副業申請様式と承認フローの整備ポイント

副業申請様式と承認フローの整備ポイント 組織運営
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「副業の申請、どうやって管理していますか?」と聞かれて、「メールで受け取ってそのまま……」と答えに詰まった経験はないでしょうか。専任人事のいない中小企業では、副業申請の仕組みを整える優先度がどうしても下がりがちです。しかし、申請書のひな型も判断基準もないまま口頭や個別メールで対応していると、後々「そんな内容だとは聞いていなかった」というトラブルに発展するリスクがあります。この記事では、副業申請様式に盛り込むべき項目、承認・不承認の判断基準、書類の保管・更新まで、実務に直結するポイントを整理します。

副業申請を「申請制」にする前に就業規則を確認する

副業申請の仕組みを整える前提として、就業規則に申請義務の根拠を明記することが必要です。根拠規定がない状態で申請を義務づけても、法的効力が不安定になります。

就業規則への記載が出発点になる理由

労働基準法第89条・第90条に基づき、就業規則は法的拘束力を持つ社内ルールです。副業・兼業を申請制(許可制)にするには、「副業・兼業を行う場合は事前に会社へ届け出なければならない」という趣旨の条項を就業規則に盛り込む必要があります。就業規則がない、または常時10人未満で届出義務の対象外の場合でも、社内規程や雇用契約書に明記することで同様の効果を持たせられます。

「全面禁止」より「申請制」がスタンダードである理由

厚生労働省は、副業・兼業を原則認める方向を示しています(「副業・兼業の促進に関するガイドライン」2018年策定・2022年改定)。合理的な理由のない全面禁止は、行政の姿勢や判例の流れから見てリスクを伴います。「副業を一律禁止にしたい」という経営者の気持ちは理解できますが、実務上は「事前申請・承認制」として個別に判断するスタイルが現在のスタンダードです。就業規則の副業条項がまだない場合は、専門家に確認しながら整備を進めることをおすすめします。

就業規則と連動させるべき規程類

副業申請の運用は単独では成立しません。秘密保持・競業避止に関する誓約書や雇用契約書、個人情報保護規程(申請書類の取り扱い方針)とも整合を取る必要があります。副業先で自社の顧客情報や技術情報を使われるリスクへの対処は、申請書の記載事項だけでなく、これら規程類の整備とセットで考えましょう。

副業申請書に盛り込むべき項目

副業申請書には、会社が承認・不承認を判断するために必要な情報と、労働時間通算を管理するための情報の両方を盛り込む必要があります。

基本情報・副業の内容に関する項目

まず、誰が・どこで・何をするのかを把握するための項目を設けます。以下の情報は最低限盛り込んでください。

  • 申請者の氏名・所属・雇用形態
  • 副業先の会社名または屋号(個人事業の場合はその旨)
  • 副業の業務内容(具体的に記載させる)
  • 副業の開始予定日・終了予定日(期限がない場合はその旨)
  • 副業先との雇用形態(雇用契約・業務委託・個人事業など)

「副業の業務内容」は、「ITサポート」のような曖昧な記載ではなく、「A社のWebサイト保守・更新作業(月次契約)」のように具体的に書かせることが重要です。抽象的な記載では競業リスクや秘密漏洩リスクを判断できません。

労働時間に関する項目(通算管理のために必須)

見落とされやすいのが、労働時間に関する情報です。労働基準法第38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても通算する」と規定されています。つまり、本業の労働時間と副業の労働時間を合算して法定労働時間(週40時間・1日8時間)を超えた部分は時間外労働扱いとなります。この通算管理を行うために、申請書には以下の項目が必要です。

  • 副業先での所定労働時間(週あたり・1日あたり)
  • 副業を行う曜日・時間帯の目安
  • 副業先の所定休日

雇用契約ではなく業務委託・個人事業の場合、厳密な労働時間の通算ルールは適用されませんが、本業の業務遂行への影響を把握するために、週あたりの稼働時間の目安は記載させましょう。

誓約・本人確認に関する項目

申請書の末尾には、以下の誓約事項を設け、本人署名・日付を取ることを推奨します。

  • 本業の業務に支障をきたさないこと
  • 自社の機密情報・顧客情報を副業において使用しないこと
  • 副業の内容・時間数が変更になった場合は速やかに変更届を提出すること
  • 上記の内容に虚偽がないこと

この誓約があることで、後にトラブルが生じた場合の事実確認や対応が格段にしやすくなります。

副業を「認める・認めない」の判断基準を整備する

副業の許可・不許可の判断は、厚生労働省ガイドラインが示す4つの基準に基づいて行うと、属人的な判断を避けられます。

不許可にできる合理的な理由とは

厚労省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、以下の場合に副業を制限・不許可とすることが認められています。

判断基準 具体的なケース例
労務提供上の支障が生じる場合 副業の深夜勤務による本業での居眠り・欠勤増加
企業秘密が漏洩するおそれがある場合 自社の技術情報・顧客リストを扱う業種での副業
名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為 会社のブランドイメージを毀損するような活動
競業により会社の利益を害する場合 同業他社への就業・同業での独立準備

「競合に近い仕事」はどう判断するか

実務でよく迷うのが「競業」の線引きです。同じ業種でも、自社と顧客層が全く異なる(例:自社はBtoBシステム開発、副業先はCtoCアプリ開発)場合と、顧客が重複する可能性が高い場合では判断が変わります。判断に迷う場合は「自社の顧客・取引先を副業先に紹介・誘導する可能性があるか」「自社の情報が副業を通じて競合に渡る経路があるか」という視点で確認してください。いずれかに該当するなら、不許可とすることに合理的な理由があります。

審査チェックリストを用意しておく

判断の属人化を防ぐために、申請書受領後に使う審査チェックリストを1枚用意しておくと便利です。「本業の所定労働時間と副業の所定労働時間の合計が週40時間を超えないか」「業務内容に競業・秘密漏洩リスクがないか」「申請内容に曖昧な点はないか(確認済みか)」などの確認項目を並べ、担当者が変わっても同じ水準で審査できる状態にします。判断基準が明文化されていることで、経営者・人事担当者双方の判断負担が軽くなります。

承認後の管理と記録保管の仕組みを整える

申請書を受け取って引き出しにしまうだけでは管理とは言えません。「許可した時点の情報しかない」という状態では、労働時間通算管理も競業リスク管理も機能しなくなります。

副業情報の変更届と定期更新を仕組み化する

副業の内容や時間数は変化します。最初は週5時間程度だったものが、1年後には週20時間超の個人事業になっているケースも珍しくありません。最初の申請で「許可して終わり」にならないよう、次の仕組みを設けることを推奨します。

  • 内容変更時:変更届の提出を義務づける(副業先・業務内容・労働時間が変わった場合)
  • 定期更新:年1回、継続申請書を提出させる(現在の状況を会社が把握し直す機会)
  • 終了時:副業終了届を提出させる(記録を適切にクローズする)

これらの届出を就業規則や社内規程に明記しておくことが前提です。

書類の保管場所・保管期間・アクセス権限を決める

申請書類は個人情報を含むため、保管方法を明確にする必要があります。紙で運用する場合は施錠できるキャビネットに保管し、アクセスできる担当者を限定します。データで管理する場合は、アクセス権限を設定したフォルダで管理し、担当者交代時に引き継ぎが確実に行われる手順を決めておきましょう。保管期間については、在職中は最新版を保管し続け、退職後は少なくとも退職日から3年間(労働基準法上の記録保存義務の基準に準じる)は保管することを目安にしてください。

専任人事がいない場合の現実的な運用方法

従業員数20〜50名規模で専任人事がいない場合、複雑な管理ツールを導入するよりも、「Googleドライブの共有フォルダ」「社内の就業規則フォルダと同じ場所」など既存の仕組みに乗せる方が定着しやすいです。重要なのは「どこに・誰がアクセスできる形で・何年保管するか」を文書化しておくことです。担当者が変わった際に「副業申請書がどこにあるかわからない」という事態を防ぐのが最優先です。

労働時間通算と安全配慮義務への対応

副業を認める会社が負う義務の中で、特に見落とされやすいのが労働時間通算ルールと安全配慮義務への対応です。申請書で把握した情報を実際の管理に活かすことが重要です。

労働時間通算の具体的な影響を理解する

労働基準法第38条第1項に基づき、本業と副業の労働時間は通算されます。原則として、後から雇用契約を締結した会社(多くの場合は副業先)が時間外割増賃金を負担しますが、本業側も労務管理上の義務から逃れられません。たとえば、本業で週35時間勤務している社員が、副業先で週10時間の雇用契約を結んでいる場合、通算で週45時間となり、5時間分は時間外労働扱いになります。申請書で週あたりの副業労働時間を把握しておかないと、この計算すらできません。

安全配慮義務として何をすべきか

労働契約法第5条に定める安全配慮義務は、副業を認めた場合でも本業の会社に課せられます。副業先の労働時間を含めた総労働時間が過大になっていないか、本業のパフォーマンスや健康状態に異変がないかを定期的に確認することが、安全配慮義務の履行につながります。定期更新申請の際に「現在の健康状態に問題はないか」の確認欄を設けるのも一つの方法です。判断基準や運用方法に不安がある場合は、人事の専門家に相談しながら進めることで、後々のトラブルを防ぐことができます。

副業が業務委託・個人事業の場合の扱い

副業先との契約が雇用契約ではなく業務委託契約や個人事業(フリーランス)の場合、厳密な意味での労働時間通算ルールは適用されません。ただし、実質的な稼働時間が多く本業に支障をきたしている場合は、「労務提供上の支障」を理由に申請を不許可としたり、条件付き許可(週あたり稼働時間の上限設定など)とすることができます。申請書に「週あたりの稼働時間の目安」を記載させ、実態を把握しておくことが重要です。

まとめ

副業申請の仕組みを整えるには、就業規則への根拠規定の明記から始まり、申請様式の項目設計、判断基準の明文化、変更届・定期更新の仕組み、そして書類の保管管理まで、一連の流れとして整備する必要があります。口頭やメールで個別対応している段階では、労働時間通算の把握もできず、担当者が変わればすべてリセットされるリスクがあります。「申請様式をどう設計したらいいか」「判断基準を決めたいが社員との間でトラブルになりそう」「就業規則に副業条項をどう盛り込むか」など、段階がどこであれ、ウェルセンス株式会社にご相談ください。経営者や兼務人事が抱える副業関連の不安を、実務的にサポートしています。

よくある質問

Q. 副業申請書のひな型はどこかで公開されていますか?

A. 厚生労働省が公開している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」にモデル就業規則の参考例が掲載されていますが、申請書様式そのものは公式ひな型が存在しません。自社の業種・規模・リスク特性に合わせて項目をカスタマイズする必要があります。本記事で紹介した項目(副業先情報・業務内容・週あたりの労働時間・誓約事項)を盛り込むことを基本に設計してください。

Q. 副業を全面禁止にしている就業規則は問題がありますか?

A. 直ちに違法とはなりませんが、厚生労働省の方針や近年の裁判例の流れから、合理的な理由のない全面禁止は法的リスクを伴うと考えられています。就業時間外の活動に対して会社が一律に制限することには限界があり、従業員からの異議申し立てや、採用上の不利にもつながりえます。実務的には「申請・承認制」への切り替えを検討することをおすすめします。

Q. 副業先が業務委託契約の場合、労働時間の通算は不要ですか?

A. 労働基準法第38条の労働時間通算ルールは、あくまで「労働者」として雇用されている時間が対象です。副業先との契約が業務委託や個人事業(フリーランス)の形態であれば、厳密な意味での通算義務は生じません。ただし、実態として指揮命令下に置かれている場合(偽装請負の疑いがある場合)は別途判断が必要です。また、業務委託でも総稼働量が多く本業に影響が出ている場合は、会社として把握・対応する義務があります。

Q. 副業申請書は何年間保管すればよいですか?

A. 副業申請書の保管期間について法令上の明確な規定はありませんが、労働基準法上の労働者名簿・賃金台帳などの記録保存義務(退職後3年間)に準じて、在職中は最新版を保管し、退職後も3年間は保管しておくことを目安にしてください。トラブル発生時の事実確認の根拠にもなるため、退職後も一定期間は保管する体制を整えることが重要です。

Q. 副業を許可した後に社員がパフォーマンス低下した場合、許可を取り消せますか?

A. 許可を取り消すこと自体は可能です。厚労省ガイドラインでも「労務提供上の支障が生じる場合」は制限・不許可とすることが認められており、許可後にその状態が生じた場合も同様に対応できます。ただし、取り消しの判断は客観的な事実(遅刻・欠勤の増加・業務品質の低下など)に基づき、本人に説明と改善の機会を与えた上で行うことが重要です。取り消し理由と経緯を記録として残しておくことも必須です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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