「休職中の社員から資格取得手当の申請が届いた。払うべきか、断れるのか——」。就業規則を見返してみたが、休職者への支給可否が一切書かれていない。今すぐ判断しなければならないのに、根拠がない。そんな状況に直面している経営者・人事担当者のために、法的な整理と就業規則の整備ポイントをわかりやすく解説します。
資格取得手当は「賃金」か「恩恵的給付」か——まずここを確認する
支給可否を判断するうえで最初に確認すべきは、その手当が法律上どのような性格を持つものか、という点です。この性格によって、休職中の社員への対応の選択肢が変わります。
毎月支給型と一時金型では扱いが異なる
資格取得手当には大きく2種類あります。毎月の給与に上乗せして支払う「定期支給型」と、資格取得時に一度だけ支払う「報奨金・一時金型」です。
| 種類 | 法的性格 | 具体例 |
|---|---|---|
| 定期支給型(毎月支給) | 賃金(労働基準法第11条)に該当しやすい | 「宅建保有者に月1万円を加算」 |
| 一時金・報奨金型 | 任意的恩恵的給付として扱いやすい | 「資格取得を届け出た社員に3万円を支給」 |
「賃金」に当たる場合の注意点
定期支給型の場合、労働基準法上の「賃金」と見なされる可能性があります。この場合、休職中の賃金支払いをどう定めているかによって扱いが決まります。多くの会社では就業規則に「休職中は賃金を支給しない(または一部支給)」と定めていますが、その規定が資格手当を明示的に含んでいるかどうかがポイントです。
一時金型でも「規程の書き方」が決め手になる
報奨金や一時金型は賃金性が低く、会社側に裁量が認められやすいです。ただし、就業規則・賃金規程に支給要件が曖昧なまま記載されている場合、「休職者だから払わない」という判断の根拠が弱くなります。規程に何も書かれていないから自由に判断できる、とは必ずしもなりません。
「払わなければいけないか」への答えと判断基準
結論から言えば、法律上、休職中の社員に資格取得手当を必ず支払わなければならない義務は原則としてありません。ただし、支給可否は最終的に就業規則・賃金規程の文言に依拠します。
不支給が正当化できるケース
以下のいずれかに当てはまる場合、不支給の判断を合理的に説明しやすくなります。
- 就業規則・賃金規程に「在籍かつ就労中の者を対象とする」と明記されている
- 支給目的として「業務遂行・スキルアップへの支援」と記載があり、休職中はその前提を欠く
- 「休職期間中は本規程の適用を停止する」などの除外規定がある
支給を求められやすいケース
逆に、以下のような状況では支給を断ることへのリスクが高まります。
- 規程に対象者の限定がなく、「資格を取得した社員に支給する」としか書かれていない
- 過去に育児休業中や療養中の社員に支払った実績がある
- 申請のタイミングが休職前の取得に基づくものである(休職前に取得し、申請が休職中になっただけ)
「断ると問題になるか」という不安について
メンタル疾患による休職者から申請が来た場合、「差別だ」「不利益取扱いだ」と主張されることを恐れる担当者は少なくありません。しかし、就業規則に合理的な除外規定があり、それに基づいた対応であれば、休職理由がメンタル疾患であっても不当な不利益取扱いには該当しません。問題になりやすいのは、「規程に根拠がなく、担当者の主観で断った」ケースです。毅然と対応するためにも、規程の整備が先決です。
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就業規則に何を書くべきか——整備の具体的ポイント
今回の申請をきっかけに、同じ問題が再発しないよう就業規則を整備することが重要です。盛り込むべき内容は大きく3点あります。
支給目的と対象者の要件を明記する
資格取得手当・報奨金の規程には、まずその目的を明文化します。例えば「本規程は、会社の業務に関連する資格取得を通じた従業員のスキルアップを奨励し、業務遂行能力の向上を支援することを目的とする」といった文言です。目的が業務遂行支援である以上、就労中でないことが不支給の合理的理由として機能します。
次に支給対象者の要件として「支給申請日時点で在籍かつ就業中の者」と明記します。この一文があるだけで、休職中の申請に対する判断の根拠が明確になります。
休職中の適用除外を明示する
さらに踏み込んで、「休職期間中(育児休業・介護休業を含む)は、本規程の適用を停止する」と明示することも有効です。育児休業中の社員を除外する場合は育児・介護休業法との整合性も確認が必要なため、社労士への相談を推奨します。病気休職については、就業規則への除外規定は一般的に合理性が認められやすい内容です。
相談しやすいチェックポイント
就業規則の整備は、実務的な判断基準を作る最初のステップです。「書き方がわからない」「社労士に相談する前に軸足を整理したい」という場合も、遠慮なく専門家へ相談することが早期解決につながります。
不利益変更への対応と施行タイミング
現在の規程を変更して休職者を対象外にする場合、それは既存従業員への不利益変更(労働契約法第10条)に当たる可能性があります。不利益変更が有効となるには「変更の合理的な理由」と「従業員への周知」が必要です。また、変更は将来に向けてのみ有効であり、今回の申請に遡って適用することはできません。今回の事案については現行規程の解釈で対応しながら、新規程を整備して次回からの基準とする、という二段構えが現実的な対処になります。
休職中の資格勉強・受験という行為をどう見るか
休職者が資格の勉強や受験をしていた事実は、主治医の就労不能判断との整合性を確認する必要がある場合があります。ただし、対応には慎重さが求められます。
資格勉強と「就労不能」は必ずしも矛盾しない
メンタル疾患による休職中に、軽い学習活動(資格勉強・読書など)を行うことは、療養のプロセスとして医師が認めているケースがあります。資格勉強ができるということが即「仮病」の証明にはなりません。この点を誤解して「資格取れるなら働けるはず」と一方的に判断すると、かえってハラスメントと受け取られるリスクがあります。
確認が必要なケースと確認方法
一方で、復職判断を行う過程で産業医や主治医と情報連携することは正当な労務管理として認められています。「資格試験の受験を行ったか」という事実を把握したうえで、主治医の診断内容や就労可否判断の根拠について確認の場を設けることは、会社として行える対応です。ただし、本人の同意なく主治医に直接問い合わせることは個人情報保護の観点から適切ではなく、同意取得のうえで産業医を介した確認が基本的な手順となります。
産業医がいない場合の対応
従業員数50人未満の会社では産業医の選任義務がありません。この場合、主治医への照会同意書を取得したうえで会社が直接文書照会を行う方法、または地域の産業保健総合支援センターの窓口を活用する方法があります。いずれにしても、個人の医療情報に関わる対応は専門家への相談を前提に進めることをお勧めします。
今すぐできる実務的な対応フロー
申請が届いてから焦って判断しないために、対応の順序を整理しておくことが大切です。現行規程の確認から始め、規程整備、今後の運用ルール化という流れで進めます。
現行規程を確認し、今回の事案の対応方針を決める
まず手元の就業規則・賃金規程を確認します。「対象者の要件」「支給条件」「休職中の適用に関する記載」の3点を中心に確認し、記載の有無と内容によって、今回の事案に支給するか否かを判断します。規程が曖昧な場合は、支給・不支給のどちらを選ぶにせよ、その理由を文書として記録しておくことが大切です。後から「なぜその判断をしたか」を説明できる状態にしておきます。
規程の整備・改訂を社労士と進める
今回の事案を契機に、次のような項目を賃金規程に追記することを検討します。支給目的の明示、支給対象者の限定(就業中の者)、休職中の適用停止規定、申請期限の設定(取得後○ヶ月以内など)。変更の際は社員への周知プロセスも必要になります。専任人事がいない場合、社労士への依頼が最も現実的で確実な方法です。
前例化を防ぐ「運用ルール」を決めておく
今回の対応を、今後の類似ケースへの対応基準として社内に残しておくことも重要です。「休職者からの申請が来た場合の確認フロー」「支給可否の判断基準」「記録の保管方法」を簡単なメモとして残すだけでも、次に担当者が変わったときの判断ブレを防げます。
まとめ
休職中の社員への資格取得手当・報奨金の支給可否は、法律が一律に決めるのではなく、最終的には就業規則・賃金規程の文言に依拠します。規程に支給目的・対象者要件・休職中の除外規定が明記されていれば、不支給を合理的に説明できます。一方、規程が曖昧なまま「書いていないから払わなくてよい」と判断することはリスクを伴います。今回の申請を機に、規程の整備を進めることが最善の対応です。不利益変更への対応や産業医との連携など、専門知識が求められる局面も多いため、社労士・産業医・メンタルヘルス支援の専門家と連携しながら進めることをお勧めします。
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よくある質問
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