メンタル不調の原因判断|業務か本人特性か切り分ける3つの視点

メンタル不調の原因判断|業務か本人特性か切り分ける3つの視点 メンタルヘルス対応
Photo by www.kaboompics.com on Pexels

「仕事量が多いと言うけれど、同じ業務量の他のメンバーは問題なくこなしている。これって本人の問題?それとも会社側に何か原因があるの?」——専任人事がいない中小企業では、こうした判断を一人で抱えることになります。メンタル不調の原因を曖昧にしたまま休職させるのは、本人にとっても会社にとっても問題の先送りに過ぎません。この記事では、メンタル不調の原因を「業務起因」と「個人特性」に切り分けるための3つの実務的な視点をわかりやすく解説します。

「業務が原因か、本人の問題か」を判断することの難しさ

同じ環境でも不調になる人・ならない人がいる理由

メンタル不調の原因判断が難しい大きな理由の一つは、「同じ職場環境でも、影響を受ける度合いが人によって異なる」という事実です。たとえば、月80時間の残業が続くチームの中で、一人だけ不調に陥るケースがあります。この場合、「他の人は大丈夫なのだから本人の問題では?」と考えたくなる気持ちはわかります。しかし、それは正確なメンタル不調の原因判断とは言えません。

人には生まれ持った気質や、過去の経験から形成されたストレス耐性の個人差があります。これを「脆弱性(ぜいじゃくせい)」と呼びます。脆弱性が高い人は、同じ負荷でも強くダメージを受けやすい。ただし、それは「本人が悪い」ということではなく、「その人に対して必要な配慮が足りていなかった」という視点で考えることが、会社として正しい姿勢です。

「原因を判断すること」と「責任を断定すること」は別の話

もう一つの難しさは、メンタル不調の原因判断が「会社の責任認定」と直結するように感じてしまうことです。「業務が原因だと言ったら、労災になるかもしれない」「損害賠償を請求されるのでは」という不安から、原因の切り分け自体を避けてしまう経営者・担当者は少なくありません。

しかし重要なのは、業務起因かどうかの最終的な判定は会社ではなく労働基準監督署が行うという点です。会社がすべきことは、事実を正確に把握・記録し、適切な対応を取ることです。メンタル不調の原因の切り分けは「責任を決める作業」ではなく、「次の対応を正しく選ぶための情報整理」と理解してください。

視点1:業務環境の客観的データを先に見る

本人の「主観的な訴え」だけで判断しない

メンタル不調の原因を判断するとき、多くの場合は本人の話から始まります。「仕事が辛い」「量が多すぎる」「上司との関係がしんどい」——これらはすべて本人の主観的な訴えです。もちろんこれは重要な情報ですが、それだけで原因を判断するのは危険です。

まず確認すべきは、客観的な業務データです。具体的には次の項目を整理してください。勤怠記録(残業時間・休日出勤の頻度)、業務分掌(誰がどの仕事を担当しているか)、チーム体制の変化(人員減少・組織変更の有無)、担当業務の変更履歴(異動・昇進・新しい役割の付与)などです。これらのデータを見ることで、「実際に業務負荷が上がっていたのか」「環境に変化があったのか」という客観的な事実が浮かび上がります。

「業務の合理性」を第三者の目で評価する

客観データを整理したら、次にその業務環境が「一般的に見て合理的な範囲か」を評価します。たとえば、月の残業時間が継続的に80時間を超えていれば、厚生労働省の「過労死ライン」に該当する水準です。この場合、業務負荷は客観的に高いと言えます。

一方、残業時間は月20時間以内で特段の変化もない場合、業務環境そのものに大きな問題はない可能性があります。ただしこれだけで「業務は関係ない」とは言えません。人間関係の摩擦や、質的な負荷(担当業務の複雑さ・責任の重さ)は残業時間だけでは見えないからです。客観データはあくまでも「メンタル不調の原因判断における最初のフィルター」として使いましょう。

視点2:本人へのヒアリングを構造化して行う

ヒアリング前に「聞く目的」を整理する

不調を訴える従業員と面談するとき、何も準備せずに臨むと「どこまで聞いていいか」「何を聞けばいいか」がわからなくなります。まず、このヒアリングの目的は「メンタル不調の原因を断定すること」ではなく「業務起因と個人要因のどちらの比重が大きいかを把握すること」だと意識してください。

ヒアリングで確認すべき主な項目は大きく三つに分けられます。一つ目は「不調の発症タイミングと業務の変化との一致」です。不調を感じ始めた時期と、業務量の増加・異動・人間関係の変化などが重なっていないかを時系列で確認します。二つ目は「本人が感じているストレスの具体的な内容」です。「仕事がきつい」という抽象的な言葉を受け取るだけでなく、「どの業務が」「どんな状況のときに」「どの程度」つらいのかを具体化します。三つ目は「職場外の生活状況」ですが、これはプライバシーに配慮しながら、業務との因果関係を確認する目的に限定して、あくまでも本人が話したいと感じる範囲で聞くことが大切です。

聞いてはいけないこと・気をつけること

ヒアリングで注意が必要なのは、詮索しすぎることでセカンドハラスメント(二次被害)につながるリスクがある点です。メンタル不調の原因を突き止めようとするあまり、「なぜそんなことで落ち込むの?」「他の人は大丈夫なのに」のような言い方をすると、本人をさらに追い詰めることになります。

また、病名・診断・過去の精神科受診歴などを直接聞くことは、特段の必要性がない限り避けるべきです。健康情報は「要配慮個人情報」として個人情報保護法で厳格な管理が求められており、不用意な収集はリスクになります。ヒアリングは「何が起きているかを丁寧に聞く場」であり、「原因を追及する尋問の場」ではないという姿勢を忘れないでください。

視点3:「発症前後の変化」を時系列で整理する

不調のトリガーを時系列で可視化する

業務起因と個人特性を切り分けるうえで最も有効な手法の一つが、「不調が顕在化した時期と、職場環境の変化が重なっていないか」を時系列で整理することです。たとえば、「上司が交代した3ヶ月後から欠勤が増えた」「新プロジェクトのリーダーに任命されてから1ヶ月で睡眠障害が出始めた」のような一致が見られれば、業務起因の可能性が高まります。

メンタル不調の原因判断に使えるシンプルな方法は、A4一枚のシートに「月」「業務上の出来事」「本人の状態変化」の三列を並べて記録するだけです。これを面談前に作っておくだけで、ヒアリングの精度が大きく上がります。また、この記録は後に労基署や産業医・医師へ情報共有する際の根拠資料にもなります。

個人特性が主因と思われるケースの見極め方

一方で、業務環境に明確な変化がなく、本人の過去の職歴でも同様のパターンが繰り返されている場合(転職のたびに同様の不調が生じているなど)は、個人特性の比重が大きい可能性があります。ただしここで重要なのは、「本人の特性が主因だから会社は何もしなくてよい」とはならないという点です。

労働契約法第5条が定める安全配慮義務は、業務起因か個人特性かにかかわらず、会社が従業員の健康に配慮する義務を課しています。過去の裁判例(電通過労自殺訴訟など)でも、使用者側が「本人の性格的問題」を主張しても、業務の客観的な負荷が認められれば責任を認める判断が出ています。個人特性は「不調の程度」に影響するかもしれませんが、「会社の責任がゼロになる理由」にはなりません。メンタル不調の原因の切り分けは、次のアクションを選ぶためのものであり、責任逃れのためではないということを改めて確認してください。

原因判断の後に取るべき対応の方向性

業務起因の比重が高い場合の対応

業務環境に問題があると判断できた場合、まず取り組むべきは業務の調整です。残業時間の削減・担当業務の分散・上司との関係修復に向けた介入などが具体的なアクションになります。単に「休んでください」で終わらせると、復職後に同じ環境に戻るため再発リスクが残ります。業務環境そのものを変えることが根本対応です。

また、メンタル不調が業務起因と疑われる場合は、面談記録・労働時間記録・業務変更の履歴などを丁寧に保存しておくことが重要です。これらは後に労基署の調査が入った際の事実確認資料となり、会社側が適切な対応を取っていたことを示す根拠になります。

個人特性の比重が高い場合の対応

個人特性が主因と思われる場合でも、「本人の問題だから放置する」という対応は絶対に避けてください。この場合に求められるのは、本人の特性に合わせた就労支援です。たとえば、業務量は変えなくても「報告の頻度を増やして不安を和らげる」「得意な業務に集中させてストレスを減らす」といった配慮が有効なケースがあります。

また、心療内科・精神科への受診を促すことも大切な対応です。医師の診断書や意見書があることで、会社としてのメンタル不調対応の方針も立てやすくなります。従業員数50人未満の企業では産業医の選任義務はありませんが、スポット産業医の活用や、外部の専門機関への相談窓口を整備することで、社内だけで抱え込まない体制を作ることができます。

まとめ

メンタル不調の原因を「業務起因か個人特性か」に切り分けることは、決して誰かに責任をなすりつけるための作業ではありません。正確な原因の把握があってはじめて、再発を防ぎ、本人も会社も傷つかない対応を選べるようになります。大切な視点は三つです。まず客観的な業務データから入ること、次に構造化されたヒアリングで本人の状況を丁寧に聞くこと、そして発症前後の時系列変化を可視化すること——この流れを踏むだけで、「なんとなく休ませた」から「根拠ある対応ができた」へと変わります。

とはいえ、専任人事がいない環境でこれを一人でやり切るのは簡単ではありません。ウェルセンス株式会社では、中小企業のメンタル不調対応を専門家とともに伴走する支援を提供しています。「何から手をつければいいかわからない」「自社の状況が業務起因かどうか判断に迷っている」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 業務起因と判断した場合、すぐに労災申請しなければなりませんか?

A. 労災申請は原則として従業員本人(または遺族)が行うものであり、会社が強制するものでも、会社側が自動的に申請するものでもありません。ただし、会社には労働者が申請する際に必要な書類の作成協力義務があります。メンタル不調が業務起因と疑われる場合は、勤怠記録や面談記録などを整備しておくことが会社として取るべき姿勢です。「労災になるのが怖いから原因を曖昧にする」という対応は、後に安全配慮義務違反として問われるリスクのほうが大きくなります。

Q. 従業員が「仕事が原因」と主張していますが、客観的には業務量は多くありません。どう対応すればよいですか?

A. 業務量の多寡だけがメンタル不調の原因判断を決めるわけではありません。業務の質的な負荷(責任の重さ・複雑さ)、人間関係の摩擦、職場内の出来事(叱責・孤立・ハラスメント)なども業務起因性の評価対象になります。まずは本人の主訴を丁寧にヒアリングし、「何がつらいのか」を具体化することが先決です。量だけ見て「問題ない」と結論づけると、本当のメンタル不調の原因を見落とす可能性があります。

Q. 産業医が選任されていない場合、誰に相談すればよいですか?

A. 従業員数50人未満の企業は産業医の選任義務はありませんが、スポット(単発)で産業医を活用する仕組みがあります。また、各都道府県の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)では、50人未満の事業所向けに無料相談や産業保健スタッフの派遣サービスを提供しています。加えて、ウェルセンス株式会社のような外部の専門支援機関を活用することで、医療機関との連携コーディネートや面談支援を受けることが可能です。

Q. ヒアリング内容を記録しておくことで、後でトラブルになることはありますか?

A. 記録を残すことは会社にとってリスクではなく、むしろ保護になります。メンタル不調への対応記録がない場合、「会社は何もしなかった」と見なされるリスクのほうが高いです。記録を残す際は、ヒアリングの目的を本人に伝えたうえで行い、取得した情報は健康情報として厳重に管理してください。記録の開示範囲は「対応に必要な関係者のみ」に限定し、不必要に共有しないことが個人情報保護上のポイントです。

Q. 就業規則に休職規定がない場合、メンタル不調の対応はどうすればよいですか?

A. 休職規定がない場合、休職の開始・期間・復職条件・満了後の扱いなどについて会社側に明確な根拠がなく、トラブル時に対応の正当性を示しにくくなります。メンタル不調対応は「起きてから考える」のではなく、就業規則の整備と合わせて事前に準備することが重要です。まずは就業規則に休職・復職規定があるかを確認し、なければ社会保険労務士や専門家に相談して整備することを優先してください。

不調者対応を、人事だけで抱えない。精神科・心療内科の産業医が初動からサポート | ウェルセンス

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました