「有給休暇が今週で切れるのですが、次に何をすればいいですか?」——そんな問い合わせをいただく経営者・人事担当者の方が、実は非常に多くいらっしゃいます。メンタル不調の社員への対応は、専門知識がなければどこから手をつければいいか見当もつかないものです。本記事では、有給消化後から休職移行までの流れを、法的な根拠を交えながら実務レベルで丁寧に解説します。
有給消化後に「何もしない」は一番のリスク
欠勤・休職・解雇は法的に別物
有給休暇が切れた翌日、多くの企業が「とりあえず欠勤扱いで…」と曖昧なまま対応してしまいます。しかし欠勤・休職・解雇は、法的な位置づけもかかる費用もまったく異なります。欠勤は「就労義務のある日に休んでいる状態」であり、就業規則によっては賃金控除の対象になります。一方、休職は就業規則に定めた制度で、賃金支給は原則不要(無給が一般的)ですが、社会保険は継続します。解雇はいわゆる労働契約の終了であり、正当な理由と手続きが求められます。
この3つをごちゃまぜにしたまま放置すると、後々「解雇だと思っていた」「欠勤扱いなら賃金を払え」といったトラブルに発展します。有給が切れた瞬間から、会社は意図的に「どの状態か」を決めて本人に伝える必要があります。
休職制度は「法定」ではなく「就業規則次第」
見落とされがちな重要な前提があります。休職制度は、労働基準法には定めがありません。つまり、就業規則に休職規定がなければ、会社には休職を命じる法的根拠がないのです。従業員10人以上の事業所には就業規則の作成・届出義務(労働基準法第89条)がありますが、休職規定が抜け落ちているケースも少なくありません。まず、自社の就業規則に「休職に関する条文があるか」を確認することが、すべての出発点です。
放置が「解雇」と受け取られる危険性
有給が切れたまま数週間連絡もせず放置していると、社員側から「事実上の解雇ではないか」と主張されるリスクがあります。実際にそうした労使トラブルは中小企業でも起きています。何もしないことが最も危険な選択肢だということを、まずご認識ください。
就業規則に休職規定がないときの対処法
最低限必要な規定の内容
休職規定を緊急で整備する場合、最低限以下の5項目を盛り込む必要があります。まず、休職の要件(どのような状態が対象か。例:私傷病により30日以上就労不能な場合)を明確にします。次に、休職期間の上限(勤続3年未満は3ヶ月、5年未満は6ヶ月など段階設定が望ましい)を定めます。そして休職期間満了時の取り扱い(自然退職か解雇か)、復職の要件と手続き(主治医の診断書・産業医の意見など)、休職中の賃金と社会保険料の扱いについても明記します。
これらが就業規則に明記されていないと、期間満了後の「退職扱い」が無効と判断された判例もあります。整備は早ければ早いほど会社を守ることになります。
既存規定を「読み替え」で運用するリスク
「就業規則にはあることはあるが、10年前のもので詳細がない」という企業も多くあります。そのまま運用すると、実態と規定のズレが生じ、後から「そんな規定は知らなかった」と言われかねません。規定の見直しは、可能であれば社会保険労務士と連携して行うことを強くお勧めします。
本人への伝え方——「休んでください」の言い方が命運を分ける
伝え方を誤るとハラスメントになりうる
メンタル不調の社員に「有給が切れたので休職に入ってください」と伝えることへの心理的ハードルは非常に高いものです。しかし伝え方を間違えると、「退職を強要された」「追い詰められた」と受け取られるリスクがあります。面談では「会社としてあなたの回復を待ちたい」「辞めてほしいわけではない」という姿勢を最初に明示することが不可欠です。
面談前に準備すべきこと
面談を行う前に、以下を準備しておくと安心です。まず、医師の診断書を事前に受け取っているかを確認します(ない場合は提出を依頼)。次に、休職辞令の書面を用意します。さらに、面談の記録シートを準備し、何を話したかを後から証明できるようにしておきます。話す内容のスクリプトをあらかじめ文字に起こしておくと、緊張していても落ち着いて伝えられます。
例えば、「現在の体調では就業が難しい状態と医師からも確認されています。会社としては、あなたにしっかり回復していただきたいと思っています。そのために、就業規則に基づく休職制度を使っていただきたいのです」という流れで話すと、本人が”守られている”と感じやすくなります。
書面の交付と記録の保存
口頭だけで終わらせず、必ず「休職辞令」を書面で交付してください。記載内容は、休職開始日・休職期間・休職中の連絡方法・社会保険料の支払い方法・復職手続きの概要が最低限必要です。この書面が後々のトラブルを防ぐ最大の防衛策になります。面談記録とともに人事ファイルに保存しておきましょう。
休職中の給与と社会保険——お金まわりの整理
休職中の賃金は「就業規則次第」
休職中の賃金については、法律上の定めがなく、就業規則の規定によります。多くの企業では「休職中は無給」としています。ただし、有給消化中は通常通り賃金が発生しますので、有給が切れた翌日からの無給への切り替えタイミングを明確にしておくことが重要です。
社会保険料は休職中も発生する
健康保険・厚生年金は、休職中も継続して発生します。会社負担分は引き続き会社が払いますが、本人負担分(通常は給与天引き)は給与がないため別途回収が必要になります。主な方法は3つです。毎月銀行振込で本人に支払ってもらう方法、会社がいったん立て替えておいて復職後に分割控除する方法、休職開始前に数ヶ月分を一括で預かっておく方法です。どの方法にするかをあらかじめ書面で合意しておくと、後のトラブルを防げます。
傷病手当金は会社のサポートが鍵
健康保険の傷病手当金(健康保険法第99条)は、業務外の傷病で休んだ場合に、連続3日間の待期期間を経た4日目から支給されます。支給額は標準報酬日額の3分の2で、支給期間は支給開始日から通算1年6ヶ月です(2022年1月の法改正後)。
申請は本人が行いますが、申請書には「会社記載欄」(欠勤期間・賃金支払いの有無)と「医師記載欄」が必要です。会社側の記入がなければ申請できないため、実質的に会社のサポートなしには成立しません。また、有給消化中も「療養のために休んでいた日」として待期期間のカウントに含まれるため、有給が終わった直後から4日目を待たずに支給対象になる場合もあります。社員から相談があれば、申請書の書き方を一緒に確認してあげることが信頼関係の構築につながります。
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休職期間中の会社側の関わり方
連絡の頻度と方法を事前に決める
休職中に「どのくらいの頻度で連絡していいか」は、多くの担当者が悩むポイントです。基本的な考え方は、「本人の負担にならない範囲で、定期的かつ一方的にならない形で」行うことです。目安としては、休職開始後の最初の1ヶ月は2週間に1回程度のメール連絡、その後は月1回程度に移行する企業が多いです。「返信不要」と書き添えることで、本人のプレッシャーを軽減できます。連絡手段はメールが原則で、電話は本人の同意がある場合のみが望ましいです。
産業医がいない会社での復職判定
50人未満の企業では産業医の選任義務がないため、主治医の診断書だけで復職判定をしなければならないケースが多くあります。しかし主治医は「日常生活を送れるか」を判断する立場であり、「職場で働けるか」とは必ずしも一致しません。そのため、診断書に加えて「職場での業務内容と負荷を文書で主治医に伝え、それを踏まえた意見をもらう」という運用が実務的に有効です。また、外部の産業医サービスやEAP(従業員支援プログラム)を活用すると、客観的な復職判定が可能になります。
休職期間の延長と満了時の対応
就業規則に定めた休職期間が近づいたとき、回復が不十分な場合は延長するかどうかの判断が必要です。延長は就業規則に規定があれば可能ですが、「会社の裁量で自由に延長できる」わけではなく、一定の基準に基づいて判断する必要があります。期間満了後に退職扱いにする場合も、就業規則にその旨が明記されていることと、本人への事前の十分な通知が不可欠です。
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まとめ
有給消化後から休職移行までの対応は、就業規則の整備・本人への伝え方・金銭面の整理・休職中の関わり方という複数の論点が一気に押し寄せます。専任人事がいない企業では、これを一人でこなすことは非常に負荷が高く、判断ミスが後のトラブルに直結するリスクもあります。
ウェルセンス株式会社では、こうした「有給が切れた直後の空白地帯」を一緒に埋める伴走支援を行っています。就業規則の緊急チェック、本人への面談スクリプトの作成・同席支援、社会保険手続きのサポートまで、担当者が一人で抱え込まないための体制を整えています。「まず何から手をつければいいか」というご相談からでも、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
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