「うちの社員、もう2年近く休職しているけど、退職したときに失業給付はもらえるの?」——顧問の社労士もおらず、調べようにも何から確認すればいいかわからない。そんな状況で社員や家族から問われ、言葉に詰まった経験はないでしょうか。
休職中も雇用保険の被保険者資格は継続します。しかし「資格が続いている」ことと「失業給付を受けられる期間として算入される」ことは、まったく別の話です。この区別を知らないまま退職手続きを進めると、退職後に社員から「もらえると思っていたのに」という声が上がり、会社への不信感につながることもあります。
この記事では、雇用保険の被保険者期間の正しい計算方法から、メンタル不調で休職を繰り返すケースの注意点、社員への説明の仕方まで、人事専任者がいない中小企業の担当者でも対応できるよう整理します。
被保険者資格の継続と被保険者期間の算入は別物
休職中も雇用保険の被保険者資格は失われません。ただし、失業給付の受給要件を満たす「被保険者期間」としてカウントされるかどうかは別の基準で判断されます。この区別が、最も多くの誤解を生む出発点です。
被保険者資格とは何か
雇用保険の被保険者資格とは、「雇用保険に加入している状態」のことです。週の所定労働時間が20時間以上で31日以上の雇用見込みがある労働者は、原則として資格を取得します。休職中であっても雇用契約は継続しているため、資格は喪失しません。休職中も雇用保険料は給与から控除されますが、無給休職の場合は給与がゼロのため控除額もゼロとなります。「保険料を払っているから受給できる」という発想自体は間違いではないものの、問題は「どの月が期間としてカウントされるか」にあります。
被保険者期間とは何か
被保険者期間とは、失業給付(基本手当)の受給要件を満たすためにカウントされる月数のことです。雇用保険法第14条に基づき、暦月単位で計算します。具体的には、1か月のうち賃金支払基礎日数が11日以上、または賃金支払基礎時間数が80時間以上ある月のみ、「1か月」として算入されます。
賃金支払基礎日数とは、賃金の計算の基礎となった日数のことで、実際に出勤した日数や有給休暇取得日数などが含まれます。完全な無給休職で出勤日数がゼロの月は、この日数が0日となり、被保険者期間にはカウントされません。
在籍5年でも「使える期間」が2年未満になる現実
たとえば、ある社員が5年間在籍し、そのうち2年半を無給休職で過ごしたとします。在籍年数は5年ですが、被保険者期間としてカウントされるのは有給で出勤していた月のみです。結果として、離職前2年間を振り返ったときに12か月分の被保険者期間が確保できておらず、受給要件を満たせないケースが実際に起こりえます。会社側が「長く勤めてくれたから大丈夫だろう」と思い込んだまま手続きを進めると、退職後にトラブルになります。
失業給付を受けるための受給要件を正確に把握する
雇用保険の基本手当(失業給付)を受けるには、雇用保険法第13条に定める被保険者期間の要件を満たす必要があります。離職理由によって要件が異なるため、どちらに該当するかを事前に確認しておくことが重要です。
一般離職者と特定受給資格者・特定理由離職者の違い
| 区分 | 対象となる主な離職理由 | 必要な被保険者期間 | さかのぼる期間 |
|---|---|---|---|
| 一般離職者 | 自己都合退職(通常) | 通算12か月以上 | 離職前2年間 |
| 特定受給資格者 | 会社都合(倒産・解雇等) | 通算6か月以上 | 離職前1年間 |
| 特定理由離職者 | やむを得ない理由(体調不良等) | 通算6か月以上 | 離職前1年間 |
メンタル不調による退職は特定理由離職者になる可能性がある
厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」によれば、体力の不足・心身の障害・傷病等により離職した場合は、特定理由離職者に該当する可能性があります。ただしこれはハローワークの個別判断によるものであり、申請すれば必ず認定されるわけではありません。医師の診断書や、休職・通院の経緯を記録した書類があると判断の参考になります。会社側が「自己都合です」と決めつけて離職票に記載するのではなく、実態に即した記入をすることが社員の権利保護につながります。
被保険者期間の計算でさかのぼる起算点を確認する
受給要件の確認では「いつから数えるか」が重要です。起算点は離職日(退職日)の翌日ではなく、離職日から過去にさかのぼります。一般離職者なら過去2年間、特定理由離職者なら過去1年間を対象期間として、その中に要件を満たす月数があるかを確認します。休職が長引いた社員の場合は特に、退職前に社労士やハローワークへ事前相談することを社員に案内しておくと親切です。
休職を繰り返すケースで注意すべき具体的な落とし穴
1回の休職であれば比較的シンプルに判断できますが、休職→復職→再休職を繰り返すケースでは、被保険者期間の計算が複雑になります。在籍期間と「実際に使える期間」のズレに会社側が気づかないまま退職を迎えることが、最も避けるべき状況です。
有給休暇消化中は被保険者期間に算入されるケースが多い
休職に入る前に年次有給休暇を消化する期間がある場合、その月は賃金が支払われているため、賃金支払基礎日数が11日以上になる可能性が高く、被保険者期間にカウントされます。一方、有給休暇を使い切って無給の欠勤扱いになった月や、傷病手当金のみ受給している無給休職月は、算入されません。傷病手当金は健康保険から支給される給付であり、雇用保険上の「賃金」には含まれません。
会社独自の有給休職制度がある場合は個別確認が必要
一部の会社では、就業規則で「休職期間中も一定の賃金を支給する」といった独自の制度を設けていることがあります。その場合、支払われた賃金の計算基礎となった日数によっては、その月が被保険者期間に算入されることがあります。「うちは休職中も一部給与を出しているから大丈夫」と思い込まず、実際の賃金支払基礎日数を月ごとに確認することが必要です。賃金台帳や出勤簿を照らし合わせながら月単位で把握しておくと、退職手続きの際に慌てません。
複数回の休職で賃金支払基礎日数が不足する月が蓄積するリスク
たとえば、3年間在籍した社員が、1年目に3か月休職、2年目に半年休職、3年目にまた半年休職したとします。有給休暇を使い切った後の各休職期間が無給だったとすると、被保険者期間に算入されない月が累積します。離職前2年間をさかのぼったとき、要件を満たす12か月が確保できていない可能性が十分にあります。この確認は退職の意思が固まった段階で行うのではなく、復職支援の面談など定期的な接触の中で状況を把握しておくことが理想です。
退職後に使える受給期間の延長制度を社員に案内する
退職後も傷病等で就労できない状態が続く場合、雇用保険の基本手当の受給期間を最長4年まで延長できる制度があります。受給要件を満たしている社員に対しては、退職前にこの制度の存在を案内することが会社の誠実な対応といえます。
受給期間の延長制度の概要
雇用保険法第20条に基づき、退職後に傷病等で30日以上就労できない状態が続く場合、原則1年の受給期間を最長4年(通常の1年+延長3年)まで延長できます。申請先はハローワークです。原則として、就労できない状態が30日以上継続した翌日から1か月以内に申請する必要があります。ただし、やむを得ない事情がある場合は遅延申請が認められることもあるため、申請が遅れそうな場合もまずハローワークに相談することを勧めてください。
傷病手当金との関係と同時受給できない点の整理
退職後に傷病手当金(健康保険法第104条に基づく資格喪失後の継続給付)を受給している社員は、雇用保険の基本手当と同時に受給することができません。就労能力がない状態であれば傷病手当金、就労可能な状態になれば基本手当、という整理になります。なお、退職後も傷病手当金を継続受給するには、退職日の前日まで継続して1年以上の健康保険被保険者期間が必要です(健康保険法第99条・第104条)。傷病手当金の継続給付が終了したタイミングで雇用保険の基本手当の受給を開始できるよう、事前に受給期間の延長申請をしておくことが重要です。
会社として社員に何を伝えるか
会社が直接給付の可否を断言することはできませんし、すべきでもありません。ただし、「ハローワークに事前相談できる」「受給期間の延長申請という制度がある」「社労士に確認を相談できる場合は案内する」という情報提供は、会社として行える誠実な対応です。退職者への離職票交付のタイミングに合わせて、こうした情報を簡単なメモや案内文で渡すだけでも、社員の不安を大きく軽減できます。
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人事担当者が実務で確認しておきたいチェックポイント
休職者が退職に向かう局面で、会社側が確認しておくべき実務上のポイントをまとめます。専任人事がいなくても、以下の視点で整理しておくと対応が大きく変わります。
賃金台帳で月ごとの賃金支払基礎日数を確認する
被保険者期間の算入可否は月単位で判断されます。退職が現実的になってきた時点で、賃金台帳や出勤簿をもとに過去2年間の各月について賃金支払基礎日数が11日以上かどうかを確認します。給与ソフトを使っている場合は、月ごとの支払基礎日数が出力できるか確認してみてください。この作業自体は社内で行えますが、判断に迷う場合は社労士に依頼するのが安全です。
離職票の離職理由欄は実態に即して記入する
離職票(雇用保険被保険者離職証明書)の離職理由欄は、会社側が記入します。ここに「自己都合」と記入するか「正当な理由のある自己都合(体調不良等)」と記入するかで、特定理由離職者に該当するかどうかの判断に影響します。事実に反する記載は問題ですが、実態を正確に記載することは会社の義務です。社員が異議を申し立てる権利もあるため、記入内容について本人に確認する機会を設けることを推奨します。
従業員規模・就業規則の整備状況による対応の違い
就業規則を整備している会社では、休職中の賃金支給ルールや復職基準が明文化されているため、被保険者期間の算入可否を判断しやすくなります。就業規則がない、または休職規定が曖昧な場合は、ケースごとの判断が増え、実務の手間と誤判断リスクが高まります。産業医と連携している場合は、復職の可否判断や休職期間の見通しについて医学的な根拠を記録に残しやすくなり、ハローワークや社労士への相談時にも説明がしやすくなります。
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まとめ
休職中も雇用保険の被保険者資格は継続しますが、失業給付の受給要件を満たす「被保険者期間」としてカウントされるのは、賃金支払基礎日数が月11日以上ある月に限られます。無給休職が長引くと、在籍年数にかかわらず受給要件を満たせないケースが起こりえます。メンタル不調で休職を繰り返す社員を抱えている場合は、退職前に月ごとの被保険者期間を確認し、必要に応じてハローワークへの事前相談や受給期間の延長申請を案内することが、会社としての誠実な対応になります。
「自社の社員の状況をどう整理すればいいかわからない」「離職票の記入に迷っている」「休職者への対応全体を一度見直したい」といった場合、ウェルセンス株式会社では休職復職支援・人事労務の実務相談を承っています。専任人事がいない中小企業の現場感覚に合わせた形でサポートしますので、まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
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