テレワーク勤怠の「まとめ申告」を3ステップで是正する方法

テレワーク勤怠の「まとめ申告」を3ステップで是正する方法 採用・定着
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「月末にまとめて勤怠を入力してもらっています」——テレワーク導入後、気づかないうちにこうした運用が当たり前になっていませんか。悪意はなく、本人も管理者も「申告しているから大丈夫」と思っているケースがほとんどです。しかし、このまとめ申告は複数の法律に抵触しうる状態であり、残業代の未払いリスクや安全配慮義務違反のリスクを静かに積み上げています。この記事では、テレワーク勤怠管理における法的根拠の確認から、過去記録の遡り修正、再発防止ルールの整備まで、実務的に解説します。

まとめ申告は「グレー」ではなく「アウト」に近い理由

結論から述べると、テレワーク社員のまとめ申告は、労働安全衛生法・労働基準法の複数条項に抵触しうる状態です。「本人が申告しているから問題ない」という認識は、法律上通用しません。

労働時間把握義務の根拠となる法律

2019年4月に施行された労働安全衛生法第66条の8の3は、管理監督者や裁量労働制の適用者を含むすべての労働者について、使用者が客観的な方法により労働時間を把握しなければならないと明記しています。テレワーク勤務者も例外ではありません。

また、労働基準法第108条・第109条は、賃金台帳の作成・保存を使用者に義務付けています(保存期間は5年、当面は3年)。正確な労働時間の記録がなければ、賃金台帳の正確性も担保できません。

「申告させているだけ」では義務を果たしていない

厚生労働省が2017年に策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、自己申告制を採用している場合でも、使用者が申告内容の実態を確認し、申告と実態の乖離をチェックする義務があることを明示しています。週末や月末にまとめて申告させている状態では、この確認義務を果たすことができません。

まとめ申告が引き起こすリスクの全体像

リスクの種類 根拠となる法律・条文
労働時間把握義務違反 労働安全衛生法 第66条の8の3
割増賃金(残業代)の未払いリスク 労働基準法 第37条
賃金台帳の不正確記載 労働基準法 第108条
安全配慮義務の不履行リスク 労働契約法 第5条
過重労働による健康障害リスク 労働安全衛生法 第66条の8

労働基準法違反には罰則規定があり、労基署の調査が入った場合、是正勧告・指導の対象となります。また、残業代の未払いが確認された場合は、最大3年分の遡及請求リスクが生じます。

過去の記録を遡って修正する前にすること

まず着手すべきは、過去の実態を客観的な証跡から再現することです。記録を修正するためには、「実際にいつ働いていたか」を裏付けるデータが必要であり、それなしに修正すると改ざんとみなされるリスクがあります。

客観的な証跡として使えるデータ

テレワーク環境では、以下のようなデジタルログが実態把握の手がかりになります。これらは社内のIT部門や情報システム担当者に確認して収集します。

  • PCのログオン・ログオフ記録
  • メール・チャットツール(Slack、Microsoft Teamsなど)のタイムスタンプ
  • VPN接続ログ(接続開始・切断時刻)
  • 業務システムへのアクセスログ
  • Web会議ツール(Zoom、Google Meetなど)の参加・退出記録

これらを申告記録と照合し、「申告上の終業時刻より後に業務用ツールの操作記録がある」「申告されていない時間帯にVPN接続がある」といった乖離がないかを確認します。

差異の規模によって対応が分かれる

ログと申告記録を照合した結果、差異の規模によって対応の方向性が変わります。差異が偶発的・軽微であれば、記録の修正と再発防止ルールの整備を社内で進めることが現実的な対応です。一方、終業後の業務実態が継続的に確認されるなど、残業代の未払いが疑われる場合は、社労士または弁護士と連携し、支払い義務の範囲を確定してから清算手続きに進む必要があります。

残業代の未払いを放置すると、退職した従業員からの遡及請求(最大3年分)のリスクが高まります。発覚してから対処するよりも、自発的に把握・清算するほうが、対外的な信頼の観点からも有利に働きます。記録の整理と修正プロセスで迷ったら、早期に専門家に相談することをお勧めします。

修正記録の保存方法

修正した勤怠記録は、「なぜ、いつ、どのような根拠で修正したか」を記録した修正履歴とともに保管します。この履歴があることで、将来の労基署調査において、記録の修正が適正なプロセスによるものであることを説明できます。修正理由の記録なしに数値だけを書き換えると、改ざんとの区別がつかなくなるため注意が必要です。

今後のルールを整備する

過去の修正が一段落したら、同じ問題を繰り返さないための仕組みを作ります。テレワーク特有の曖昧さを就業規則やテレワーク規程で明文化し、記録の収集・確認フローを月次で回せる状態にすることが目標です。

始業・終業の定義を明文化する

テレワーク下で最も曖昧になりやすいのが「いつ仕事を始めて、いつ終えたか」という時刻の定義です。就業規則またはテレワーク規程に、始業・終業の判断基準を具体的に記載します。

たとえば、「業務用端末を起動してから最初の業務関連操作(メール送信・業務システムへのログイン等)を行った時刻を始業とみなす」「業務用端末からログオフした時刻、またはVPN接続を切断した時刻を終業の目安とする」といった形で規定します。完全に厳密な定義は難しいですが、「曖昧さをゼロにすること」よりも「判断の基準が存在すること」が重要です。

自己申告はあくまで補完的な位置づけにする

厚生労働省のテレワークガイドライン(2021年3月改定)は、テレワーク時の労働時間管理において、PCのログ等の客観的記録を第一証跡とし、自己申告はその補完的な手段として位置づけることを推奨しています。申告制を完全に廃止する必要はありませんが、「申告内容をログで裏付ける」という確認フローを設けることが重要です。

管理職の確認フローを月次で設計する

ルールを作っても、確認する人・タイミングが決まっていなければ形骸化します。月次の勤怠締め日に、管理職が部下のログデータと申告記録を照合し、乖離があれば本人に確認する、という簡単なフローを設計します。専任人事がいない中小企業では、このフローを「管理職の業務」として明文化しておくことがポイントです。管理職自身が「何を、いつ、どうやって確認するか」を理解していないと、チェックは機能しません。

安全配慮義務との関係を見落とさない

勤怠の記録漏れは、残業代の問題だけでなく、労働契約法第5条に定められた安全配慮義務の観点からも重大なリスクをはらんでいます。労働時間の実態が把握できていなければ、過重労働による健康被害を未然に防ぐことができないからです。

勤怠把握と健康管理は切り離せない

安全配慮義務とは、使用者が労働者の生命・身体・精神的健康を守るために必要な配慮をする義務のことです(労働契約法第5条)。過重労働によるメンタルヘルス不調・過労による健康障害は、使用者が労働時間の実態を把握していれば防げた可能性があるとして、損害賠償請求の根拠となることがあります。

テレワーク環境では、長時間労働が周囲から見えにくいため、まとめ申告によって実態が隠れていると、過重労働のサインに気づくタイミングが遅れます。労働時間の把握は、賃金計算のためだけでなく、従業員の健康を守るためのインフラと位置づけることが重要です。

管理職が担うべき確認の範囲

管理職は、チームメンバーの労働時間の実態を把握し、月80時間を超えるような時間外労働が発生している場合には、産業医への面談勧奨や業務量の調整を行う役割を担います。従業員数が50人以上の事業場では産業医の選任が義務付けられており(労働安全衛生法第13条)、産業医と連携した過重労働対策が求められます。

一方、従業員数が50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、地域産業保健センター(リージョナル産保センター)を通じて無料で産業保健サービスを受けることができます。勤怠の記録体制を整えると同時に、健康管理の相談窓口についても確認しておくと安心です。

就業規則がない・古い場合の対処

従業員数が10人以上の事業場では就業規則の作成・届出が義務付けられています(労働基準法第89条)。テレワーク規程が未整備の場合、まず既存の就業規則にテレワーク時の勤怠管理に関する条項を追記することから始めます。就業規則自体がない場合、または最終改定から5年以上経過している場合は、社労士に依頼して現行法に対応した形に整備することを検討してください。

まとめ

テレワーク勤怠のまとめ申告は、労働安全衛生法・労働基準法・労働契約法にまたがる複数のリスクを生じさせます。対応の流れは、まず客観的な証跡(PCログ・VPNログ等)を収集して実態を再現し、次に申告記録との差異を確認・修正します。そのうえで、テレワーク規程への明文化・客観記録の第一証跡化・管理職による月次確認フローの設計という順で再発防止策を整備していきます。残業代の未払いが疑われる場合は放置せず、社労士・弁護士と早期に連携することが肝心です。

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よくある質問

Q. テレワーク社員のPCログを取得していません。証跡がない場合、修正は諦めるしかありませんか?

A. PCログがなくても、メール・チャットツールのタイムスタンプ、Web会議ツールの参加記録、業務システムへのアクセスログなど、複数の証跡を組み合わせて実態を再現できる場合があります。証跡が乏しい期間については、現時点から記録の仕組みを整えることを優先し、今後の同じ問題の発生を防ぐことに注力してください。過去分については、残存する証跡の範囲で可能な確認を行い、その限界を記録として残しておくことが重要です。

Q. 従業員が「自分は残業していない」と言っています。それでも記録の修正は必要ですか?

A. 本人の申告だけでは確認義務を果たしたことにはなりません。労働時間の適正な把握ガイドラインは、自己申告制を採用する場合でも、客観的な記録との照合を使用者に求めています。PCログ等の客観記録が申告内容と一致していれば問題ありませんが、その確認作業自体は行う必要があります。「本人が問題ないと言っている」という事実は、使用者の確認義務を免除するものではありません。

Q. テレワーク規程はなく、就業規則に一行も触れていません。どこから手をつければいいですか?

A. まず既存の就業規則にテレワーク時の勤怠管理に関する条項(始業・終業の定義、記録方法、申告のタイミングなど)を追記することから始めるのが現実的です。別途「テレワーク勤務規程」を整備するとより明確になりますが、専任人事がいない場合は社労士に依頼して雛型を作成してもらい、自社の実態に合わせて調整する方法が効率的です。まず運用ルールを口頭で周知し、並行して規程整備を進めるという段取りも有効です。

Q. 勤怠システムを導入しないと、正しく管理することはできませんか?

A. 専用の勤怠システムがなくても、すでに社内で使っているツール(Teamsのチャットログ、Google Workspaceのアクセス記録など)を補助的な証跡として活用することで、一定の対応は可能です。ただし、従業員数や業務の複雑さに応じて、シンプルなクラウド型勤怠管理ツール(月額数百円〜数千円のものも多い)の導入を検討することで、記録の自動化と確認コストの削減が同時に実現できます。ツール導入の可否よりも、「確認フローが月次で回っているか」の方が実務上は重要です。

Q. 労基署の調査が来た場合、まとめ申告の過去記録はどう対応すればいいですか?

A. 労基署の調査が入った場合、勤怠記録・タイムカード・賃金台帳などの提出が求められます。まとめ申告の記録が残っている状態で調査が来た場合は、記録の不備を認めたうえで、修正のプロセスと今後の改善策を説明する姿勢が重要です。調査前に自発的に記録の見直しと修正を行い、その経緯を書面で残しておくことが、対応を有利に進めるうえで効果的です。調査の通知を受けてから慌てて対処するよりも、事前に社労士と連携して準備を整えておくことを強くお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
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