。

Q. 前職企業が在籍確認に応じてくれない場合、どうすればいいですか?

A. まず本人の書面による同意を取得した上で再照会するか、バックグラウンドチェック専門会社に依頼する方法があります。それでも確認が取れない場合は、本人に在籍証明書や退職証明書の原本提出を求め、提出できない場合はその事実を記録として残してください。同意なしに前職へ照会することは個人情報保護法上の問題が生じる可能性があります。

Q. 試用期間が終わってから経歴詐称が発覚した場合は、どうなりますか?

A. 試用期間終了後は「本採用拒否」ではなく「普通解雇」または「懲戒解雇」の論点になります。いずれも本採用拒否より要件が厳しく、特に懲戒解雇は就業規則の根拠規定と適正手続きが必要です。発覚した時点で速やかに労働法に詳しい専門家に相談し、対応方針を決めることをお勧めします。

Q. 本採用拒否の際に解雇予告は必要ですか?

A. 試用期間が14日を超えている場合、労働基準法第20条に基づき30日前の解雇予告、または解雇予告手当の支払いが必要です。試用開始から14日以内であれば予告なしで行うことができますが、実務上は試用期間が14日以内に収まるケースは少ないため、多くの場合は予告または予告手当が必要になると考えてください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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