「主治医から復職という診断書をもらったけれど、本当にこれだけで判断していいのだろうか」——産業医のいない会社で休職者の復職対応をしていると、そんな迷いが生じる場面が必ずあります。診断書を受け取った後、誰に・何を確認して、どう判断を下せばいいのか。手順が整理できないまま、なんとなく復職させてしまっているケースは少なくありません。この記事では、産業医不在の会社が活用できる外部機関の種類・費用・依頼手順を具体的に解説します。
診断書だけで復職を判断してはいけない理由
主治医の「復職可」という診断書は参考情報であり、就労可能かどうかの最終判断は会社側が行う義務があります。診断書に頼り切ることで、会社が思わぬリスクを抱えることになります。
主治医が見ているものと会社が確認すべきことのズレ
主治医が復職可と判断する基準は「日常生活に支障がない状態まで回復しているか」です。朝起きられる、外出できる、会話ができる——そのレベルの回復を指していることがほとんどです。しかし、実際の職場では「期日のある仕事をこなす」「複数のタスクを同時に管理する」「対人ストレスのある環境で継続的に働く」といった能力が求められます。この「日常生活の回復」と「業務遂行能力の回復」には大きな乖離があり、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも明確に区別されています。
復職判断の最終責任は会社にある
労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体・健康を危険から保護する安全配慮義務を負うことを定めています。主治医の診断書だけを根拠に復職させ、その後に再休職や健康被害が生じた場合、「適切な就労可能性の確認をしなかった」として安全配慮義務違反を問われる可能性があります。一方で、「主治医が復職可と言っているのに会社が拒否した」として損害賠償を求められるケースも存在します。受け入れすぎも、拒否しすぎも、どちらもリスクになるのが復職判断の難しさです。だからこそ、中立的な第三者専門家の意見書を取得することが、会社を守る実務的な手段になります。
産業医が不在でも「努力義務」は課されている
労働安全衛生法第13条により、産業医の選任義務が発生するのは常時50人以上の事業場です。49人以下の会社に選任義務はありません。ただし、同法第13条の2では、産業医を選任する義務のない事業者に対しても「労働者の健康管理等を行う医師等に相談する体制の整備」が努力義務として求められています。「うちは小さい会社だから何もしなくていい」というわけではなく、何らかの専門家を活用する仕組みを持つことが求められています。
産業医不在の会社が使える外部機関
産業医がいない会社が復職判断の支援を依頼できる外部機関には、主にEAP機関・社会保険労務士・産業医紹介サービスの3種類があります。それぞれ役割と費用感が異なるため、自社の状況に合わせて選ぶことが重要です。
| 機関の種類 | 主な提供内容 | 費用の目安 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| EAP(従業員支援プログラム)機関 | 復職面談・就労可能性の意見書・復職後のフォロー面談 | 月額契約:従業員1人あたり数百~数千円/スポット:1回数万円~ | 継続的な支援体制を整えたい・複数名の対応が見込まれる |
| 社会保険労務士(メンタルヘルス対応に強い) | 復職手続きの整備・就業規則の確認・復職判断プロセスの助言 | スポット相談:1時間1~2万円程度/顧問契約:月数万円~ | 手続き・記録の整備や法的観点からのアドバイスが必要 |
| 産業医紹介・スポット産業医サービス | 医師による復職可否の意見書・面談・職場環境へのアドバイス | スポット面談:1回3~8万円程度(機関によって異なる) | 医師の意見書が必要・法的な証跡として医師の関与を残したい |
EAP機関への依頼
EAP(Employee Assistance Program)機関は、従業員のメンタルヘルス支援を専門とする民間機関です。臨床心理士や産業カウンセラーが復職面談を行い、就労可能性に関するアセスメント結果を会社に報告する形式が一般的です。月額の契約形式を取ることが多く、複数の従業員を継続的にサポートするケースに向いています。スポット対応も可能な機関があるため、「今すぐ1件だけ相談したい」という場合でも問い合わせる価値があります。注意点として、EAPのスタッフが医師でない場合は「意見書」の法的位置づけが産業医の意見書とは異なります。あくまでもアセスメントレポートとして活用するものと理解してください。
社会保険労務士への依頼
メンタルヘルス対応に精通した社会保険労務士は、復職判断そのもの(医学的判断)は行いませんが、「会社として適切なプロセスを踏んでいるか」という観点から実務を整理してくれます。就業規則に復職規定がない場合のリスク確認、復職時の書面整備、面談記録のフォーマット作成など、「手続きの正しさ」を担保するうえで心強いパートナーです。すでに顧問社労士がいる場合は、まずその社労士にメンタルヘルス・休職復職対応の経験があるかを確認してみましょう。専門外の場合は、産業保健や労務トラブル対応に強い社労士を別途探すことも選択肢です。
スポット産業医サービスへの依頼
産業医を選任する義務はなくても、スポットで産業医に意見を求めることは法的に問題なく、むしろ積極的に活用すべき手段です。産業医紹介サービスを提供する機関や、地域の産業保健総合支援センター(産保センター)を通じて相談することができます。産保センターは国が設置する機関で、50人未満の事業場向けに無料または低コストで産業医への相談機会を提供しています。まずはお住まいの都道府県の産保センターに問い合わせることをお勧めします。
「今まさに復職の判断に迷っている」という場合は、気軽に産保センターやスポット産業医に相談してみてください。医師の視点を入れるだけで、判断の根拠が大きく変わります。
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外部機関への依頼手順
外部機関を活用して復職可否を判断するには、「情報収集→機関の選定→面談の実施→意見書の取得→復職判断と記録」という流れで進めます。各ステップで押さえるべきポイントを整理します。
事前準備として会社側が整理すること
外部機関に相談する前に、会社側が以下の情報を整理しておくと、面談や相談がスムーズに進みます。まず確認したいのは、就業規則に休職・復職に関する規定があるかどうかです。規定がない場合、そもそも復職の条件が曖昧になり、判断基準を設けにくくなります。次に、休職者の業務内容・労働時間・職場環境(人間関係のストレス要因など)をまとめておきます。外部の医師やカウンセラーが「その仕事をこなせる状態かどうか」を判断するためには、職場の実態情報が不可欠です。主治医の診断書のコピーも手元に用意しておきましょう(本人の同意のもとで取り扱います)。
本人の同意と情報共有の進め方
外部機関が休職者と面談を行う場合、必ず本人の同意が必要です。「会社が勝手に外部機関に情報を渡した」という状況はトラブルの原因になります。復職の意向確認の場などで「外部の専門家にも意見を求めながら、一緒に復職の準備を進めていきたい」と説明し、同意を得た上で手続きを進めましょう。また、外部機関から会社へ提供される情報の範囲(就労可能性の判断と必要な配慮事項に限定するなど)を事前に確認しておくことも大切です。
意見書取得後の対応と記録の残し方
外部機関から意見書やアセスメントレポートを受け取ったら、その内容をもとに復職の可否・時期・条件(短時間勤務・業務内容の制限など)を決定します。この判断の根拠と経緯を文書で残すことが、安全配慮義務の履行を証明する上で重要です。復職面談の日時・参加者・話し合った内容・決定事項を記録し、本人にも確認してもらった上で保管します。万一再休職や労務トラブルが起きたとき、「専門家の意見を踏まえて、このような手順で判断した」という記録が会社を守ることになります。
復職判断を誤ったときの会社側リスク
復職判断のミスは、再休職・労務トラブル・法的責任という形で会社に跳ね返ってきます。どのようなリスクがあるかを事前に理解しておくことで、対応の優先度を正しく判断できます。
早期復職による再休職と安全配慮義務違反
回復が不十分な状態で復職させた場合、数週間~数か月以内に再休職するケースは珍しくありません。再休職それ自体は避けられないこともありますが、「会社が適切な確認をせずに復職させた」と判断された場合、労働契約法第5条の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。損害賠償請求にまで発展するケースもあり、特に「診断書だけで判断し、専門家への確認を一切行っていなかった」という場合は会社側の過失が認定されやすくなります。
復職拒否による不当対応のリスク
反対に、主治医が復職可と判断しているにもかかわらず、会社が明確な根拠なく復職を認めなかった場合、「不当な就労拒否」として賃金請求や損害賠償を求められるリスクがあります。「なんとなく不安だから」という理由だけで復職を先延ばしにすることは法的に問題になりえます。外部専門家の意見書を取得し、「このような理由から現時点では復職は難しいと判断した」という根拠を示せることが重要です。
記録・プロセスの不備が招く事後リスク
手続きを踏んでいたとしても、その記録がなければ「踏んでいないのと同じ」になります。復職面談の内容、意見書の保管、本人への説明と同意のプロセス——これらをきちんと文書として残すことが、事後のトラブル対応で会社側の正当性を示す唯一の手段です。「記録を残すこと」は形式的な作業ではなく、実務的なリスクヘッジです。
自社の状況に合わせた対応の選び方
会社の規模・就業規則の整備状況・今後の復職案件の発生頻度によって、選ぶべき外部機関と契約形態は異なります。自社のケースに当てはめて判断するための目安を示します。
今回限りのスポット対応か、継続的な体制整備か
「現在対応中の休職者が1名いて、今すぐ判断が必要」という状況であれば、スポット産業医サービスやEAP機関へのスポット依頼が現実的です。一方、「今後も復職案件が継続して発生しそう」「メンタルヘルス対応の体制を整えたい」という場合は、EAP機関との月額契約や、メンタルヘルスに強い社労士との顧問契約を検討するほうが長期的にコスト効率が良くなります。
就業規則の整備状況による優先度の違い
就業規則に休職・復職の規定がない、または内容が曖昧な場合は、外部機関への相談と並行して就業規則の整備を優先することをお勧めします。復職の条件・手順・判断基準が規則に明記されていないと、どんなに丁寧な対応をしても「ルールがなかった」という土台の問題が残ります。社会保険労務士への相談からスタートし、規則の整備と外部専門家の活用体制を同時に進めるのが効果的です。
配置転換の選択肢が限られる小規模企業の現実的な対処
20~30名規模の会社では、「軽減業務を用意する」「別部署に異動させる」という選択肢が物理的に存在しないケースがあります。外部機関から「当面は業務量を半減させることを推奨する」という意見が出ても、それを実行できる体制がなければ意味がありません。この場合、外部機関への相談時に「配置の選択肢がこれだけしかない」という会社の実情を正直に伝え、「その制約の中でどのような復職プランが現実的か」を一緒に考えてもらうことが大切です。無理な復職よりも、休職期間の延長や段階的な業務復帰のロードマップを描くほうが、結果的に本人にとっても会社にとっても良いケースがあります。
まとめ
産業医がいない会社でも、EAP機関・社会保険労務士・スポット産業医サービスという3つの外部機関を活用することで、復職可否の判断に専門家の視点を取り入れることができます。主治医の診断書はあくまでも参考情報であり、就労可能性の判断と記録の整備は会社側の責任として行う必要があります。外部機関への依頼は「高額で難しそう」というイメージを持たれがちですが、地域の産業保健総合支援センターを活用すれば無料または低コストで相談を始めることも可能です。大切なのは「動き出すこと」と「記録を残すこと」の2点です。
復職対応を人事だけで判断するのは、会社にとっても本人にとってもリスクです。外部専門家を巻き込むことで、判断の質と信頼性を大きく高めることができます。ウェルセンス株式会社では、産業医不在の中小企業の復職対応について、初回無料での相談を受け付けています。「今まさに対応中の休職者がいる」「就業規則に復職規定がない」「どこから手をつければいいかわからない」——そんな状況でも、一つひとつ整理しながら進めることができます。お気軽にご相談ください。
よくある質問
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