「あ、源泉徴収してなかった——」。先月の勉強会で外部講師に謝礼を振り込んだあと、経理担当からそんな一言が飛んできた経験はありませんか。請求書の通りに振り込んで終わり、のつもりが、後から「本来は所得税を差し引いてから払うべきだった」と気づくケースは、専任人事や経理がいない中小企業では珍しくありません。「もう払ってしまったのに、今さら修正できるの?」「放置したらどうなる?」——この記事では、源泉徴収を忘れた場合の事後処理の手順を、実務ベースでわかりやすく解説します。
外部講師への謝礼に源泉徴収が必要な理由
外部講師への謝礼(講演料)は所得税法上の「報酬・料金等」に該当し、支払う会社側に源泉徴収の義務があります。講師が個人であれば、原則として支払金額の10.21%(支払額が100万円を超える部分は20.42%)を差し引いてから振り込み、翌月10日までに税務署へ納付しなければなりません。
根拠となる法律
この義務は所得税法第204条(源泉徴収義務の規定)および第205条(報酬・料金等に係る税率)に定められています。「給与」ではなく「報酬・料金」として扱われるため、月々の給与計算とは別のルールが適用されます。馴染みのない方ほど見落とすポイントです。
対象になるのは「個人への支払い」
源泉徴収義務が生じるのは、支払先が個人の場合です。講師が法人(株式会社や一般社団法人など)として請求書を発行しているなら、原則として源泉徴収の対象外です。一方、フリーランスや大学教授が個人名で請求書を出している場合は、たとえ金額が少額でも対象になります。
「会社員の先生だから不要」は間違い
よくある誤解が「講師は他社の社員だから、うちは源泉徴収しなくていい」というものです。しかし、その方が個人として受け取る講演料・謝礼は「給与所得」ではなく「報酬・料金等」として扱われます。勤務先がどこかは関係なく、支払う会社側に源泉徴収義務が発生します。
源泉徴収を忘れたことに気づいたら、まず確認すること
源泉徴収をしていなかった場合でも、気づいた時点で正しく対処すれば修正は可能です。「手遅れ」ではありません。ただし、対応の遅れが加算税や延滞税の増加につながるため、確認から行動までをスムーズに進めることが重要です。
支払先が「個人」かどうかを確認する
まず、謝礼を支払った相手が個人か法人かを確認します。請求書の宛名や振込先名義を見て「〇〇コンサルティング株式会社」など法人名であれば、源泉徴収義務は発生していない可能性が高いです。個人名または屋号(「〇〇オフィス」等)であれば次のステップへ進みます。
支払金額と本来の源泉徴収額を計算する
個人への支払いであることが確認できたら、本来差し引くべき所得税額を算出します。計算式は以下の通りです。
- 支払額が100万円以下の部分:支払額 × 10.21%
- 支払額が100万円を超える部分:超過額 × 20.42% + 102,100円
たとえば謝礼を50,000円で支払っていた場合、本来の源泉徴収額は50,000円 × 10.21% = 5,105円(1円未満切り捨て)です。この金額が「納付できていなかった所得税」になります。
顧問税理士がいる場合はすぐに相談する
顧問税理士と契約している場合は、計算結果をもとに早急に相談してください。不納付加算税・延滞税の計算や税務署への対応について、専門家のサポートを受けながら進める方が確実です。顧問税理士がいない場合は、所轄の税務署へ直接問い合わせることもできます。
事後修正の具体的な手順
源泉徴収漏れの修正は、税務署への納付と法定調書の修正が中心になります。自主的に早めに対応することで、加算税の負担を軽減できます。
所轄税務署へ不足分を納付する
計算した不足税額を、所轄の税務署(または金融機関)に「源泉所得税及び復興特別所得税」として納付します。納付書(「所得税徴収高計算書」)は税務署の窓口で入手するか、e-Taxを利用することもできます。納付書の「支払年月」欄には、実際に謝礼を支払った月を記載します。
不納付加算税と延滞税の扱いを理解しておく
源泉徴収漏れは「不納付」にあたるため、本税に加えて不納付加算税と延滞税が発生します。ただし、税務署から指摘される前に自主的に納付した場合は、国税通則法第67条の規定により不納付加算税が軽減される扱い(原則10%のところ、自主申告なら5%程度に軽減)があります。逆に調査や指摘を受けてから対応すると加算税が重くなるため、気づいた時点での対応が得策です。
法定調書の修正・提出
毎年1月末に提出する「法定調書合計表」(および支払調書)に、今回の支払い内容が含まれている場合は、正しい金額で修正・再提出します。翌年1月以降の提出タイミングで正しい内容を記載することで対応できるケースが多いですが、既に提出済みの場合は修正申告の手続きが必要になります。税務署または顧問税理士に確認してください。
講師本人への連絡は必要か
事後修正にあたって、講師本人への連絡が必要かどうかは状況によります。原則として連絡することが望ましいですが、対応の優先度と内容を整理しておくと動きやすくなります。
講師の確定申告に影響する可能性がある
源泉徴収が行われた場合、講師側は確定申告の際に「源泉徴収された税額」として申告に織り込みます。今回のケースでは源泉徴収をしていなかったため、会社側が事後納付した分について講師には「支払調書」の内容が変わる可能性があります。特に講師が個人事業主として確定申告をしている場合は、正しい支払調書を届けることが誠実な対応といえます。
連絡の際に伝えること
講師への連絡が必要と判断した場合、以下の内容を簡潔に伝えましょう。
- 源泉徴収の処理が漏れていたこと
- 不足分の税額を会社側で納付したこと
- 修正後の支払調書を送付する旨(必要な場合)
難しく考える必要はなく、「処理に誤りがあり、修正対応しました」と伝えるだけで十分です。講師の確定申告の時期(翌年3月)前に連絡できると、相手方の手続きへの影響を最小限に抑えられます。
専任の経理がいない場合、修正手続きの判断が難しい——そんなときは、人事労務の実務的なサポートが頼りになります。
再発防止のための社内チェック体制
今回の対応が終わったら、同じミスが起きないよう社内の支払フローを整備することが重要です。仕組みがあれば、専任の経理・人事がいなくても防げます。
支払申請時にチェックする項目を決める
外部講師や個人への業務委託が発生する際、支払申請書や稟議書に「支払先は個人か法人か」「源泉徴収対象か」の確認欄を設けることが効果的です。担当者が変わっても判断できるよう、簡単なフロー図をテンプレートに添付しておくと安心です。
判断基準を一覧表にまとめる
以下のような簡易判断表を社内に共有しておくと、担当者が迷わず対応できます。
| 支払先の種別 | 支払内容 | 源泉徴収の要否 |
|---|---|---|
| 個人(フリーランス・教授等) | 講演料・謝礼 | 必要(10.21%) |
| 法人(株式会社・社団法人等) | 講演料・謝礼 | 原則不要 |
| 個人(他社の従業員・公務員) | 個人として受け取る講演料 | 必要(10.21%) |
| 個人 | 実費精算の交通費・宿泊費 | 原則不要(領収書ベースの実費の場合) |
交通費の扱いに注意する
「謝礼30,000円+交通費5,000円=35,000円を一括振込」という処理をしている場合、全額35,000円が源泉徴収の対象になるリスクがあります。交通費を非課税で扱うためには、実費精算であることが明確な領収書ベースの処理が必要です。「込みで払う」慣行がある場合は、今後の支払い方法も見直しましょう。
人事判断だけで対応するのは不安——そんなときは、専門家の視点から社内フロー全体を見直すサポートを活用する方法もあります。
まとめ
外部講師への謝礼の源泉徴収を忘れた場合でも、気づいた時点で正しく対処すれば修正は可能です。所得税法第204条・第205条に基づく義務であるため、「少額だから」「1回だけだから」と放置することは税務調査時のリスクになります。まず支払先が個人か法人かを確認し、不足税額を計算したうえで所轄の税務署へ自主的に納付することが、加算税を最小限に抑える最善策です。その後、法定調書の修正と講師への連絡を状況に応じて行い、再発防止の社内フローを整えることで、次回からの処理をスムーズにできます。
修正手続きの進め方が不透明なままだと、判断ミスや対応の遅れが生じやすくなります。顧問税理士がいない場合や、自社での対応が難しい場合は、ウェルセンス株式会社への相談もひとつの手段です。人事労務にまつわる実務的なサポートを通じて、今回の修正対応から再発防止体制の構築まで、御社の状況に合わせた支援を提供しています。まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


