副業成果物の著作権トラブルを防ぐ就業規則3つの必須規定

副業成果物の著作権トラブルを防ぐ就業規則3つの必須規定 採用・定着
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「うちの社員がフリーランスで請けたデザイン案件、内容がうちの製品と似ているんだけど、これって問題になる?」——ある日、こんな相談が経営者から届きました。副業を黙認してきたものの、成果物の著作権について何も決めていなかったために、対応に困り果てたケースです。

副業・兼業を容認する企業が増えるなか、「社員が副業で作ったものの著作権は誰のもの?」という問いに、明確に答えられる中小企業はまだ多くありません。就業規則に副業禁止条項は書いてある。でも著作権の帰属については何も触れていない——そんな状態が、トラブルの温床になっています。

この記事では、副業成果物の著作権を巡る法的な基本から、就業規則に盛り込むべき必須規定3つ、社員への説明方法まで、実務担当者がすぐに動けるレベルで解説します。

副業成果物の著作権は、原則として社員個人に帰属する

副業で作った成果物の著作権は、法律上は原則として作成した社員個人のものです。会社がルールを決めていない限り、自動的に会社のものにはなりません。

著作権の大原則——創作した人のもの

著作権法第17条は、著作物を「創作した者」が著作者となり、著作権を持つと定めています。誰かに雇用されているからといって、業務時間外に個人で作ったものまで会社に帰属するわけではありません。社員がプライベートでWebサイトを制作した、イラストを描いた、プログラムを組んだ——こうした成果物は、原則として社員本人の財産です。

例外は「職務著作」——だが副業には適用されない

会社が著作権を持てる例外が「職務著作」(著作権法第15条)です。ただし、職務著作が成立するには、会社の指示に基づいて、業務として、会社名義で公表するために作成した、という要件をすべて満たす必要があります。副業で作った成果物は、そもそも会社の指示ではなく社員個人の判断で作られるため、職務著作の要件を満たしません。つまり、就業規則に何も書いていない状態では、副業成果物に会社の著作権は及ばないのが原則です。

「副業禁止にすれば問題ない」は誤解

副業を就業規則で禁止している会社でも、実態として社員が副業をしているケースは珍しくありません。また、副業禁止条項は懲戒処分の根拠になり得ても、「禁止中に作った成果物の著作権が会社に移る」根拠にはなりません。禁止・許可のルールと、知的財産帰属のルールは別の問題です。この二つを混同していると、実際にトラブルが起きたとき有効な手が打てなくなります。

就業規則に盛り込む必須規定——3つの柱

副業成果物の著作権トラブルを防ぐために就業規則に定めるべき事項は、大きく「業務関連成果物の帰属」「競業・秘密保持との連動」「許可手続き」の3つです。それぞれを適切に条文化することで、会社と社員の双方が納得できるルールが完成します。

業務関連成果物の帰属条項

最初に整備すべきは、副業成果物の知的財産帰属を明記する条項です。ここで重要なのは「業務関連性」の要件をきちんと絞り込むことです。「副業中に作成した一切の成果物は会社に帰属する」という包括的な規定は、業務と無関係な趣味の創作活動まで取り込んでしまうため、公序良俗違反(民法第90条)として無効とされるリスクがあります。

条文の骨格としては、次のような要素を盛り込むと合理的です。

  • 自社の業務と直接競合・関連する分野で作成した成果物であること
  • 会社の設備・情報・ノウハウを利用して作成した成果物であること
  • 上記に該当する場合は、事前に会社へ申告し協議すること

【条文例(参考)】
「従業員が副業・兼業として行う業務において作成した著作物、発明その他の知的財産のうち、当社の事業と競合または関連する分野に属するもの、もしくは当社の業務上の情報・設備・資源を利用して作成されたものについては、当社に帰属するものとする。従業員は該当する成果物が生じた場合、速やかに当社に申告しなければならない。」

この文例はあくまで参考です。自社の業種・副業の実態・リスクの大きさによって要件の絞り方が変わるため、社労士や弁護士と連携して最終化することを強く推奨します。

競業避止義務・秘密保持との連動条項

著作権の帰属問題は、競業避止義務と営業秘密の保護とも切り離せません。たとえば社員が自社の顧客リストを参照しながら副業でコンサルサービスを展開した場合、著作権だけでなく不正競争防止法上の営業秘密侵害にもなり得ます。

就業規則の副業条項には、以下の内容も明記しておくと安心です。

  • 副業・兼業においても秘密保持義務は継続して適用されること
  • 会社の顧客・取引先・技術情報を副業に利用することの禁止
  • 競合他社や競合事業への従事には事前承認が必要なこと

許可制・届出制の手続き条項

副業を完全禁止から「許可制」または「届出制」に切り替えることで、著作権帰属の問題を事前に把握・管理できます。許可制は会社が個別に可否を判断する方式、届出制は社員が届け出たうえで会社が必要に応じて制限をかける方式です。

方式 特徴 向いている企業
許可制 都度、会社が承認。業務関連性を個別に確認できる 知的財産・競業リスクが高い業種(IT・コンサル等)
届出制 社員が自己申告。透明性を確保しつつ社員の自律性も尊重 副業容認を進めたい成長企業・採用競争力を意識している企業

届け出の際に「副業の内容・業種・成果物の概要」を記載させることで、後から著作権の帰属を巡る争いが生じたときの証拠にもなります。

「ルールを作ったけれど、本当に実務的に機能するか不安」という企業は、整備の段階から専門家に相談することで、後のトラブルを大きく減らすことができます。

条文を整備するだけでは不十分——社員への説明が鍵を握る

就業規則に正しい条文を盛り込んでも、社員が内容を理解していなければトラブルは防げません。説明の仕方によっては「会社が副業の成果物を取り上げようとしている」という不信感を生むこともあるため、伝え方の設計が重要です。

説明の目的は「管理」ではなく「相互保護」

社員への説明では、「このルールは会社が副業成果物を奪うためではなく、会社と社員の双方を守るためにある」という視点を前面に出すことが大切です。たとえば、「副業で作ったものが後から会社の業務と重なっていると指摘された場合、ルールがなければ社員自身も不利益を受ける可能性がある」と伝えると、社員は自分ごととして受け取りやすくなります。

就業規則改定時に説明の場を設ける

就業規則を改定した際は、全体説明会や部門ごとのミーティングで30分程度の時間を設けて、副業・著作権ルールの趣旨を説明する機会を作りましょう。「どんな成果物が該当するのか」「申告の手続きはどうするのか」を具体的な事例を交えて説明すると理解が深まります。個別に副業の相談を受け付ける窓口(経営者・人事担当・顧問社労士など)を設けることも、社員が安心して届け出をしやすい環境づくりにつながります。

周知の記録を残すことが法的にも重要

就業規則の変更は、労働者への周知が効力要件の一つです(労働契約法第7条・第10条)。説明会の実施日時、参加者リスト、配布資料、質疑応答の内容などを記録として保存しておきましょう。「説明を受けた」「内容を理解した」という確認書にサインをもらっておくと、後のトラブル時に会社の対応の適切さを示す証拠になります。

自社の状況に応じた優先対応を判断する

副業成果物の著作権リスクは、業種・社員構成・副業の実態によって大きく異なります。自社のリスク水準を把握したうえで、対応の優先順位を決めることが実務的な第一歩です。

リスクが高い企業の特徴

次の項目に当てはまる企業ほど、著作権・知的財産トラブルのリスクが高く、早急な就業規則整備が必要です。

  • ITエンジニア・デザイナー・コンサルタントなど、知的成果物を生み出す職種が多い
  • 副業を黙認しており、届出・申告のルールがない
  • 競合他社と事業領域が近く、社員が同業者向けに副業しているケースがある
  • 自社の独自技術・ノウハウ・顧客情報を扱う社員が副業を行っている

就業規則がまだ整備されていない場合

従業員10人以上の企業は就業規則の作成・届出が法律上の義務(労働基準法第89条)ですが、10人未満の企業でも就業規則の整備は強くお勧めします。就業規則がない場合、副業・著作権に関するルールを口頭や雇用契約書のみで定めていることになり、曖昧さが残ります。まず雇用契約書・誓約書に著作権帰属と秘密保持の条項を盛り込み、人員が増えたタイミングで就業規則に統合するという段階的な対応が現実的です。

すでに副業を解禁・黙認している場合の緊急対応

既に副業を認めているにもかかわらずルールが未整備の場合、就業規則の改定を待つ前に、まず「副業届出書」の運用から始めることをお勧めします。届け出を提出させ、内容を確認したうえで会社がコメント・指示を返す仕組みを作るだけでも、リスクの把握と管理が大幅に改善します。その後、社労士・弁護士と連携して就業規則の条文に落とし込むという流れが、現実的かつ確実なステップです。

まとめ

副業成果物の著作権は、法律上は原則として社員個人に帰属します。会社が著作権を主張できるのは、職務著作の要件を満たす場合か、就業規則・契約で合理的に帰属を定めた場合に限られます。就業規則に盛り込むべき必須規定は、「業務関連成果物の帰属条項」「競業避止義務・秘密保持との連動条項」「許可制または届出制の手続き条項」の3つです。条文の整備と同時に、社員への丁寧な説明と周知記録の保存も欠かせません。

「自社の就業規則に何をどう書けばいいかわからない」「副業ルールを整備したいが、専門家に相談するほどの案件かどうか判断できない」——そんなお悩みを抱えている経営者・人事担当者の方は、ぜひウェルセンス株式会社にご相談ください。専任人事のいない中小企業だからこそ、外部の専門家と連携しながら、自社に本当に必要な対応を見極めることが重要です。人事労務の課題整理から就業規則整備のサポートまで、御社の実態に合った対応策をご提案します。

よくある質問

Q. 社員が副業で作ったプログラムは、会社のものになりますか?

A. 原則として社員個人のものになります。著作権法上、職務著作が成立するのは会社の指示に基づいて業務として作成した場合に限られます。副業で個人の判断・責任で作ったプログラムは職務著作に該当しないため、就業規則に明確な帰属条項がなければ会社には著作権が生じません。ただし、プログラムの職務著作については「公表名義」の要件が不要(著作権法第15条第2項)という特則がありますので、ソフトウェア開発業の方は特に注意が必要です。

Q. 「副業で作ったものはすべて会社のもの」と就業規則に書けば有効ですか?

A. 有効にならない可能性が高いです。業務との関連性がまったくない趣味の創作物(プライベートで書いた小説や音楽など)まで会社のものとする包括的な規定は、公序良俗に反するとして民法第90条により無効とされるリスクがあります。「自社の業務と競合・関連する分野の成果物」「会社の設備や情報を使って作成した成果物」など、合理的な要件を絞って規定することが法的に有効な条文の作り方です。

Q. 副業を禁止しているのに社員が副業をしていた場合、成果物の著作権は会社のものになりますか?

A. なりません。副業禁止条項は就業規則違反に対する懲戒処分の根拠にはなり得ますが、違反して作った成果物の著作権が自動的に会社に移転するわけではありません。禁止・許可のルールと、知的財産の帰属ルールは別の問題です。著作権の帰属を会社側に定めたいのであれば、禁止条項とは別に帰属条項を就業規則に設ける必要があります。

Q. 従業員10人未満の小規模企業ですが、就業規則がなくても副業の著作権ルールは定められますか?

A. 定められます。就業規則がない場合でも、雇用契約書や個別の誓約書に著作権の帰属条項・秘密保持条項を盛り込むことで対応できます。ただし、内容が不明確だったり一方的すぎる条文は後に無効とされるリスクがあるため、社労士や弁護士に確認しながら整備することをお勧めします。人員が増えて就業規則の作成が必要になった際に、雇用契約書の内容を就業規則に統合するという流れが現実的です。

Q. 副業の著作権ルールを社員に説明したら「会社に成果物を取られる」と反発されました。どう対応すればよいですか?

A. 規程の趣旨が「管理・収奪」ではなく「双方の保護」であることを丁寧に説明することが最初の対応です。「業務と無関係な副業成果物には一切会社は関与しない」「申告・協議の機会を設けることで社員が不利益を受けないようにしている」という点を明確に伝えましょう。また、規程の対象となる成果物の具体例(該当するケース・しないケース)を示すことで、社員の不安は大きく軽減されます。説明だけでなく、疑問をいつでも相談できる窓口を設けることも信頼関係の構築に有効です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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