健康診断結果を人事が見てよいか迷ったら

健康診断結果を人事が見てよいか迷ったら コンプライアンス
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「健康診断の結果、手元にあるんですが……これ、人事が見ていいんでしたっけ?」

そんな疑問を、健診シーズンのたびに感じている担当者は少なくありません。配慮のために知りたい気持ちと、プライバシーを侵害しているのではという不安が同時に浮かんでくる。専任の人事部門や産業医がいない中小企業では、この判断を一人で抱えることになります。

この記事では、健康診断結果の閲覧権限・情報管理・就業措置の判断について、法令の根拠とともに実務的な整理をお伝えします。「自社のケースに当てはめてどう動けばいいか」が見えるよう、従業員規模や産業医の有無による分岐も含めて解説します。

人事担当者は健康診断結果を見てよいか

結論から言えば、人事担当者が健康診断結果を閲覧することは、一定の条件を満たせば法的に認められます。ただし「会社が費用を出したから会社のもの」という考え方は誤りであり、閲覧できる人・目的・範囲には明確な制約があります。

健康診断結果は「要配慮個人情報」

健康診断結果は、個人情報保護法において「要配慮個人情報」に分類されます。これは、人種・信条・病歴などと同様に、取り扱いに特別な注意が必要な情報です。取得・利用・第三者への提供には、原則として本人の同意と利用目的の明示が必要です。

「健康診断を実施した=自由に使える」は法的に通用しません。健診実施の案内や同意書の段階で、「結果を誰がどのような目的で利用するか」を従業員に伝えておくことが、適法な運用の前提になります。

「業務上必要な範囲」なら閲覧できる

一方で、就業配慮のために健康情報を把握することは、使用者の安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たすうえで必要な行為です。厚生労働省のガイドラインも、「健康診断結果は業務上必要な範囲での利用を許容する」としています。

人事担当者が就業措置や配慮を検討するために閲覧することは、利用目的の範囲内として認められます。ただし、閲覧できるのは「就業措置を判断するために必要な情報を扱う担当者」に限られ、全員への一律開示は過剰とみなされるリスクがあります。

直属上司・管理職への共有はどう考えるか

「部下の健康状態を上司が知っておくべきでは」という発想は理解できますが、管理職への開示は慎重に扱う必要があります。就業配慮の実施を目的とした必要最小限の情報共有であれば許容され得ますが、その際は本人への説明と同意取得のプロセスを経ることが重要です。

たとえば「要再検査の結果が出た場合に、上司が業務量を調整できるよう共有することがある」という旨を就業規則や社内規程に明記し、従業員に周知しておく方法が実務上は有効です。

産業医がいない場合、就業措置の判断は誰がするのか

産業医がいなくても、「医師の意見を聴く義務」は全事業場に適用されます。産業医不在だから何もしなくていいわけではなく、代替手段を使って義務を果たす必要があります。

産業医選任義務と「医師の意見聴取義務」の違い

労働安全衛生法第13条が定める産業医の選任義務は、常時50名以上の労働者を使用する事業場に適用されます。50名未満の企業には選任義務はありません。

一方、同法第66条の4が定める「異常の所見がある労働者について医師の意見を聴く義務」は、規模に関わらず全事業場に適用されます。つまり、従業員10名の会社であっても、健診で異常所見があった従業員については、何らかの形で医師の判断を仰がなければなりません。

産業医不在の場合に使える代替手段

産業医と契約していない中小企業が活用できる主な手段は以下のとおりです。

手段 概要 費用
地域産業保健センター(産保センター) 都道府県労働局が設置。産業医への相談・個別訪問指導が無料で受けられる 無料
産業保健総合支援センター 都道府県に1か所設置。産業保健に関する相談・情報提供を実施 無料
健診機関の医師からの意見書取得 健診を実施した機関の医師に、就業上の注意点について意見書を作成してもらう 健診機関による
かかりつけ医・主治医からの意見書 従業員が受診している医師から、就業に関する意見を文書で取得する 従業員が窓口になる場合が多い

「かかりつけ医の診断書で代替」という対応を取っている企業もありますが、それで十分かどうかは状況によります。産保センターは無料で利用でき、産業医的な視点からのアドバイスを得られるため、まず連絡してみることをお勧めします。

就業措置の最終判断は会社が行う

医師の意見を聴いたあと、実際に「業務を軽減する」「配置を変える」「勤務時間を短縮する」といった就業措置を決定・実施するのは、あくまで会社(使用者)です。医師は意見を提供する立場であり、決定権は会社にあります。

この点を誤解し「医師が何も言わなかったから何もしなかった」という対応は、安全配慮義務違反のリスクを生む可能性があります。医師の意見を参考にしながら、会社として何をするかを判断・記録しておくことが重要です。

安全配慮義務と個人情報保護、どちらを優先するか

「情報を把握して配慮する義務」と「プライバシーを守る義務」は矛盾して見えますが、適切な手続きを踏めば両立できます。どちらかを無視してよいわけではなく、両方を同時に満たす運用設計が求められます。

「知らなかったから配慮できなかった」は免責にならない

安全配慮義務(民法415条・労働契約法第5条)は、使用者が「知り得た情報をもとに適切な措置を講じること」を求めています。健康診断結果という形で異常所見を把握していたにもかかわらず、何の措置もとらなかった場合、損害賠償請求の対象になり得ます。

「プライバシーが気になって結果を見なかった」という対応が、結果的に安全配慮義務違反を招くケースもあります。適切な権限と手続きのもとで情報を把握し、必要な措置を取ることが、会社としての責任を果たすことになります。

個人情報保護のために必要な手続き

健康診断結果を適法に取り扱うために、企業が整備すべき基本事項は以下のとおりです。

  • 健診案内・同意書に「結果の利用目的と閲覧者の範囲」を明記する
  • 閲覧権限を持つ者を社内で明確にし、就業規則または社内規程に定める
  • 閲覧記録を残す(誰がいつ何を閲覧したか)
  • 管理職への共有が必要な場合は、従業員本人への事前説明と同意取得を行う
  • 紙・データいずれの場合も、アクセス制限をかけた状態で保管する

これらが整っていれば、「配慮のために情報を活用する」ことは個人情報保護法の趣旨にも沿った対応になります。

異常所見への対応フロー・医師への相談方法が不明な場合、ウェルセンス株式会社に相談することで、法的リスクを最小化した実行プランを整備できます。

健康診断結果の保管・管理の実務

健康診断個人票は5年間の保存義務があります(労働安全衛生規則第51条)。保管場所・担当者・廃棄ルールを明確にしないまま運用していると、情報漏えいや法令違反のリスクが高まります。

健康診断個人票とは何か

労働安全衛生法第66条の3は、事業者が健康診断の結果を記録した「健康診断個人票」を作成・保存することを義務付けています。健診機関から届く結果表をそのまま保存するだけでは、形式的に不十分な場合があります。厚生労働省が定めた様式(様式第5号など)に準じて記録を作成・整備することが原則です。

保管・廃棄のルールを決める

保管にあたっては、次の点を社内で決めておく必要があります。まず担当者を一名に限定し、鍵のかかるキャビネットまたはアクセス制限されたフォルダで管理します。次に、退職者の記録については「退職後も5年間保存が必要」という点を見落としがちです。退職と同時に廃棄すると法令違反になります。最後に、5年を経過した記録の廃棄手続き(シュレッダー、データ消去等)のルールも定めておきましょう。

デジタル保存については、法令上は電子データによる保存も許容されています。ただし、アクセスログの管理やバックアップ体制など、情報セキュリティの観点から適切な環境を整備することが前提です。

再検査・異常値への対応を属人的にしない

「要再検査」の通知が来た従業員への対応が、担当者の経験や感覚に依存している企業は少なくありません。対応フローをあらかじめ決めておくことで、担当者が変わっても一定の対応ができます。

基本的な流れとして、まず健診機関から結果を受け取ったら人事担当者が確認し、異常所見・要再検査の対象者をリストアップします。次に、本人へ受診勧奨の案内を文書(またはメール)で行います。そのうえで、必要に応じて医師の意見を聴き、就業措置の要否を検討・記録します。この一連の流れを年度ごとに記録しておくことが、後日のトラブル対応においても有効です。

社内規程・就業規則への落とし込み方

実務の運用を属人的にしないためには、社内規程や就業規則に健康診断結果の取り扱いルールを明記することが必要です。規程のない状態では、担当者が変わるたびに対応がリセットされます。

就業規則に盛り込むべき項目

就業規則または健康管理規程に最低限定めておくべき内容は以下のとおりです。

  • 健康診断の種類・実施時期
  • 健康診断結果の利用目的(就業上の措置を検討するための使用)
  • 閲覧権限を持つ者の範囲(例:人事担当者、産業医、必要に応じて直属上司)
  • 管理職等への共有条件と本人への説明義務
  • 保管期間・保管方法・廃棄方法
  • 従業員の再検査受診および情報提供への協力義務

従業員規模・産業医の有無による対応の違い

自社の状況によって、対応すべき内容が異なります。規程整備の優先度の参考にしてください。

  • 従業員50名未満・産業医なし:産業医選任は義務ではないが、医師への意見聴取義務は残る。産保センターを活用しながら、人事担当者が一元管理できる体制を整える。
  • 従業員50名以上・産業医選任済み:産業医との連携フローを規程に明記する。産業医が閲覧できる情報の範囲も定めておく。
  • 複数拠点・テレワーク混在の企業:保管場所とアクセス方法のルールが複雑になりやすい。デジタル管理を前提にした規程整備が必要。

規程を作ったあとの周知が重要

規程を整備しても、従業員に周知されていなければ意味がありません。入社時のオリエンテーション、健診案内の配布時、就業規則の改定時など、複数のタイミングで「健康情報をどのように取り扱うか」を伝える機会を設けることが、従業員の理解と信頼につながります。

まとめ

人事担当者が健康診断結果を閲覧することは、利用目的の明示・閲覧権限の限定・本人への説明といった条件を満たせば法的に認められます。産業医がいない場合も「医師の意見を聴く義務」は残り、地域産業保健センターなどの無料サービスを活用することで対応できます。

安全配慮義務と個人情報保護は矛盾するものではなく、適切な手続きと社内規程の整備によって両立できます。まず「誰が見てよいか」「どこに保管するか」「異常所見が出たらどう動くか」の三点を社内で明文化することが、最初の一歩です。

「規程をどう作ればいいかわからない」「異常所見が出た従業員への対応を一緒に考えてほしい」——そのような場合、健康情報管理の判断を一人で抱えず、ウェルセンス株式会社に相談することで、法令要件を満たした実行可能な体制を整備できます。

よくある質問

Q. 社長や経営者は全従業員の健康診断結果を見てよいですか?

A. 経営者であっても、閲覧は就業上の措置を判断するために必要な範囲に限られます。全員の結果を網羅的に確認することが必ずしも必要とは言えず、特に「就業措置の判断が必要な案件」に絞った確認が法的リスクを下げます。社内規程で閲覧者と目的を明確にしておくことをお勧めします。

Q. 産業医がいない会社で、従業員が「要再検査」を放置している場合どうすればよいですか?

A. まず人事担当者から本人に受診勧奨を文書またはメールで行い、その記録を残します。受診を強制することはできませんが、勧奨したという事実の記録は安全配慮義務を果たした証拠になります。それでも本人が受診しない場合は、地域産業保健センターや産業保健総合支援センターに相談し、会社としてどこまで対応すべきかアドバイスを受けることをお勧めします。

Q. 健康診断個人票は紙で保管しなければなりませんか?

A. 電子データによる保存も法令上は認められています。ただし、アクセス権限の設定・ログ管理・バックアップ体制など、情報セキュリティ上の要件を満たす必要があります。クラウドサービスや専用システムを利用する場合も、5年間の保存義務を確実に満たせる運用設計が必要です。

Q. 退職した従業員の健康診断記録は退職後に廃棄してよいですか?

A. 退職後もそのまま廃棄することはできません。健康診断個人票の保存義務(5年)は、在籍・退職を問わず健診実施日を起点として計算されます。退職者の記録も5年が経過するまで保管が必要です。廃棄の際はシュレッダー処理や完全なデータ消去など、情報漏えいが生じない方法で行ってください。

Q. 健康診断結果を就業規則に記載するにはどこを直せばよいですか?

A. 就業規則の「健康管理」または「安全衛生」に関する章に、健康診断の実施義務・受診義務・結果の利用目的・閲覧権限者の範囲・保管方法を追記するのが一般的です。別途「健康情報取扱規程」を策定して就業規則と連動させる方法も有効です。既存の就業規則の構成によって最適な整備方法が変わるため、具体的な文案については専門家に相談することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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