退職後も傷病手当金を受け取る3つの継続給付条件と会社の手続き

退職後も傷病手当金を受け取る3つの継続給付条件と会社の手続き 休職・復職対応
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「退職したら傷病手当金はもう受け取れない」――そう思い込んで休職中の従業員に誤った案内をしてしまう担当者は少なくありません。実際には、一定の要件を満たせば退職後も傷病手当金を継続して受け取れる制度があります。しかし要件の細かな落とし穴を知らないまま退職手続きを進めると、従業員が受給権を失うリスクがあります。この記事では、継続給付の3つの条件と会社側が対応すべき手続きを、実務に即して丁寧に解説します。

退職後も傷病手当金を受け取れる「継続給付」とは

制度の概要と法的根拠

傷病手当金は在職中だけの制度と誤解されがちですが、健康保険法第104条に「資格喪失後の継続給付」として、退職後も一定条件のもとで受給を続けられる仕組みが明記されています。健康保険の資格喪失後(退職日の翌日以降)も、同じ傷病で療養を続けている場合に支給が継続されます。

「退職=手当終了」と思い込んで休職中の従業員に誤った案内をしてしまうと、受給できたはずの給付が途切れ、後日トラブルになるケースがあります。担当者としてまず押さえておきたいのは、この資格喪失後の継続給付という制度が存在するという事実です。

継続給付が適用される3つの条件

継続給付を受けるためには、次の要件をすべて同時に満たす必要があります。

  • 被保険者期間が継続して1年以上あること:資格喪失日(退職日の翌日)前日までに、継続して1年以上健康保険に加入していた実績が必要です。転職歴がある場合や短期雇用が混在するケースでは、加入期間を慎重に確認しましょう。
  • 退職日時点で傷病手当金を受給中、または受給できる状態にあること:退職日(資格喪失日の前日)に「受給できる状態」であることが求められます。具体的には、その日が労務不能であり、給与の支払いがないことが条件です。
  • 退職後も同一の傷病で継続して療養・労務不能の状態にあること:退職後に別の傷病が発生しても、それは継続給付の対象にはなりません。在職中から継続している傷病であることが必要です。

この3点はセットで確認する必要があり、1つでも欠けると継続給付は受けられません。

受給できる期間の上限

継続給付を含めた傷病手当金全体の支給期間は、支給開始日から通算1年6ヶ月です。2022年1月の健康保険法改正以前は「支給開始から暦の上で1年6ヶ月」でしたが、改正後は出勤して給与が支払われた日はカウントしない「通算制」に変わりました。

たとえば在職中に3ヶ月間受給し、その後2ヶ月復帰して再び休職した場合、残りの受給可能期間は1年3ヶ月となります。退職後の継続給付もこの残余期間内に限られるため、在職中の受給歴の確認が重要です。

知らないと受給権を失う「退職日」の落とし穴

退職日に出勤すると継続給付が受けられなくなる

継続給付の要件のうち、特に見落とされやすいのが「退職日に労務不能であること」という条件です。退職日に少しでも出勤してしまうと、その日は「労務不能」とみなされないため、継続給付の対象外になる可能性があります。

たとえば「最終日だけ挨拶に来てほしい」「引き継ぎ書類に押印が必要」などの理由で退職日に出勤させてしまうケースがあります。善意の対応が結果として受給権を奪うことになりかねません。退職日の前後の行動については、担当者が事前に本人・上司と確認しておくことが大切です。

退職直前の有給消化が与える影響

「有給休暇を使い切ってから退職させてあげたい」という気持ちは自然なことです。しかし退職日に有給休暇を取得して給与が発生している場合、その日は「給与支払いがある日」として傷病手当金の支給調整対象となります。

結果として、退職日の有給消化によって「傷病手当金を受給できる状態にない日」と判断されるケースがあり、継続給付の資格を失うリスクがあります。退職前に有給を消化させる場合は、有給消化の最終日を退職日より前に設定し、退職日は休職状態(無給)のまま迎えるよう調整するケースが一般的です。

退職日の設定は担当者が主導して調整する

休職中の従業員は制度の細部を知らないことがほとんどです。退職意思を示された段階で、担当者が主導して退職日の設定について確認・調整することが求められます。たとえば「退職日の前日まで休職扱いにする」「有給残日数の消化スケジュールを傷病手当金の受給要件に支障がないよう組む」といった調整が必要になります。

この判断は会社の法的義務ではありませんが、担当者が適切な情報を持ったうえで助言することで、後日のトラブルや元従業員からのクレームを防ぐことができます。不安なケースは社会保険労務士や支援機関へ事前に相談するのが得策です。

退職時に会社が対応すべき手続き

在職中に完了させる申請書対応

傷病手当金の申請書には「事業主記載欄」があり、在職中の出勤状況・給与支払い状況の証明が必要です。退職が決まった段階で、それまでの申請分(まだ未提出のもの)について事業主記載欄への記入を漏れなく対応しておきましょう。

退職後に元従業員から「記入してほしい」と連絡が来ることもありますが、退職後でも事業主記載欄への協力は会社側の実務的な対応として求められます。拒否することは法的に問題になる場合もあるため、退職手続きと並行して丁寧に対応することを推奨します。

資格喪失届の提出と証明書類の発行

退職日の翌日が健康保険の資格喪失日となります。会社は通常5日以内に健康保険組合または協会けんぽへ資格喪失届を提出する義務があります。この届出が遅れると、元従業員が協会けんぽへ継続給付の申請をする際に支障が生じる場合があります。

また、離職票・退職証明書・源泉徴収票なども速やかに発行します。継続給付の申請において健保側から在職期間や給与額の確認を求められることがあるため、これらの書類は退職後すぐに手渡しまたは郵送できるよう準備しておくと親切です。

退職後の申請フローと会社の関与範囲

退職後の継続給付申請は、基本的に元従業員が直接、協会けんぽや健康保険組合に行います。担当医の意見書(療養担当者記載欄)を取得し、申請書を健保に提出するのが元従業員の役割です。

会社が関与するのは主に以下の場面に限られます。

  • 申請書の事業主記載欄への記入・押印(退職日以降の分は「在職期間の給与情報のみ」の証明)
  • 健保からの確認照会への回答
  • 給与情報の提供(源泉徴収票等での確認)

「退職したのだから一切関係ない」という姿勢では元従業員との関係が悪化するリスクがあります。一方で、医療的な判断や申請手続きの代行までする義務はありません。「在職中の事実証明は対応する」「申請そのものは元従業員が行う」というラインを担当者が明確に持っておくことが重要です。

元従業員からの問い合わせ対応と担当者が知っておくべきポイント

退職後に問い合わせが来たらどう対応するか

退職後に元従業員から「申請書の書き方がわからない」「健保から追加書類を求められた」といった連絡が来ることがあります。担当者が一人で抱え込んで対応するのではなく、まず「会社として答えられる範囲」を整理しておくことが大切です。

在職中の出勤記録・給与支払いに関する事実確認は会社が対応できる範囲です。一方で、「どう書けば受給できるか」のような申請書の記載内容のアドバイスは、正確な知識がなければ誤情報を伝えるリスクがあります。そうした場合は「協会けんぽや健保組合に直接確認するよう案内する」のが適切な対応です。

社労士不在の会社が陥りやすい属人化対応

専任人事のいない中小企業では、こうした問い合わせへの対応が特定の担当者に偏りがちです。その担当者が退職・異動すると対応のノウハウが失われ、次の担当者が一から調べながら対応することになります。

最低限、社内に「退職後の傷病手当金継続給付に関する対応フロー」を文書化しておくことをお勧めします。「要件の確認 → 退職日の設定助言 → 申請書記入 → 問い合わせ対応のライン」という流れを1ページにまとめるだけでも、次の担当者の負担を大幅に軽減できます。

任意継続被保険者との関係を整理する

退職後に「任意継続被保険者」として健康保険に加入し直す場合があります。この場合、資格喪失後継続給付の要件を満たしていれば、任意継続中でも継続給付は受けられます。ただし、任意継続の加入後に新たに発症した別の傷病については、継続給付の対象にはなりません。

また、国民健康保険へ切り替えた場合も継続給付の受給資格には影響しません。継続給付はあくまで「退職前に加入していた健保」から支払われるものであり、退職後にどの保険に加入するかとは別の話です。この点も元従業員への説明で誤解が生じやすいため、担当者として正確に把握しておきましょう。

まとめ

退職後も傷病手当金を継続して受け取るには、「継続して1年以上の被保険者期間があること」「退職日時点で受給中または受給できる状態であること」「同一の傷病で療養・労務不能が続いていること」の3つの要件をすべて満たす必要があります。特に退職日の出勤や有給消化が受給権に影響するという落とし穴は、知らないまま手続きを進めると取り返しのつかないトラブルにつながります。

会社側の対応としては、退職日の設定助言・申請書の事業主記載欄への記入・資格喪失届の速やかな提出が主な役割です。退職後の申請は元従業員が主体となりますが、在職中の事実証明については誠実に協力することが求められます。

「うちのケースはどう対応すればいいかわからない」「休職者が退職を希望していて手続きが不安」という場合、ウェルセンス株式会社では中小企業の人事担当者からの個別相談をお受けしています。専任の人事担当者がいない環境でも、安心して対応できる体制づくりを一緒に考えます。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 被保険者期間が1年に数日足りない場合でも、継続給付は受けられませんか?

A. 原則として、資格喪失日の前日までに継続して1年以上の被保険者期間が必要です。数日足りない場合は要件を満たさないため、継続給付は受けられません。ただし、過去に別の健康保険に加入していた期間が通算できるケースもあるため、協会けんぽや健康保険組合に個別に確認することをお勧めします。

Q. 退職後に元従業員から「申請書に事業主の記入をしてほしい」と連絡が来ました。対応しなければいけませんか?

A. 在職中の出勤状況・給与支払いの事実を証明する事業主記載欄への記入は、退職後であっても協力することが求められます。正当な理由なく拒否することは元従業員の受給権を侵害する可能性があるため、在職期間中の事実に基づいて誠実に対応してください。申請書の記載内容について判断に迷う場合は、協会けんぽや社会保険労務士に確認するとよいでしょう。

Q. 退職日に有給休暇を消化させた場合、必ず継続給付が受けられなくなるのですか?

A. 必ずしも受けられなくなるわけではありませんが、退職日に有給休暇を取得して給与が支払われると、その日は「傷病手当金を受給できる状態」とみなされない可能性があります。継続給付の要件である「退職日時点で受給できる状態にあること」を満たせなくなるリスクがあるため、有給消化のスケジュールと退職日の設定は慎重に検討する必要があります。個別のケースは健保や社会保険労務士への確認を推奨します。

Q. 継続給付を受けている元従業員が途中でアルバイトを始めた場合はどうなりますか?

A. 継続給付を受けるためには「労務不能の状態が続いていること」が条件です。アルバイト等で就労している日は労務不能とみなされないため、その日数分の支給は行われません。また、就労の事実が申告なく支給を受けていた場合は不正受給となるリスクがあります。受給中の就労については、必ず担当医や健保に相談するよう元従業員に伝えておくことが大切です。

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