復職面談の途中、担当者が思いもよらない言葉を聞くことがある。「実は、休職前に上司からひどいことを言われていて……」。面談室の空気が一変する瞬間だ。復職の可否を確認するために設けた場で、突然ハラスメントの告白を受けた担当者は、何を言えばいいか、この面談をどう終わらせればいいか、まず何から手をつければいいかが、頭の中で一気に混乱する。専任の人事担当者がいない中小企業では、その混乱を一人で引き受けなければならないことも多い。この記事では、復職面談中にハラスメントの告白を受けたときの初動対応から、調査フローの進め方、復職との優先順位の判断まで、実務的な手順を整理して解説する。
告白の瞬間、担当者がまずやるべきこと
復職面談中にハラスメントの告白を受けた場合、担当者がその場でやるべきことは「聞く・記録する・約束しない」の三点に集約される。焦って結論を出そうとしたり、その場で謝罪したり、反射的に「それは大変でしたね」と話を終わらせようとすることは、後の対応を複雑にするリスクがある。
話を遮らず最後まで聞く
告白をしてくれた本人にとって、それを口にするまでに相当の勇気が必要だったはずだ。担当者の役割はまず「受け取ること」であり、話の途中で「それはいつのことですか」「証拠はありますか」と事実確認モードに入ってはいけない。ひととおり話を聞いた上で、「話してくれてありがとうございます。会社としてしっかり受け止めます」という言葉を伝えることが、信頼関係の出発点になる。
その場での結論・約束を避ける
担当者が「わかりました、すぐに調査します」「あの人には厳しく対処します」などと即答してしまうと、後に事実確認の結果が異なった場合に会社の対応が矛盾する。また「絶対に秘密にします」という約束も避けるべきだ。ハラスメント対応では、調査のために複数の関係者に話を聞く必要があり、完全な秘密保持は約束できない。「不必要に広めることはしませんが、調査のために必要な範囲で関係者に確認することがある」という説明が適切だ。
面談の内容をその場でメモする
面談終了後に記憶をたどって記録を作ろうとすると、細部が抜け落ちる。告白の内容は5W1H(いつ・どこで・誰が・誰に・何を・どのように)の形式でメモをとる習慣をつけておく。本人の言葉をそのまま書き留めることが重要で、担当者の解釈や感想は別で記録する。
告白と同時に会社に対応義務が生じる
復職面談という場の性質に関係なく、ハラスメントの告白があった時点で、会社には法的な対応義務が発生する。「正式な相談窓口に来ていないから」「面談の場だから」という理由で対応を先送りすることは、法的リスクを高める。
パワハラ防止法が定める措置義務
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)第30条の2は、使用者に対して「職場におけるパワーハラスメントに関する相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備する義務」を課している。この義務は、2022年4月から中小企業にも適用されている。相談窓口への正式な申告でなくても、担当者が告白を受けた事実は「相談の受付」とみなされ、そこから対応義務が生じる。
職場環境配慮義務という民事責任のリスク
民法415条および労働契約法5条に基づき、使用者には労働者が安全に働ける環境を整える「職場環境配慮義務」がある。ハラスメントの告白を受けながら何も調査せずに復職させた場合、その後に同じ行為者による再被害が発生すると、会社が民事上の損害賠償責任を問われるリスクがある。「知らなかった」「面談の場での話だった」という言い訳は通用しない。
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面談終了後、当日中にやること
面談が終わった直後から、担当者は一人で抱え込まずに動き始める必要がある。初動の遅れは、証拠の散逸や当事者への二次被害につながる。当日中に完了させるべき対応は明確だ。
経営トップへの即時報告
担当者が単独で判断・対応することは避ける。その日のうちに経営者または責任者に報告し、「ハラスメントの告白があった」という事実と、面談でのやりとりの概要を共有する。中小企業では担当者と経営者が近い位置にいることが多く、この報告自体は難しくないはずだ。ただし、報告の際に「本当にあったのかどうか」「あの人がそんなことするとは思えない」という判断を先行させないよう注意する。
告白内容の文書化
面談でとったメモをもとに、5W1Hの形式で文書として残す。この文書は、後の調査プロセスの基礎資料になる。「本人が〇〇と述べた」という事実の記録であり、担当者の評価・感想は含めない。作成日時・記録者名も必ず明記する。
加害者とされた人への情報漏洩を防ぐ
「加害者とされた人」が告白の事実を知ると、証言の隠蔽や被害者への接触(二次被害)が起きる可能性がある。当日中に、告白があった事実が加害者とされた人に伝わらないよう、情報管理の範囲を経営トップと確認する。社内で口頭で話す際にも、関係者以外の耳に入らないよう注意が必要だ。
調査体制の組み方と中小企業の現実解
ハラスメント調査を公正に進めるためには、中立的な立場の調査者が必要だ。社内だけで対応しようとすると、調査の客観性が担保できないリスクがある。中小企業では外部リソースの活用が現実的な選択肢になる。
社内調査の限界を認識する
担当者が加害者とされた人と日常的に接触している、経営者と加害者とされた人が近しい、社内に利害関係のない調査者がいない——こうした状況は中小企業では珍しくない。公正な調査が難しいと判断した場合、社内だけで完結させようとすることは避けるべきだ。調査の偏りは、後の紛争で会社の立場を弱くする。
外部専門家の活用パターン
外部リソースの選択肢として、社会保険労務士(社労士)・弁護士・外部EAP(従業員支援プログラム)機関がある。費用やスピードが異なるため、状況に応じて選択する。以下に目安をまとめる。
| 外部リソース | 主な役割 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 社会保険労務士 | 調査フローの設計・就業規則に基づく対応助言 | 初めてで手順がわからない・調査設計を一緒にやりたい |
| 弁護士 | 法的リスクの評価・調査実施・紛争対応 | 深刻なケース・訴訟リスクがある・加害者側が争う可能性 |
| EAP機関 | 被害者のメンタルサポート・相談窓口の設置支援 | 被害者のケアと調査を並行して進めたい |
ヒアリングの順番を守る
調査を進める場合、ヒアリングの順番には原則がある。まず被害者とされた本人から詳細を聞き、次に関係者(目撃者・同席者など)、最後に加害者とされた人の順で行う。加害者とされた人から先に話を聞くと、その内容が他の証言に影響を与えるリスクがある。また、各ヒアリングは個別に行い、複数の人が同席する場では行わない。
復職と調査、どちらを先にするか
復職面談中に告白があった場合、「調査が終わるまで復職を延期するか」「安全策を講じた上で復職を先行させるか」の二択で判断する必要がある。どちらが正解かは一律に言えず、複数の要素を組み合わせて判断する。
判断に使う三つの軸
判断の軸は、主治医の復職可否意見・本人の意向・ハラスメントの深刻度の三つだ。主治医が「復職可能」と判断しており、本人も早期に職場復帰を希望していて、かつハラスメントが物理的な接触を伴うものでない場合は、安全策(配置の分離・業務ルートの変更など)を設けた上で復職を先行させることが可能なケースもある。一方、ハラスメントの内容が深刻・継続的で、加害者とされた人との接触が不可避な環境では、調査の進展を待ってから復職を進めるほうが本人の安全にとって適切だ。
小規模企業での物理的分離の現実解
従業員20〜50名規模では、部署を分けることが難しい場合も多い。その場合は「業務上の指示系統を変える」「勤務シフトをずらす」「テレワークを活用する」など、直接的な接触を減らす工夫が現実解になる。「物理的に完全に分離できないから復職できない」ではなく、できる範囲での安全策を検討することが重要だ。
調査期間中の本人へのフォロー
調査が長引く場合でも、本人を放置してはいけない。定期的な連絡(週1回程度のメールや短時間の通話など)で「調査は進んでいる」「あなたの話は受け止めている」というメッセージを伝えることが、二次被害の防止と信頼維持につながる。調査の具体的な内容や進捗を逐一伝える必要はないが、「対応している」という事実だけは継続的に示す。
言い分が食い違う場合、会社はどこまでやればいいか
被害者とされた人の証言と、加害者とされた人の否定が真っ向から対立するケースは少なくない。この場合でも、会社は「どちらが正しいか」の最終的な決定者にはなれないが、「合理的な調査を尽くした」という事実を残すことが法的な保護につながる。
「事実認定」ではなく「合理的な調査」が会社の義務
会社は裁判所ではないため、証拠の優劣を最終的に判断する立場にない。ただし、厚生労働省が定めたパワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、「事業主は、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じつつ、事実関係を迅速かつ正確に確認すること」を求めている。調査を怠ったことが問われるのであり、結論が出なかったこと自体は責任を問われるわけではない。
「なぜ今まで言わなかったのか」という疑問への向き合い方
担当者の心に「なぜ休職中に相談しなかったのか」「なぜ復職面談で急に」という疑問が生まれることは自然だ。しかし、ハラスメントの被害者が相談を先延ばしにする理由は多様で、「言えなかった理由」があること自体は告白の信頼性を低下させない。この疑問を心の中に持ちながら調査に臨むと、無意識のバイアスが記録や判断に影響する。「なぜ今になって」という視点は、調査のフェアネスを損なうリスクがあることを認識しておく。
ハラスメント対応に必要な調査体制や優先順位の判断は、専門知識がないと難しく判断ミスのリスクも大きい。経営者や担当者だけで判断せず、早めに専門家に相談することをお勧めします。
言い分が食い違う場合、会社はどこまでやればいいか
まとめ
復職面談中のハラスメント告白は、担当者にとって予期しない出来事だが、その瞬間から会社の対応義務が始まる。まず面談の場では「聞く・記録する・約束しない」を徹底し、面談後は当日中に経営トップへ報告・告白内容の文書化・情報漏洩の防止を進める。調査体制は社内だけで無理をせず、社労士や弁護士などの外部専門家の活用を検討する。復職と調査の優先順位は、主治医の意見・本人の意向・ハラスメントの深刻度を組み合わせて判断する。言い分が食い違うケースでも、「合理的な調査を尽くした記録を残す」ことが会社を守る。
ウェルセンス株式会社では、復職面談のサポートから、ハラスメント対応の初動設計・調査フローの整理まで、専任人事のいない中小企業の担当者と一緒に考えることができます。判断に迷ったときや、次のステップが見えないときは、ぜひご相談ください。
よくある質問
🔗 一人で判断せず、経営者や専門家を巻き込んで対応することが、会社と従業員の両方を守ります。 →
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