賞与不支給を社員に納得させる5つの説明ステップ

賞与不支給を社員に納得させる5つの説明ステップ 人事制度
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「今期は業績が厳しく、賞与は出せそうにない。でも、どう伝えれば……」。そう思いながら、支給日が近づくにつれ焦りだけが募っている方も多いのではないでしょうか。賞与不支給の決断は経営判断として正当でも、社員への説明を誤ると不信感・離職・最悪の場合は法的トラブルに発展することがあります。この記事では、業績悪化を理由とした賞与不支給を「法的に安全に」「社員が納得できる形で」進めるための説明ステップと、事前に整えておくべき制度的な準備を、専任人事がいない中小企業の視点で解説します。

業績悪化を理由に賞与をゼロにしても法的に問題ないか

結論から言うと、賞与は労働基準法上の強制支給義務がなく、業績悪化を理由に不支給にすること自体は違法ではありません。ただし、就業規則・労働契約・労働慣行の状況によってリスクの大きさが変わります。

賞与は「定めがあってはじめて支払義務が生じる」

労働基準法は月例賃金と異なり、賞与の支給を企業に義務づけていません。支払義務が発生するのは、就業規則・労働契約・労働協約に「支給する」旨の定めがある場合です。したがって最初に確認すべきは自社の就業規則の賞与条項の文言です。「業績に応じて支給する」と書いてあっても、それは支給額の裁量を認めているだけで、完全不支給の明確な根拠にならないと解釈されることがあります。「支給しない場合がある」「業績が著しく悪化したときは支給しないことがある」という文言が入っているかどうかが鍵です。

「慣行賞与」のリスクを見落とさない

就業規則に不支給条件の明文規定がなくても、長年にわたり毎期ほぼ同額の賞与を支給し続けてきた実績がある場合、労働慣行として支給義務が認められる可能性があります。日本の裁判例でも「慣行に基づく賞与請求権」が争われた事例は複数存在します。自社の過去の支給実績(支給率・支給額の推移)を確認し、慣行化していないか把握することが最初のステップです。

就業規則の不利益変更にも注意

既存の就業規則で「支給する」と定めているのに、今回から「支給しない」とする場合は、労働契約法第10条が定める就業規則の不利益変更に該当し得ます。変更の合理性・周知・労使協議の経緯が問われるため、単に社長の一声で変更・運用するのは危険です。社会保険労務士に相談し、変更手続きと記録の整備をセットで行いましょう。

就業規則の賞与条項をチェックする

法的リスクを最小化するための土台は、就業規則の賞与条項に不支給事由が明記されているかどうかです。今の条文の「書きぶり」が、そのまま会社の防御力になります。

条文の「書きぶり」で守れる範囲が変わる

以下の表で、よくある賞与条項のパターンと、業績悪化時の不支給を行う際のリスク度合いを確認してください。

条文パターン 不支給時のリスク 対応方針
「業績に応じて支給する」 中〜高(不支給の明文根拠が弱い) 「支給しない場合がある」の追記を検討
「支給額は別途定める」 中(ゼロ設定の可否が曖昧) 不支給条件の具体化が必要
「業績が著しく悪化した場合は支給しないことがある」 低(明文根拠あり) 今回の決定プロセスを記録として残す
賞与条項が存在しない 低〜中(慣行次第) 過去の支給実績を確認し、慣行化の有無を判断

今すぐ改訂できない場合の現実的な対処

就業規則の改訂には労働者代表への意見聴取・労働基準監督署への届出が必要です。「今月の支給日までに間に合わない」という状況では、現行条文で対応可能かを社会保険労務士に確認し、意思決定の根拠(業績資料・役員会議事録など)を詳細に記録しておくことが現実的な対策です。改訂は今期の対応と並行して進め、次期以降のリスクを減らします。

支給基準日・算定期間・休職者の扱いも定めておく

専任人事のいない職場でよく起きるのが「算定期間中に休職していた社員は?」「支給日直前に退職した社員は?」という個別判断の迷いです。支給基準日・算定期間・欠勤控除の方法・休職者の扱いを就業規則に定めておくと、毎回の都度判断がなくなり、社員からの「自分だけ差別された」という誤解も防げます。

不支給を決定する前に整える「根拠づくり」

社員を納得させる説明の核心は、「なぜ出せないのか」を感情論ではなく事実で示せるかにあります。根拠のない説明は「言い訳」に聞こえ、信頼を損ないます。

業績悪化の事実を「見せられる形」に整理する

全ての数字を開示する必要はありませんが、社員が「確かに厳しいんだ」と認識できる程度の情報は必要です。売上の推移・営業利益の変化・資金繰りの状況について、グラフや簡単な表で示せる資料を準備しましょう。「去年対比で売上がこの水準まで落ちており、賞与原資を確保できない状況」という説明は、抽象的な「業績悪化」よりはるかに腑に落ちやすくなります。

役員報酬の対応と公平性の担保

社員が賞与不支給の説明を聞いたとき、内心で最初に浮かぶ疑問のひとつは「役員は?」です。役員報酬も減額しているか、または減額を検討しているかどうかを説明に盛り込むことは、「社員だけが犠牲になっている」という不満を和らげる上で非常に効果的です。役員側でも痛みを分かち合っている事実があれば、積極的に開示することをお勧めします。

意思決定プロセスを記録として残す

誰が・いつ・どのような根拠で不支給を決定したかを、役員会議事録や稟議書として残しておきます。これは万一、社員や元社員から「不当に賞与を取り上げられた」と主張された際の防御資料になります。また、記録があること自体が「恣意的な判断ではない」ことを示す証拠になります。

社員への説明を進める5つのステップ

賞与不支給の説明は「何を伝えるか」と同じくらい「いつ・どの順序で・誰が伝えるか」が重要です。説明の設計を誤ると、情報の中身より「伝え方」が不信感の原因になります。

早期に情報共有し、「知らなかった」を防ぐ

支給日の直前に「今期は賞与なし」と知らされた社員のショックは、早い段階で業績悪化と不支給の可能性を伝えていた場合より、はるかに大きくなります。算定期間に入る前後の段階で「今期の業績状況と、賞与については慎重に検討中」という情報を共有しておくだけで、最終的な不支給通知の衝撃が大幅に和らぎます。

全社説明と個別面談を組み合わせる

説明の場の設計として、まず経営トップによる全社向けの説明(全体ミーティングまたは文書)を行い、その後に希望者や影響が大きい社員(例:子育て世帯、住宅ローンを抱える社員など)への個別面談を設けることが理想的です。全社説明だけで終わらせると「質問できなかった」「もやもやが残った」という状態になり、水面下の不満が蓄積します。個別の対話の場を用意することで、社員は「聞いてもらえた」という安心感を持てます。

説明の場は「一方的通知」ではなく「対話の場」にする

説明会では、必ず質疑応答の時間を設けてください。社員から出やすい質問(「いつから業績が戻るのか」「評価が高かった自分もゼロなのか」「来期はどうなるか」)への回答を事前に準備し、答えられない質問には「現時点では確約できないが、〇月に状況を共有する」と期限付きで返すことが信頼維持のポイントです。「言い訳」ではなく「一緒に状況を共有している」という姿勢が伝わることが重要です。

個人評価との整合をどう説明するか

「自分は頑張ったのに、会社の業績のせいでゼロはおかしい」という反発は、評価制度と賞与の関係を事前に整理しておくことで対処できます。「賞与は個人評価と会社業績の両方を掛け合わせて決まる。今期は会社業績の部分がゼロになったため、個人評価にかかわらず支給できない」という説明ロジックを準備しておきましょう。このロジックは、来期以降の評価制度の透明化にもつながります。

説明後のフォローと来期に向けた準備

賞与不支給の説明が終わった後こそ、社員のエンゲージメント維持と再発防止のための体制整備に取り組む好機です。説明後の対応が手薄だと、表面上は落ち着いても離職の引き金になります。

説明後に取り組むべき対応

説明後に生じやすい離職リスクへの対処

賞与不支給を機に転職を考え始める社員は少なくありません。特に外部からの引き合いがある優秀層は動きが早いため、説明後1〜2ヶ月以内に上司と社員の1on1を実施し、状況のヒアリングと会社の今後の見通しを共有することが効果的です。「次のボーナスのためにいつまで我慢すればいいのか」という見通しを持てない社員が離職を決断しやすいため、可能な範囲で回復の目標時期を示すことも重要です。

就業規則・評価制度を今期の経験をもとに整備する

今回の対応で「条文が曖昧だった」「評価との整合説明に詰まった」と感じた部分を、次の賞与算定期前までに整備します。就業規則の賞与条項に不支給条件を明記する、賞与の算定方法(会社業績部分と個人評価部分の配分)を明示するなど、透明性の高い制度設計が「次回の不支給を防ぐ」だけでなく、支給時の納得感も高めます。

20〜50名規模特有の対応を意識する

この規模の企業では、専任人事がいないケースがほとんどです。就業規則の確認・改訂・説明会の設計・個別面談の実施まで、経営者や兼務担当者が一人で抱えることになります。社会保険労務士を活用して就業規則の整備と法的リスク確認を担ってもらいながら、社員への説明・対話の部分は経営者自身またはリーダー層が担う役割分担が現実的です。また、産業医や外部のメンタルヘルス支援機関との連携があると、賞与不支給に伴うストレス増加・メンタル不調のリスクにも早期に対処できます。

まとめ

業績悪化を理由とした賞与不支給は、就業規則の条文・支給実績・説明の設計という3つの観点から準備を整えれば、法的リスクを抑えながら社員の納得を得ることが可能です。まず就業規則の賞与条項に不支給事由が明文化されているかを確認し、業績の事実を「見せられる形」に整理した上で、早期・丁寧・対話型の説明を実施する。説明後の個別フォローと制度整備までをセットで取り組むことが、今期の乗り切りと来期以降の信頼維持につながります。

「就業規則の条文が曖昧なまま進めてしまったかもしれない」「社員説明の場の設計に自信がない」「説明後のメンタル不調が心配」——そうした悩みを抱えている場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事の専門知識がなくても、状況に応じた具体的なアドバイスをお伝えします。

よくある質問

Q. 就業規則に「業績に応じて支給する」と書いてあれば、今回は不支給にしても問題ないですか?

A. 必ずしも安全とは言えません。「業績に応じて」は支給額の裁量を認めた文言と解釈されることが多く、完全不支給の明確な根拠にはならない場合があります。「支給しない場合がある」「業績が著しく悪化した場合は支給しないことがある」という文言が入っているかどうかを確認してください。曖昧な場合は、社会保険労務士に現行条文で不支給を行うリスクを確認することをお勧めします。

Q. 過去5年間毎回賞与を支給してきました。今回初めて不支給にする場合、「慣行」と見なされるリスクはありますか?

A. 複数年にわたり継続的かつほぼ同額の賞与を支給してきた場合、労働慣行として支給義務が認められる可能性があります。ただし、就業規則に不支給条件の明文規定がある場合や、支給額が毎回大きく変動している場合はリスクが下がります。自社の過去の支給実績と就業規則の条文を照らし合わせ、専門家に相談の上で判断することを強くお勧めします。

Q. 賞与不支給の説明は、全員を集めた場で一度に行えば十分ですか?

A. 全社説明だけでは不十分なケースが多いです。全体への情報共有は必要ですが、それだけでは「質問できなかった」「自分の状況を考慮してもらえていない」という不満が残りやすくなります。全社説明の後に、希望者や生活への影響が大きいと思われる社員への個別面談を設けることで、社員は「聞いてもらえた」という安心感を持ちやすくなります。

Q. 算定期間中に育児休業を取得していた社員や、休職中の社員への賞与はどう扱えばよいですか?

A. 育児休業中の社員への賞与の取り扱いは、育児・介護休業法の趣旨にも関わるため慎重な対応が必要です。就業規則に支給基準日・算定期間・欠勤控除の算出方法が明記されていれば、それに従って判断できます。規定が曖昧な場合は、個別のケースごとに社会保険労務士に確認することを強くお勧めします。「会社全体が不支給だから全員ゼロ」という説明は、状況次第で不利益取り扱いと判断されるリスクがあります。

Q. 賞与不支給を伝えた後、社員のメンタル不調が心配です。どう対処すれば良いですか?

A. 経済的なストレスは心身への影響が大きく、賞与不支給をきっかけにメンタル不調が表面化するケースは珍しくありません。説明後1〜2ヶ月以内に上司からの1on1を実施し、様子を確認することが早期発見につながります。社内にメンタルヘルスの相談窓口がない場合は、外部のメンタルヘルス支援サービスを導入することで、社員が安心して相談できる環境を作ることができます。ウェルセンス株式会社では、こうした社員のメンタルヘルス支援と人事対応の組み合わせについてもご相談を承っています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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