「忘年会、みんなで盛り上がろう!もちろん全員参加ね」——上司のその一言が、今の時代では会社を揺るがすリスクになりかねません。社内の飲み会をめぐって「強制参加はハラスメントになるのか」「任意と書いておけば大丈夫か」と気になりつつも、どこがボーダーラインかわからず、従来の慣行を続けているケースは少なくありません。この記事では、パワハラ・アルハラの判定基準から会社が負うリスク、具体的な予防策までを実務的に整理します。
「強制参加」「飲酒強要」はなぜハラスメントになるのか
社内飲み会への強制参加や飲酒の強要は、パワーハラスメント(パワハラ)として法的に問われる可能性があります。アルコール・ハラスメント(アルハラ)は独立した法律で定義された概念ではありませんが、既存のハラスメント法制の中に取り込まれて判断されます。
パワハラ防止法との関係
2020年に施行(中小企業は2022年4月から義務化)された改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)は、パワハラを「優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義しています。厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、パワハラの6類型が示されており、飲酒の強要は「精神的な攻撃」または「個の侵害」に該当しうるとされています。上司が部下に対してお酌を強いたり、一気飲みをさせたりする行為は、この類型に当てはまる典型例です。
アルコール健康障害対策基本法の背景
2014年に施行されたアルコール健康障害対策基本法に基づき、政府はアルコール健康障害対策推進基本計画を策定しています。この計画では飲酒強要をなくすことが社会的課題として明確に位置づけられています。つまり「飲み会でお酌を断れない雰囲気」は、個人の問題ではなく、企業が組織として対処すべき環境問題と見なされる時代になっています。
「断れない雰囲気」そのものが問題になる
「誰も強制してはいない」と経営者・管理職が思っていても、場の雰囲気や上下関係によって事実上断れない状況が作られていれば、それ自体がハラスメントのリスク要因です。特に少人数の中小企業では、上司の意向が職場全体に強く反映されやすく、「みんな来るから来い」という空気が生まれやすい構造があります。
「任意参加」と書けば安全、は大きな誤解
案内文に「任意参加」と記載するだけでは、ハラスメントリスクは消えません。法的な判断は文書の表現ではなく、実態によって行われます。
判断されるのは「断った人が不利益を被るか」
実務上のチェックポイントは次の問いに集約されます。「参加を断った人が、その後の評価・昇進・配置・日常的な扱いで不利益を受けていないか」。不参加を理由に評価や昇進に影響が出た場合、それは不利益取扱いとして労働法上の問題になります。また、「全員参加が前提」という発言が管理職からあった場合、その時点で事実上の強制が成立しているとみなされるリスクがあります。
グレーゾーンの判断基準を整理する
以下の表を参考に、自社の飲み会運営が「任意」と言えるかどうか確認してください。
| 状況 | ハラスメントリスクの評価 |
|---|---|
| 案内文が「任意参加」で、欠席しても評価・関係に影響なし | 低い(ただし飲み会当日の言動は別途注意) |
| 「任意」と書いているが、上司が「全員来ること」と発言している | 高い(事実上の強制と判断されうる) |
| 欠席者が後から「チームワークが足りない」と評価される | 非常に高い(不利益取扱いに該当する可能性) |
| 参加費が自己負担で業務時間外、かつ欠席すると白い目で見られる | 高い(強制性+費用問題が複合) |
| 宗教・妊娠・疾患・育児などの理由を申し出ても欠席を認めない | 非常に高い(個の侵害・多様性配慮違反) |
多様な「参加できない事情」への無理解がリスクを高める
アルコールを飲めない・飲まない理由は人それぞれです。宗教上の信条、妊娠・授乳中、服薬中の疾患管理、育児や介護による帰宅時間の制約など、正当な事情が数多く存在します。これらを「やる気がない」「チームへの貢献度が低い」と扱う文化は、ハラスメントの温床になるだけでなく、優秀な人材の離職を招く経営リスクでもあります。
業務時間・賃金・使用者責任——見落とされがちな法的論点
強制参加の飲み会には、ハラスメント以外にも労働時間・賃金・会社の損害賠償責任という三つの法的論点が潜んでいます。
強制参加は「労働時間」になる可能性がある
業務時間外の飲み会であっても、参加が事実上強制されていれば「労働時間性」が認められる可能性があります。その場合、労働基準法第37条に基づく割増賃金(時間外労働の賃金)の支払い義務が生じます。「懇親会だから残業代は不要」という認識は、実態が強制参加であれば通用しません。特に就業規則や労働契約に根拠のない業務時間外参加の強制は、この論点で問題が表面化しやすいので注意が必要です。
会社の使用者責任は「業務時間外」でも問われる
会社が主催・費用負担した飲み会の場でハラスメントが発生した場合、会社は民法第715条(使用者責任)に基づき損害賠償責任を負う可能性があります。「業務時間外だから会社は関係ない」という認識は誤りです。主催・費用負担・参加の強制という三つの要素がそろった飲み会は「業務に関連した場」と判断されやすく、会社が責任を問われた判例も存在します。問題が起きてから「うちはそういう会社じゃない」と言っても、実態がそう認定されれば言い訳にはなりません。
参加費の自己負担と費用処理の問題
強制参加にもかかわらず参加費を自己負担させている場合、費用の不当負担として不満やトラブルの原因になります。参加を事実上強制するなら費用は会社負担とするか、逆に費用を会社が負担するなら参加は本当の意味で任意にするか、いずれかの方針を明確にしておくことが実務上重要です。
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会社が今すぐできるリスク対策
ハラスメントリスクを下げるためには、「雰囲気の改善」だけでなく、仕組みとして明確なルールを設けることが必要です。
案内・運営のルールを整える
飲み会の案内を出す際は、まず「参加は任意であり、欠席による不利益は一切ない」と明示します。次に、アルコールを飲まない・飲めない人が参加しやすいよう、ソフトドリンクの選択肢を用意することを案内文に記載します。また、開催時刻・終了時刻を明確に設定し、育児や介護を抱える従業員が参加しやすい配慮を示すことが重要です。「参加できる人が楽しむ場」という位置づけを社内に定着させることが、長期的なリスク低減につながります。
管理職への周知と研修
問題の多くは管理職の無自覚な言動から生まれます。「全員来るよな」「飲めないの?弱いな」「この程度飲めないと仕事もできない」といった発言が、パワハラ・アルハラに該当しうることを管理職に理解させるための研修が効果的です。特に従業員数20~50名規模では、専任人事がいないため、経営者自身が管理職への周知を担う必要があります。就業規則にハラスメント禁止規定がある場合は、飲み会の場も適用対象であることを明記・周知することをお勧めします。
就業規則・ハラスメント対応方針の見直し
就業規則にハラスメント禁止規定がない、またはパワハラ防止法に対応した規定になっていない場合は、早急な見直しが必要です。パワハラ防止法は中小企業にも義務化されており、相談窓口の設置と周知、対応手順の整備が求められています。就業規則の整備状況と実態の乖離がある場合、問題が発生したときに会社の対応が後手に回るリスクが高まります。
- 就業規則にパワハラ・アルハラを含むハラスメント禁止規定があるか確認する
- 社内相談窓口が機能しているか、実際に使えるルートになっているか確認する
- 飲み会の案内文・運営ルールを文書化し、毎年確認する習慣をつける
- 管理職に対し年に一度はハラスメント研修を実施する
- 強制参加の実態がある場合は、参加費・労働時間の扱いを整理する
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まとめ
社内飲み会の強制参加がハラスメントになるかどうかは、「案内文に何と書いたか」ではなく「参加を断った従業員が実際に不利益を被るかどうか」という実態で判断されます。飲酒の強要はパワハラの「精神的な攻撃」または「個の侵害」として認定されうるものであり、会社主催の飲み会で発生したハラスメントには、業務時間外であっても会社の使用者責任が問われます。「うちは昔からこうだった」という慣行は、今の法的環境では通用しません。
まず自社の飲み会運営が「本当の意味で任意か」を点検し、管理職への周知と就業規則の整備を進めることが、リスク低減の第一歩です。「どこから手をつければいいかわからない」という場合や、既に飲み会でのトラブルが生じている場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。メンタルヘルス対応・ハラスメント防止体制の整備から、実際のトラブル対応まで、中小企業の実情に合わせた支援を提供しています。
よくある質問
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