中途採用のグレード決めに迷ったら読む等級設定の基本

中途採用のグレード決めに迷ったら読む等級設定の基本 人事制度
Photo by Anna Tarazevich on Pexels

「この候補者、前職は課長だったけど、うちの等級でいうと何グレードになるんだろう?」——中途採用のたびにこんな迷いが生じていませんか。等級制度が整っていない中小企業では、グレード決めを社長の感覚や前職給与に頼りがちです。しかしその曖昧さが、後から既存社員との給与バランスの崩れや、採用候補者との信頼トラブルに発展するケースは少なくありません。この記事では、中途採用のグレード設定を合理的に進めるための基本的な考え方と実務の手順を、わかりやすく解説します。

グレードを感覚で決めると何が起きるか

「前職給与に合わせる」だけでは崩れる社内バランス

中小企業でよく見られるのが、「候補者が前職で月給35万円だったから、うちでも35万円で」という決め方です。一見合理的に見えますが、これは自社の等級体系とまったく連動していないため、既存社員との給与バランスが崩れる原因になります。

たとえば、勤続5年の既存社員Aさんが月給32万円で、入社したばかりの中途採用者Bさんが35万円というケースは実際に起こりえます。業務内容が近ければ近いほど、Aさんの不満はふくらみ、「なぜあの人の方が給料が高いのか」という声が出てくるのは自然なことです。こうした不公平感がモチベーション低下や、最悪の場合には離職につながります。

「感覚」で決めた根拠は候補者にも説明できない

もう一つの問題は、候補者から「なぜこの給与額なのですか?」と問われたとき、明確に答えられないことです。「予算の都合です」「だいたいこの業界の相場で」という説明では、優秀な候補者ほど納得せず、内定辞退につながるリスクがあります。

採用市場では候補者も情報収集をしており、自分のスキルや経験に見合った処遇を求めています。「うちのグレード〇に相当し、その給与レンジの〇万円〜〇万円の中からご経験を考慮してこの額を提示しています」と説明できれば、候補者の安心感はまったく変わります。

グレードを決める3つの判断軸

職務・職責で判断する

グレードを決める最初の軸は「何をやってもらうポジションか」という職務・職責の整理です。たとえば「営業担当」という職種でも、自分で見込み客を開拓しながらクロージングまで単独で動くポジションと、先輩に同行しながら学ぶポジションでは、求められる難易度も責任範囲もまったく異なります。

ポイントは以下の3点で整理することです:

  • 業務の難易度:単純なルーティン業務か、複雑な判断が必要か
  • 判断の自律性:自分で決断できる範囲の広さ
  • 影響範囲:チームや部門全体に影響を与えるか、個人の業務に留まるか

この3軸でポジションを評価することで、「このポジションならグレード3相当」という基準が言語化できます。

経験・スキルで判断する

次の軸は候補者が持っている経験・スキルです。前職での職歴年数、マネジメント経験の有無、専門資格、業界知識などを整理します。抽象的な「即戦力」という言葉で終わらせず、具体化することが重要です。

たとえば:

  • 営業職で法人顧客への提案経験が3年以上ある → 単独での商談対応が可能なスキルレベル
  • 5名以上のチームのプレイングマネージャー経験あり → チームリーダーポジション相当
  • 特定ソフトウェアの資格・上級資格保有 → 社内での専門的な業務を単独で担当できる

こうして経験・スキルを言語化することで、採用担当者が変わっても同じ基準で評価できるようになります。

外部相場(市場価値)で判断する

3つ目の軸は市場価値、つまりそのポジション・スキルレベルの人材が転職市場でどのくらいの給与水準で取引されているかです。信頼性の高い参照ソースとしては、以下のようなものがあります:

  • 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」
  • 「職業情報提供サイト(jobtag)」
  • dodaやマイナビ転職の平均年収データ(補助的に活用)

市場相場を把握することで、「自社のグレード3の給与レンジが市場と比べて低すぎないか」「高すぎて採算が合わないか」というチェックが可能になります。この軸がないと、自社の感覚だけが基準になり、優秀な人材を逃し続けることになります。

グレーディングシートの作り方

等級定義を言語化する

グレーディングシートの核心は「各グレードに何を期待するか」を言葉で定義することです。難しく考える必要はなく、まずはシンプルに3〜5段階の等級でよいでしょう。

たとえば以下のような形です:

  • グレード1:基本業務を上司の指示のもとで遂行できる。ルーティン業務の習得が目標。
  • グレード2:担当業務を自立して遂行できる。イレギュラー対応も一定程度は判断できる。
  • グレード3:担当領域の専門知識を持ち、後輩への指導や業務改善提案ができる。
  • グレード4:チームや部門全体のマネジメントを担い、目標設定・評価・育成を行う。

この等級定義(グレードディスクリプションといいます)があることで、候補者の経験・スキルをどのグレードに当てはめるか判断しやすくなります。

スキルマトリクスで客観化する

等級定義と合わせて用意したいのが「スキルマトリクス」です。業務スキルの項目を縦軸に並べ、習熟度(たとえば「補助が必要」「単独でできる」「後輩に教えられる」の3段階)を横軸にとって、候補者の現状を〇△×などで評価します。

面接や書類選考の段階でこのシートを活用することで、「この候補者はグレード2の要件を8割満たしているが、マネジメント経験がないのでグレード3には届かない」という形で、根拠のある判断ができます。判断プロセスが可視化されるため、採用担当者が複数いる場合でもブレが生じにくくなります。

給与レンジ表を設定する

グレードごとに月給の下限・上限を設定する「給与レンジ表」(バンド型給与制度ともいいます)を作成しましょう。たとえばグレード2であれば「月給25万円〜32万円」のように幅を持たせます。採用時は候補者の経験・スキルに応じてこのレンジ内で決定することで、「このグレードならこの範囲」という社内ルールが確立されます。

給与レンジは市場相場と自社の財務状況の両方を考慮して設定します。「グレード3の上限が市場相場の下限以下」という状態だと、そのポジションでの採用がそもそも難しくなります。年に1回程度、市場相場との乖離がないか見直す習慣をつけることも大切です。

試用期間とグレードの関係で注意すべきこと

試用期間後にグレードを「下げる」のは要注意

「試用期間後に実際の働きぶりを見てグレードを確定しよう」と考えている場合、法的な観点から注意が必要です。労働契約法では、一度提示した労働条件(給与・等級など)を使用者が一方的に引き下げることは、原則として労働者の同意なく行えないと定められています。

つまり「試用期間中だから仮のグレードで、本採用時に下げる可能性がある」という運用をするならば、採用時の雇用契約書や労働条件通知書にその旨を明確に記載しておく必要があります。「試用期間終了後に正式グレードを確定する」という文言と、その確定プロセス(評価基準・時期・手続き)を事前に明示することが、トラブル防止の基本です。

労働条件通知書にグレードを明記する

2024年4月の労働基準法改正により、採用時に書面(または電子)で明示すべき労働条件の範囲が拡大されています。就業場所や業務内容の「変更範囲」なども明示義務の対象となりました。等級制度がある場合は、採用グレード名と号俸(給与の段階)を雇用契約書や労働条件通知書に明記することがベストプラクティスです。

「グレード2として採用し、試用期間(3ヶ月)終了後に業績・行動評価を行い正式グレードを確定する」といった記載があれば、候補者も入社後の見通しを持てます。これは採用候補者との信頼関係の構築にも直結します。

既存社員とのバランスをどう守るか

中途採用者が既存社員より高くなるケースへの対処

中途採用者のグレードと給与を適正に設定した結果、同じ職種・近い職責の既存社員より高くなるケースがあります。これは市場相場が上昇していることが多く、「中途採用者が悪い」のではなく「既存社員の処遇の見直しが遅れている」ことが本質的な問題です。

対処法としては、既存社員にも同じグレーディングシートを当てはめ、適正なグレードに位置づけ直す「ジョブグレードの再整備」を行うことです。その上で、適切なグレードと給与レンジに引き上げるための昇給計画を立てます。一度に全員を修正するのが難しければ、まず職種・部門ごとに優先順位をつけて進めるのが現実的です。

社内への丁寧な説明が定着のカギ

グレード制度を整備したら、既存社員への説明も欠かせません。「なぜグレードが変わるのか」「自分はどのグレードで、何ができれば上のグレードに上がれるのか」を明確に伝えることで、制度への納得感が生まれます。制度の存在だけ告知して中身を説明しないと、「勝手に変えられた」という不信感につながります。

説明の場としては、全体説明会と個別の1on1を組み合わせるのが効果的です。「この制度で自分の成長のロードマップが見えた」と感じてもらえれば、既存社員のモチベーション向上にもつながります。

まとめ

中途採用のグレード決めは、「感覚や前職給与に頼る」から「職務・経験・市場相場の3軸で合理的に判断する」仕組みに変えることが出発点です。グレーディングシートを整備し、等級定義・スキルマトリクス・給与レンジ表をセットで用意することで、採用担当者が変わっても判断がブレない体制ができます。また、試用期間後のグレード確定ルールや労働条件通知書への明記など、法的な観点も忘れてはなりません。既存社員とのバランスを守るためには、中途採用の整備をきっかけに、社内全体のグレード体系を見直すことも有効です。

「等級制度なんてうちの規模では難しい」と感じていても、まずは現場で使えるシンプルな1枚のシートから始めることができます。ウェルセンス株式会社では、中小企業の実態に合わせたグレーディングシートの設計支援や、採用時の労働条件トラブル予防のサポートを行っています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 等級制度がまったくない状態から始める場合、何グレードに分けるのが現実的ですか?

A. 20〜50名規模の企業であれば、まず3〜4段階でスタートするのが現実的です。「スタッフ(一般)」「シニアスタッフ(中堅)」「リーダー」「マネージャー」のような区分で十分です。完璧な制度を最初から作ろうとせず、運用しながら見直すことを前提に始めることが大切です。

Q. 候補者の前職給与が高く、自社の給与レンジを超えてしまう場合はどう対応すればいいですか?

A. まず「このポジションで期待する職務・職責と、候補者のスキルが本当にレンジ上位相当か」を再確認します。それでもレンジを超える場合は、自社のレンジ設定が市場相場と乖離していないか見直すきっかけとしてください。無理にレンジを逸脱して採用すると社内バランスが崩れるため、ポジション自体の等級定義を上方修正するか、採用を見送るかの判断が必要になります。

Q. 試用期間中にグレードや給与を下げることはできますか?

A. 一方的に下げることは、原則として労働契約法上のリスクがあります。試用期間後に正式グレードを確定する運用をする場合は、採用時の雇用契約書や労働条件通知書に「試用期間終了後に評価のうえ正式グレードを決定する」旨を明記し、候補者の同意を得た上で進めることが必要です。事後的に一方的に下げるのは法的トラブルになりかねないため注意が必要です。

Q. 中途採用者のグレードを決めるとき、性別や雇用形態による差をつけてもいいですか?

A. 性別を理由とした不合理な差別は男女雇用機会均等法で禁止されています。また、雇用形態による不合理な格差はパートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)の観点から問題になります。グレードは「職務内容」「責任範囲」「異動・転勤の範囲」に基づいて設定し、その根拠を文書化しておくことが重要です。

Q. グレーディングシートを作ったあと、どのくらいの頻度で見直せばいいですか?

A. 最低でも年1回の見直しを推奨します。特に、市場相場の変動が激しい職種(IT・エンジニア職など)は半年ごとの確認が望ましいです。また、組織が拡大して新しい役割や職種が生まれたタイミング、もしくは採用のたびにグレード判断に迷いが生じるようになったときも、見直しのサインです。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました