復職後の主治医との情報共有を会社が適切に管理する方法

復職後の主治医との情報共有を会社が適切に管理する方法 休職・復職対応
Photo by Thirdman on Pexels

「復職した社員が主治医に会社の内情を話しているらしい。それを止めることはできないのか」——復職対応を担当していると、こうした疑問が頭をよぎることがあります。一方で、「情報共有を制限しすぎて安全配慮義務違反になったら困る」という不安も同時に抱えているのではないでしょうか。復職後の主治医との情報共有は、従業員の権利・個人情報保護・安全配慮義務が複雑に絡み合うテーマです。この記事では、会社が「何をコントロールできるか」「何はできないか」を整理したうえで、実務で使えるルール整備の方法を具体的に解説します。

従業員が主治医に話す内容を、会社は制限できない

結論から言えば、復職者が主治医に何を話すかを会社が直接制限することは、原則としてできません。これは法的な観点からも、実務的な観点からも重要な前提です。

医療を受ける権利とプライバシー権

従業員は、自分が経験した職場での出来事や体調の変化を主治医に話す権利を持っています。これは憲法上のプライバシー権に根ざしており、医療を受けるうえで不可欠な行為です。「職場の内部情報を主治医に話すな」という業務命令は、一般的に法的効力を持ちません。たとえ就業規則に守秘義務の規定があったとしても、自分の健康状態に関わる事実を主治医に伝える行為まで制限することは、過度な権利侵害と判断される可能性が高いでしょう。

制限できる余地がある例外的なケース

ただし、従業員が主治医に伝える情報の中に、明らかに営業秘密や機密情報に該当するものが含まれている場合は、別途検討の余地があります。たとえば、顧客リストの具体的な内容や未公開の事業計画などです。ただしこれも、「話すことの禁止」ではなく、日頃からの秘密保持契約や情報管理研修の中で適切な取り扱いを周知することが基本的なアプローチになります。「主治医に職場の話をするな」と口頭で命令するだけでは、法的根拠として機能しません。

「何が漏れているかわからない」不安への現実的な対処

「復職者が主治医に上司の悪口を言っているのでは」という不安は理解できます。しかし、確認手段がない以上、その不安をそのままコントロールしようとすると、従業員との信頼関係を損なうリスクがあります。現実的な対処は、「漏れを止める」ことではなく、「主治医の意見書が届いたときに誠実に対応するフローを持つ」ことです。これについては後述します。

会社と主治医の間の情報共有には、双方向で同意が必要

会社から主治医へ、あるいは主治医から会社へ、いずれの方向の情報提供にも従業員本人の同意が必要です。この双方向の同意が、適切な情報管理の出発点になります。

会社から主治医への情報提供

会社が主治医に対して職場情報(業務内容・職場環境・ストレス要因など)を提供する場面では、個人情報保護法上の第三者提供規制が働きます。健康情報は「要配慮個人情報」として特に厳格な取り扱いが求められており、原則として本人の明示的な同意が必要です。「復職支援のため」という目的であっても、同意なしに主治医へ情報を送ることは適切ではありません

主治医から会社への情報提供

逆に、会社が「主治医に直接確認したい」と思っても、従業員本人の同意なしには原則として情報を取得できません。診断書や意見書の内容も、本人が会社に提出する形をとることが基本です。「主治医に直接電話して確認する」といった対応は、医師の守秘義務(刑法第134条)の観点からも問題が生じる可能性があります。必ず本人を介した情報共有フローを設計してください。

産業医がいる場合といない場合の違い

従業員数50名以上の事業場では産業医の選任が義務づけられており、産業医を介した情報共有フローを構築することが有効です。産業医は労働安全衛生法に基づく守秘義務を持ちながら、会社と主治医の橋渡し役を担えます。一方、50名未満で産業医のいない事業場では、嘱託産業医や外部の産業保健専門家を活用しつつ、主治医との直接連携(本人同意に基づく)を設計する必要があります。自社の状況に合わせてフローを決めることが重要です。

社内のみで判断に迷う場合は、スポット産業医の相談を活用することで、貴社の規模や状況に合わせた情報連携の設計が実現できます。

📄 【無料】休職・復職 実務書式パック(全5点)

職場の業務内容を渡したうえで意見をもらう主治医意見書(会社様式)と、就業区分・措置・措置期間の形で受け取る産業医意見書を含む、休職・復職の実務書式5点です。

書式パックを無料ダウンロード →

情報共有の制限が安全配慮義務違反になるリスク

主治医との情報連携を一切行わないことは、かえって安全配慮義務(労働契約法第5条)違反のリスクを高めます。制限しすぎることの危険性を正しく理解しておく必要があります。

安全配慮義務と情報連携の関係

労働契約法第5条は、会社が従業員の生命・身体・健康を守るために必要な配慮をする義務を定めています。復職後の従業員に対しては、主治医の意見を踏まえた就業上の配慮(業務量の調整・通院時間の確保など)が求められます。この配慮を適切に行うためには、主治医からの情報(就業可否に関する意見・必要な配慮事項など)が不可欠です。情報連携を拒否したり無視したりすることは、安全配慮義務の不履行として問われる可能性があります。

「制限」ではなく「範囲の明確化」が正しいアプローチ

会社が目指すべきことは、情報共有を「制限する」ことではなく、「必要な範囲を明確にして適切に管理する」ことです。たとえば、主治医に提供する職場情報を「業務の種類・負荷の概要・職場環境の基本的な状況」に絞り、主治医から受け取る情報を「就業可否の判断・配慮が必要な事項」に限定する形で、同意書に明記する方法が有効です。これにより、過剰な情報共有を防ぎながら安全配慮義務も果たせます。

今すぐ整備すべき「情報共有同意書」と社内規程

復職支援における情報管理の混乱を防ぐには、復職開始時点での同意書取得と、社内規程への明文化が不可欠です。その場しのぎの対応を続けていると、トラブル発生時に根拠がなくなります。

情報共有同意書に盛り込むべき内容

復職支援の開始時に取得する同意書には、以下の項目を明示することが推奨されます。

項目 具体的な内容例
会社→主治医への提供情報 業務内容の概要、勤務時間、職場環境の基本状況
主治医→会社への提供情報 就業可否の判断、業務上必要な配慮事項
社内で情報を取り扱う範囲 人事担当者・直属の上長・産業医(いる場合)
同意の有効期間 復職日から〇カ月間(または復職支援プラン終了まで)
同意の撤回方法 書面または口頭で人事担当者に申し出ることができる

就業規則・社内規程への反映

同意書だけでなく、就業規則または健康情報取扱規程に、健康情報の取得・利用・保管・第三者提供・廃棄に関するルールを明文化することが必要です。厚生労働省が公表している「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」は、規程の雛形として実務上非常に参考になります。専任人事のいない企業でも、この手引きをベースに自社向けに整理することが現実的な進め方です。

復職支援プランへの組み込み

情報共有ルールは、単独の文書として運用するのではなく、復職支援プラン(職場復帰支援プラン)の一部として組み込むことで、担当者が変わっても一貫した対応が可能になります。「情報共有の範囲と手順」を復職支援プランの項目に明記し、復職時の面談で本人に説明・同意を得るフローを標準化しましょう。

主治医の意見書に「職場環境の改善を」と書かれたときの対応フロー

主治医から「ハラスメント的状況の改善が必要」「業務負荷の軽減を要する」といった意見が届いたとき、多くの企業がどう対応すべきか迷います。この場合、内容が事実と異なると感じても、無視せず誠実に対応することが重要です。

事実確認を丁寧に行う

まず、意見書の内容が事実に基づいているかを確認します。復職者本人から話を聞くことはもちろん、関係する上長や同僚からも状況を確認します。「主治医の意見だから正しい」わけでも、「従業員が一方的に話した内容だから信用できない」わけでもありません。主治医は復職者から聞いた話をもとに判断しているため、職場側の実態と乖離がある場合があります。この確認作業とその記録が、後々のトラブル対応で重要な根拠になります。

対応可否を検討し、本人にフィードバックする

事実確認の結果をもとに、意見書の内容に対して「対応できること」と「対応が難しいこと」を整理します。対応できる部分については具体的な措置を講じ、難しい部分については理由とともに本人に伝えます。このフィードバックを省略すると、従業員が「会社は何もしてくれない」と感じ、二次的なトラブルに発展するリスクがあります。誠実な確認と説明の記録を残すことが、安全配慮義務の履行の証明にもなります。

まとめ

復職後の主治医との情報共有について、会社が押さえるべきポイントは次の3点です。まず、従業員が主治医に何を話すかを会社が制限することは原則できません。次に、会社と主治医の間の情報提供は、双方向で従業員本人の同意が必要であり、個人情報保護法上の要配慮個人情報として厳格に管理する必要があります。そして、情報連携を一切行わないことは安全配慮義務違反のリスクを高めるため、「制限する」のではなく「必要な範囲を明確にして適切に管理する」という発想が重要です。具体的には、復職時の情報共有同意書の整備、社内規程への明文化、主治医の意見書への対応フローの標準化が実務上の優先課題になります。

復職対応を人事だけで抱えていると、判断や記録が属人化しやすく、後のトラブルに備えることができません。ウェルセンス株式会社では、個別ケースの相談を通じて、適切な対応フローの構築をサポートしています。

よくある質問

Q. 復職者が主治医に「上司のハラスメント」について話しているようです。会社としてやめさせることはできますか?

A. 原則としてできません。従業員は自分が経験した出来事を主治医に話す権利(プライバシー権・医療を受ける権利)を持っており、それを業務命令で制限することは一般的に法的効力を持ちません。会社が取るべき対応は「話すことを止める」ことではなく、主治医から意見書が届いた際に事実確認を行い、誠実に対応するフローを整備することです。

Q. 主治医に直接電話して、復職者の状態を確認することはできますか?

A. 従業員本人の同意がない限り、原則としてできません。医師には守秘義務(刑法第134条)があり、本人の同意なしに患者情報を第三者(会社)に提供することは許されません。会社が主治医の意見を確認したい場合は、本人を介して診断書・意見書を提出してもらう形が基本です。本人の同意を得たうえで三者面談を設定する方法も有効です。

Q. 産業医がいない場合、主治医との情報連携はどのように設計すればよいですか?

A. 従業員50名未満で産業医の選任義務がない場合でも、嘱託産業医や外部の産業保健専門家を活用することで、適切な情報連携フローを設計できます。また、復職時に本人から情報共有同意書を取得し、「主治医が会社に伝えてよい情報の範囲」と「会社が主治医に提供してよい情報の範囲」を文書で合意しておくことが、現実的かつ有効な方法です。

Q. 主治医の意見書に「職場環境の改善が必要」と書かれていましたが、内容が事実と違います。無視してもよいですか?

A. 無視することはお勧めしません。意見書の内容が事実と異なると感じる場合でも、まず本人・上長・関係者に事実確認を行い、その結果を記録に残すことが重要です。対応できる点は対応し、難しい点は理由とともに本人にフィードバックしてください。意見書を無視した場合、後に「安全配慮義務を果たさなかった」として会社の責任が問われるリスクがあります。誠実な確認対応の記録が、会社を守る証拠になります。

Q. 情報共有同意書は、既存の就業規則に追記するだけで足りますか?

A. 就業規則への追記だけでは不十分なケースが多いです。就業規則は会社全体のルールを定めるものであるため、健康情報の具体的な取り扱い(取得・利用・保管・第三者提供・廃棄の方法)については、別途「健康情報取扱規程」を策定することが推奨されます。厚生労働省の「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」が雛形として参考になります。復職ごとに個別の同意書を取得する運用と、規程による全体ルールの整備を組み合わせることが理想的です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました