従業員のYouTube副業、許可の範囲をどう判断すればいい?

コンプライアンス

「うちの社員、YouTubeで結構稼いでいるらしいんですが、これって申告させないといけないんでしょうか」——人事担当を兼務している経営者の方から、こういった相談が増えています。アルバイトや業務委託を前提に書かれた従来の副業規程では、動画配信という活動形態に「そもそも当てはまるのかどうか」すら判断が難しい。許可すべきか、制限すべきか、規程に何を足せばいいのか。この記事では、YouTubeをはじめとした動画配信系の副業を、実務的に整理するための判断軸をお伝えします。

「収益化=副業」ではない。まず境界線を整理する

YouTubeの活動が会社として管理すべき「副業」にあたるかどうかは、収益の有無だけで判断するのではなく、会社業務への影響・秘密保持リスク・会社の信用への影響という三つの軸で判断するのが正しいアプローチです。

「趣味の動画投稿」が副業になる瞬間

YouTubeの活動は段階的に発展することが多く、「いつから副業になるか」の境目が曖昧です。チャンネル登録者数が数十人規模で広告収益もほとんどない段階は、多くの場合「趣味の延長」として扱って差し支えありません。一方、広告収益が月次で安定して発生している、企業案件(いわゆるタイアップ動画)を受注している、スーパーチャット(視聴者からの投げ銭)が継続的に入っている——こういった段階になると、継続的な経済活動として「副業」の実態があると判断できます。

ただし重要なのは、収益額の大小よりも「会社に対するリスクが生じているか」です。たとえ月数千円の収益でも、顧客情報を扱う担当者が業務内容に触れる動画を投稿していれば問題があります。逆に、会社とまったく関係のないジャンル(料理・ゲーム・旅行など)で月数万円を稼いでいても、業務への支障がなければ制限の根拠は薄いのです。

法律上、どこまで制限できるか

副業を就業規則で制限すること自体は可能ですが、無制限に禁止できるわけではありません。裁判例の積み重ねにより、副業禁止・制限が有効とされるのは主に次の場合とされています。「会社の業務に具体的な支障が生じる」「競業関係にある」「会社の信用・名誉を著しく損なう」「秘密保持・守秘義務に違反する」——これらの要件を満たさない場合、「YouTubeに投稿しているだけ」という理由での一律禁止や懲戒処分は、職業選択の自由(憲法22条)との兼ね合いで法的リスクが伴います。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2018年策定・2022年改定)も、副業・兼業を原則容認する方向を示しています。

許可・不許可を判断するための基準を設計する

属人的な「感覚」ではなく、明文化された判断軸を持つことが、社員への説明責任と会社リスクの両立につながります。判断基準は「リスクの種類」ごとに整理するのが実務的です。

動画配信活動に特有の四つのリスク軸

リスク軸 具体的な懸念 要注意ポジション例
競業・利益相反 自社と競合する商品・サービスを紹介・推薦する動画 営業担当、商品開発担当
秘密保持・情報漏洩 業務内容・顧客情報・社内の雰囲気や内情が動画に映り込む 顧客対応担当、管理職
会社の名誉・信用 会社名・業界への批評、炎上リスクのある発言 管理職、広報・採用担当
労務提供への支障 撮影・編集・ライブ配信による疲弊で本業に影響が出る 全ポジション共通

「許可する」「条件付きで許可する」「不許可」の分け方

上記の四つのリスク軸を使うと、判断をおおむね三段階に分けることができます。まず会社とまったく関係のない趣味系ジャンルで、業務への支障もなく、秘密保持リスクも低い場合は「届出のうえ許可」が現実的な対応です。次に発信内容が業界や職種と関連するが、競業には直接当たらない場合は「会社名・業務内容を明示しないこと」「競合商品を推薦しないこと」などの条件を付けて許可する形が取れます。そして競合商品の紹介・業務上知り得た情報の発信・会社の信用を傷つける可能性がある内容については、不許可または活動停止を求める根拠になります。ポジション別にリスクの重みが異なることも規程に明記しておくと、説明責任を果たしやすくなります。

既存の副業規程をどう補うか

副業兼業規程を全面改訂しなくても、現行規程の「空白」を補足文書や運用ルールで埋めることで、動画配信活動への対応は可能です。

既存規程の「読み替え」では足りない理由

多くの中小企業の副業規程は「他社への雇用」や「業務委託の受注」を想定して書かれています。そのため、「週〇時間以内」「月収〇万円以内」といった数値基準がそのまま当てはまりません。YouTubeの収益は動画の再生数に応じて変動し、一本の動画が数ヵ月後に急に再生されるといったこともあります。また労働基準法第38条が定める「労働時間の通算」は、雇用関係を伴わない個人活動(YouTubeの動画投稿など)には原則として適用されないため、この点で混乱が生じやすい部分です。

補足文書として追加すべき内容

現行規程に追記・補足する場合、最低限以下の項目を定めておくことが実務的です。まず「副業の定義」として、雇用関係の有無を問わず、継続的に収益を得る活動(動画配信・ライブ配信・アフィリエイト等を含む)を届出の対象とすること。次に「届出・申請のタイミング」として、広告収益の発生時・企業案件の受注時など、具体的なトリガーを示すこと。そして「不許可となる場合の基準」として、前項で整理した四つのリスク軸に照らした判断基準を明記すること。この補足文書は就業規則本体に附則として追加するか、運用細則として別文書で管理する方法のいずれかが一般的です。

厚生労働省モデル就業規則を参照する

厚生労働省が公表しているモデル就業規則には副業・兼業に関する条項が含まれており、届出制を採用した条文例が示されています。自社の規程整備の出発点として活用することで、法的な整合性を保ちながら効率よく規程を整備できます。動画配信特有の要素は、このモデルをベースにしたうえで上乗せする形が現実的です。

申告・把握の仕組みをどう整えるか

規程を整備しても、申告の仕組みがなければ実態を把握できません。特に動画配信活動は本人が「副業の認識なし」で続けているケースが多く、会社からの周知と申告フローの整備がセットで必要です。

「副業の認識なし」問題にどう対処するか

YouTubeを始めた当初は純粋な趣味として、気づけば収益化されていた——というケースは珍しくありません。このような場合、従業員側に「届け出なければならない」という認識が生まれにくいことが課題です。対策として有効なのは、就業規則の改訂・補足に合わせて、全従業員に向けた周知文書を配布し、「動画・配信活動を含む継続的収益活動は届出対象であること」を明示することです。また定期的(年に一度など)に副業・兼業の状況を確認する申告書の提出を義務付けることで、申告漏れを防ぐ仕組みになります。

住民税の変動から副業が発覚するリスクも知っておく

YouTubeの広告収益は雑所得として本人が確定申告する義務があります。確定申告の結果、住民税の特別徴収(給与からの天引き)の金額が変動することがあり、経理担当や給与計算担当がそこから副業収益の存在に気づく場合があります。会社として把握を義務付けているわけではありませんが、「発覚する経路がある」ことを念頭に置いておくと、事後的なトラブルへの備えになります。従業員に対しても、申告義務があることを規程上・周知文書上で触れておくと、「知らなかった」によるトラブルを避けやすくなります。

職種・ポジション別の判断で「一律禁止」を避ける

「一律禁止」は法的リスクを伴い、従業員の納得感も得られません。職種・ポジションごとのリスクの違いを踏まえた、合理的な判断設計が重要です。

リスクの重みが高いポジションとその対応

管理職・役員クラスは、会社の内情・経営方針・業界批評を発信することによる信用毀損リスクが高い層です。この層については、発信内容の事前確認義務や会社名・役職の非公開を条件とすることが合理的な制限として認められやすいといえます。顧客情報を扱う部署(営業・CS・経理など)は、業務の一場面が動画に映り込む守秘義務リスクが高く、業務関連コンテンツの投稿禁止を条件とする必要があります。競合リスクについては、自社の事業領域と動画のジャンルが重なる場合に限定して制限する形が、法的整合性を保ちやすいです。

リスクが低い場合は届出のうえ容認する

会社の業種・業務内容とまったく関係のない趣味系チャンネルを運営している一般従業員については、届出を提出させたうえで許可する運用が、法的リスクを下げつつ従業員の納得感も確保する現実的なアプローチです。「禁止できないから黙認」ではなく、「届出を受けたうえで許可した」という記録を残すことが、後々のトラブル防止につながります。

判断基準の設計や、既存規程の補足方法について「うちの場合はどう考えればいい?」と迷ったときは、専門家に相談することで余計なリスク判断の負担を減らせます。

まとめ

従業員のYouTube副業への対応は、「禁止するか・しないか」の二択ではなく、「リスクの種類ごとに合理的な基準を設けて管理する」という発想が出発点になります。収益額だけで判断するのではなく、競業・秘密保持・信用・労務への支障という四つのリスク軸で職種・ポジション別に判断基準を設計し、申告フローと合わせて整備することが実務上の正解に近い対応です。既存の副業規程を全面改訂する必要はなく、補足文書と運用ルールで「空白」を埋めることから始めることができます。

ただ、「自社の規程に具体的に何を追加すればいいか」「このケースは許可してよいのか」という個別判断は、規程の現状や業種・従業員構成によって変わります。人事の判断を一人で抱えているからこそ、外部の視点が役立つ場面です。ウェルセンス株式会社では、就業規則の副業条項の補足設計から、個別ケースの判断基準づくりまで、専任人事がいない中小企業の実情に合わせた形でご支援しています。「まずは話を聞いてみたい」という段階でも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 社員がYouTubeで収益を得ていることを知ったのですが、就業規則に「副業禁止」と書いてある場合、すぐに懲戒処分できますか?

A. 就業規則に副業禁止の規定があっても、「動画投稿をしているだけ」という事実のみをもって懲戒処分することは法的リスクを伴います。裁判例の積み重ねでは、副業禁止・制限が有効とされるのは「業務への具体的支障」「競業関係」「秘密保持違反」「会社の信用毀損」のいずれかに該当する場合とされています。まず対象社員に事実確認を行い、活動内容・発信ジャンル・収益規模を把握したうえで、上記いずれかのリスクが具体的に生じているかを判断することが先決です。

Q. 副業を届出制にした場合、会社はどこまで内容を確認・管理する必要がありますか?

A. 届出制の目的は「把握と判断」であり、細部まで監視する義務はありません。実務的には、活動のジャンル・チャンネルの概要・収益の有無・想定される活動時間を届出事項とし、四つのリスク軸(競業・秘密保持・信用・労務支障)に照らして許可・条件付き許可・不許可を判断する運用が適切です。届出内容の変更があった場合(ジャンルの変更・企業案件の受注開始など)には再届出を義務付けておくと、実態把握の精度が上がります。

Q. YouTubeの活動は労働基準法の労働時間通算の対象になりますか?

A. YouTubeへの動画投稿・配信は雇用関係を伴わない個人活動であるため、労働基準法第38条が定める「事業場を異にする場合の労働時間通算」の対象外とされています(厚生労働省の副業・兼業ガイドラインにおける整理)。したがって、会社が「副業先の労働時間と通算した法定労働時間管理」を行う義務は生じません。ただし、YouTube活動による疲弊が本業の労務提供に支障を来している実態があれば、「労務提供上の支障」として制限の根拠になり得ます。

Q. 副業規程を整備していない段階で、社員から「YouTubeをやりたい」と相談された場合、どう対応すればいいですか?

A. 規程が整備されていない場合でも、「現在規程を整備中であること」「整備が完了するまでは届出をもって個別に判断する」旨を伝える暫定対応が現実的です。その際、チャンネルの概要・発信ジャンル・収益化の予定・会社名や業務への言及有無を口頭または簡易な様式で確認し、四つのリスク軸に照らした判断を記録として残しておくことで、後々のトラブルを防ぎやすくなります。規程整備と並行して個別対応を進める姿勢を示すことが、従業員の信頼感にもつながります。

Q. 社員が会社の愚痴や内部事情をYouTubeで発信している場合、どのような対応が取れますか?

A. 会社の内部事情・信用を毀損する発信は、副業の許可・不許可以前に、就業規則上の「会社の名誉・信用を傷つける行為の禁止」や「秘密保持義務」に抵触する可能性があります。まず発信内容を確認し、秘密情報の漏洩や会社への具体的な名誉毀損に該当する内容があるかを判断します。該当する場合は、副業規程の適用だけでなく、就業規則上の服務規律違反として対応できるケースがあります。ただし懲戒処分の判断は慎重に行う必要があるため、必要に応じて専門家に相談することを推奨します。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました