副業情報を社員が話せる職場にするには?

副業情報を社員が話せる職場にするには? 採用・定着
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「副業はOKにした。でも、何をしているのか全然わからない」——成長途上の会社で副業を解禁した経営者・人事担当者から、こうした声をよく耳にします。聞こうとすると「監視されている」と思われないか不安で、結局なんとなく容認したまま実態が見えない状態が続く。副業を許可した本来の目的である「社員の成長支援」や「スキルの本業活用」にはほど遠い現状に、もどかしさを感じている方も多いのではないでしょうか。この記事では、なぜ社員は副業情報を話しにくいのかという心理的背景から、開示を無理なく促すための対話設計まで、実務に使える視点を整理してお伝えします。

副業情報の開示を求めることは、どこまで許されるのか

結論から言えば、業務上の合理的な理由がある情報であれば、会社は申告を求めることができます。ただし「知りたいから聞く」という姿勢は、法的にも信頼関係の面でも問題をはらみます。

厚生労働省ガイドラインが示す「申告できる範囲」

厚生労働省が2018年に策定し2022年に改定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、使用者は副業・兼業に関して必要な情報の申告を労働者に求めることができると明示されています。ただし、その範囲は業務上の必要性に基づくものに限られます。具体的に申告を求めることが認められやすい情報は、競業する業種・業務かどうか、副業先での週あたりの労働時間、業務の性質(秘密情報に関わるものか等)といった項目です。これらは会社が法令遵守やリスク管理を行うために必要な情報として合理的に位置づけられます。

「スキルを教えてほしい」は義務ではなく任意の依頼として設計する

一方で、「どんなスキルを身につけたか」「副業で得た知見を本業に活かしてほしい」という情報収集は、法的な申告義務の範囲外です。これを義務として求めることはできません。スキルの共有はあくまでも任意の協力として設計する必要があります。「報告させる」ではなく「話してもらえる関係をつくる」という発想の転換が、実務上の出発点になります。

労働基準法第38条の通算管理は「対話の正当な入口」になる

労働基準法第38条は、複数の使用者のもとで働く場合に労働時間を通算して管理することを使用者に義務づけています。本業と副業の労働時間を合算して法定労働時間(原則週40時間)を超えれば、時間外割増賃金の問題が生じます。この「労働時間の把握」は法令遵守の観点から正当に申告を求められる事項です。ここを入口として「過重労働になっていないかを確認したい」という文脈で対話を始めることは、管理的に見えず、かつ法的にも筋が通っています。

社員が副業を話したがらない心理的な理由

副業情報を開示しない社員に「隠している」という意識があるとは限りません。開示を妨げる心理的な構造を理解することが、対話設計の前提になります。

「許可を取り消されるかもしれない」という恐怖

副業を容認されている立場の社員にとって、内容を詳しく聞かれることは「問題視されているのではないか」というシグナルに映ります。とくに就業規則上の許可基準が曖昧な場合、社員は「話したら副業をやめさせられるかもしれない」という防衛心理を持ちやすくなります。この恐怖は副業に対するルールが明文化されていない会社ほど強く出る傾向があります。

プライバシー感覚と「仕事外の時間は自分のもの」という意識

副業は就業時間外の活動です。「休日や夜の過ごし方まで報告しなければならないのか」という感覚を持つ社員は少なくありません。これはプライバシーに対する自然な感覚であり、侵害されたと感じれば信頼関係の損傷につながります。副業情報を扱う際は、個人情報保護法の観点からも「なぜこの情報が必要か」という利用目的を明確にして収集することが、法的にも人間関係の面でも不可欠です。

「副業をしていることを大げさにしたくない」という遠慮

副業の内容が趣味の延長であったり、収入が少額であったりする場合、社員自身が「わざわざ話すほどのことではない」と感じているケースもあります。また、副業を認めてもらっていることへの遠慮から、目立つ行動を避けようとする心理も働きます。これは開示を拒んでいるのではなく、話す場や機会が設計されていないことが原因であることがほとんどです。

副業情報を隠す必要がない心理的安全性をつくる条件

心理的安全性とは、「発言しても不利益を受けない」という信頼感のことです。副業情報の文脈では、「話しても評価が下がらない」「副業を取り消されない」という安心感が、情報開示の前提条件になります。

ルールの「可視化」が安心の出発点

まず取り組むべきは、副業に関するルールを就業規則や社内ガイドラインに明記し、社員に周知することです。「競業しなければOK」「週○時間以内であれば問題なし」といった基準が明確であれば、社員は「自分の副業が問題になるかどうか」を自分で判断できます。基準が不明確なままでは、社員は情報を出すことを避け続けます。現在就業規則に副業規定がない場合や、規定があっても「会社の許可を得ること」としか書かれていない場合は、まず許可基準の明文化が先決です。

「情報をどう使うか」を事前に伝える

副業スキルを本業に活かしたいという経営者の意図は正当ですが、社員にとってはその目的が見えなければ「管理したいだけ」に映ります。「副業で身につけたスキルを社内プロジェクトで使えるようにしたい」「外注費を削減できるかもしれない」という会社側の意図を先に開示することで、スキル共有の意味が社員にとって腑に落ちやすくなります。「情報提供が自分にとっても得になる可能性がある」と感じられると、開示へのハードルは大きく下がります。

話した結果が「評価に影響しない」ことを明示する

1on1や面談で副業の話題を出す場合、「これは評価とは無関係な場であること」を明示してから始めることが重要です。「副業をしているから昇進に影響するのでは」という不安が頭をよぎる状況では、どれだけ良好な関係でも情報は出てきません。評価と分離した「スキル共有の場」として対話を設計することが、心理的安全性を担保する実務的な手段です。

副業スキルを本業に活かすための対話設計

スキル情報の共有は義務ではなく、社員が「話したい」と思える環境と仕組みをつくることで自然に実現します。以下に、実務で機能しやすい対話設計のポイントを整理します。

既存の1on1・面談の場を活用する

新たに「副業報告の場」を設けると、それだけで警戒心が生まれます。すでに実施している1on1や評価面談の中に、自然な流れで「最近、仕事以外でチャレンジしていることはある?」という問いかけを組み込む方が、心理的ハードルははるかに低くなります。副業をしていない社員にとっても違和感のない設問にすることで、副業の有無を前提にした質問になりません。

「スキルカード」や「社内プロフィール」の整備

副業情報だけでなく、全社員のスキル・得意領域・副業・資格・学習中の分野を記載する社内プロフィールシートを整備する方法があります。副業の情報だけを聞き出そうとするよりも、「みんなのスキルを把握して活用したい」という文脈に乗せることで、副業情報の開示が「特別なこと」ではなくなります。少人数の会社では、こうしたシートをスプレッドシートで運用するだけでも十分機能します。

「副業スキルを活かした実績」を社内で共有する

副業で得たWebデザインスキルで社内資料の品質が上がった、Webマーケティングの知識を活かして採用ページを改善できた——こうした事例を社内で共有することが、情報開示のロールモデルになります。「話してよかった」「スキルを認めてもらえた」という体験が積み重なることで、次の社員が情報を出しやすくなる文化が育まれます。経営者・人事担当者が意識的にこうした成功体験を可視化することが、文化形成の鍵です。

副業申請書が「形骸化」しないための見直しポイント

副業申請書に「会社名」と「業務内容(ライター)」しか記載がない状態では、スキル情報も労働時間管理も機能しません。申請書の設計を見直すことで、対話の質が変わります。

申請書に盛り込むべき項目の整理

項目 目的 任意・必須の区分
副業先の業種・業務内容 競業チェック 必須
週あたりの想定労働時間 労働時間通算管理(労働基準法第38条) 必須
本業との兼務における支障の有無 業務パフォーマンス管理 必須
習得中・習得済みのスキル 本業活用・スキル把握 任意(協力依頼として記載)
本業に活かせる可能性のある知識・経験 社内リソース活用 任意(協力依頼として記載)

申請書の文言が「義務感」を生まないよう工夫する

スキル欄を任意項目として設ける場合、「記載できる場合はご協力ください」という一文を添えることが重要です。「なぜこの欄があるのか」の説明を申請書の冒頭に短く書くことも有効です。「皆さんの強みを社内でも活かせる機会をつくるために設けています」といった一文があるだけで、記載率が変わります。

会社の規模別の対応指針

従業員数や人事体制によって、現実的な対応の範囲は異なります。専任人事がいる場合は、申請書の運用・定期的な面談によるフォローアップ・スキル台帳の整備まで体系的に進められます。一方、兼務人事の場合は、申請書の項目見直しと1on1での自然な問いかけを組み合わせるだけでも、情報の流通量は大きく変わります。まずできる範囲から始めることが重要で、「完璧な制度」よりも「話せる関係」の構築が先です。

副業ルールや対話の仕組みづくりは、人事だけで試行錯誤するより、外部の専門家に一度相談することで方針が大きく変わります。

まとめ

副業情報を社員に話してもらうために必要なのは、「報告を義務化すること」ではなく、「話しても安全だと感じられる環境をつくること」です。厚生労働省のガイドラインや労働基準法第38条を根拠に労働時間の申告は求められますが、スキル共有はあくまでも任意の協力として設計する必要があります。社員が副業情報を話さない背景には、評価への影響やプライバシーへの不安、話す場がないという構造的な問題があります。まずルールを可視化し、情報の使途を開示し、評価と切り離した対話の場をつくることが出発点です。副業申請書の項目見直しや1on1への問いかけの組み込みといった小さな改善から始めることで、「副業スキルが本業で活かせる職場」への道が開けてきます。

就業規則の整備や人事対話の設計方法について、具体的なアドバイスが必要な場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。専任人事がいない環境での実装方法も含め、御社に合った形でサポートします。

よくある質問

Q. 副業を許可している場合、社員に内容の開示を義務づけることはできますか?

A. 競業の有無や副業先での労働時間など、会社が法令遵守やリスク管理のために必要とする情報については、就業規則に申告義務を定めることで申告を求めることができます。ただし、副業で得たスキルの詳細や収入額など、業務上の必要性が認めにくい情報の開示を強制することは適切ではありません。スキル共有は任意の協力依頼として設計することが、法的にも信頼関係の面でも正しいアプローチです。

Q. 副業の情報を聞いたら「監視されている」と思われてしまわないか心配です。

A. 聞き方と文脈の設計が重要です。「何をしているか把握したい」という目的ではなく、「過重労働になっていないか確認したい(労働基準法第38条に基づく労働時間の通算管理)」「皆さんのスキルを本業でも活かせる機会をつくりたい」という目的を先に伝えることで、管理的な印象を大幅に軽減できます。また、評価と切り離した場であることを明示してから対話を始めることも効果的です。

Q. 副業申請書はあるのですが、ほとんど機能していません。どこから改善すればいいですか?

A. まず申請書の項目を見直すことをお勧めします。競業チェックのための業種・業務内容と、労働時間通算管理のための週あたり労働時間は必須項目として設け、スキル共有に関する欄は「任意・協力依頼」として追加するのが実務的です。項目を追加する際は、冒頭に「なぜこの情報を収集するか」の説明を一文添えると、社員の不安が軽減され記載率が上がりやすくなります。

Q. 副業で競合他社の仕事をしている可能性がある社員がいます。確認することはできますか?

A. 就業規則や雇用契約に競業避止義務が定められている場合、競業の有無を確認することは正当な申告事項です。ただし、競業避止条項の有効性は範囲・期間・職種・対価などの要素によって限定的に判断されるため、単に「競合他社と接点がある」というだけで制限するのは難しい場合があります。まず就業規則の競業避止条項の内容を確認し、必要に応じて社会保険労務士や弁護士に相談することをお勧めします。

Q. 専任人事がいない会社でも、副業情報の管理や対話の仕組みは整備できますか?

A. 整備できます。専任人事がいない環境では、まず副業申請書の項目見直しと、既存の1on1や面談の中に自然な問いかけを組み込むことが現実的な出発点です。スキル把握には全社員分のプロフィールシートをスプレッドシートで管理するだけでも機能します。「完璧な制度」を一度に構築しようとするより、「話せる関係」を少しずつ育てることが、少人数の職場では最も効果的なアプローチです。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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