社内飲み会の費用、欠席者への対応はどうすればいい?

社内飲み会の費用、欠席者への対応はどうすればいい? コンプライアンス
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「飲み会に参加しなかったのに、なぜ自分の費用が使われているんですか?」——ある日突然、こんなクレームが届いたとき、どう答えればいいか迷った経験はないでしょうか。特に専任の人事担当者がいない中小企業では、その場の判断に頼るしかなく、対応がブレてしまうことも少なくありません。この記事では、社内飲み会の費用負担ルールの設計方法から、欠席者へのクレーム対応、法的リスクの回避策まで、実務で使える知識を整理してお伝えします。

欠席者からのクレームは正当なのか

結論から言えば、「欠席者にも同額を支給すべき」というクレームには、法的な根拠はありません。ただし、運用の実態によっては別の問題が発生することがあります。

「同額支給」を求める主張は法的に根拠があるか

社内飲み会の費用を会社が全額負担した場合、欠席者が「不公平だ」「同額を現金でくれ」と主張することがあります。しかし、労働基準法や民法のいずれにも、こうした支給を義務づける規定はありません。福利厚生のイベントに参加しなかったことで、参加者と同等の金銭給付を受ける権利は、法律上は発生しないのです。

ただし、就業規則や社内規程に「全社員に等しく福利厚生費を支給する」旨が明記されている場合は別です。その場合、規程に基づいて欠席者への対応を検討する必要があります。まず自社の就業規則や福利厚生規程を確認することが先決です。

クレームの「正当性」と「放置のリスク」は別の問題

法的に根拠がなくても、クレームを完全に無視することは得策ではありません。不満が放置されると、職場全体の雰囲気の悪化や、離職につながるケースもあります。重要なのは「このクレームに法的な支払い義務はないが、なぜこの不満が生まれたのかを理解し、ルールを整備すること」です。クレームを単なる「ゴネ」として処理するのではなく、制度の不備を見直すきっかけとして活用する姿勢が求められます。

クレームの背景にある「任意性の曖昧さ」に目を向ける

欠席者の不満が大きくなりやすいケースには、ある共通点があります。それは「任意参加のはずなのに、実態は参加しづらかった」という状況です。欠席すると翌日の朝礼で理由を聞かれる、参加しないと重要な業務情報の共有から外されるといった環境では、社員は実質的に「強制」と感じています。こうした状況があると、費用負担への不満だけでなく、ハラスメント問題に発展するリスクもあります。

「任意参加」を名乗るための実質的な要件

「案内文に任意参加と書けば大丈夫」という認識は危険です。法的には、実態が伴って初めて「任意参加」と認められます。

任意参加が成立するための条件

厚生労働省の解釈では、使用者の指揮命令下に置かれた時間は労働基準法第32条が定める「労働時間」に該当します。名称が「懇親会」「任意参加」であっても、実態として参加しないことが評価や業務上の不利益につながる場合は、労働時間とみなされ、残業代の支払い義務が発生する可能性があります。任意参加を法的に成立させるためには、次の三点が必要です。

  • 案内文に「参加・不参加いずれも業務評価に影響しない」と明記すること
  • 欠席しても不利益が生じない職場環境を整備すること
  • 欠席理由の申告を求めないこと

この三点が揃わないまま「任意参加」と称してイベントを実施することは、労務リスクの温床になります。

欠席者に不利益を与えることのハラスメントリスク

飲み会を欠席した社員を人事評価に反映させたり、会議の情報共有から除外したりする行為は、労働施策総合推進法第30条の2(いわゆるパワハラ防止法)に抵触する可能性があります。中小企業も2022年4月1日以降、パワハラ防止措置が義務化されています。「付き合いが悪い」という理由で評価を下げることは、パワーハラスメントと認定されるリスクがあることを経営者・管理職は認識しておく必要があります。

育児・介護・宗教・疾患など多様な欠席理由への配慮

欠席理由は年々多様化しています。妊娠中や育児中の社員、宗教上の理由でアルコールを避ける社員、アルコール疾患を抱える社員、障害のある社員など、参加自体が困難なケースは珍しくありません。育児・介護を理由に欠席しやすい社員(統計的に女性が多い傾向があります)が不利に扱われる運用は、男女雇用機会均等法や育児介護休業法の精神に反する可能性があります。「全員参加が当然」という前提でイベントを設計することは、多様な社員を無意識のうちに排除していることになりかねません。

費用負担ルールの設計と類型

費用負担のルールは、「全額会社負担」から「欠席者への代替支給あり」まで複数の選択肢があります。大切なのは、どの方針をとるかよりも、ルールを明文化して一貫して運用することです。

費用負担の主な類型と留意点

類型 内容 留意点
全額会社負担(参加者分のみ) 参加した社員の飲食費を全額会社が負担 欠席者への対応方針を規程に明記しておく
一部補助 会社が一定額を補助し、残りは自己負担 補助額の根拠と上限を明文化する
欠席者にも代替支給 欠席者にギフト券・食事券等を支給 賃金性の有無と税務処理(後述)に注意
欠席者への支給なし 任意参加であることを明文化した上で不支給 「任意性の実質的担保」が前提条件

欠席者に代替支給する場合の税務処理

欠席者への代替措置としてギフト券や食事券を支給する場合、その性質によっては「賃金」として扱われ、所得税や社会保険の処理が必要になります。一方、福利厚生費として全額会社負担とする場合は、法人税法・所得税法上の「福利厚生費」として認められるために、全社員が対象であること、金額が社会通念上相当であることなどの要件を満たす必要があります。税理士への確認を怠ると、後から課税処理の修正が必要になるケースがあるため、事前に確認しておくことを強くお勧めします。

従業員数・規程整備状況による対応の分岐

就業規則の作成が法律上義務づけられているのは、常時10人以上の労働者を使用する事業場です(労働基準法第89条)。10人未満の場合でも、福利厚生ルールを社内文書として明文化しておくことは紛争防止に有効です。就業規則や福利厚生規程がすでに存在する場合は、そこに飲み会に関する費用負担の方針を追記するかたちで対応できます。まだ何も整備されていない場合は、まず簡単な社内ルール文書を作成することから始めましょう。

ルール設計に頭を悩ませるなら、一度専門家に相談してみませんか?会社の実情に合わせたアドバイスが得られます。

欠席者へのクレーム対応の進め方

クレームへの対応は、感情的に否定するのではなく、事実確認とルールの説明を落ち着いて行うことが基本です。その上で、制度の見直しに向けた前向きな姿勢を示すことが信頼回復につながります。

クレームを受けたときの初動対応

欠席者からクレームを受けた場合、まず「なぜそう感じたのか」を丁寧に聞き取ることが重要です。「任意と言われたが、参加しにくい雰囲気があった」「欠席したことで業務情報を共有してもらえなかった」といった実態が出てくる場合があります。その場合は費用負担の問題だけでなく、職場環境やハラスメントの問題として別途対処が必要です。一方、費用の不公平感のみが理由であれば、「現在のルールの説明」と「今後のルール整備の方針」を伝えることで多くのケースは落ち着きます。

ルールが明文化されていない場合の対処

「以前は別の扱いだった」「社長の判断でそのときどきに変わっていた」というケースでは、過去の運用のブレ自体が不満の原因になっています。この場合は「過去の運用が一貫していなかったことへの反省」を率直に伝えた上で、「今後はこのような基準で運用します」と方針を明示することが有効です。その際、経営者・管理職・社員が一緒にルールを確認できるよう、文書として共有することが望ましいです。

欠席者への代替措置として現実的な選択肢

法的に義務はないものの、チームの一体感や公平感を大切にしたい場合は、欠席者への代替措置を検討することも一案です。たとえば、社内の懇親目的でランチ補助を全員に提供する、欠席者には後日ランチ会などの別の機会を設けるといった方法は、費用面と公平感のバランスをとりやすい方法です。ただし、これはあくまで会社の裁量であり、義務ではないことを対外的にも明確にしておくことが重要です。

再発防止のための社内ルール整備のポイント

クレームや不満を繰り返さないためには、属人的な判断ではなく、明文化されたルールに基づいた運用が欠かせません。ルール設計の要点を整理します。

イベント案内文に盛り込むべき記載事項

社内飲み会や懇親会の案内を出す際は、以下の内容を必ず盛り込むことで、後から「知らなかった」「任意と思っていなかった」というトラブルを防ぐことができます。参加・不参加が個人の意思に委ねられていること、欠席しても評価に影響がないこと、費用負担の方針(会社全額負担・一部補助・割り勘など)、欠席者への代替措置の有無と内容(支給しない場合はその旨)を明記することが基本です。

就業規則・福利厚生規程への反映

社内イベントに関する費用負担ルールは、就業規則や福利厚生規程に明記しておくことで法的な根拠が生まれます。「年に○回程度の社内懇親会については、参加者一人当たり○円を上限として会社が補助する。欠席者への代替支給は行わない」のように、具体的な運用方針を書くと明確です。就業規則の変更には、労働者代表への意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第90条・第89条)。10人未満の事業場でも、同様の社内文書を整備しておくことをお勧めします。

定期的な制度の見直しと社員への周知

一度ルールを作ったあとは、年に一度程度、実態と乖離がないかを確認することが大切です。社員構成の変化(育児中の社員が増えた、外国籍の社員が入社したなど)によって、従来のルールでは対応しきれない状況が生まれることがあります。ルールの周知は、入社時のオリエンテーションや年度はじめの全体共有に組み込むのが効率的です。

社内ルールの整備は、人事だけの判断では判断しづらいもの。法務・労務の視点からのアドバイスが必要なときもあります。

まとめ

社内飲み会の費用負担に関して欠席者から「同額を支給すべき」と言われても、法的な支払い義務はありません。ただし、「任意参加」の実態が伴っていなかった場合は労働時間認定やハラスメントのリスクが生じます。クレームへの対応は、まず現行ルールの法的な位置づけを確認し、次にルールの明文化と社員への周知で再発を防ぐ流れが基本です。費用負担の方針を一貫して運用すること、欠席者へのプレッシャーを与えない環境を整えることが、長期的な職場の信頼関係につながります。

飲み会の対応だけでなく、労務ルール全般について「本当にこれでいいのだろうか」と感じたら、ウェルセンス株式会社にご相談ください。中小企業の実情に合わせた労務環境の整備から社員へのメンタルヘルス対応まで、幅広いサポートをご提供しています。

よくある質問

Q. 欠席者から「会社負担分を現金でよこせ」と言われました。支払う必要はありますか?

A. 法律上、その請求に応じる義務はありません。ただし、就業規則や社内規程に「全社員に等しく福利厚生費を支給する」旨の定めがある場合は、その規程の内容次第で対応が変わります。まず自社の規程を確認してください。規程に定めがなければ、支払い義務はなく、「任意参加のイベントへの不参加者への代替支給は行わない」ことを明示したルールを設けることが再発防止になります。

Q. 飲み会を欠席した社員の評価を下げてもいいですか?

A. 原則として行うべきではありません。任意参加のイベントへの欠席を理由とした不利益な評価は、労働施策総合推進法第30条の2が定めるパワーハラスメントに該当する可能性があります。中小企業も2022年4月からパワハラ防止措置が義務化されています。欠席の理由が育児・介護・宗教・疾患などの場合は、差別的取り扱いとして男女雇用機会均等法や育児介護休業法の問題にもなりえます。

Q. 欠席者へのギフト券支給を考えています。税務上の注意点はありますか?

A. ギフト券や食事券を支給する場合、その性質によっては賃金とみなされ、所得税の源泉徴収や社会保険料の算定に影響します。一方、福利厚生費として処理するためには、全社員を対象としていること、金額が社会通念上相当であることなどの要件を満たす必要があります(法人税法・所得税法上の福利厚生費要件)。具体的な処理方法は事前に顧問税理士に確認することをお勧めします。

Q. 社員が8人しかいません。就業規則がなくてもルールを整備できますか?

A. はい、できます。就業規則の作成が法律上義務化されているのは常時10人以上の労働者を使用する事業場(労働基準法第89条)ですが、10人未満でも社内文書として福利厚生のルールを明文化しておくことは有効です。「社内イベントの費用負担について」などの簡単な文書を作成し、全社員に共有するだけでも、後々のトラブル防止に大きく役立ちます。

Q. 「任意参加」と案内しているのに全員来ます。これは問題ですか?

A. 全員が本当に自由意思で参加しているならば問題ありません。ただし、「欠席しにくい雰囲気がある」「欠席すると上司の機嫌が悪くなる」といった実態があれば、それは任意参加とは言えません。法的には実態が「任意」かどうかで判断されるため、欠席しても不利益が生じないと社員が実感できる環境づくりが必要です。もし全員参加が続いているなら、個別に「欠席したい場合は遠慮なく言ってよい」と伝えるなど、心理的安全性を確保する働きかけを行うことをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
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