人事制度を作るべきタイミングの見極め方

人事制度を作るべきタイミングの見極め方 人事制度
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「人事制度って、もう少し社員が増えてから考えればいいか」——そう思いながら、気づけば評価の不満や早期離職が続いている。専任の人事担当者もいないまま、採用・労務・現場対応を掛け持ちしている経営者や兼務人事の方にとって、人事制度の整備は「大事だとわかっているけれど、いつ手をつければいいかわからない」課題の筆頭です。この記事では、会社の成長フェーズと照らし合わせながら、人事制度を作るべき具体的なタイミングと判断の基準を整理します。

「まだ早い」という思い込みが会社を危うくする

人事制度は大企業だけのものではない

「人事制度は社員が100人を超えてから整えるもの」という認識は、中小企業の経営現場に根強く残っています。しかし実際には、社員数が10名を超えたあたりから、制度がないことによるトラブルが急増します。評価の根拠を説明できない、昇給の基準が曖昧、口頭での約束が後から問題になる——これらはすべて、制度がないことで起きる典型的な事例です。

人事制度とは、何千万円もかけて作る重厚なシステムである必要はありません。「誰が、どんな基準で、どのように評価されるか」を文書化した仕組みであれば、それが人事制度の出発点です。小規模でも、フェーズに合った最小限の制度から始めることが重要です。

「社長の鶴の一声」文化のリスク

創業期はどうしても、経営者の判断ひとつで物事が動く文化が育ちます。それ自体は意思決定のスピードという意味でメリットでもあります。しかし社員が増えるにつれ、「なぜあの人が先に昇格したのか」「なぜ給与が上がらないのか」という疑問に、経営者が属人的にしか答えられない状況が不満の温床になります。

透明な基準がないまま運用を続けると、不公平感から離職が起き、採用コストが膨らむという悪循環に陥ります。人事制度は「管理のためのルール」ではなく、「社員が安心して働くための約束事」として機能します。

社員数と会社規模で見る、整備すべき制度のロードマップ

社員数10名未満:トラブル防止の基盤を作る

法的には、常時10人未満の事業場には就業規則の作成義務はありません(労働基準法第89条)。しかし、義務がないことと「なくても安全」は別の話です。雇用契約書や労働条件通知書が整備されていない場合、労使間でトラブルが起きたときに会社側が著しく不利な立場に置かれます。

この段階で最低限整えておきたいのは、雇用契約書・労働条件通知書の整備と、基本的なルール(休暇・残業・給与計算の根拠)の文書化です。完璧な制度は不要ですが、「口頭で決めていた」が後の紛争につながるリスクを減らすための記録習慣を作る時期です。

社員数10〜29名:制度整備の最初のターニングポイント

10名を超えた時点で、就業規則の作成・届出が法的義務となります。ここを一つの明確な節目として捉えてください。人事制度を作るべきタイミングの第一のポイントです。アルバイトやパートを含めた「常時10人」のカウントを見落としているケースも多く、気づかないうちに法令違反になっていることがあります。

さらに20名前後になると、管理職(リーダー)が生まれ始め、チームによって評価や指導のやり方がバラバラになる問題が顕在化します。「等級の定義」と「評価の基準」を簡単でも文書化することで、管理職が判断の軸を持てるようになります。この段階での評価制度の整備は、中小企業にとって最もコストパフォーマンスの高い投資のひとつです。

社員数30〜49名:採用競争力と定着率に直結する段階

30名を超えると、「キャリアパスが見えない」という理由での早期離職が増えてきます。中堅・ベテラン社員が自分の将来像を描けないまま在籍し続けることも、モチベーション低下の大きな要因です。人事制度を作るべきタイミングの第二のポイントとして、この段階には等級・賃金テーブル・キャリアパスの可視化に加えて、育休・メンタルヘルス対応の社内ルール整備が必要になります。

また、同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)は2021年4月から中小企業にも適用されています。正社員と非正規社員の待遇差を合理的に説明できる評価・賃金制度がないと、社員から説明を求められた際に対応できず、法的リスクに発展します。

「今すぐ制度が必要」を示すチェックリスト

評価・給与まわりのサイン

以下の状況が一つでも当てはまる場合、人事制度の整備を先送りにするリスクは高まっています。

  • 昇給・昇格の理由を社員に説明できない
  • 口頭で約束した給与アップが書面に残っていない
  • 給与額の根拠を問われると困る

これらの状況が続いているなら、制度整備の優先度は高いと判断してください。評価基準が曖昧なまま運用していると、評価された側・されなかった側の両方に不満が蓄積します。「頑張ったら上げるから」という口約束は、双方の解釈が食い違ったときに労働トラブルの引き金になることがあります。

採用・定着まわりのサイン

採用や定着の面では、以下のようなシグナルが目安になります。

  • 求人票に評価制度・キャリアパスが書けない
  • 入社後1〜2年で「将来が見えない」と退職される
  • 管理職候補がなかなか育たない

優秀な候補者ほど、選考の段階で評価制度やキャリアの見通しを確認します。制度が整備されていないことが採用競争力の低下に直結しているケースは、20〜40名規模の企業で特に多く見られます。

マネジメント・法的リスクまわりのサイン

以下のような状況は、法的リスクに直結するサインです。

  • 休職・メンタル不調が出たとき、対応基準がなく都度対処している
  • 育休・時短希望への対応が担当者によってバラバラ
  • 就業規則はあるが、実態と乖離している

就業規則が実態と乖離した状態で運用されていると、ハラスメント・差別と受け取られるリスクが生じます。「制度がない=自由に決められる」ではなく、不透明な運用こそが訴訟リスクを高めることを忘れずに。

中小企業が人事制度を作るときの現実的な進め方

完璧を目指さず、「使える制度」から始める

人事制度の整備を先送りにしてしまう大きな理由の一つが、「ちゃんとしたものを作らないといけない」というプレッシャーです。しかし、最初から大企業並みの精緻な制度を作る必要はまったくありません。まず最初に取り組むべきは、「現状の運用を言語化・文書化すること」です。

たとえば、等級制度であれば「ジュニア・ミドル・シニア」という3段階の定義と、それぞれに求めるスキル・行動の概要を1枚のシートにまとめるだけでも、社員との対話の質が劇的に変わります。評価制度も、半期に一度の目標設定と振り返りのフォーマットを用意するところから始められます。

「作る」より「動かす」を意識する

制度は作った瞬間に完成するのではなく、運用しながら改善していくものです。最初に作った制度が3年後もそのままでは、むしろ組織の成長を妨げます。年に一度、制度の内容と実態が合っているかを確認し、必要に応じて見直す仕組みを最初から組み込んでおくことが重要です。

専任人事がいない企業では、外部の専門家や支援サービスを活用して「設計の伴走役」を持つことが、制度を実際に機能させる近道になります。自社だけで抱え込まず、適切なサポートを借りながら進めることを検討してください。

50名の壁を前に備えておくべきこと

ストレスチェック義務化と制度整備の関係

常時50人以上の労働者を使用する事業場には、年1回のストレスチェック実施が義務付けられています(労働安全衛生法第66条の10)。49名以下は努力義務ですが、メンタルヘルス対応の仕組みがないまま50名の壁を超えると、義務への対応と制度整備を同時に進めるという二重の負荷がかかります。

45〜49名の段階から、メンタルヘルス対応の基本方針・休職復職の社内ルール・相談窓口の設定を整えておくことが、組織を守る備えになります。精神障害者の雇用義務化(2018年〜)を受け、合理的配慮の対応方針も合わせて準備しておくと安心です。

育休・介護休業の対応ルールを先手で整える

2022年の育児・介護休業法改正により、育休取得の個別周知・意向確認が義務化されました。さらに2025年改正では、育休取得率の公表義務が従業員100人超の企業に拡大されています。育休中の評価の取り扱い、復帰後の配置ルール、時短勤務者の評価基準——これらが明文化されていないと、担当者ごとに対応が変わり、不公平感やハラスメントリスクが生じます。

30〜40名規模のうちにこれらのルールを整備しておくことで、50名超のフェーズに向けた組織の基盤を着実に固められます。

まとめ

人事制度を作るべきタイミングは、「社員が増えてから」ではなく、「評価の根拠を説明できなくなった瞬間」「採用・定着に制度のなさが影響し始めた瞬間」です。社員数10名での就業規則義務発生、20〜30名での評価・等級整備、50名に向けたメンタルヘルス・育休対応——それぞれの節目を事前に把握しておくだけで、後手に回るリスクを大幅に減らせます。

ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない20〜50名規模の企業に向けて、フェーズに合った人事制度の設計・導入を伴走型でサポートしています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、現在の課題や目指す姿を整理するだけで、次の一手が見えてきます。ご不安な点やご質問があれば、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 社員が15名ですが、まだ人事制度を作るのは早いでしょうか?

A. 15名であれば、すでに就業規則の作成・届出が法的義務となっています。さらに、評価基準の不透明さによる不満や離職が起きやすい規模でもあります。「早い」ではなく、むしろ人事制度を作るべきタイミングです。完璧な制度でなくても、等級の簡単な定義と評価の基本ルールを文書化するだけで、職場の安心感は大きく変わります。

Q. 人事制度を作るとき、まず何から手をつければいいですか?

A. 最初に取り組むべきは、現在の運用の「言語化」です。誰がどのような基準で評価されているか、昇給はどんなときに発生するかを、まず現状のまま書き出してみてください。その言語化の作業自体が、人事制度設計の土台になります。白紙から理想の制度を作ろうとするより、現状の整理から始める方が実態に合った制度になりやすいです。

Q. 評価制度を作ったら、給与を上げないといけなくなりますか?

A. 評価制度の導入が即座に給与アップにつながるわけではありません。評価制度は「どのように評価するか」の仕組みであり、給与改定の時期・原資・基準とは別に設計できます。ただし、評価結果が処遇にまったく反映されない運用が続くと、制度への信頼が失われます。評価と処遇の連動のルールを、自社の実態に合わせて設計することが大切です。

Q. 就業規則はすでにありますが、人事制度も別途必要ですか?

A. 就業規則と人事制度は別物です。就業規則は労働条件・服務規律などの基本ルールを定めるもので、人事制度は評価・等級・賃金・キャリアパスなどの仕組みを指します。就業規則があっても、「誰がどう評価されるか」「どうすれば昇格できるか」が明示されていなければ、社員の不満や早期離職は防ぎにくい状態が続きます。両方を組み合わせて整備することが理想です。

Q. 人事制度の設計にはどのくらいの期間がかかりますか?

A. 規模や目的によって異なりますが、20〜30名規模でゼロから整備する場合、最低限の等級・評価制度であれば3〜6か月程度が目安です。外部の専門家と伴走しながら進める場合、自社だけで取り組むよりも大幅に期間を短縮できるケースが多いです。「完成してから運用する」より「動かしながら改善する」という姿勢で進めると、現場への定着もスムーズになります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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