「テレワーク費用って、会社が払わないといけないの?」――そんな疑問を抱えながら、とりあえず見切り発車でルールを決めてしまっている企業は少なくありません。テレワーク費用負担の規程を曖昧にしておくと、従業員からの不満や労務トラブルにつながるリスクがあります。この記事では、専任人事がいなくても実践できる「テレワーク費用負担の規程づくり」について、法的根拠から具体的な設計方法まで丁寧に解説します。
会社はテレワーク費用を負担しなければならないのか
法律に「必ず負担せよ」とは書いていないが、リスクはある
結論から言うと、「会社がテレワークの通信費・電気代を必ず負担しなければならない」と明示した法律の条文は、現時点では存在しません。しかし「義務がないから払わなくていい」と判断するのは危険です。業務上不可欠な費用を従業員に一方的に負わせることは、実質的な賃金の目減りとみなされる可能性があります。労働基準法や労働契約法の趣旨からも、会社と従業員で費用負担のルールを明確にしておくことが強く求められています。
費用を負担しなかった場合のリスク
明確なルールがないまま費用を負担しないでいると、次のような問題が生じることがあります。まず、従業員から「実質的な賃金カットだ」と主張されるケースです。在宅勤務が月20日あり、通信費と電気代で月4,000〜6,000円の自己負担が生じているとすれば、年間で5〜7万円程度の負担を従業員に押しつけていることになります。また、労働基準監督署への申告や、退職した従業員からの未払い請求につながるリスクも否定できません。費用負担の取り扱いは、採用・定着の面でも会社への信頼を左右する重要な労働条件です。
労働条件の明示義務との関係
労働基準法第15条と労働契約法第4条は、労働条件の明示と説明を会社に求めています。在宅勤務で発生する費用の取り扱いも「労働条件の一部」として位置づけられるため、採用時や制度変更時に従業員へ明確に伝える必要があります。「なんとなく曖昧にしてきた」という状態は、この観点からも望ましくありません。
「賃金(手当)」と「経費(実費弁償)」、どちらで設計するか
分類によって税務・社会保険の扱いが変わる
テレワーク費用負担の規程を設計するうえで最初に決めなければならないのが、「賃金として支給するのか、経費として精算するのか」という分類です。この判断が税務・社会保険の取り扱いに直結するため、非常に重要なポイントです。
実費弁償(経費精算)として処理する場合、業務に使った費用の実費を会社が補填する形になります。この場合は原則非課税で、社会保険料の計算にも影響しません。一方、毎月一定額を「在宅勤務手当」として給与に上乗せする定額手当方式は、原則として給与課税の対象となり、社会保険料の算定基礎にも含まれます。
定額手当でも非課税にできる「合理的な計算方法」とは
国税庁が2021年1月に示した取り扱いによると、テレワーク手当として支給する場合、「業務に使用した実費相当額が合理的に計算されている」と証明できれば非課税となる余地があります。この「合理的な計算方法」の根拠として活用できるのが、厚生労働省のテレワークガイドラインが示す算定式です。
電気代については「電気代 × (業務使用時間 ÷ 1か月の総時間) × 1/2」という式で算出します。ここでの「1/2」は、業務専用スペースではなく生活と共用のスペースを使っていることを考慮した按分(あんぶん)です。通信費については「月額通信費 × (業務使用日数 ÷ 該当月の日数) × 1/2」で計算します。
たとえば月額通信費が6,000円で月20日テレワークをしている場合、6,000円 × (20日 ÷ 30日) × 1/2 = 約2,000円が通信費の業務負担分の目安となります。電気代も同様に算出したうえで合算し、定額手当の金額設定の根拠とすることができます。ただし、実際の運用にあたっては税理士・社会保険労務士への確認を強くお勧めします。
どちらの方式が自社に合うかを判断する視点
実費精算方式は公平性が高い反面、毎月の申請・集計・確認作業が発生します。専任人事がいない中小企業では、この管理コストが想定以上に大きくなることがあります。一方の定額手当方式は管理がシンプルですが、テレワーク頻度がバラバラな社員が混在する場合に不公平感が生じやすい。週5日在宅の社員と週1日の社員が同額の手当を受けていれば、不満の声が出ても不思議ではありません。この課題を解決するのが「ハイブリッド型」で、基本額を定額で支給しつつ、頻度に応じた日割り計算を組み合わせる方法です。自社のテレワーク運用実態に合わせて最適な方式を選ぶことが大切です。
就業規則・テレワーク規程への具体的な組み込み方
テレワーク規程を就業規則の附則として整備する
テレワーク費用負担の規程を社内で効力あるものにするには、就業規則またはその附則(ふそく)として「在宅勤務規程(テレワーク規程)」を整備するのが標準的なアプローチです。既存の就業規則の本体を大幅に書き直す必要はなく、附則として別規程を作成し、就業規則本体に「詳細は在宅勤務規程による」と一文添える形が実務的に多く使われています。
規程に盛り込むべき5つの記載事項
テレワーク費用に関する規程には、次の事項を漏れなく記載することが求められます。
- 対象費用の種類(通信費・電気代・その他消耗品等)を明確にすること
- 費用の算定方法(実費精算か定額かハイブリッドか)と具体的な計算根拠
- 支給額または精算額の上限・条件
- 申請手続きと締め日
- 支給対象者の条件(在宅勤務を命じられた者、週何日以上など)
「なんとなく払っている」状態から脱却し、これらを明文化することで、従業員への説明責任を果たすとともに労務トラブルを未然に防ぐことができます。
労働基準監督署への届出と不利益変更への注意
常時10人以上の従業員がいる事業場では、就業規則の変更(新規作成・附則追加を含む)を行った際に、労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第89条・第90条)。届出時には従業員代表の意見書も添付します。10人未満の場合は届出義務はありませんが、内容を書面で整備して従業員に周知することは欠かせません。
また、すでにテレワーク費用を支給している会社が手当の廃止や減額を検討する場合は、労働契約法第9条・第10条が定める「不利益変更」に該当する可能性があります。この場合は合理的な理由と従業員への十分な説明・同意取得のプロセスが不可欠です。一方的な廃止は大きなトラブルの原因となるため、慎重に対応してください。
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金額設定に迷ったときの考え方と相場感
厚労省の算定式を使って自社の目安を出す
「月2,000円でいいのか、5,000円なのか」と悩む担当者は非常に多いです。金額設定に根拠を持たせるために、前述の厚生労働省の算定式を実際に当てはめてみることをお勧めします。
仮にフルリモートで月20日在宅勤務をしている従業員のケースで試算すると、通信費(月額5,000円想定)は約1,667円、電気代(月額8,000円想定・6時間/日労働)は作業時間と部屋の専有率によって異なりますが、目安として600〜1,000円程度が業務分として算出されます。合計すると月2,500〜2,700円前後という数字が出てきます。
在宅勤務の頻度別に手当額を段階設定する方法
週5日フルリモートの社員と週1〜2日のハイブリッド勤務の社員を同額の手当で一律に扱うことへの不公平感を解消するには、頻度に応じた段階設定が有効です。たとえば「月15日以上の在宅勤務:月3,000円」「月8〜14日:月1,500円」「月7日以下:支給なし」のように区分を設けることで、出勤記録と連動した透明性のある運用が可能になります。
ただし、勤務日数の確認・申告の仕組みを同時に整えておかないと管理が形骸化するため、申請フローとセットで設計することが重要です。
従業員への説明責任を果たすための伝え方
手当の金額について従業員から「少ない」と言われたとき、「厚生労働省のガイドラインに基づいた算定式で計算した結果です」と根拠を示せるかどうかは、従業員との信頼関係に大きく影響します。金額の多寡よりも「ちゃんと考えて決めてある」という姿勢が、職場の納得感につながります。
テレワーク費用負担の規程を整備した際には、計算方法と設定根拠を従業員向けに平易な言葉で説明するQ&A資料を一枚用意しておくと、質問・不満への対応が格段にスムーズになります。
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まとめ
テレワーク費用負担の規程づくりで押さえるべきポイントは、大きく3つです。
まず費用の法的性質(賃金か経費か)を明確にして、税務・社会保険への影響を把握することです。次に厚生労働省の算定式を活用して、金額設定に合理的な根拠を持たせることです。そして就業規則の附則としてテレワーク規程を整備し、対象費用・算定方法・支給条件・申請フローを明文化したうえで、労働基準監督署への届出と従業員への周知を確実に行うことです。
「自社のテレワーク実態に合った方式はどれか」「既存の就業規則にどう組み込めばいいか」といった点は、会社ごとの状況によって最適解が異なります。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方々に向けて、こうした労務規程の設計から運用定着まで伴走支援を行っています。「まず話を聞いてみたい」という段階でも構いません。気軽にご相談ください。
よくある質問
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