復職前に「上司に謝罪を」と要求されたらどうすればいい?

復職前に「上司に謝罪を」と要求されたらどうすればいい? 休職・復職対応
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「謝罪してくれれば、職場に戻れます」——休職中の従業員からそう伝えられたとき、会社はどう動けばいいのか。謝罪を求められた上司は「自分は何も悪くない」と反発し、人事担当者は「断ったら復職拒否になるのか」と不安を抱えたまま対応が止まる。このような状況に直面している経営者・人事担当者は少なくありません。

結論から言えば、謝罪の有無は法的な復職要件にはなりません。ただし、謝罪要求の背景にハラスメントの可能性がある場合、その調査は会社の義務です。この記事では、復職前謝罪要求への正しい対応方法と、復職プロセスを前に進めるための考え方を実務的に解説します。

謝罪は復職の条件にならない

会社として押さえておくべき最初の結論は、「上司の謝罪があるかどうか」は復職可否の判断基準にならないという点です。これを理解しておくだけで、対応の方向性が大きく変わります。

復職の可否は「労務提供できる状態かどうか」で判断する

復職の可否は、従業員が業務を遂行できる健康状態にあるかどうかという客観的な事実に基づいて判断されます。民法第536条の考え方や就業規則の休職・復職規定が根拠となり、「誰かが謝ったかどうか」という事実は、その判断要件に含まれません。

主治医の診断書、必要に応じて産業医の意見、試し出勤の実施状況、職場環境の整備状況——これらが復職判断の標準的な要素です。謝罪の有無をこれらと同列に扱うことは、法的根拠がありません。

謝罪拒否を理由に復職を引き延ばすと会社のリスクになる

「上司が謝罪しないから復職できない」という構図を会社が受け入れてしまうと、復職可能な状態にある従業員の職場復帰を不当に遅らせることになります。これは、就業規則上の復職手続きに反するだけでなく、場合によっては不当な扱いとして問題になりえます。

従業員側から「謝罪があれば復職する」と言われたとしても、会社はその条件を受け入れる必要はありません。復職判断は会社が行うものであり、従業員が一方的に条件を設定できるものではないという点を、毅然として伝えることが重要です。

逆に、上司への謝罪強制も会社のリスクになる

状況を収束させようと、会社が上司に「とにかく謝ってほしい」と促すケースがあります。しかし、事実確認なしに謝罪を強制することは、上司側から「名誉毀損」や「不当な業務命令」として問題にされる可能性があります。謝罪は法的義務ではなく、事実認定のプロセスを経ずに行わせることは避けるべきです。

謝罪要求とハラスメント調査は切り離して進める

謝罪要求への対応とハラスメント調査は、性質が異なる別々の問題です。この二つを混同したまま対応しようとするから、プロセスが止まります。分離して考えることが、状況を前に進める最初のステップです。

二つの問題は「性質」も「担当者」も違う

問題 性質 対応の方向性
謝罪要求への対応 復職要件の問題 医学的・労務的判断で復職可否を決める
ハラスメントの有無 使用者の措置義務 独立した事実確認プロセスで調査・対応する

復職プロセスはハラスメント調査の結果を待たずに進めることができます。ただし、ハラスメント調査は「復職前に終わらせなくていい」という意味ではありません。調査は調査として、並行して着実に進める必要があります。

ハラスメント調査は会社の法的義務である

休職者の主張にパワーハラスメントの可能性が含まれる場合、会社はその調査を行う義務があります。「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(いわゆるパワハラ防止法)」により、2022年4月以降は中小企業にも相談対応・事実確認・再発防止の措置義務が課されています。セクシュアルハラスメントについては「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)」第11条が根拠となります。

「上司がハラスメントを否定しているから調査しない」という判断は認められません。調査義務は、ハラスメントの申告があった時点で発生します。

調査なしに復職させると安全配慮義務違反になりうる

ハラスメントの可能性が指摘されているにもかかわらず、何も調査しないまま同じ職場環境に復職させた場合、再び健康被害が生じたときに安全配慮義務(労働契約法第5条)違反を問われるリスクがあります。「調査したが事実は確認できなかった」という結論であれば、使用者として義務を果たした記録になります。調査のプロセス自体が会社を守る証拠になるのです。

ハラスメント調査の進め方

ハラスメント調査に専門的な資格は不要ですが、手順と記録を正しく残すことが重要です。中小企業・専任人事不在の環境でも実施できる基本的な進め方を整理します。

申告者と被申告者の双方から話を聞く

まず休職者(申告者)から、いつ・どこで・どのような言動があったのかを具体的に確認します。次に上司(被申告者)に同じ内容について事実確認を行います。この順番と内容は記録として残してください。どちらか一方の話だけで判断することは、調査として不十分です。

なお、申告者への事実確認は、体調に配慮した方法(書面・メール・オンラインなど)で行うことも選択肢に入れてください。復職前の休職者に過度な負担をかけることは避けるべきです。

第三者へのヒアリングと記録保管

可能であれば、当該場面に居合わせた同僚や、日常的に職場の状況を把握している人物からもヒアリングを行います。一方の証言だけで事実認定を行うと、後から「調査が不公正だった」と主張される原因になります。

ヒアリングの日時・参加者・発言内容の要旨は必ず文書で残してください。調査記録は、社内での措置だけでなく、万一紛争になった場合にも重要な証拠となります。

専任人事不在の場合の対処法

中小企業で多いのが、「調査しようとしても、調査担当者が当事者(上司)と同じ組織にいる」という構造的な問題です。この場合、以下の選択肢を検討してください。

  • 社労士・弁護士などの外部専門家に調査の補助・助言を依頼する
  • 当事者と直接的な利害関係のない役員・管理職が調査担当になる
  • 産業医が選任されている場合は、職場環境の評価について意見を求める

完全に中立な調査者を社内で用意できない場合でも、「外部の専門家の助言を受けながら手順を踏んで調査した」という記録は、会社の誠実な対応を示すものになります。

調査担当者の中立性が保ちにくい場合、スポット産業医サービスなどの外部リソースを活用することで、客観性が高まり、後々のトラブル防止に役立ちます。

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復職プロセスを止めないための実務対応

謝罪問題とハラスメント調査を切り離したうえで、復職プロセス自体は粛々と進めることが重要です。プロセスが止まることで、会社・休職者・上司の三者すべてに不利益が生じます。

復職判断の基準を明文化しておく

復職の判断基準が会社として明確になっていない場合、「謝罪があれば戻れる」という誤った認識が生まれやすくなります。就業規則や復職支援規程に、次のような要件を明記しておくことが有効です。

  • 主治医による復職可能の診断書の提出
  • 産業医(または産業保健スタッフ)との面談(産業医が選任されている場合)
  • 試し出勤・リハビリ勤務の実施とその評価
  • 復職後の業務内容・勤務時間の調整計画

これらを書面で示すことで、「復職の条件は謝罪ではなく、健康状態の回復と職場復帰の準備が整っているかどうかである」という会社の立場を明確に伝えることができます。産業医が選任されていない小規模企業の場合は、主治医の意見を中心に据えながら、必要に応じて外部の産業保健サービスを活用することも選択肢です。

復職後の職場環境調整を具体的に示す

ハラスメントの事実が調査で確認された場合は、上司との業務上の接点を減らす・報告経路を変更するなどの措置を検討します。事実が確認されなかった場合でも、「以前と全く同じ状況に戻す」ことが安全配慮義務の観点から適切とは言えないこともあります。

具体的な環境調整の内容(担当業務の見直し、定期的な面談の設定など)を復職前に従業員に書面で提示することで、「職場に戻っても同じことが起きるのではないか」という不安を軽減し、謝罪要求の背景にある本質的な懸念に応えられることがあります。

従業員への説明は書面で記録を残す

謝罪が復職要件でないことの説明、復職要件の提示、ハラスメント調査を行う旨の伝達——これらはすべて書面または記録に残る形で行ってください。口頭だけの対応は後から「そんな説明は受けていない」という主張の余地を生みます。メールや書面での連絡を基本とし、面談を行った場合は議事録を作成して双方が確認するプロセスを入れることを推奨します。

対応の手続きが複雑になったときは、無理に社内で完結させず、専門家のアドバイスを受けながら進めることで、ミスやトラブルを減らせます。

まとめ

復職前に「上司への謝罪」を求められたとき、会社として取るべき対応は明確です。謝罪の有無は法的な復職要件ではなく、復職可否は従業員の健康状態と職場環境の整備状況で判断します。一方、謝罪要求の背景にハラスメントの可能性がある場合、会社はパワハラ防止法・男女雇用機会均等法に基づく事実確認の義務を負います。この二つを混同せず、切り離して対応することが状況を前に進める鍵です。

また、事実確認のプロセスを踏まずに上司への謝罪を強制することも、会社のリスクになります。復職基準の明文化、調査プロセスの記録、復職後の環境調整の提示——この三点を整えることで、感情論ではなく手続きとして対応できる体制が作れます。

「謝罪問題で復職対応が止まっている」「どちらの話を信じればいいかわからない」「調査を進めようにも社内に中立な人間がいない」——そのような状況にあるなら、経営層と人事だけで抱え込まず、早めに外部の専門家に相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、こうした休職・復職トラブルへの対応を、経営者・兼務人事担当者の方と一緒に整理するサポートを行っています。状況をお聞かせください。

よくある質問

Q. 従業員から「上司が謝罪しないと復職しない」と言われています。会社はこの条件に応じなければなりませんか?

A. 応じる義務はありません。復職の可否は「従業員が労務提供できる健康状態にあるか」という客観的事実で判断するものであり、謝罪の有無は法的な復職要件に含まれません。謝罪を条件にした復職拒否は会社として受け入れる必要はなく、復職基準に基づいたプロセスを粛々と進めることが適切な対応です。

Q. 上司はハラスメントを否定しています。それでも調査が必要ですか?

A. 必要です。パワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)により、事業主はハラスメントの相談・申告があった場合に事実確認を行う義務を負います。「被申告者が否定している」という事実は調査義務の免除理由にはなりません。双方から話を聞いたうえで事実認定を行うプロセスを踏むことが求められます。

Q. ハラスメント調査が終わるまで復職を待たせてもよいですか?

A. 原則として、復職の判断とハラスメント調査は切り離して並行して進めます。復職判断は従業員の健康状態に基づいて行い、ハラスメント調査の完了を復職の前提条件にすることは適切ではありません。ただし、調査結果によって復職後の職場環境(担当業務・報告経路など)の設計が変わる場合があるため、調査の進捗と復職準備を同時に進める形が理想的です。

Q. 社内に中立な調査担当者がいません。外部に頼む方法はありますか?

A. あります。社労士・弁護士などの外部専門家に調査の補助・助言を依頼することは有効な方法です。完全な外部委託でなくとも、「外部専門家の助言を受けながら手順を踏んで調査した」という記録は、会社が誠実に義務を果たしたことの証拠になります。また、産業医が選任されている場合は、職場環境の評価について意見を求めることも有効です。

Q. 復職支援規程がない場合、今からでも作るべきですか?

A. 作ることを強くお勧めします。復職基準が明文化されていないと、謝罪要求のような感情的な条件が「復職の条件」として扱われる余地が生まれます。主治医診断書の提出、産業医面談(または外部産業保健サービスの活用)、試し出勤のルール、復職後の業務調整方針などを規程として整備しておくことで、会社として一貫した対応ができるようになります。現在進行中のケースがある場合でも、規程整備は今後のリスク管理として並行して進めることが有益です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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