「休職した社員の傷病手当金申請書が届いた。会社が記入する欄があるけど、何をどう書けばいいのかまったくわからない」——そんな状況で、今この記事を開いていただいたのではないでしょうか。傷病手当金の申請は数年に一度しか発生しない会社も多く、「初めて担当する」という方がほとんどです。記入ミスがあると健保から差し戻しとなり、休職中の社員の受給開始が遅れてしまいます。この記事では、会社証明欄に何をどう書くか、よくある記入ミスとその防ぎ方を、実務の手順に沿って解説します。
傷病手当金の「会社証明欄」とは何か
会社証明欄とは、傷病手当金申請書において事業主(会社)が記入・押印する欄のことです。医師が「労務不能であること」を証明するのに対し、会社は「実際に休んでいた期間」と「賃金の支払い状況」を事実として証明します。
医師証明欄との役割の違い
申請書は大きく「被保険者(社員本人)記入欄」「医師・療養担当者記入欄」「事業主記入欄(会社証明欄)」の三つに分かれています。医師は「この期間、労務に服することができない状態であった」という医学的判断を記載します。会社証明欄はそれとは独立したパートであり、「この期間、実際に出勤しなかった」「賃金はいくら支払ったか(またはゼロか)」という事実を事業主が証明します。主治医が書く内容と重複することを恐れる必要はありません。それぞれが別の視点から事実を証明する構造になっています。
法的な根拠
事業主の証明は、健康保険法第108条に基づく義務です。「正当な理由がなければ証明を拒んではならない」と定められており、会社は社員から証明を求められた場合、原則として応じなければなりません。また傷病手当金の支給要件(健康保険法第99条)のうち、「連続3日間の待期を完成させた後、4日目以降の休業日であること」「賃金支払いがないこと」という2点は、会社証明欄の記載と直結します。
様式は必ず自社加入の健保で確認する
傷病手当金の申請書は、協会けんぽ・健保組合・共済組合で様式が異なります。協会けんぽは2023年1月に様式を改訂しており、古い書式を使い続けているケースが散見されます。インターネット検索で見つけた記載例が「協会けんぽ版」であっても、自社が健保組合に加入している場合はそのまま流用できません。まず最初に、自社が加入している健保(協会けんぽか健保組合かを確認してください。保険証の「保険者名称」欄に記載があります)に電話またはメールで連絡し、最新の申請書様式と記載ルールを取り寄せることを出発点にしてください。
会社証明欄に記入する主な項目と書き方
会社証明欄には、大きく分けて「事業所情報」「労務に服さなかった期間」「賃金の支払い状況」の三つを記載します。それぞれのポイントを整理します。
事業所情報の記載
事業所の所在地・名称・事業主氏名は、登記事項(法人登記の内容)と一致させる必要があります。「株式会社」を「(株)」と略したり、住所の丁番地を省略したりすると、差し戻しの原因になることがあります。押印についても健保ごとにルールが異なるため(法人印か代表者個人の印かなど)、事前に確認しておきましょう。
「労務に服さなかった期間」の記載
ここが会社証明欄の核心部分です。記載する期間は「暦日単位」で、実際に労務に服さなかった日を正確に記入します。注意が必要なのは、出勤した日があった場合はその日を除外することです。申請期間の途中に出勤日が1日でも含まれる場合、その日を除いた期間を記載するか、分割して記載します。出勤簿・タイムカード・シフト表などと照らし合わせて、1日単位で確認することが重要です。
「賃金の支払い状況」の記載
休職期間中に賃金を支払っていない場合は、その旨を明示します。一部支払っている場合(例:休職中に基本給の一定割合を支給している)は、支払った金額を記載する必要があります。傷病手当金は、賃金が支払われた日については減額または不支給となる調整が発生します。給与の締め日と申請期間がずれるケースもあるため、経理担当者と連携して正確な金額を確認してから記入してください。賃金がゼロの場合は「支給なし」など、ゼロであることを明確に記載することが求められます。
待期期間の考え方──最も混乱しやすいポイント
傷病手当金の支給対象となるのは「連続3日間の待期を完成させた後、4日目以降の休業日」です。この待期期間の考え方を誤ると、会社証明欄の記載が根本から狂ってしまいます。
有給休暇日・公休日も待期に含まれる
よくある誤解が「有給休暇を取得した日は傷病手当金の対象外だから、待期のカウントからも除外する」というものです。実際は異なります。有給休暇日・公休日・欠勤日はすべて待期期間のカウントに含まれます。たとえば月曜から水曜まで有給休暇を取得し、木曜以降は欠勤という状況でも、月曜から3日連続で待期が完成し、木曜が傷病手当金の支給対象となり得ます。
有給休暇日は「支給対象外」だが記載は必要
ただし、有給休暇を取得して賃金が支払われた日は傷病手当金の支給対象外です。つまり待期のカウントには含めるが、受給できる日数としてはカウントしない、という扱いになります。この区別を整理するために、以下のような一覧を手元に用意してから記入を始めると混乱を防げます。
| 日の種類 | 待期のカウント | 傷病手当金の支給対象 |
|---|---|---|
| 欠勤(無給) | 含まれる | 対象(4日目以降) |
| 有給休暇取得日 | 含まれる | 対象外(賃金支払いあり) |
| 公休日(土日祝など) | 含まれる | 対象(賃金支払いなし) |
| 出勤日 | 含まれない | 対象外 |
申請期間が長期にわたる場合の注意
休職が長期化すると、申請期間を月ごとに分けて複数回申請するケースが出てきます。その場合、2回目以降の申請では待期期間の記載は不要になります(待期は最初の申請で完成しているため)。ただし申請書の様式によっては待期完成日の記載欄があるため、健保に確認しながら対応してください。
記入ミス5つのパターンと防ぎ方
会社証明欄でよく起きる記入ミスには共通したパターンがあります。差し戻しを防ぐために、記入後のチェックに役立ててください。
事業所情報と登記内容のズレ
社名の略記(「株式会社」→「(株)」)や住所の省略は、登記情報との不一致とみなされることがあります。登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を手元に置き、そのまま転記する習慣をつけましょう。
出勤日が含まれたまま期間を記載している
申請期間に出勤日が1日でも含まれている場合、その日は「労務に服さなかった期間」から除外する必要があります。出勤簿・タイムカードと照合せずに申請書を書くと、健保の審査で矛盾が発覚し差し戻しになります。記入前に出退勤記録を1日ずつ確認することを必ず習慣にしてください。
賃金支払いの有無が不明確
賃金ゼロの場合に記載欄を空白のままにしてしまうミスがあります。「支給なし」「0円」など、ゼロであることを明示してください。一部支給している場合は金額を正確に記載します。給与計算担当者と事前に確認し、数字が確定してから記入することを勧めます。
古い様式を使用している
協会けんぽは2023年1月に様式を改訂しています。以前の申請書が手元に残っている場合、そのまま使用すると受け付けてもらえないことがあります。申請のたびに健保のウェブサイトから最新様式をダウンロードするか、健保に取り寄せる習慣をつけましょう。
医師証明欄の記載漏れを見落としている
これは会社証明欄そのものの問題ではありませんが、会社が申請書を受け取った際に、医師記載欄(受診日・診断名・労務不能の明示など)に漏れがないかを確認する役割が実務上求められます。漏れがあった場合、社員本人に連絡して主治医に補記してもらう必要があります。社員が休職中で連絡が取りにくいケースもあるため、申請書を渡す段階で「主治医に書いてもらう際のチェックポイント」を社員に案内しておくと、記載漏れを未然に防げます。
申請前に健保に確認すべきこと
記入前に健保へ問い合わせることで、ほとんどの差し戻しリスクを未然に防げます。「何を聞けばいいかわからない」という方のために、確認事項を整理します。
問い合わせ前に自社の加入先を確認する
保険証の「保険者名称」欄を確認し、協会けんぽか健保組合かを把握してください。協会けんぽであれば都道府県支部の窓口、健保組合であれば組合の事務局が問い合わせ先です。連絡先は保険証の裏面または各健保のウェブサイトに記載されています。
問い合わせ時に伝えること・聞くこと
- 現在使用している申請書様式が最新かどうか
- 添付書類の要否(出勤簿・賃金台帳のコピーが必要かどうか)
- 申請期間に有給休暇取得日や出勤日が含まれる場合の記載方法
- 賃金の一部支払いがある場合の記載方法
- 提出先の窓口(郵送か持参か)と審査の目安期間
社員への案内文を用意する
会社として健保への確認が完了したら、「申請書の入手方法」「主治医への記載依頼事項」「会社への提出期限と方法」を社員に案内するシンプルな文書を用意することを勧めます。休職中の社員は精神的・身体的に余裕がなく、細かい手続きに対応しにくい状況にあります。会社側が丁寧にサポートすることで、手続きの遅延を防ぎ、社員の安心感にもつながります。
「実務の細かさで判断に迷う」という方は、社会保険労務士や外部支援機関に申請手続きをサポートしてもらう選択肢もあります。
まとめ
傷病手当金の会社証明欄では、「事業所情報」「労務に服さなかった期間」「賃金の支払い状況」の3点を正確に記載することが求められます。特に待期期間の考え方(有給・公休も含む)と出勤日の除外は、理解があいまいなまま記入するとほぼ確実に差し戻しになるポイントです。また様式は健保ごとに異なるため、記入前に自社加入の健保に確認することが大前提です。
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