「給与を振り込んだ後に、先月分の欠勤届が出てきた——」。そんな経験が一度でもある担当者は少なくないはずです。締め処理が終わった後に欠勤が発覚した場合、翌月の給与から差し引くのが現実的な対応ですが、「これって法律的に問題ないのか」「何か手続きが必要なのか」という疑問が頭をよぎります。この記事では、翌月控除の法的根拠から必要な手続き・明細への記載方法まで、中小企業の現場ですぐ使える形で解説します。
翌月控除は違法ではない——ただし「条件」がある
結論から述べると、給与締め後に判明した欠勤分を翌月給与から差し引くこと自体は、適切な手続きを踏めば違法ではありません。ただし、何もせずに引いてしまうと労働基準法違反になるリスクがあるため、前提条件を正確に理解することが重要です。
ノーワークノーペイの原則とは
欠勤控除の法的な土台となるのが「ノーワークノーペイの原則」です。これは、労働者が実際に働いていない日・時間については使用者が賃金を支払う義務を負わないという考え方で、民法第624条(労働に従事した後でなければ報酬を請求できない)を根拠としています。就業規則や雇用契約書でも「欠勤した日は給与を控除する」と定めているケースがほとんどで、欠勤控除そのものは法的に認められた処理です。
全額払いの原則との関係
問題になるのが、労働基準法第24条が定める「賃金の全額払いの原則」です。賃金は通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定の期日に払わなければならない——これが5つの原則です。翌月に欠勤分を差し引くということは、本来その月に払われるべき賃金から何かを引く行為であり、一見すると全額払いに反するように見えます。しかし、法律には例外が設けられています。
翌月控除が適法になる例外要件
労働基準法第24条の但書(ただしがき)には、「法令に別段の定めがある場合」または「労使協定がある場合」は賃金の一部を控除できると規定されています。所得税や社会保険料の天引きが毎月行われているのは「法令の別段の定め」に該当するからです。一方で欠勤控除はこの「法令の別段の定め」には該当しないため、締め後に発覚した欠勤を翌月給与から差し引く場合には、労使間で締結した「賃金控除に関する協定(24条協定)」が必要になるというのが実務上の通説です。
必須の手続き——24条協定の締結
翌月控除を適法に行うための核心は「賃金控除に関する労使協定(24条協定)」の締結です。この協定がなければ、たとえ欠勤が事実であっても、翌月からの控除は法的リスクを伴います。
協定の締結相手と内容
24条協定は、使用者と「事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者」との間で書面により締結します。労働組合がない会社では、従業員の中から過半数代表者を選出して協定を結ぶ形になります。協定に盛り込む主な内容は以下のとおりです。
- 控除する賃金の種類・項目(例:欠勤控除、遅刻早退控除など)
- 控除を行う条件・時期(例:当月処理が間に合わなかった場合に翌月控除する)
- 計算方法の基準(例:就業規則第〇条に定める日割り計算による)
36協定との違い——届出は不要
「協定を結ぶ」と聞くと時間外労働に関する36協定を思い浮かべる方も多いですが、24条協定は労働基準監督署への届出は不要です。これは36協定と大きく異なる点です。ただし、書面として作成・保管し、従業員が閲覧できる状態にしておくことが求められます。就業規則や給与規程と整合する内容になっているかも確認しておきましょう。
協定なしで長年控除していた場合は?
「24条協定の存在を知らずに、何年も翌月控除してきた」という会社も少なくありません。過去の処理を遡って全額支払い直す義務が直ちに生じるわけではありませんが、指摘を受けた場合のリスクは残ります。まずは速やかに協定を整備し、今後の処理を適正化することを優先しましょう。顧問社労士や専門家に相談しながら現状を整理することをおすすめします。
欠勤控除の計算方法——分母の選び方が重要
翌月控除の計算で迷いやすいのが「1日あたりの控除額の算出方法」です。分母に何を使うかによって控除額が変わるため、就業規則に明記された方法を使うことが前提になります。
日割り計算の分母:所定労働日数か暦日数か
欠勤控除の計算方法には大きく2パターンがあります。
| 計算方法 | 分母 | 特徴 |
|---|---|---|
| 所定労働日数割り | その月の所定労働日数 | 月によって1日あたりの控除額が変わる。実態に近い計算 |
| 月平均所定労働日数割り | 年間所定労働日数÷12 | 毎月固定の分母。計算がシンプルで安定している |
| 暦日数割り | その月の暦日数(28〜31日) | 採用例は少ない。労働者にとって不利になる場合がある |
時間単位で控除する場合
遅刻・早退など時間単位で控除する場合は、「月額賃金 ÷ 月所定労働時間数 × 控除時間数」が基本計算式です。たとえば月給25万円、月所定労働時間が160時間の従業員が2時間早退した場合、控除額は250,000円 ÷ 160時間 × 2時間 = 3,125円となります。こちらも就業規則に定められた計算方式を優先してください。
就業規則に計算方法の定めがない場合
就業規則に欠勤控除の計算方法が定められていない場合は、従業員に不利益とならない方法を選びつつ、速やかに規程を整備することを検討してください。計算基準がないまま処理すると、従業員から「計算が恣意的では」と指摘されるリスクがあります。
給与明細への記載と社員への説明
翌月控除を行う際は、給与明細への明示と事前説明が従業員との信頼関係を守る上で欠かせません。記載が曖昧だと「計算ミスでは」「勝手に引かれた」といった不満につながります。
明細への記載方法
控除項目として独立させて記載し、いつの欠勤に対する控除かがわかる内容にすることが基本です。具体的には以下のような表記が推奨されます。
- 「欠勤控除(6月5日分)」
- 「前月欠勤控除(5月分・1日)」
- 「遅刻控除(5月21日・2時間分)」
「給与調整」や「その他控除」などの曖昧な記載は避けましょう。何の控除なのかを従業員が明細を見て判断できることが、後からのトラブル防止に直結します。
社員への事前説明のポイント
翌月に控除が反映されることを、できれば給与支給日より前に本人に伝えておくのが理想です。「先月の欠勤分について、今月の給与から〇円を差し引かせていただきます」と口頭またはメールで一報するだけで、従業員の受け取り方は大きく変わります。就業規則に翌月控除の規定があることも併せて伝えると、「ルールに基づいた処理である」という納得感につながります。
翌月控除を適法に行うための実務フロー
必要な手順を整理すると、欠勤発覚から翌月控除の完了までの流れは以下のとおりです。各ステップを漏れなく踏むことで、法的リスクを最小化できます。
欠勤事実の確認と記録
まず、欠勤の事実を客観的に確認・記録します。欠勤届・タイムカード・勤怠システムのログなど、証跡を残しておくことが重要です。「言った・言わない」の問題を防ぐためにも、紙またはデータで保管しましょう。欠勤理由(私傷病、無断欠勤、有給休暇の残日数不足など)によっては、別途対応が必要なケースもあります。
24条協定の確認・整備
次に、自社に賃金控除に関する24条協定が締結されているかを確認します。未締結であれば、過半数代表者と書面で協定を締結した上で控除処理に進んでください。協定の作成は難しいものではありませんが、就業規則の規定と内容が矛盾しないよう確認が必要です。
給与・労務の処理に「ルール」と「根拠」がないと、従業員との信頼も失われやすい。こうした細かい手続きの整備こそが、実は会社の人事対応力を左右します。
翌月給与への反映と明細記載・本人通知
控除額を計算し、翌月の給与計算に反映します。明細には「いつの欠勤・何日分(または何時間分)の控除か」を明示し、支給前に本人へ一報を入れます。この3つをセットで行うことが、現場での混乱を最小限に抑えるポイントです。
まとめ
給与締め後に欠勤が判明した場合、翌月給与から控除すること自体は適法です。ただし、労働基準法第24条の但書に基づく「賃金控除に関する労使協定(24条協定)」の締結が前提条件となります。36協定と違い監督署への届出は不要ですが、書面作成と保管は必須です。控除額の計算は就業規則に定めた方法で行い、給与明細には「いつの欠勤・何日分か」を明記。事前に本人への説明を行うことで、トラブルを未然に防げます。「うちはずっと協定なしでやってきた」「就業規則に計算方法が書いていない」という会社は、これを機に整備を検討してください。給与・労務まわりの整備は、社員との信頼関係の土台です。
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