感染症で自宅待機させたら給与は払う?3つの判断基準を解説

感染症で自宅待機させたら給与は払う?3つの判断基準を解説 労務管理
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「症状はないけど、念のため今週は休んでいてほしい」——そう社員に伝えた翌日、ふと気づく。「給与は払うべきだったのか?」感染症の流行シーズンになると、こうした判断に悩む経営者・人事担当者は少なくありません。自宅待機を命じた場合の給与の支払い義務は、「会社が命じたか」「本人が希望したか」「法令で禁止されているか」という3つの軸で結論が変わります。この記事では、判断基準を具体的なケースに当てはめながら、実務でそのまま使える形で解説します。

給与支払い義務は「誰の判断で休ませたか」で決まる

感染症による自宅待機の給与扱いは、「休業の原因が誰にあるか」によって法的な結論が変わります。労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業には平均賃金の60%以上の休業手当支払いを義務づけています。逆に言えば、会社側の判断で休ませたかどうかが、支払い義務の有無を左右する最大のポイントです。

休業手当の根拠となる労働基準法第26条

労働基準法第26条は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に対して、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いを義務づけています。ここでいう「使用者の責に帰すべき事由」は、会社の過失に限らず、経営上・業務上の判断による休業を広く含む概念として解釈されています(最高裁・ノース・ウエスト航空事件等)。感染症対応の場面でも、この考え方が判断の出発点になります。

判断の前に確認すべき3つの問い

給与支払い義務を判断する前に、以下の3点を確認してください。いずれかによって、取り扱いが異なります。

  • 会社が自主的に「休んでほしい」と命じたか
  • 社員本人が「休みたい」と申し出たか
  • 法令(感染症法・労働安全衛生法)に基づく就業禁止が適用されるか

この3つの問いへの答えが、以降で解説する「3つのパターン」に対応しています。

パターン別の判断基準:3つのケースに分けて整理する

感染症による自宅待機は、大きく3つのパターンに分類できます。それぞれで休業手当の支払い義務が異なるため、まず自社のケースがどのパターンに該当するかを確認することが最初のステップです。

パターン 休業の主体 休業手当の支払い義務
会社が自主的に命じた場合 会社(使用者) 原則あり(平均賃金の60%以上)
社員本人が申し出た場合 労働者 原則なし(有給消化または欠勤扱い)
法令に基づく就業禁止 法令(行政) 原則なし(不可抗力的要素が強い)

会社が自主的に「念のため休んでほしい」と命じた場合

症状が軽い・確定診断が出ていない・濃厚接触の疑いがある——こうした理由で会社が自主的に待機を命じた場合は、法的義務がないにもかかわらず会社の判断で休業させたことになります。このケースは「使用者の責に帰すべき事由」に該当するとみなされやすく、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務が生じます。たとえば「インフルエンザの症状があるから今日は帰っていて」と上司が口頭で伝えた場合も、このパターンに含まれます。後から「会社が命じたのだから休業手当が必要だったのでは」と指摘されるリスクがあるため、注意が必要です。

社員本人が「休みたい」と申し出た場合

社員自身が「体調が不安なので休ませてほしい」と申し出て、会社がそれを認めた場合は本人都合の休業になります。この場合、休業手当の支払い義務はなく、有給休暇の取得または欠勤として処理するのが一般的です。ただし、会社が「うん、いいよ」と同意しただけでなく、実質的に会社が休むよう誘導・促していた場合は、パターンAに近い扱いになる可能性もあります。判断に迷う場合は、やりとりを記録に残しておくことが重要です。

法令に基づく就業禁止が適用される場合

感染症法第18条に基づく就業制限、または労働安全衛生法第68条に基づく就業禁止が発動したケースは、「会社都合でも本人都合でもなく、法令の要請による休業」として扱われます。この場合、不可抗力的要素が強いとして休業手当の支払い義務はないとする解釈が有力です。ただし、法令上の就業禁止に該当しない感染症(後述)で会社が独自に命じた場合はパターンAの扱いになりますので、感染症の種別を正確に把握することが実務上のポイントになります。

インフルエンザ・新型コロナは法定の「就業禁止」対象なのか

実務でよく混同されるのが、感染症法上の「就業制限」の対象になるかどうかという点です。結論から言えば、季節性インフルエンザと2023年5月以降の新型コロナウイルス感染症は、感染症法の就業制限(法定の就業禁止)の対象外です。

感染症の分類と就業制限の関係

感染症法は感染症を一類〜五類等に分類し、一定の類型に対して就業制限(第18条)を設けています。飲食物取扱業者等に従事する者が三類感染症(腸管出血性大腸菌感染症・コレラ等)に罹患した場合は、都道府県知事が就業制限を命じることができます。こうした法定の就業制限に従った休業は「不可抗力」に近い扱いになります。一方で、五類感染症に分類される季節性インフルエンザや、2023年5月以降に五類へ移行した新型コロナウイルス感染症には、この就業制限は適用されません

「五類」感染症での会社命令は会社都合になりやすい

インフルエンザ・新型コロナが五類感染症である以上、会社が「罹患したから出勤禁止」と命じた場合は、法的義務のない自主的な措置とみなされます。つまりパターンAと同じ構造になり、休業手当の支払い義務が生じる可能性があります。「コロナだから当然休ませた」という感覚で処理してしまうと、後から「なぜ休業手当を払わなかったのか」と問題になることがあります。なお、インフルエンザの場合に学校保健安全法が適用されるのは学生・児童が対象であり、会社員には適用されません。この点も混同しやすいポイントです。

労働安全衛生法第68条の就業禁止とは

労働安全衛生法第68条は、「伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、就業を禁止しなければならない」と規定しています。ただし、これはあくまで事業者に就業禁止義務を課すものであり、対象となる疾病は限定的です。感染症法上の就業制限と組み合わせて判断する場面もありますが、インフルエンザや新型コロナは通常この条文の直接適用を受けるわけではありません。就業禁止の根拠条文と対象感染症の範囲を正確に把握することが、誤った運用を防ぐ鍵となります。

【ポイント】「とりあえず有給で処理」は避けるべき。会社命令の休業なら休業手当が原則。判断に迷ったら、人事労務の専門家に相談することをお勧めします。

「有給休暇で処理」は正しい対応か

会社都合の自宅待機なのに有給休暇で処理してしまうと、社員の有給休暇が不当に消費されることになり、後から問題になるリスクがあります。有給休暇と休業手当の使い分けは、正確に理解しておく必要があります。

有給休暇は「労働者が請求したとき」に使えるもの

有給休暇(年次有給休暇)は、労働者が取得を希望した場合に使える権利です。会社が自主的に命じた自宅待機を「有給で処理してください」と会社側から一方的に指定することは、労働者の有休取得権を侵害する可能性があります。会社都合の休業に対して休業手当を支払う代わりに有給を消化させることは、原則として認められていません。

社員が「有給でいい」と言った場合はどうなるか

社員本人が「有給休暇として処理してほしい」と申し出た場合は、本人の意思に基づく有給取得として処理することは可能です。ただし、会社側から誘導・促した場合は問題になりえます。また、社員が有給を選択した場合でも、後から「あれは会社都合だったから休業手当が必要だったはず」と主張するケースもゼロではないため、経緯を記録に残しておくことをお勧めします。

就業規則に感染症の規定がない会社は今すぐ整備を

20〜50名規模の企業では、就業規則に感染症・伝染病に関する就業禁止規定や、その場合の賃金・休業手当の取り扱いが明記されていないことが多く、いざというときに場当たり的な対応になってしまいがちです。就業規則への記載が、トラブル防止の最大の予防策です。

就業規則に盛り込むべき項目

感染症対応に関して就業規則に記載しておきたい主な項目は以下の通りです。

  • 感染症罹患時・濃厚接触時の出勤停止・就業禁止の規定
  • 就業禁止の根拠(会社命令か法令に基づくものか)の区分け
  • 会社都合の待機命令に対する休業手当の支給方針
  • 法定就業禁止に該当する場合の賃金・休業手当の取り扱い
  • 有給休暇との関係(本人が希望した場合の取り扱い)

これらを事前に定めておくことで、感染症流行時に担当者が迷わず対応できるようになります。

産業医・専門家がいない場合の対処法

従業員50名未満の事業所には産業医の選任義務はなく、専任の人事担当者もいないケースがほとんどです。こうした企業では、就業規則の整備や個別ケースへの対応に迷う場面が多くなります。感染症対応の規定整備は、社労士や人事労務の専門家に相談しながら進めることが現実的です。また、労働局の総合労働相談コーナーでも基本的な相談を受け付けています。重要なのは、「問題が起きてから考える」ではなく、流行シーズン前に方針を整えておくことです。

【相談のポイント】就業規則の改定や具体的なケースの判断に迷ったら、ウェルセンス株式会社のような人事労務の専門家に相談することで、その後のリスク対策が大きく変わります。

まとめ

感染症による自宅待機の給与・休業手当は、「会社が命じたか(会社都合)」「本人が申し出たか(本人都合)」「法令による就業禁止か」の3つのパターンで結論が変わります。季節性インフルエンザや五類移行後の新型コロナは法定就業禁止の対象外であり、会社命令で休ませた場合は原則として休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務が生じます。有給休暇での処理は、本人が希望した場合を除いて適切ではありません。そして何より重要なのは、就業規則に感染症対応の規定を事前に整備しておくことです。

「うちの会社のケースはどのパターンに当たるのか」「就業規則に感染症の規定を入れたい」といった場合は、ウェルセンス株式会社へお気軽にご相談ください。中小企業の人事労務対応を専門とするチームが、貴社の状況に合わせた実務的なアドバイスをご提供します。

よくある質問

Q. インフルエンザで「出社しないで」と伝えたら、休業手当を払わないといけませんか?

A. 原則として、払う必要があります。季節性インフルエンザは感染症法の就業制限対象外であるため、会社が独自に「出社しないでほしい」と命じた場合は会社都合の休業になります。労働基準法第26条に基づき、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務が生じます。

Q. 社員が「有給休暇でいいです」と言ったので処理しましたが問題ありませんか?

A. 社員本人が自発的に有給取得を希望した場合は、原則として問題ありません。ただし、後から「会社に言われた」と主張されるリスクを避けるため、本人の意思によるものであることをメールや書面で記録に残しておくことをお勧めします。

Q. 新型コロナで自宅待機させた場合、2023年5月以降は扱いが変わりましたか?

A. はい、変わっています。2023年5月に新型コロナウイルス感染症が五類感染症へ移行したことで、感染症法上の就業制限(法的就業禁止)の対象外となりました。そのため、会社が自主的に待機を命じた場合は季節性インフルエンザと同様の扱いとなり、休業手当の支払い義務が生じます。

Q. 就業規則に感染症の規定がない場合、どのような対応が必要ですか?

A. まず現状を確認し、感染症罹患時の就業禁止規定・賃金取り扱い・有給休暇との関係を就業規則に明記することをお勧めします。記載がない状態では、トラブル発生時に会社・社員どちらにとっても判断の根拠がなくなります。社労士や人事労務の専門家に依頼するのが最も確実です。

Q. 休業手当と有給休暇は、どちらを優先して使うべきですか?

A. 会社都合の休業であれば、休業手当を支払うのが法律上の原則です。会社側から有給休暇の使用を指定・強制することは認められていません。一方、社員が自ら有給取得を希望した場合はその意思を尊重できます。どちらを適用するかは「休業の主体が誰か」で判断してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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