勤務地限定社員の事業所閉鎖|解雇前に確認すべき3つの手順

勤務地限定社員の事業所閉鎖|解雇前に確認すべき3つの手順 労務管理
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「この拠点を閉める。でも、あの社員は勤務地限定で雇ったんだよな……」——事業所閉鎖の決断をした後、そんな壁にぶつかる経営者・人事担当者は少なくありません。通常の整理解雇とは異なり、勤務地限定の合意がある社員への対応には特有のリスクが潜んでいます。解雇が無効と判断されれば、バックペイ(解雇期間中の賃金支払い)や復職命令といった深刻な事態につながりかねません。この記事では、事業所閉鎖に伴う勤務地限定社員への対応で、解雇の前に確認すべき手順を、法的根拠とともに実務的な言葉で整理します。

勤務地限定合意とは何か、まず確認する

勤務地限定合意とは、「この場所でのみ働く」という条件が労働契約の内容として成立している状態を指します。この合意があるかどうかが、その後の対応方針全体を左右します。勤務地限定社員の事業所閉鎖対応では、この第一歩が最も重要です。

合意が「ある」と判断される場面

雇用契約書や労働条件通知書に「勤務地:〇〇店のみ」「転勤なし」と明記されている場合は、合意があると判断されやすいです。また、採用時に「地元で働けます」「引越し不要です」と会社側が説明していた場合、書面に明記されていなくても黙示の合意として認められる可能性があります。労働契約法第7条・第8条では、労働条件は労働契約の内容となると定めており、採用経緯も含めた総合判断が行われます。

合意が「あいまい」なケースの判断方法

「○○店勤務」とは書いてあるが「転勤なし」とは書いていない——これは実務上とても多いケースです。このような場合、裁判所は就業規則の配置転換規定、採用時の説明内容、過去の異動実績、職種の特性などを総合的に考慮して判断します。最高裁の東亜ペイント事件(昭和61年7月14日判決)では、就業規則に包括的な配転規定がある場合は使用者に転勤命令権が認められることが示されました。一方で、採用時に勤務地を限定する説明があれば、就業規則の規定があっても勤務地限定合意が優先されることがあります。「うちのケースはどちらなのか」を曖昧にしたまま進めると、後から争われるリスクが残ります。

確認すべき書類のリスト

  • 雇用契約書・労働条件通知書(勤務地の記載内容)
  • 採用時のハローワーク求人票・自社求人票(勤務地の表現)
  • 就業規則(配置転換・出向に関する規定)
  • 採用面接時のメモ・メール(勤務地について説明した記録)
  • 過去の辞令・人事異動の記録

これらを確認した上で、「勤務地限定合意がある」「ない」「不明確」のどれに当てはまるかを整理することが出発点です。

転勤命令で雇用継続できるか検討する

解雇の前に、まず転勤命令による雇用継続が可能かどうかを検討することが、法的にも実務的にも重要です。この検討を省略すると、「解雇回避努力が不十分」として解雇無効と判断されるリスクが高まります。事業所閉鎖に伴う勤務地限定社員の解雇では、この段階の丁寧さが後々の紛争防止を左右します。

勤務地限定合意がある場合、転勤命令は原則として無効

勤務地限定合意が認められる社員に対して、会社が一方的に転勤命令を出すことは、労働契約法第8条が定める「合意原則」に反します。つまり、「別拠点に移れ。嫌なら解雇だ」という流れは法的に非常に危険です。転勤命令自体が違法と判断された場合、その命令への拒否を理由とした解雇もまた無効となり得ます。

本人の同意を得た転勤は有効

ただし、本人が自発的に同意した場合は話が変わります。会社側が「別拠点への転勤という選択肢があります」と提示し、社員が納得して同意するのであれば、雇用を継続したままで拠点を移すことができます。この場合、同意の証拠として書面(転勤同意書)を取り交わすことが不可欠です。口頭だけでは後のトラブルを防げません。

転勤拒否された場合の次の一手

転勤を打診して断られた場合、それ自体を直ちに解雇理由にすることはできません(勤務地限定合意がある場合はとくに)。しかしこの段階は、「会社として解雇回避の努力をした」という記録を残す重要な機会でもあります。打診の経緯・日時・相手の返答内容を書面や電子メールで記録しておきましょう。その上で、次のステップである解雇手続きの検討に進みます。

整理解雇の4要素を勤務地限定のケースに当てはめる

事業所閉鎖に伴う解雇は、経営上の理由による「整理解雇」として扱われ、裁判所は4つの要素を総合的に審査します。勤務地限定社員のケースでは、特に「解雇回避努力」の内容が通常の整理解雇と異なる点に注意が必要です。

4要素の概要と勤務地限定ケースでの留意点

要素 一般的な内容 勤務地限定ケースでの留意点
人員削減の必要性 経営上の合理的な必要性がある 事業所閉鎖の経営判断自体は尊重されやすい
解雇回避努力 配転・希望退職募集・残業削減など 転勤打診・本人の意向確認が必須の行為となる
被解雇者選定の合理性 客観的・合理的な基準による選定 勤務地限定者を一括対象とすること自体は合理的と判断される場合が多い
説明・協議 労働者への誠実な説明と交渉 解雇の時期・理由・代替案について十分な説明が求められる

「解雇回避努力」で求められること

通常の整理解雇では「他部署への配転で雇用を守れないか」が解雇回避努力の中心となります。勤務地限定社員の場合は、配転命令を一方的に出せない代わりに、転勤の可否を丁寧に打診し、本人の意向を確認するプロセスが「解雇回避努力」として位置づけられます。また、希望退職の募集(他の従業員も含めて)、役員報酬の削減、残業の抑制など会社全体としての努力を示せるかどうかも審査の対象になります。「拠点が閉まるから即解雇」という判断は、努力不足として解雇無効リスクが高くなります。

説明・協議の進め方

整理解雇の4要素の中で、中小企業が最もおろそかにしがちなのが「説明・協議」です。具体的には、事業所閉鎖の時期と理由、転勤という選択肢の提示、解雇時期の見通し、退職金・解雇予告手当の説明を、口頭ではなく書面で行うことが求められます。一度説明して終わりではなく、相手が質問や反論を述べる機会を設けることも「誠実な協議」として重要です。この過程を記録しておくことは、万一紛争になった際の重要な証拠になります。

解雇を実行する前に確認する手続き上の義務

解雇の意思決定が固まった後も、手続きを正しく踏まなければ法的リスクが残ります。特に解雇予告に関するルールと、退職勧奨との使い分けは必ず把握しておきましょう。事業所閉鎖による勤務地限定社員の解雇では、手続きの不備が解雇無効につながるケースが多いため注意が必要です。

解雇予告・解雇予告手当の義務

労働基準法第20条により、解雇を行う場合は少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。なお、試用期間中14日以内など一定の例外を除き、この義務は原則として全ての労働者に適用されます。解雇予告手当の不払いや期間が不足した場合は、それ自体が法令違反となります。また、解雇通知は口頭ではなく書面(解雇通知書)で交付することを強くお勧めします。

退職勧奨を先に試みることの意味

解雇の前に、会社側から「合意退職」を提案する退職勧奨を行うことは珍しくありません。本人が合意して退職する場合、後から「解雇無効」と争われるリスクを大幅に下げることができます。ただし、退職勧奨はあくまで「提案」であり、断られた場合にしつこく繰り返したり、「解雇するぞ」と脅すような言動は、パワーハラスメントと判断されるリスクがあります。面談の回数・時間・内容を記録し、社員が自由意思で判断できる状況を維持することが前提です。

会社規模・状況別の判断軸

就業規則の整備状況や従業員数によって、実務対応の優先度が変わります。従業員数10人以上の会社は就業規則の作成・届出が義務であり(労働基準法第89条)、解雇手続きに関する規定が就業規則に明記されているかどうかを確認してください。就業規則がない、または配転・解雇規定が曖昧な場合は、今回の対応と並行して就業規則の見直しを検討することをお勧めします。

まとめ

勤務地限定社員が在籍する事業所を閉鎖する場合、「拠点がなくなるのだから解雇できる」と単純に考えることは危険です。まず行うべきは、勤務地限定合意の有無を書類と採用経緯から正確に把握すること。次に、転勤打診という形で解雇回避努力を尽くすこと。そして、整理解雇の4要素(人員削減の必要性・解雇回避努力・選定の合理性・説明協議)を踏まえた手続きを丁寧に記録しながら進めることです。手続きの不備が後から解雇無効の根拠になるケースは少なくありません。

「自社のケースが整理解雇の要件を満たしているか不安」「転勤拒否された後の進め方がわからない」「就業規則に解雇手続きの規定がない」といった場面では、判断を誤ると大きなリスクが生じます。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者からの労務相談を受け付けており、事業所閉鎖に伴う解雇対応についても多くの実績があります。一人で抱え込まず、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 雇用契約書に「○○店勤務」とだけ書いてある場合、勤務地限定合意があると認められますか?

A. 必ずしも「限定合意あり」と断定されるわけではありません。裁判所は契約書の記載だけでなく、採用時の説明内容、就業規則の配転規定、過去の異動実績なども総合的に考慮します。「転勤なし」と明示していない場合は、限定合意が認められないと判断される可能性もあります。判断が難しいケースは専門家への確認をお勧めします。

Q. 転勤を打診したら拒否されました。この時点で解雇できますか?

A. 転勤拒否を受けた直後に解雇するのはリスクがあります。勤務地限定合意がある場合、転勤は義務ではないため、拒否したこと自体を解雇理由にすることはできません。転勤打診は解雇回避努力の記録として重要ですが、その後も説明・協議の機会を設けることが求められます。退職勧奨を経て合意退職を目指すか、整理解雇の手続きを正式に踏むかを判断してください。

Q. 整理解雇の4要素はすべて満たさないと解雇は無効になりますか?

A. 厳密には「4要件(すべてを満たさなければならない絶対条件)」ではなく、「4要素(総合考慮の判断材料)」とする裁判実務の傾向があります。ただし、いずれかが著しく欠けると解雇無効と判断されるリスクは高く、実務上は4要素すべてを満たすよう対応することが安全策です。特に「解雇回避努力」と「説明・協議」の記録が不十分なケースで解雇無効となる事例が見られます。

Q. 退職勧奨を何度も行うとパワハラになりますか?

A. 退職勧奨の回数・態様・内容によってはパワーハラスメントと判断されるリスクがあります。一般的に、短期間に執拗に繰り返す、「解雇にするぞ」と脅す、退職を強要する言動は問題となり得ます。面談は1回あたりの時間も含めて記録を残し、あくまで社員が自由に判断できる状況を保つことが原則です。判断が難しい場合は、実施前に専門家に相談することをお勧めします。

Q. 就業規則がない場合、整理解雇の手続きはどう進めればよいですか?

A. 就業規則がない場合でも、労働契約法第16条に基づく解雇権濫用法理は適用されます。整理解雇の4要素を満たすよう、人員削減の必要性・解雇回避努力・選定基準・説明協議のすべてについて記録を残しながら対応することが求められます。また、従業員数10人以上の会社は就業規則の作成・届出が法的義務です。今回の対応と並行して就業規則の整備を進めることを強くお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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