診断書に「業務上ストレス」と書かれた時の会社対応手順

診断書に「業務上ストレス」と書かれた時の会社対応手順 メンタルヘルス対応
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月曜の朝、総務担当の机の上に一枚の診断書が置かれていた。病名の欄には「適応障害」、そして原因として「業務上のストレスによる」という記載。読んだ瞬間、「これは会社の責任だと言われているのか」と胸が締め付けられる感覚を覚えた——そんな経験をしている経営者・人事担当者は少なくないはずです。診断書にこの一文が書かれた瞬間、何をどう対応すればいいのか、正しく理解している人はほとんどいません。この記事では、法的な整理から今すぐ取れる実務アクションまでを順を追って解説します。

診断書の「業務上ストレス」記載は、労災認定とは別物

まず最初に押さえておくべき重要な事実があります。主治医が診断書に「業務上ストレスが原因」と書いたとしても、それはあくまで医師の医学的見解であり、法的な労災認定とは全く別のプロセスです。

診断書は主治医の「意見書」にすぎない

主治医は、患者(社員)から聴取した情報をもとに診断書を作成します。つまり、職場環境を実際に確認したわけでも、会社側の事情を考慮したわけでもありません。「業務上ストレスが原因」という記載は、社員が主治医に伝えた内容を反映した医学的推察であり、会社に対して法的な責任を直接発生させるものではないのです。

労災認定の権限は労働基準監督署長にある

労働者災害補償保険法第7条および第12条の8に基づき、業務上の疾病(労災)かどうかを認定する権限は労働基準監督署長にあります。精神疾患の場合、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月改正)に従い、出来事の種類・心理的負荷の強度・発症時期などを総合的に評価したうえで判断されます。診断書の一文だけで労災認定が決まるわけではありません。

「診断書=労災認定」という誤解が対応を遅らせる

現場でよくある誤解が、「診断書に書かれた=会社の責任が認定された」という思い込みです。この誤解から、過度に萎縮して対応が止まったり、逆に「どうせ認定されないだろう」と記録整備を怠ったりするケースが見られます。どちらも危険です。診断書の記載は労基署の調査において重要な参考資料の一つになりますので、内容を受け取った段階で早期に事実確認と記録整備を開始することが必要です。

会社が直面する法的リスクを正確に把握する

「業務上ストレス」という記載が含まれた診断書を受け取った場合、会社が直面しうる法的リスクは大きく三つあります。過度に恐れる必要はありませんが、正確に理解しておくことがリスク管理の出発点です。

安全配慮義務違反のリスク

労働契約法第5条は、会社が労働者の生命・身体の安全を確保しながら労働させる義務(安全配慮義務)を負うと定めています。「業務上ストレスが原因」という記載は、この義務違反の主張につながる可能性があります。ただし、安全配慮義務違反が認められるためには、「義務違反の事実」と「損害」の間に因果関係が必要です。診断書の記載があるだけで自動的に違反が成立するわけではありません。

労災申請・損害賠償請求のリスク

社員または社員の家族が労基署へ労災申請を行う可能性があります。また、労災認定の有無にかかわらず、民事上の損害賠償請求(安全配慮義務違反を根拠とするもの)が提起されるケースもあります。会社が適切な記録を持っていない場合、事実関係の立証が難しくなり、不利な状況に追い込まれるリスクがあります。

対応の遅れ自体がリスクになる

診断書を受け取った後、「どうすればいいかわからない」という理由で対応を放置することが、最も避けるべき行動です。対応の遅れは、社員との信頼関係の悪化、事実記録の散逸、SNS等での情報拡散など、二次的なリスクを生む原因になります。受け取った段階で速やかに社内の初動対応を始めることが重要です。

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診断書を受け取ったら会社がすべき具体的な対応手順

診断書を受け取ったら、まず落ち着いて事実確認から始めることが原則です。感情的な反応や場当たり的な対応は、後の紛争リスクを高めます。以下に、会社として取るべき具体的なアクションを整理します。

事実関係の記録整備を始める

まず最初に、当該社員の業務状況・勤怠記録・上司とのやり取り・業務量などを整理します。タイムカード・業務日報・メールのログ・面談記録など、散在している情報を一か所にまとめましょう。「後から都合よく作った」と疑われないよう、既存の記録をそのまま保全することが重要です。新たに作成するものについては作成日時を明確にし、記録者名も残しておきます。

主治医の見解と職場実態のギャップを整理する

診断書の記載内容と、実際の職場環境・業務状況に事実上の相違がある場合は、その差異を具体的に文書化します。「本人から聴取した情報のみに基づく記載ではないか」という観点で、客観的な記録と照らし合わせます。この作業は、産業医や専門家と連携して行うことで、より説得力のある資料になります。

産業医または専門家に相談する

産業医がいる企業(常時50名以上が選任義務の目安)は、速やかに産業医へ状況を共有し、意見書の作成を依頼します。産業医は職場環境・業務実態を把握した上で医学的見解を示せるため、主治医の診断書に対する補完的な意見として機能します。産業医意見書は、復職判定だけでなく、労基署調査への対応資料としても活用できます。

一方、常時50名未満の企業には産業医選任義務がありませんが、「専門家がいないから何もできない」は誤りです。地域産業保健センター(産保センター)では無料相談が可能ですし、スポット契約で産業医・精神科産業医に意見を求めることもできます。判断が難しい場面こそ、外部の医学的知見を活用することで、より妥当な対応につながります。

企業規模 産業医の状況 推奨アクション
常時50名以上 選任義務あり 産業医へ速やかに共有・意見書依頼
常時50名未満 選任義務なし 地域産業保健センター(無料)またはスポット産業医を活用
規模問わず 産業医が機能していない 社労士・メンタルヘルス専門会社・弁護士等と連携して対応

産業医意見書の活用と、診断書への「異議申立」の考え方

「診断書の内容が事実と違う。反論できないのか」という疑問は、多くの経営者・人事担当者が抱えます。結論から言えば、診断書に対する公式の「異議申立」制度は存在しませんが、会社の立場を正式に記録・提示する手段は複数あります。

産業医意見書で医学的な補完意見を示す

主治医の診断書に対して、産業医は職場実態を踏まえた別の医学的見解を意見書として提示できます。これは「反論」ではなく「補完的情報の提供」という位置づけですが、労基署の調査や復職判定において、会社側の主張を裏付ける重要な資料になります。特に、職場のストレス要因が本人の主張と異なる場合や、他の要因(プライベートの問題など)が疑われる場合には、産業医の意見が有効に機能します。

労基署調査への正式な情報提供

労災申請がなされた場合、労基署は会社に対して事実関係の確認を行います。この調査において、会社には事実に基づく情報提供・資料提出の権利と義務があります。診断書の記載内容と異なる事実がある場合は、客観的な記録(勤怠データ・業務記録・面談記録など)をもとに、正式に情報を提出することが会社の適切な対応です。感情的な反論ではなく、「事実の記録」で会社の立場を示します。

社員との関係性を壊さない対応の姿勢

対立姿勢を前面に出すと、社員との信頼関係が損なわれるだけでなく、退職トラブル・SNS上の風評・訴訟リスクが高まります。「会社の立場を守ること」と「社員を支援すること」は、必ずしも相反しません。診断書を受け取った後も、休職・療養中の社員に対して定期的な安否確認や復職支援の窓口を用意するなど、誠実な対応姿勢を示すことが、長期的なリスク管理につながります。

休職・復職支援へのつなぎ方と安全配慮義務の実践

診断書対応は、休職開始後の支援体制づくりと一体で考える必要があります。安全配慮義務の実践とは、リスクを避けることだけでなく、社員が適切に療養し、職場に戻れる環境を整えることを含みます。

休職中のルールと連絡体制を明確にする

就業規則に休職規定がある企業は、その内容に従い休職手続きを進めます。就業規則がない、または休職規定が不明確な場合は、今回の対応を機に整備することを検討してください。休職期間中は、月に一度程度の定期連絡(主に文書・メールで)を行い、療養状況を把握します。ただし、過度な連絡は社員の回復を妨げるため、頻度と手段は慎重に設定します。

復職判定のプロセスを事前に設計する

復職を判定する際には、主治医の復職可能の意見だけでなく、産業医の意見・試し出勤(リワーク)の状況・本人の意向・職場環境の状態を総合的に判断します。「主治医が大丈夫と言ったから復職させた」という対応は、再発リスクと安全配慮義務違反のリスクを同時に高めます。あらかじめ復職判定のプロセスを文書化しておくことが、万が一の際の会社の防衛ラインになります。

再発予防のための職場環境の見直し

診断書に「業務上ストレスが原因」と記載された事案は、たとえ法的リスクが低い場合でも、職場環境に何らかの問題がある可能性のシグナルとして受け取ることが重要です。長時間労働・ハラスメント・業務量の偏り・コミュニケーション不全など、客観的に職場環境を点検し、必要であれば改善策を講じることが、次の事案を防ぐための最善の安全配慮義務の実践です。

まとめ

診断書に「業務上ストレスが原因」と記載されていても、それは主治医の医学的見解であり、直ちに会社の法的責任が確定するわけではありません。重要なのは、受け取った段階で慌てず、事実記録の整備・産業医や専門家への相談・社員への誠実な対応を速やかに始めることです。対応を後回しにするほど、事実関係は曖昧になり、リスクは積み上がります。

人事や経営管理のすべてを社内だけで判断するのではなく、医学的・法的な観点から第三者による補完意見を取り入れることで、より適切で堅牢な対応につながります。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・人事担当者を対象に、診断書対応・休職復職支援・メンタルヘルス体制の整備まで、実務に即した支援を提供しています。「うちの状況でどう対応すればいいか」という段階からご相談いただけます。診断書を受け取って不安を感じている方は、まず一度、気軽にお声がけください。

よくある質問

Q. 診断書に「業務上ストレス」と書かれた場合、会社はすぐに労災申請の対応をしなければいけませんか?

A. 診断書の記載だけでは労災申請が自動的に行われるわけではありません。労災申請は原則として労働者(または遺族)が行うもので、会社が自発的に申請する義務はありません。ただし、労基署から調査が入った際には、会社は事実に基づく情報提供・資料提出を行う必要があります。診断書を受け取った段階で、記録整備と専門家への相談を始めておくことが重要です。

Q. 診断書の内容が事実と異なると感じています。会社として異議を申し立てる方法はありますか?

A. 診断書に対する公式な「異議申立」制度は存在しません。ただし、産業医に意見書を作成してもらうことで、主治医の見解とは異なる医学的補完意見を正式な資料として残すことができます。また、客観的な勤怠記録・業務記録をもとに、労基署調査や民事手続きの場で会社の立場を示すことは可能です。感情的な反論ではなく、客観的な事実の記録で対応することが基本です。

Q. 従業員が50名未満で産業医がいません。この場合、誰に相談すればよいですか?

A. 常時50名未満の企業には産業医選任義務はありませんが、相談先がないわけではありません。地域産業保健センター(産保センター)では無料で産業保健の相談を受け付けています。また、スポット契約で精神科産業医に意見を求めることも可能です。社労士・メンタルヘルス専門会社・弁護士と連携して対応するという選択肢もあります。「専門家がいないから何もできない」という状態にならないよう、早めに相談先を探すことをお勧めします。

Q. 当時の業務記録が整っていません。今から記録を整備しても問題ないですか?

A. 既存の記録(タイムカード・メール・業務日報など)はそのまま保全することが最優先です。その上で、今から整理・まとめる作業を行うことは問題ありません。ただし、新たに作成する資料については作成日時と作成者を明記し、「事後的に作成した整理資料」であることを明確にしておくことが重要です。不自然な記録の改ざんや後付けの作成は、かえって信頼性を損ないますので、あくまで「事実をそのまま整理する」姿勢で臨んでください。

Q. 休職中の社員に対して、会社はどの程度連絡を取ってよいですか?

A. 休職中の連絡は、月に一度程度を目安に、原則として文書やメールで行うことが一般的な実務です。頻繁な連絡や業務に関する話題は、社員の療養を妨げ、安全配慮義務違反と判断されるリスクがあります。一方で、全く連絡を取らないことも、社員の状況把握ができず復職支援が遅れる原因になります。連絡の頻度・内容・手段については、就業規則や休職時に取り交わした書面で事前に定めておくとトラブルを防ぎやすくなります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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