休職社員のMBO評価、規程なければどう処理する?

休職社員のMBO評価、規程なければどう処理する? メンタルヘルス対応
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「うちの就業規則、MBO評価の休職者への扱いについて何も書いていないんですよね……」——規程がないまま評価期間が終わり、その場の判断で処理してきた。そんな経験をお持ちの方は少なくないはずです。

期中に休職した社員のMBO評価は、「保留」「按分」「除外」のどれが正しいのか。規程なしで処理してしまったことに後から気づいた場合、今後どう整備すればいいのか。本記事では、法的リスクの観点も踏まえながら、実務担当者がすぐに使える考え方と対応手順を解説します。

期中休職者のMBO評価、3つの処理方式と選び方

就業規則にルールがない場合でも、「保留」「按分」「除外」という3つの処理方式の中から状況に応じて選択することが現実的な対応です。ただし、どれを選んでも「なぜその方式を選んだか」を記録に残しておくことが必須です。

評価保留

休職期間中は評価を確定させず、復職後に改めて評価または個別決定する方式です。本人の回復状況を見ながら対応できる反面、賞与・昇給の支給時期に評価が間に合わない問題が生じます。「いつまでに評価を確定させるか」というタイムラインを事前に本人と共有しておかないと、手続き上の義務を果たしていないと見なされるリスクがあります。評価期間の終わりから復職まで期間が長くなりそうな場合には、他の方式を検討したほうが運用しやすいケースもあります。

按分評価

休職前に実際に就労していた期間分だけを評価対象とし、目標達成度を按分して算出する方式です。たとえば6か月の評価期間のうち3か月就労して休職した場合、その3か月の実績のみで評価を算定します。在職期間の実績を適正に反映できる一方、「按分の計算方法」や「目標設定の調整をどうするか」の基準が不明確だと、評価者によって結果がブレやすくなります。規程がない状態で按分を選ぶ場合は、計算式と判断根拠を書面で残してください。

評価除外

当該評価期間は評価対象外とし、賞与・昇給への影響をゼロとする方式です。本人への短期的な不利益が生じないためシンプルに見えますが、注意が必要な落とし穴があります。評価実績のない期間が生じることで、昇格・昇給の審査において「実績が積み上がっていない」と判断され、中長期的に昇格機会が遅延するリスクがあります。除外を選ぶ際は、その後のキャリアへの影響がないこと(または一定期間後に加味すること)をセットで説明・記録に残すことが重要です。

方式 メリット 主なリスク・注意点
評価保留 回復状況を見て柔軟に対応できる 賞与・昇給時期との整合性。確定時期を明示しないと義務不履行になりうる
按分評価 在職期間の実績を適正に反映できる 計算基準・方法の規程がないと裁量の濫用と評価されるリスクがある
評価除外 処理がシンプル。短期的な不利益なし 中長期的な昇格機会の遅延リスク。キャリアへの影響説明がセットで必要

「規程がなければ会社の裁量で決められる」は誤解

就業規則に評価処理の規定がない状態でも、会社側が完全に自由に決められるわけではありません。労働契約法や労働基準法の定める原則が、規程の有無にかかわらず適用されます。

就業規則の作成義務と記載事項

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働基準法第89条により就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。賞与・昇給に関する事項は「相対的必要記載事項」(定める場合には必ず記載しなければならない事項)に該当します。つまり、賞与制度や昇給制度が存在するのであれば、その算定基準や評価方法についてのルールも就業規則に盛り込むことが求められます

恣意的な運用が招く法的リスク

評価処理の方法が恣意的・不透明であると、労働契約法第3条第5項(信義誠実の原則)に違反するとして争われる余地があります。また、評価基準の実質的な変更が賃金の不利益変更に該当する場合には、労働契約法第10条が問題となり、合理的な理由と周知が必要です。「規程がないからこうした」という説明は、法的には会社を守る根拠になりません。

安全配慮義務との関係

労働契約法第5条は、会社が労働者の生命・健康を守るために必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を定めています。評価処理の方法が本人の回復意欲や復職後のモチベーションに悪影響を与えたと判断される場合、安全配慮義務違反の論点として持ち出される可能性があります。直接的な因果関係の立証は容易ではありませんが、こうしたリスクがあることを念頭に置いて運用方針を決めることが大切です。

賞与への反映をどう処理するか

賞与の扱いは「評価の確定」と切り離して考えることが実務上の現実的な対処法です。ただし、就業規則・賞与規程への明記なしに控除や不支給を行うことは紛争リスクを高めます。

賞与は「就労の対価」と「動機付け」の二面性を持つ

判例上、賞与は必ずしも全額の請求権が自動的に発生するものではないとされています。しかし、算定期間の一部でも実際に就労した事実がある場合、その期間分の賞与を完全にゼロとすることは別途リスクが伴います。「ノーワーク・ノーペイ」の原則を適用して休職期間分を控除する場合でも、就業規則や賞与規程に明記されていなければ、後から「不当な控除だ」と主張される場面が生じます。

評価が確定していない場合の賞与支給の現実的な対応

評価が保留のまま賞与支給時期を迎えた場合、実務的には次の対応が考えられます。まず、在職期間分の按分計算を暫定的に行い、その金額を支給する。次に、評価確定後に差額が生じた場合の取り扱いを書面で本人に説明しておく。「後で調整する」という口約束では不十分で、支給時点の計算根拠と調整ルールを書面に残すことが重要です。会社の規模や賞与規程の内容によって対応は変わるため、社会保険労務士への確認を検討してください。

規程がない状態でその場対応してしまった後の整備方法

過去にすでに個別判断で処理してしまった場合でも、今からルールを整備することは十分に意味があります。規程整備は「過去を遡及修正する」ためではなく、「今後の運用を統一する」ためのものです。

規程整備で定めるべき最低限の項目

休職者のMBO評価に関して就業規則や評価規程に盛り込むべき主な項目は以下の通りです。

  • 評価期間中に休職した場合の処理方式(保留・按分・除外のいずれか、または判断基準)
  • 按分を採用する場合の計算方法(在職日数の算定基準など)
  • 評価保留とした場合の確定時期と手続き
  • 賞与・昇給への反映方法と、評価除外期間がキャリアに与える影響の取り扱い
  • 本人への説明・通知の方法と記録保存のルール

これらを一度に完璧に整備しようとすると時間がかかります。まず「今後はこの方式で統一する」という社内方針を文書化し、就業規則の次回改定時に反映させるという二段階のアプローチが現実的です。

従業員規模・体制による対応の分岐

従業員数が10人未満の場合は就業規則の作成義務はありませんが、MBO制度を運用しているのであれば、社内ルールを「評価ガイドライン」として別途文書化することを強く推奨します。10人以上の場合は就業規則の整備が法的義務であり、既存の規程に「休職者の評価処理に関する条項」を追加する形で対応します。産業医が選任されている規模(常時50人以上の事業場)であれば、産業医の意見も踏まえながら復職後の評価反映についての方針を決めることがより適切です。

過去の個別対応との整合性をどう取るか

すでに異なる扱いをした社員が複数いる場合、新しい規程を作っても「あの人と自分は扱いが違った」という不満が残る可能性があります。対策として、規程整備のタイミングで過去の対応実績を整理し、今後の統一ルールとの差異が生じている場合は個別に説明・記録を残しておくことが重要です。「今後はこのルールで一律対応する」という方針の周知も、社内トラブルの予防につながります。

本人への説明で押さえておくべきこと

評価処理の方法を決めたら、必ず本人への説明と記録を行ってください。説明の質が、後のトラブル回避に直結します。

説明のタイミングと内容

休職開始時または評価期間終了前に、今期の評価処理方針を本人に伝えることが理想です。伝えるべき内容は、「今期の評価をどの方式で処理するか」「賞与・昇給にどう影響するか」「次回評価期からの扱いはどうなるか」の3点です。口頭だけでなく、メールや書面で記録に残してください。復職後の面談でこの説明を改めて行う場合でも、復職前の時点での方針を書面で残しておくことで、後から「聞いていなかった」という主張を防ぐことができます。

メンタル不調の社員への配慮と法的観点のバランス

精神疾患による休職者への評価処理においては、「不利益取扱いの禁止」という観点を意識する必要があります。現時点では精神疾患を理由とする不利益取扱いを直接禁じた明文規定は限定的ですが、均等法や障害者雇用促進法の考え方が裁判例で類推適用される場面もあります。評価の説明を行う際は、「メンタル不調を理由として評価を下げた」という印象を与えないよう、処理方式の選択根拠を客観的な基準(在職期間、目標設定の状況等)に基づいて説明することが重要です。

多くの企業が同じ課題を抱えていますが、判断を誤ると後から大きなトラブルになりかねません。評価方式の選択と規程整備について、一度専門家に相談してみるのも有効です。

まとめ

休職社員のMBO評価処理は、「保留」「按分」「除外」の3方式の中から状況に応じて選択し、選んだ根拠と本人への説明を必ず書面で記録することが基本です。就業規則に規程がない状態でも、労働契約法・労働基準法の原則は適用されるため、「規程がないから自由に決められる」という発想はリスクにつながります。過去にその場対応してしまった場合も、今から統一ルールを整備することで今後の紛争リスクを大きく下げることができます。

「どの方式を選ぶべきか判断が難しい」「就業規則に条項を追加したいがどう書けばいいかわからない」「復職後の評価反映について本人とどう話せばいいか」——こうした場面で迷ったら、一人で抱え込まず専門家に相談することが重要です。ウェルセンス株式会社では、休職・復職支援と人事労務の観点を組み合わせた相談対応を行っています。規程整備の伴走支援から個別ケースの判断サポートまで、専任人事がいない企業の実情に合わせてお手伝いします。まずは現在の課題をお聞かせください。

よくある質問

Q. 就業規則に評価処理の規程がない場合、どの方式を選べば最も安全ですか?

A. 絶対的に「これが安全」という正解はありませんが、選んだ方式の根拠を書面で残し、本人に説明することが最低限の対策です。短期的な不利益を避けるなら「評価除外」がシンプルですが、中長期的なキャリアへの影響説明をセットで行う必要があります。「按分評価」は在職期間の実績を反映できますが、計算基準を明確にしないとトラブルになりやすいです。いずれの方式でも、規程整備を並行して進めることを強くお勧めします。

Q. 評価保留のまま賞与支給時期を迎えてしまいました。どうすればいいですか?

A. 在職期間分の按分で暫定的な支給額を算出し、その計算根拠と「評価確定後に調整を行う場合の取り扱い」を書面で本人に説明したうえで支給することが現実的な対応です。「評価が終わるまで支給しない」という対応は、支給遅延として問題になる可能性があるため避けてください。就業規則や賞与規程の内容によって対応が変わることがあるため、社会保険労務士への確認も検討してください。

Q. メンタル不調を理由に評価を下げると、差別にあたる可能性がありますか?

A. 精神疾患を理由とした不利益取扱いを直接禁じた明文規定は現時点では限定的ですが、裁判例では「健康上の理由による不利益取扱い」が問題視される場面があります。重要なのは、評価の根拠を「メンタル不調だから」ではなく、「在職期間中の目標達成状況」などの客観的な基準に基づいて説明できるかどうかです。評価処理の方式と根拠を書面で記録しておくことが、後の紛争リスクを下げる実務的な対策になります。

Q. 従業員が10人未満で就業規則の作成義務がない場合、評価ルールはどう整備すればいいですか?

A. 就業規則の作成義務はなくても、MBO制度を運用している場合は「評価ガイドライン」として社内文書を整備することを強くお勧めします。「休職者の評価処理はこの方式で行う」という方針を文書化し、全社員に周知しておくだけで、後の個別トラブルを大幅に防ぐことができます。書式は簡易なもので構いません。制度が育ってきた段階で就業規則の整備を検討してください。

Q. 復職後、休職前の評価結果を昇給・昇格にどう反映すればいいか基準がありません。どう考えればいいですか?

A. まず「除外した期間の評価をキャリアに影響させない」か「一定期間後に別途加味する」かの方針を決め、それを本人に明示することが出発点です。昇格審査において「評価実績がない期間」をどう扱うかは、昇格基準規程にあらかじめ盛り込んでおくことが理想です。規程がない場合は、復職後の最初の面談でこの方針を口頭・書面で伝え、記録に残してください。対応に迷う場合は、専門家への相談を早めに行うことで、本人への説明の一貫性を保ちやすくなります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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