人事引き継ぎチェックリスト|優先整備すべき7つの書類と確認順

人事引き継ぎチェックリスト|優先整備すべき7つの書類と確認順 組織運営
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「前任者はもう退職してしまって、何がどこにあるかまったくわからない」——人事担当を引き継いだ初日、そんな状態からスタートした経験はないでしょうか。書類の場所を聞ける人もおらず、とりあえずキャビネットを開けてみたものの、何が揃っていて何が足りないのかさえ判断できない。忙しい日常業務の合間に人事を兼務している方にとって、これは決して珍しい状況ではありません。この記事では、人事引き継ぎチェックリストとして「優先的に確認すべき7つの書類」と、その確認順をわかりやすく解説します。

まず「何がないと法的にアウトか」を知る

人事書類の整備で最初にすべきことは、法定書類の有無を確認することです。「あるかもしれない」という状態のまま放置すると、気づかないうちに労働基準法違反になっているケースがあります。

法定書類が「ない」と何が起きるか

労働基準法は、使用者(会社)に対して一定の書類の作成・保存を義務づけています。これらが存在しない、または保存されていない場合、労働基準監督署の調査が入ったときに是正勧告や罰則の対象になることがあります。書類の不備は「前任者の問題」ではなく、現在の担当者・会社の責任として問われます。

保存義務のある主な書類と保存年限

以下は特に優先して所在を確認すべき法定書類です。

書類・記録の種類 根拠法令 保存年限の目安
労働者名簿 労働基準法 第107条 退職・死亡後3年
賃金台帳 労働基準法 第108条 最後の記載から3年
出勤簿・タイムカード等 労働基準法 第109条 3年
雇用契約書(労働条件通知書) 労働基準法 第15条 退職後3年(実務慣行)
健康診断個人票 労働安全衛生規則 第51条 5年
36協定届(控え) 労働基準法 第36条 有効期間中+適宜保管

なお、2020年施行の労働基準法改正により、賃金請求権の消滅時効が段階的に延長される方向にあるため、賃金関連書類の保存年限も将来的に5年へ移行する可能性があります。最新情報を確認しておくことを推奨します。

書類の「所在」を確認する順番

人事書類の確認は、「法的リスクの高いものから順番に」探すのが最も効率的です。全部を一度に把握しようとすると時間がかかるだけでなく、緊急度の低い書類に時間を取られて本当に必要な確認が後回しになります。

最初に探すべき場所

多くの中小企業では、人事書類は次の3か所のいずれかに保管されています。まず最初にこの順番で確認してください。

  • 鍵付きキャビネット・書庫(総務・経理担当が管理しているケースが多い)
  • 会計事務所・社労士事務所(社外に預けている場合。顧問先があれば必ず連絡する)
  • クラウドストレージまたは社内共有フォルダ(前任者が使っていたサービスを社長や経理に確認)

前任者の個人PCや私用メールに情報がある場合

前任者が退職している場合、人事情報が退職者の個人PCや私用メールに残っているケースがあります。これは個人情報保護法上の安全管理措置として問題になりうる状態です。業務用のPCやアカウントにアクセスできるかを確認し、社内でのアクセス権の整理を同時に行ってください。情報の所在が不明なまま放置することは、情報漏洩リスクにもつながります。

優先整備すべき7つの書類と確認ポイント

引き継ぎ時に最優先で確認すべき書類は、就業規則・36協定・雇用契約書・労働者名簿・賃金台帳・出勤簿・健康診断個人票の7つです。それぞれに「あるかどうか」だけでなく「有効かどうか」を確認する視点が必要です。

就業規則:「存在する」と「有効である」は別物

就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成・届出・周知が義務です(労働基準法 第89条・第90条・第106条)。確認すべき項目は以下の4点です。

  • 労働基準監督署の届出受理印(受理印がなければ届出されていない可能性)
  • 労働者代表からの意見書が添付されているか(第90条)
  • 最後の改定日はいつか(近年の法改正に対応しているか)
  • 社員への周知が実際にされていたか(押し入れの中に眠っているだけでは違反になりうる)

「就業規則はある」という状態でも、届出や周知が完了していなければ法的に機能していません。これは引き継ぎ時の落とし穴として最も多いパターンの一つです。

36協定:有効期限が切れていないか確認する

36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)は、毎年更新が必要な協定です(一般条項の有効期間は原則1年)。前任者が更新を止めたまま退職していた場合、気づかないうちに有効期限が切れており、その状態で残業をさせていると労働基準法違反になります。

協定書の控えを確認し、有効期限の日付を必ず確認してください。もし現在の日付が有効期限を過ぎていた場合は、速やかに社労士または労働基準監督署に相談することを推奨します。

雇用契約書・労働条件通知書の全員分の有無

雇用契約書(または労働条件通知書)は、入社時に全員に交付する義務があります(労働基準法 第15条)。「昔からいる社員のものがない」「アルバイトの分は作っていない」というケースは中小企業で非常によく見られます。従業員名簿と照合し、全員分が揃っているかを確認してください。

社会保険・雇用保険の手続き状況を確認する

書類の保管だけでなく、社会保険・雇用保険の手続きに漏れがないかの確認も引き継ぎ時の重要な作業です。手続きの漏れは遡って修正が必要になり、従業員本人に不利益が生じることもあります。

確認すべき手続きの漏れ

入社・退社時の以下の手続きについて、年金事務所・ハローワークへの届出控えが存在するかを確認してください。

  • 健康保険・厚生年金の資格取得届・資格喪失届(年金事務所)
  • 雇用保険の資格取得届・資格喪失届(ハローワーク)
  • 雇用保険被保険者証の従業員への交付・保管状況

顧問社労士がいる場合の確認方法

顧問の社会保険労務士(社労士)がいる場合、多くの手続きは社労士事務所が代行しているため、記録もそちらにあるケースがほとんどです。引き継ぎ直後にまず顧問社労士へ連絡し、「現在対応している業務と保管書類の一覧を教えてほしい」と依頼するのが最短ルートです。顧問社労士がいない場合は、年金事務所に問い合わせて加入状況の確認ができます。

電子・紙・個人管理が混在している場合の整理方法

クラウドサービス・エクセルファイル・紙台帳・担当者のメール内——複数の場所に情報が散在しているのが、中小企業の人事情報管理の実態です。全体像を把握するには、まず「どこに何があるか」のマップを作ることが先決です。

情報所在マップを最初に作る

手順としては、まず白紙に「書類名/保管場所(物理またはデータ)/最終更新者/備考」の4列を作り、確認できたものを記録していきます。完璧な一覧を作ろうとする必要はありません。「ある」「ない(不明)」「要確認」の3択で埋めていくだけで、緊急度の判断ができるようになります。

従業員数による対応の分岐

確認の優先順位は従業員数によっても変わります。従業員数が10人未満の場合、就業規則の作成義務はありませんが、雇用契約書・労働者名簿・賃金台帳・出勤簿は従業員数に関係なく必要です。10人以上であれば就業規則の作成・届出・周知が義務になるため、就業規則の確認を最優先にしてください。また、産業医の選任義務(常時50人以上)や衛生委員会の設置義務(常時50人以上)なども、規模に応じて発生します。自社の従業員数を基準に、どの義務が適用されるかを確認することが重要です。

引き継ぎチェックリストの使い方と限界

チェックリストは「あるかどうか」の確認には有効ですが、「それが有効かどうか」の判断には専門知識が必要です。チェックリストを使い終わった後のアクションも含めて計画しておくことが大切です。

チェックリストで「見える化」した後にすべきこと

確認が終わり「ない」または「不明」の書類が見つかった場合、次のアクションは書類の種類によって異なります。就業規則の未届出・36協定の失効・雇用保険手続きの漏れなど、法的な是正が必要な場合は、社労士や弁護士に相談のうえ対応順序を決めることを推奨します。「後でやろう」と先送りにすると、その間に新たな入退社が発生してさらに不備が積み重なっていくケースが多く見られます。

「たぶんある」で終わらせないための確認の仕方

「たぶん届け出てある」「昔やったと思う」という状態は、確認済みとは言えません。労働基準監督署への就業規則の届出は、提出時の受理印入り控えが手元にあることで確認できます。36協定の有効期限は協定書の日付を見ることで確認できます。社会保険の加入状況は、年金事務所から「被保険者標準報酬決定通知書」などの公文書の控えがあるかで判断できます。書類が「あること」の証拠を持っているかどうかを基準に確認してください。

不備が見つかっても、ひとりで対応を決める必要はありません。現状を整理した段階で専門家に相談すれば、優先順位や改善計画を一緒に立てることができます。

まとめ

人事引き継ぎで最初にすべきことは、「ないと法的にアウトな書類」の所在確認から始めることです。就業規則・36協定・雇用契約書・労働者名簿・賃金台帳・出勤簿・健康診断個人票の7つを優先し、存在だけでなく「有効かどうか」まで確認することが重要です。書類が見つかったとしても、届出受理印の有無・有効期限・周知状況まで確認して初めて「整備済み」と言えます。電子・紙・個人管理が混在している場合は、情報所在マップを作って全体像を把握してから対応順序を決めてください。

引き継ぎの現状を把握するところまでは自社で対応できても、その先の改善となると判断が難しいものです。ウェルセンス株式会社では、人事引き継ぎの段階的な整理から法的課題の対応まで、専任人事のいない中小企業のご相談をお受けしています。「まず何から始めればいいのか」という段階のご相談も歓迎していますので、お気軽にお声がけください。

よくある質問

Q. 前任者がすでに退職していて、書類の場所を聞ける人が社内にいません。どこから確認すればよいですか?

A. まず顧問の社労士や会計事務所に連絡してください。多くの中小企業では、社会保険・雇用保険の手続きや就業規則の管理を社外の専門家に委託しており、書類の控えもそちらにあることが多いです。顧問先がない場合は、鍵付きキャビネット・社内共有フォルダ・前任者が使用していた業務用PCの順に確認してください。

Q. 従業員が10人未満なので就業規則は不要だと思っていましたが、本当に作らなくてよいですか?

A. 常時10人未満の場合、就業規則の作成・届出義務は法律上ありません(労働基準法 第89条)。ただし、義務がないことと「作らないほうがよい」は別の話です。労働条件のトラブル防止・従業員への説明根拠として、任意で作成しておくことが実務的には推奨されます。また、10人以上になった時点で義務が発生するため、成長段階にある会社は早めに準備しておくと安心です。

Q. 36協定の有効期限が切れていた場合、どう対処すればよいですか?

A. 36協定の有効期限が切れている状態で時間外労働・休日労働を行わせていた場合、労働基準法違反となります。発覚した時点で速やかに労働者代表と新たな36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが必要です。過去の違反状態については、顧問社労士または最寄りの労働基準監督署に相談のうえ、対応方針を確認してください。

Q. 雇用契約書が一部の従業員の分しか見つかりません。ない分はどうすればよいですか?

A. 雇用契約書(労働条件通知書)が存在しない場合でも、現在在職中の従業員に対しては改めて労働条件を書面で確認・交付することができます。新たに「労働条件確認書」などを作成し、双方が署名・押印する形で補完するのが現実的な対処法です。内容に争いが生じる可能性もあるため、作成にあたっては社労士のサポートを受けることを推奨します。

Q. 人事情報が前任者の個人PCに入ったままです。どう対処すればよいですか?

A. 業務用PCであれば会社にアクセス権がありますが、退職者の私用PCや私用メールに情報が入っている場合は法的にデリケートな問題になります。まず前任者に業務データの引き渡しを依頼し、会社の業務用ストレージへの移管を求めてください。連絡が取れない場合や対応が難しい場合は、個人情報保護法上の安全管理措置の観点から、弁護士または社労士に相談のうえ対応方針を決めることを推奨します。

【監修】ウェルセンス株式会社
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