残業抑制指示がパワハラになる3つのNG行為と会社の対処法

残業抑制指示がパワハラになる3つのNG行為と会社の対処法 コンプライアンス
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「残業するな」と言い続けているのに、気づけばサービス残業が横行していた。管理職の言い方がきつすぎて、部下からパワハラだと訴えられた。そんな事態に直面して初めて、「どこまでが正当な業務指示で、どこからが違法になるのか」を調べ始める経営者・人事担当者は少なくありません。残業抑制指示は正当な経営判断ですが、やり方を誤ると会社が法的責任を負うリスクがあります。本記事では、残業抑制指示がパワハラ・賃金不払いに転じる3つのNG行為と、会社として取るべき対処法を具体的に解説します。

申請がなければ払わなくていい」は通じない理由

賃金支払い義務は「申請の有無」ではなく「知り得たか」で決まる

多くの経営者が誤解しているのが、「残業申請を出していないなら残業代は発生しない」という考え方です。しかし労働基準法第37条は、使用者が「労働者を法定時間外に働かせた場合」に割増賃金の支払いを義務づけています。ここで問われるのは申請の有無ではなく、使用者が残業の事実を知っていたか、知ることができる状況にあったかです。

三菱重工業長崎造船所事件(最高裁平成12年)でも示されたとおり、使用者が残業の事実を「知り得た」場合には、申請がなくても賃金支払い義務が生じると解されています。「指示はしていない」「申請がなかった」という言い訳は、裁判や労働基準監督署(以下、労基署)の調査では通用しないと理解しておく必要があります。

「黙認」も使用者の指示とみなされる

明示的な残業命令がなくても、業務量から見て残業せざるを得ない状況を会社が放置していた場合、「使用者の黙示の指示があった」と判断される可能性があります。たとえば、仕事が明らかに定時内に終わらない量であるにもかかわらず「残業するな」とだけ言い続けた場合、それは実態として残業を黙認したと評価されうるのです。

PCログ・入退館記録が不払いの証拠になる

後から問題が発覚した場合、部下が「実際は毎日22時まで働いていた」と主張し、PCのログオン・オフ記録、入退館記録、メールの送受信タイムスタンプなどが証拠として提出されることがあります。勤怠申請の記録と実態の乖離が明らかになれば、未払い残業代の請求根拠として十分な証拠になります。過去2年分(場合によっては3年分)の未払い額を一括請求されるケースもあり、中小企業にとっては経営を揺るがすリスクです。

残業抑制指示がパワハラになる3つのNG行為

人格を否定する言い方をする

パワーハラスメント(パワハラ)とは、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の定義によれば、「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者の就業環境を害するもの」です。残業削減を促す指示そのものは正当ですが、その言い方が人格否定に及んだ瞬間に残業抑制指示はパワハラとなります。

典型的なNG発言が「残業するやつは無能だ」という言葉です。業務の改善を求めているのではなく、人格そのものを否定しています。管理職がこうした発言を繰り返していた場合、会社は「精神的な攻撃」型のパワハラを放置したとして使用者責任(民法第715条)を問われます。

時間外申請を出させない雰囲気を作る

「申請したら評価を下げる」「残業代を請求するのは恥ずかしいことだ」といった発言や態度で、部下が時間外申請を出せない状況を管理職が作っているケースがあります。これは「権限の濫用」型のパワハラに該当するリスクがあるだけでなく、前述の賃金不払い問題とも直結します。

経営者が「知らなかった」としても、管理職は会社の被用者であり、その行為について会社は責任を負います。労基署の調査で発覚した場合、会社全体が労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)違反に問われます。

業務量を減らさずに「定時で帰れ」と命令する

業務量はそのままに「残業は一切禁止」と命令することも、パワハラにあたりえます。パワハラ防止法が定める「過大な要求」の裏返しとして、「業務上不合理な制約」という形の問題です。こなせない量の仕事を抱えながら定時退社を強制されれば、部下は自宅や休憩時間に仕事をするか、仕事を未完了のまま放置するしかありません。実際、こうしたプレッシャーがメンタル不調の引き金になるケースは多く、休職者が連続して出るような職場では、この構造が背景にあることが少なくありません。

会社が負う監督責任とは何か

「管理職が勝手にやったこと」は免責にならない

パワハラや賃金不払いに関して、「管理職が独断でやったことであり、会社は指示していない」と主張する経営者がいます。しかし民法第715条(使用者責任)により、被用者(管理職)が職務の執行として行った行為については、会社が損害賠償責任を負います。「知らなかった」「指示していない」という事実は、原則として免責理由にはなりません。

客観的な労働時間把握は会社の義務

2019年施行の働き方改革関連法により、客観的方法による労働時間の把握が会社の義務となっています(労働安全衛生法第66条の8の3)。管理職の自己申告や部下まかせではなく、PCログや入退館記録などの客観的記録を会社として収集・管理する体制が必要です。

この義務を果たしていない状態でサービス残業が発覚した場合、「把握できる体制を整えていなかった」という点自体が監督責任の欠如とみなされます。

パワハラ防止の措置義務は中小企業にも適用済み

パワハラ防止法の措置義務は、2022年4月から中小企業にも適用されています。具体的には、相談窓口の設置、相談があった場合の事案調査と被害者保護、再発防止のための研修・周知などを会社として整備することが義務です。これを怠った場合、行政指導・企業名の公表という制裁が課される可能性があります。措置義務は「大企業だけの話」ではありません。

会社として今すぐ整えるべき対処法

管理職向けに「言ってはいけない言葉」を明示する

パワハラの多くは、管理職自身が「これがパワハラになるとは思っていなかった」という認識不足から起きています。研修や通達で、具体的なNG言動を列挙することが予防の第一歩です。たとえば「残業するやつは無能」「申請したら評価を下げる」「なぜ定時で帰れないのか、仕事が遅いからだ」といった発言が明確にNGであることを周知します。抽象的な「パワハラはダメ」という指導ではなく、実際の言葉のレベルまで落とし込むことが重要です。

時間外申請のハードルを下げる仕組みを作る

申請しにくい雰囲気が生まれる根本原因の一つは、「申請すると管理職に知られ、評価に影響するかもしれない」という恐怖感です。これを解消するには、申請経路を管理職以外にも開く(たとえば人事担当や経営者への直接申請も認める)、申請件数を管理職の評価に使わないことを明示する、などの仕組みが有効です。

残業削減と業務量削減をセットで進める

業務量を変えずに残業時間だけを削ろうとすることの無理は、数字を見れば明らかです。たとえば1人が週10時間の残業をしていたとすれば、その分の業務はどこへ行くのかを経営者・管理職が真剣に考える必要があります。業務の優先順位の見直し、不要な会議・資料の削減、業務フローの改善、場合によっては増員といった対策と組み合わせない限り、残業削減の指示はプレッシャーにしかなりません。プレッシャーが積み重なった職場では、メンタル不調による休職者が増加し、残った人員でさらに残業が増えるという悪循環が起きます。

メンタル不調と残業問題が重なったときの初動対応

休職者が出たときに確認すべきこと

残業削減の締め付けをきっかけにメンタル不調者・休職者が出た場合、会社がまず確認すべきは「業務上の出来事(業務起因性)があるかどうか」です。長時間労働やハラスメントが原因と認定されれば、労災(業務災害)の問題に発展します。労災認定を受けた場合、会社は安全配慮義務違反として損害賠償を請求される可能性もあります。

初動として、本人の状態確認、主治医との連携、産業医がいる場合は意見聴取を早期に行い、記録を残しておくことが重要です。

管理職本人のケアも並行して行う

残業削減の指示を現場に伝える管理職は、上からの圧力と部下の不満の板挟みになりやすい立場です。管理職自身がストレスを抱え、それが部下への強い当たりとなって表れているケースも多くあります。管理職を「加害者」として断罪するだけでなく、管理職が適切に行動できる環境を会社として整えることが、問題の再発防止につながります。

まとめ

残業抑制の指示は正当な経営判断ですが、「人格を否定する言い方をする」「申請を出させない雰囲気を作る」「業務量を減らさずに定時帰宅を命じる」という3つのNG行為によって、パワハラ・賃金不払いに転じるリスクがあります。「申請がなければ払わなくていい」「管理職が勝手にやったこと」という認識は法的には通用せず、会社が使用者責任を負います。対処法としては、管理職へのNG言動の明示、申請しやすい仕組みの整備、業務量削減とのセット推進が基本となります。

残業・ハラスメント・メンタル不調は、実際の職場では複雑に絡み合っています。「自社の状況がパワハラに該当するのか判断できない」「休職者が出て次のステップがわからない」という場合は、専任人事がいない中小企業を専門に支援するウェルセンス株式会社にご相談ください。人事・労務・メンタルヘルスの観点から、貴社の状況に合わせた対応策を一緒に考えます。

よくある質問

Q. 残業申請を出していない場合、会社は残業代を支払わなくてよいのでしょうか?

A. 申請の有無は関係ありません。使用者が残業の事実を「知っていた、または知ることができた」状況であれば、申請がなくても残業代の支払い義務が発生します。PCログや入退館記録などの客観的証拠が残っている場合、後から請求される可能性が十分あります。

Q. 「残業するな」という指示はパワハラになりますか?

A. 残業削減の指示そのものはパワハラではありません。問題になるのは、人格を否定する言い方をする、申請を出させないよう圧力をかける、業務量を変えずに定時帰宅を強制するといった言動です。指示の内容ではなく、その方法・頻度・影響を総合的に判断されます。

Q. 管理職がパワハラをしていた場合、会社も責任を負いますか?

A. 原則として会社も責任を負います。民法第715条(使用者責任)により、管理職が職務の執行として行った行為については会社が損害賠償責任を負う可能性があります。「経営者は知らなかった」「指示していない」という事実は、通常、免責の理由にはなりません。

Q. パワハラ防止法の措置義務は中小企業にも適用されていますか?

A. はい、2022年4月から中小企業にも適用されています。相談窓口の設置、相談があった際の調査と被害者保護、再発防止研修の実施などが義務づけられています。これを整備していない場合、行政指導や企業名公表の対象となる可能性があります。

Q. 残業削減を進める中でメンタル不調の社員が出た場合、何から始めればよいですか?

A. まず本人の状態を確認し、主治医や産業医がいる場合は意見を聴取して、その内容を記録に残すことが第一です。業務上の出来事が原因であれば労災の問題に発展するケースもあります。対応に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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