休職中の社員の賞与支給に迷ったら

休職中の社員の賞与支給に迷ったら メンタルヘルス対応
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「賞与の時期が来たけれど、休職中の社員にはどうすれば……」。就業規則を開いてみたものの、「在籍していること」と「出勤率○%以上」の両方が書かれていて、どちらで判断すればいいのかわからない。専任の人事担当者がいない会社では、こうした局面に初めて直面したとき、相談する先もなく途方に暮れることが少なくありません。この記事では、賞与規程の解釈から判断の文書化まで、実務で使える順序で整理します。

賞与の支給義務は就業規則の内容によって決まる

結論から言うと、賞与は法律が「必ず払え」と定めているものではありません。支給する義務が生じるのは、就業規則や賞与規程に支給の根拠が定められている場合だけです。

賞与は「法定外賃金」である

労働基準法は、賞与(一時金)を「相対的必要記載事項」として就業規則への記載を求めています(第89条第4号)。これは「支給する場合はルールを書きなさい」という意味であり、「必ず支給しなければならない」という義務規定ではありません。つまり、就業規則に支給条件が書かれていれば、その条件に沿って処理する義務が会社に生じます。逆に言えば、条件が明確でない場合は解釈トラブルの温床になります。

「払う義務があるかどうか」は規程の文言で判断する

休職中の社員に賞与を払わなければならないかどうかは、最終的には自社の就業規則・賞与規程が何を定めているかによります。「払わなくていい」とも「払わなければならない」とも、法律は一律に決めていないのです。だからこそ、規程の文言の読み方と、その解釈の根拠を会社として整理しておくことが不可欠です。

「在籍要件」と「出勤率要件」が両方ある場合の読み方

在籍要件と出勤率要件の両方が賞与規程に書かれている場合、どちらを優先するかという問題ではなく、両者がAND条件(すべて満たす必要がある)なのかOR条件(どちらかを満たせばよい)なのかを、規程全体の文脈から読み解くことが求められます。

「AND条件」と「OR条件」で結論が変わる

たとえば規程に「在籍していること、かつ出勤率が80%以上であること」と書かれていれば、両方を満たさない休職者は支給対象外と判断する根拠になります。一方、「在籍していること」と「出勤率80%以上」が単純に列挙されているだけで、「かつ」「または」の記載がない場合は解釈が割れやすくなります。最高裁は、就業規則の文言が一義的に明確でない場合、「当該規定の趣旨・目的・労使慣行等を総合考慮して合理的に解釈すべき」という立場をとっており、会社側の都合だけで解釈することは認められません。

「在籍要件」だけで不支給にするのはリスクが高い

休職中であっても雇用契約は継続しているため、「在籍していること」という要件は休職者も原則として満たしています。もし在籍要件だけが規程に書かれており、出勤率要件が明記されていない場合、「在籍しているから支給対象だ」という主張を退けるのは難しくなります。根拠なき不支給は、後から未払い賞与の請求を受けるリスクを生みます。逆に、出勤率要件が明確にAND条件として規定されていれば、休職により出勤率を満たさないことを理由とした不支給・減額の根拠になります。

解釈が複数あり得る場合の安全な対処

規程の文言があいまいで解釈が定まらないときは、労働者に不利な方向での解釈を避けるのが実務上の安全策です。具体的には、今回の判断をいったん行ったうえで、速やかに規程の改定に着手することを検討してください。「あいまいなまま運用する」ことが最もリスクの高い選択になります。

迷った判断も、文書で根拠を残すことが後のトラブル防止につながります。判断プロセスを整理するのが難しい場合は、人事の専門家に一度相談することをお勧めします。

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出勤率の計算方法が判断を左右する

出勤率要件がある場合、休職期間をどのように算定するかで「支給できる・できない」の結論が大きく変わります。ここを規程に明記していない会社が非常に多く、トラブルの温床になっています。

「分母から除く」か「欠勤としてカウント」するかの違い

出勤率の計算式は「出勤日数 ÷ 所定労働日数」が基本です。休職期間の扱いには大きく2つの方法があります。

  • 休職期間を分母・分子の双方から除外する方法:休職期間を算定対象外として、休職前後の出勤実績だけで出勤率を計算する。この場合、休職前の勤務態度が良好であれば出勤率要件を満たす可能性がある。
  • 休職期間を欠勤としてカウントする方法:休職期間中の日数を欠勤として分子(出勤日数)には算入しないが、分母(所定労働日数)には含める。この場合、長期休職者はほぼ確実に出勤率要件を満たさず、不支給の根拠となる。

どちらの方法をとるかは規程に明記することが必要であり、明記がない状態での後付け解釈は紛争リスクを高めます。また、年次有給休暇の取得日を出勤率算定において不利に扱うことは最高裁(勝英自動車学校事件・平成15年12月4日)により禁じられています。休職期間は有給休暇とは異なる扱いが可能ですが、その根拠も規程上で明確にしておくことが求められます。

算定期間と支給基準日の関係も確認する

賞与の算定対象期間(例:4月〜9月分)と支給基準日(例:12月1日在籍)の両方が規程に定められている場合、どの時点での在籍・出勤率を見るかを整理する必要があります。「支給基準日に在籍していること」と「算定期間の出勤率が○%以上」は別の要件として機能します。休職のタイミングによっては算定期間の一部だけ在籍・出勤しているケースもあるため、規程の文言を基準日・算定期間それぞれで確認してください。

判断したら必ず「文書化」する

どのような結論を出すにせよ、判断の根拠を書面に残すことが不可欠です。口頭確認や社内メールだけでは、後になって「言った・言わない」のトラブルに発展しやすくなります。

判断プロセスを記録するための確認事項

確認項目 確認内容 記録すべき事項
規程の確認 在籍要件・出勤率要件の有無と文言 該当条文のコピーと解釈の根拠
出勤率の算定 休職期間の扱い(除外 or 欠勤) 計算式と数値の記録
支給判断 支給・不支給・減額のいずれか 判断日・決裁者・根拠条文
本人への通知 通知方法・通知日・内容 通知書の写し・送付記録

社員・家族への説明で気をつけること

不支給または減額を通知する際は、「就業規則に書いてあるから」という説明だけでは納得を得にくい場合があります。「就業規則の第○条に『出勤率80%以上』という要件があり、今回の算定期間における出勤率は○%であったため、支給要件を満たしていないと判断しました」というように、条文・数値・判断の流れを順に示した書面を用意することで、対話をより建設的に進められます。家族(配偶者)からの問い合わせには、本人の同意がある場合に限り同様の説明を行う形が基本です。

不支給が「差別的取扱い」にならないかの確認

メンタル不調による休職者は、精神疾患・障害を背景に持つ場合があります。「休職者だから」という属性だけで不支給にするのではなく、「規程に定められた支給要件(出勤率・在籍条件)を満たさなかったから」という理由を明確にすることが、不当差別の疑義を防ぐうえで重要です。判断の根拠が就業規則の要件にある限り、メンタル疾患による休職であることそのものを理由にした不支給とは性質が異なります。ただし、規程があいまいなまま運用した場合は、この点の説明が難しくなるため、規程の整備が先決です。

規程を改定する場合の注意点

規程のあいまいさが判明したら、できるだけ早期に改定を検討することが実務上の正解です。「不利益変更になるから触れない」という判断は、あいまいなルールを放置することになり、長期的にはより大きなリスクを生みます。

不利益変更になるかどうかの判断軸

就業規則の変更が「労働者にとっての不利益変更」に当たるかどうかは、変更の内容が実質的に労働者の権利・利益を減少させるかどうかで判断されます(労働契約法第10条)。たとえば「従来は支給していたのに、規程改定を機に支給しないことにする」という変更は不利益変更に該当する可能性があります。一方、「これまで規程があいまいで運用が不統一だったため、明確化する」という改定は、必ずしも不利益変更とは評価されません。ただし、どのような場合でも改定前に労働者代表との協議・意見聴取を行い、労働基準監督署への届出が必要です。

改定時に盛り込むべき記載事項

休職者への賞与支給に関して規程を整備する際は、少なくとも以下の点を明文化することをお勧めします。休職期間中の賞与算定における出勤率の計算方法(分母・分子の扱い)、支給基準日の在籍と算定期間の出勤率それぞれの要件、そして休職期間が複数の算定期間にまたがる場合の処理方法です。これらを明記するだけで、次回以降の判断が格段に明確になります。

規程の改定は労務知識が必要な判断です。一人で判断を抱え込まず、専門家に相談しながら進めることで、トラブルのない運用につながります。

まとめ

休職中の社員への賞与支給は、法律が一律に決めているものではなく、自社の就業規則・賞与規程の内容と、その合理的な解釈によって判断が決まります。在籍要件と出勤率要件が併記されている場合は、両者がAND条件かOR条件かを規程全体の文脈から読み解き、出勤率の算定において休職期間をどう扱うかを確認することが先決です。そして、どのような判断をくだした場合でも、その根拠を書面で記録し、本人に対して条文・数値・判断の流れを示した説明を行うことが、後々のトラブル防止につながります。規程にあいまいさが残っている場合は、次の賞与時期を待たず、早期に改定を検討することをお勧めします。

ウェルセンス株式会社では、休職・復職対応と並行して、賞与規程の解釈や就業規則の整備に関するご相談を承っています。「うちのケースはどう判断すればいいのか」と迷われている経営者・兼務人事担当者の方は、まず一度、現状をお聞かせください。

よくある質問

Q. 就業規則に「在籍していること」しか書かれていない場合、休職中の社員に賞与を支払わなくてよいですか?

A. 原則として支払いが必要になる可能性が高いです。休職中でも雇用契約は継続しているため、「在籍していること」という要件は満たしていると判断されるのが通常です。在籍要件だけを根拠に不支給とすると、根拠なき不支給として未払い賞与の請求を受けるリスクがあります。出勤率要件など、より具体的な不支給根拠を規程に明記することを検討してください。

Q. 休職期間が賞与の算定期間にほんの一部だけかかっている場合、不支給にしてよいですか?

A. 規程に出勤率の要件と計算方法が明記されていれば、その計算結果に従うことになります。算定期間全体のうち休職期間が短く、出勤率の要件を満たしている場合は支給対象になる可能性があります。算定期間の一部だけ在籍・出勤しているケースは規程の読み方が複雑になるため、規程の文言を丁寧に確認したうえで判断してください。

Q. メンタル疾患による休職者を不支給にすることは、障害者差別になりますか?

A. 精神疾患・障害を理由に不支給にすることは問題になり得ますが、「就業規則に定められた支給要件(出勤率・在籍条件)を満たさなかった」という客観的な根拠に基づく判断であれば、属性による差別とは性質が異なります。重要なのは、判断の根拠が規程の要件にあることを明確にし、文書で説明できる状態にしておくことです。規程があいまいなままでは、この説明が難しくなります。

Q. 賞与規程を改定すると「不利益変更」になって、既存社員から訴えられますか?

A. 改定の内容によります。従来は実際に支給していたのに支給しない方向に変更する場合は不利益変更になる可能性があります。一方、あいまいな規程を明確化するだけの変更は、必ずしも不利益変更とは評価されません。どのケースでも、改定前に労働者代表との協議・意見聴取を行い、労働基準監督署への届出が必要です。改定の前に専門家に相談することをお勧めします。

Q. 休職者の家族(配偶者)から賞与の支給理由について問い合わせがあった場合、どう対応すればよいですか?

A. 原則として、給与・賞与に関する情報は本人のプライバシーに関わるため、本人の同意なく家族に開示することは避けてください。まず本人に連絡を取り、説明の同意を確認したうえで対応するのが基本です。本人が説明を希望する場合は、条文・出勤率の計算結果・判断の経緯を記した書面を用意し、本人を通じて共有する形が実務上の安全策です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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