「この社員、もう3ヶ月休職しているけど、賃金台帳と出勤簿はどうすればいい? 給料が出ていないなら、空白のままでもいいんじゃないか……」
兼務で人事を担当していると、こういった判断に迷う場面が突然やってきます。専任の人事担当者がいる大企業なら当たり前のように処理されていることでも、中小企業では「前任者のやり方がわからない」「聞ける人がいない」という状況が珍しくありません。結論から言えば、空白のままにするのは危険です。賃金が発生しない休職期間であっても、賃金台帳・出勤簿の作成・記載義務は免除されません。この記事では、法的根拠・具体的な書き方・労基署調査への備えまでを、実務担当者が迷わないよう整理します。
休職中も賃金台帳・出勤簿の記載義務は続く
休職期間中であっても、賃金台帳・出勤簿の記載義務は法律上継続します。「給料を払っていないから不要」という判断は誤りであり、労基署の調査でも休職期間中の記録は確認対象になります。
法令の根拠を確認する
賃金台帳の作成・記載義務は労働基準法第108条および同施行規則第54条に定められています。出勤簿(タイムカードを含む)については労働基準法第109条が根拠となります。いずれも保存義務は最終記入日から5年間(2020年4月施行の改正労基法による。現在は当面3年間の経過措置あり)です。
「賃金を支払うつど遅滞なく記入する」という施行規則の表現から、「支払いがなければ記入不要」と誤解されがちですが、これは記入のタイミングを定めたものであり、無給期間の記録義務を免除する規定ではありません。休職期間中の記録が空白のまま労基署の調査を受けた場合、「管理がずさん」と判断され、他の月・他の書類にまで疑義が生じるリスクがあります。
賃金台帳と出勤簿、それぞれの役割を理解する
賃金台帳は、誰に・いつ・いくら支払ったかを記録するものです。出勤簿(タイムカード等)は、労働者が実際に何日・何時間働いたかを記録するものです。この2つは別々の目的を持つ書類ですが、労基署の調査ではセットで照合されます。
また、休職期間中のデータは復職後の年次有給休暇付与日数の計算(労働基準法第39条)や、傷病手当金の申請(健康保険法第99条)における事業主証明にも影響します。「どうせ給料がゼロだから後でいい」と放置すると、復職後の手続きで整合性が取れなくなる事態が起きやすくなります。
賃金台帳の具体的な書き方
無給休職期間の賃金台帳は、項目を空白にするのではなく「0」や「0円」を明記することが基本です。何も書かれていない欄と、意図的にゼロと記載した欄では、記録としての信頼性がまったく異なります。
必須記載事項と休職中の取り扱い
労働基準法施行規則第54条が定める賃金台帳の必須記載事項のうち、休職中に特に注意が必要な項目は以下のとおりです。
| 記載項目 | 休職中の記載方法 |
|---|---|
| 氏名・賃金計算期間 | 省略不可。必ず記載する |
| 労働日数・労働時間数 | 「0日」「0時間」と明記する |
| 基本給・各種手当額 | 「0円」または「-」と明記。空白は不可 |
| 社会保険料等の控除額 | 立替・後納・本人振込など処理方法と整合させて記載する |
社会保険料の処理方法と台帳記載の整合性
休職中も社会保険料(健康保険・厚生年金)の本人負担分は発生します。給与から天引きできないため、実務上は次のいずれかの方法をとることになります。
- 本人から毎月振込で徴収する
- 会社が立替払いし、復職後に分割控除する
- 退職または休職終了時に一括精算する
どの方法をとったとしても、賃金台帳の控除額欄・会社の入出金記録・傷病手当金申請書の記載が矛盾なく一致していることが重要です。たとえば「会社が立替払い」を選択した場合、台帳上の控除額欄には「立替(復職後精算)」と注記を入れておくと、後の確認時に説明がつきやすくなります。健康保険組合から「報酬の支払い状況」について問い合わせが来たときも、台帳が整っていれば対応がスムーズです。
出勤簿はどう記載するか
出勤簿(タイムカード・勤怠管理表など)では、休職中の日付欄に「休職」と明記し、単純な「欠勤」とは区別することが実務上の基本です。この区別を怠ると、後の計算や書類照合で混乱が起きます。
「欠勤」と「休職」の記載を分ける理由
欠勤(欠)は、本来出勤すべき日に無断または単発で休んだ場合に使います。休職は、会社が正式に認めた一定期間の休業です。この2つは、就業規則上の取り扱い・社会保険手続き・傷病手当金の申請要件において明確に異なります。
出勤簿に「欠勤」とだけ書かれていると、傷病手当金申請の事業主記載欄(「報酬を受けていないこと」の証明)と照合した際に整合性を問われる可能性があります。また、年次有給休暇の付与日数を計算する際、休職期間を出勤日数にどう算入するかは就業規則の定めによって異なるため、区分が明確でないと計算根拠が曖昧になります。
出勤簿に残しておくべき情報
出勤簿の記載に加えて、以下の情報を別途「休職管理台帳」や社内ファイルで補完しておくことを強くお勧めします。
- 医師の診断書受領日
- 会社が休職を正式に認めた日(休職開始日)
- 就業規則上の休職期間の上限
- 復職予定日または休職満了予定日
これらは出勤簿そのものに書ける情報ではありませんが、労基署の調査や健保組合からの問い合わせがあった際に、出勤簿の記録と合わせて提示できると説明がスムーズになります。
労基署の調査が来たとき、どの書類が確認されるか
労基署の調査(定期監督・申告監督)では、賃金台帳・出勤簿は必ず確認される書類です。休職期間中の記録が不完全な場合、是正勧告の対象になるだけでなく、他の記録全体の信頼性にも疑義が生じます。
調査で見られるポイントと対応準備
労基署の調査官が賃金台帳・出勤簿を確認する際に特に注目するポイントは次のとおりです。
- 記載期間に空白月がないか
- 賃金台帳と出勤簿の労働日数・時間数が一致しているか
- 賃金が0円の月でも項目ごとに記載があるか
- 保存義務期間(現行は当面3年、本則5年)を満たしているか
「前任者が担当していて記録がわからない」という状況は、中小企業では起きやすいですが、調査官には通じません。少なくとも直近3年分の賃金台帳・出勤簿が揃っていて、すぐに提出できる状態にしておくことが最低限の備えです。
会社の状況別チェックポイント
会社の規模や体制によって、優先すべき整備の内容が変わります。自社の状況を確認してみてください。
- 就業規則がない・古い(10人未満の会社または長年更新していない場合):休職期間・無給の定め・社会保険料の処理方法が就業規則に明記されていないと、賃金台帳の記載根拠が曖昧になります。まず就業規則の整備が先決です。
- 産業医が選任されていない(50人未満の会社):医師の診断書のみで休職開始・復職判断を行う場合、その書類の保存と台帳記録の連動を意識的に管理する必要があります。
- 電子データと紙が混在している:勤怠管理システムのデータと手書きの賃金台帳が混在している場合、どちらが「正」かを社内で明確にし、両者の数字が一致していることを定期的に確認してください。
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よくある誤処理とその正しい対応
現場でよく起きる誤った処理には共通のパターンがあります。「うちはこうしていた」という慣行が実は法的に問題のある状態だったというケースは少なくありません。
「賃金が出ない月は台帳を作らなくていい」という誤解
前述のとおり、これは最も多い誤解です。無給月も含めて全期間の台帳を作成・保存してください。ゼロ円でも記録することが、後の復職対応・有給付与計算・退職時精算のすべての基礎になります。
「欠勤」として一括処理している
休職を欠勤として処理していると、傷病手当金の申請書と出勤簿の記載が矛盾する可能性があります。また、就業規則に「欠勤が〇日続いた場合は懲戒の対象」などの規定があれば、休職中の社員に誤って規定を適用してしまう恐れもあります。休職は休職として、記載区分を分けてください。
社会保険料の立替記録が残っていない
休職中の社会保険料を会社が立替払いしたにもかかわらず、その記録を社内に残していないケースがあります。復職後に「いくら控除するか」でトラブルになるだけでなく、社員が途中で退職した場合の精算も困難になります。立替の開始日・金額・精算予定をメモ1枚でもいいので記録として残しておいてください。
まとめ
休職中の賃金台帳・出勤簿は、給料がゼロであっても空白のままにしてはいけません。賃金台帳には「0円」「0日」を明記し、出勤簿では「欠勤」と「休職」を区別して記載することが、法令上の義務であり、後の復職手続き・傷病手当金申請・労基署調査への備えにもなります。社会保険料の処理方法も台帳記載と整合させておくことが重要です。
「自社の記録が正しいかどうか不安」「過去分の記録に不備があるかもしれない」という場合、一人で抱え込まずに専門家に相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、休職・復職対応の実務支援とあわせて、人事労務書類の整備についてもご相談をお受けしています。「うちの場合はどうすればいいか」という具体的な疑問があれば、お気軽にお問い合わせください。
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